『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』の本質は伝えづらい

 2013年9月19日~22日(19日と20日はビジネスデイ)の期間で開催中の東京ゲームショウ2013。ビジネスデイ2日目の20日、KONAMIはゲームメディア向けに小島秀夫監督の合同Q&Aセッションを開催。そこで交わされた質疑応答の模様をお届けする。

KONAMI小島秀夫監督Q&Aセッション ミッション“GROUND ZEROES”の意味【TGS2013】_01
▲KONAMI 小島プロダクションの小島秀夫監督。ロックスター・ゲームスの方にプレゼントされたTシャツを着て登場。胸もとには、『グランド・セフト・オートV』の舞台である、“Los Santos”の文字がプリントされている。

 ビジネスデイ初日の19日に、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアブースで行われたステージイベント“一遊入魂”にて、『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』(以下、『MGSV』)が国内初披露された(⇒記事はこちら)。プレゼンテーションでは、作品のプロローグにあたる、ミッション“GROUND ZEROES”のプレイデモを公開。今回は、この“GROUND ZEROES”に関する質問を中心に、小島秀夫監督に話を訊いた。なお、今回のQ&Aセッションは、ゲームメディア合同で行われた都合で、話題が飛びがちだった。本稿では、内容を一旦整理し、多少の編集を行っている。その点はご了承いただきたい。

 さて、本題に入る前に、今回のQ&Aセッションへの理解度が高まるように、『MGSV』の概要をおさらいしておこう。『MGSV』は、シリーズ初となるオープンワールドタイプを採用している。ゲーム内容は、プロローグのミッション“GROUND ZEROES”と本編パートにわかれており、プロローグ部分は、限られたフィールドで仲間を奪還しつつゲームの基礎が学べる、チュートリアルのような役割を果たしている。その後に続く本編パートで本当の意味でのオープンワールドとなり、非常に広大なフィールドに加え、24時間の時間変動、天候変化なども盛り込まれた、リアルな潜入シミュレーションが楽しめる。

[関連記事]
※『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』が国内初披露!

ーー今回の東京ゲームショウで、『MGSV』のプロローグパートにあたるミッション“GROUND ZEROES”を世界初公開したわけですが、反応はいかがでしたか?

小島秀夫氏(以下、小島) 海外のメディアの方も含めて、「いつもの『メタル』じゃん」という反応でしたね。E3(アメリカ・ロサンゼルスで開催される世界最大級のゲーム見本市、エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポの略)では『MGSV』の本編パートのトレーラーを公開したんですが、僕が『MGSV』について心配しているのは、「これは『メタル』じゃない!」と言われることなんです。本編に関して言えば、フィールドはものすごく広大です。それで、天候もリアルタイムで変化するし、時間も流れる。たとえば、ある目的地へ馬で移動していて、途中で馬を失ってしまったら、歩いていくことになるわけですが、目的地へ着くころには夜になっていて、周囲は何も見えないほど真っ暗みたいな。そんな世界です。それをいきなり冒頭からやったら、「『メタル』ちゃうやん」と言われてしまうんで、“GROUND ZEROES”のようなプロローグを用意したんです。

ーー確かに、“GROUND ZEROES”を見る限りでは、これまでの『メタルギア』シリーズという感じですよね。

小島 “GROUND ZEROES”の舞台は島なんですけど、本編の何百分の一ぐらいのスケールです。海外のユーザーやメディアの方には、そのプロローグ部分をもってフィールドが狭いと言ってきたり、ステルスとオープンワールドは相性が悪いみたいなことも言われたりするのですが、短時間でのプレゼンテーションではなかなか伝わらないものだなと。とくに、後者の相性の話については、現実世界の潜入任務はリアルなオープンワールドで行われているわけですから、相性の良し悪しもないと思いますけどね(笑)。

ーー言われてみれば(笑)。さて、そのプロローグ“GROUND ZEROES”ですが、カメラが単一視点、いわゆる“ワンショット”で徹底しているというお話がありましたね。

小島 ゲームのカメラって、自分で操れますけど、主観であれ、肩越しであれ、ひとつのカメラで主人公を狙いますよね。その1カメラのままカットシーンへつながって、それが終わるとまた自分のカメラに戻っていきます。どうしても、演出的にカット割りしているところはありますが、ほとんど1カメです。複数のカメラで狙って、カットを割ったほうが、演出的にはカッコよくできますが、“GROUND ZEROES”のオープニングのように、ロードもなく、基地の中を1カメラで進んでいくというのが、オープンワールドの最初の没入感としてはいいかなと。

KONAMI小島秀夫監督Q&Aセッション ミッション“GROUND ZEROES”の意味【TGS2013】_02

当初は“!”マークすらやめようと思っていた

ーー今回、オープンワールドを採用ということで、プロローグの“GROUND ZEROES”でもかなり自由度が高そうな印象でしたが、ゲームデザインの面で悩まれたりはしましたか?

小島 今回の『MGSV』は、どちらかと言うとゲームデザインを排除しています。オープンワールドなので、プレイヤーはどうやったらいいかまずは頭で考えて、直観的に行動すればいいように作っているんです。たとえば、あるところへ行って、ある人物を助けてこいと言われたら、自分の好きな方法で助けに行き、目的を果たしたらヘリで帰ってくればいいと。“GROUND ZEROES”の舞台は軍事基地ですので、その辺に止まっているクルマはキーが挿したままです。クルマが有効活用できそうなら乗ればいいし、別に乗らなくてもいい。操作はある程度覚えないといけませんが、こういうときはこうしなさいといった、ゲームデザインとしての導線はないんです。

ーーなるほど。そのあたりが、潜入リアル・シミュレーションとたとえる所以と。

小島 そうですね。ですから、僕の中では、リアルの世界にないものはなるべく入れたくない。とは言え、敵は360度あらゆる方角から狙ってきますし、誰に見つかったのかわからないことすらある。さすがにそれではゲームとして成立しないので、敵に見つかったときはハイスピード(スローモーションのような表現)になって、銃を構えると敵のほうを自動で向くと。そのあいだに敵を仕留めることができれば、危険フェイズにはなりません。敵の位置をマーキングできるタグ付けも、本当はやりたくなかったんですけど、あれがあると便利なんですよね(苦笑)。

ーーそもそも現実世界なら、視界に入っていない敵を認識するのは、撃たれたときですよね(笑)。

小島 じつは、敵に見つかったときの“!”マークも最初はやめようと思ったんです。でも、うちのスタッフが、「なくしたら騒ぎになりますよ」って。やっぱり、ある程度記号化しないと、わからないと(苦笑)。ゲーム機の性能だけで考えれば、表情とかゼスチャーだけで伝えることはできるんです。ただ、あそこまでキャラクターのビジュアルがリアルだと、“曖昧さ”がないとダメなんです。どういうことかというと、仮に現実の世界で敵が遠くにいたとして、相手がこちらを認識しているかどうかよくわからないところが怖いわけです。『MGSV』は、ただでさえ自由度が高く、やることも多い。そこにさらに、敵兵も“見えていないフリ”とか揺らぎがあったら、遊ぶのに疲れちゃいますよね。

ーーリアルすぎるのも問題と……。そう言えば、今回は“ジャンプ”の要素があるんですね。

小島 はい。でも、ジャンプ専用のボタンを作ったというわけではなく、従来の“アクションボタン”と機能的には同じです。、高いところをよじ上ったり、押しっぱなしにすると匍匐したり。そのアクションのひとつにジャンプが加わるわけです。

ーーところで、なぜいままでジャンプの要素がなかったのでしょう?

小島 『メタルギア』シリーズって、見つかる、見つからないというルールですよね。それでいくと、高さの概念がけっこう難しいんです。1階や2階といった階層差は問題ありませんが、プレイヤーの視点の高さ以外に、上下に幅があると、ゲームにならない。つまり、ジャンプ(高低差)を取り込むと、ゲームデザインが崩壊してしまうんですね。そのため、これまでの作品では、伝説の英雄たるスネークが、ちょっとした段差すらも越えられなかったりしてきたわけです(苦笑)。さすがに今回はオープンワールドなので、どこにでも行けないといけない。そこで、ジャンプを取り入れつつ、先ほどのハイスピードの要素などでプレイヤーをフォローしています。

ーー今回のプレイデモに登場した端末“IDROID(アイドロイド)”について教えてください。

小島 あれは時代設定とは合わないものですね(笑)。『MGSV』では、なるべくユーザーインターフェースを外に出したくなかったんです。一段階内側に階層があると思ってください。画面には最低限の情報のみを表示して、ボタンでIDROIDを呼び出して情報を得ると。マップやマーキングの情報を見たり、ヘリを呼んだり、はたまた音楽を聴いたり、あらゆる機能が集約されています。現代のスマホみたいなものですね。ちなみに、IDROIDを使用中も時間は止まりません。ただし、IDROIDを見たまま走ることはできないようになっています。

ーー無線やブリーフィングもIDROIDを使うのですか?

小島 そうですね。無線に関しては、IDROID以外でもできます。

ーー今回のプレイデモでは、IDROIDでヘリを呼んでいましたね。

小島 はい。“GROUND ZEROES”では1機のヘリしか登場しませんが、本編では自分たちの基地があるので、複数台所有することが可能です。強化を行ったり、デザインも自分たちのものにすることができます。あと、本編に限りますが、フルトン回収もありますよ。

『メタルギア』でのオープンワールドとは?

ーー“GROUND ZEROES”は、フィールドの広さも限定的で、チュートリアル的な位置づけということでしたが、くり返し遊ぶ要素はあるのでしょうか?

小島 ミッション“GROUND ZEROES”は、いわゆるストーリーの本筋のミッションです。このミッション中も、“チャレンジ”みたいな要素があって、お使いのような任務も発生します。やるかやらないかは自由ですし、こなせばその結果が自分の基地に反映されるイメージです。また、同じ地形を使って、目的、天候、時刻まで異なる“サブオプス”も用意します。こういった要素は、テレビシリーズの構成と同じように考えてほしいんですね。まず、本筋のストーリーがあって、それとは直接関係のない脇役たちにフォーカスした話もあいだに差し込まれてきます。こうした構成は、最終話で謎解きというか、答え合わせをするのではなく、バラバラのお話をプレイヤー自身が頭の中で組み立てることで、その向こうにあるストーリーが見えてくるような作りになっているんです。

ーーなるほど。プロローグだけでもボリューム自体は相当ありそうですね。では、本編はどのように進めていくのでしょうか?

小島 一般的なオープンワールドとは違うのは、舞台が“敵地”であるということですね。オープンワールドと言うと、ともすれば、関係ないNPCのおっさんと川で釣りしたり……みたいな自由なイメージがあるかもしれませんが、そういうのはないです。基本、自分以外の人間は捕虜か敵しかいないので、緊張感は高いです。そこでミッションを遂行する。シンプルなんですよ。今回のプレイデモでは、マーキング機能やハイスピード、被弾表現といった、ほかのタイトルでも採用されているような手法が目立ってしまったかもしれませんが、別にそれらは新しいことではないですし、ことさらそこを見てほしいとも思っていません。オープンワールドで、潜入して脱出するというのを経験すると、プレイ感はだいぶ違うと思いますよ。

ーー自由なのは、ミッションを遂行していく過程というわけですね。

小島 そうですね。課せられるミッションには、敵地に潜入して人を助けたり、破壊活動や、諜報活動したり、といったものがあります。時間制限があるものも出てきます。自由なのは、どう攻めるかだったり、どこにヘリを呼ぶのか、といった部分ですね。

ーーこうしたゲーム体験の部分は、現行機(プレイステーション3、Xbox 360)と、新世代機(プレイステーション4、Xbox One)で同じなのでしょうか?

小島 よく海外のメディアの方に聞かれる質問ですが、現行機は30フレーム、新世代機は60フレームで動作します。新世代機のほうはテクスチャーの解像度もぜんぜん違いますし、ライトの数も違います。ゲームの印象はいっしょですが、グラフィックはかなり綺麗ですね。ただ、新世代機のほうが敵が1000人出る、みたいなことはやっていないです。あくまで、ゲーム体験はほぼいっしょです。ただ、マルチデバイスも含めて、新世代機でしか受けられないサービスはそちらを使うので、新世代機のほうがおもしろくなるでしょうね。入り口は同一ですが、その向こうにある楽しみは、新世代機のほうが奥行きがあります。

ーー今回のプレイデモでは、『メタルギア』シリーズのいい意味での“バカバカしさ”がなかったように思えましたが、そのあたりはいかがでしょうか?

小島 グラビア雑誌とかですか?(笑) 今回は、テーマが人種や報復とかなので、なるべくなしにする方向で考えています。ただ、ダンボールは出したいですね。本当は出さないつもりだったんですけど(笑)。

ーープレゼンテーションの最後に、『MGSV』の日本語音声版トレーラーが公開となり、オセロット役が三上哲氏と判明しました。彼を起用した理由は?

小島 カッコいいからですよ。僕は、シャーロック(イギリスの推理ドラマ)が大好きですから。英語版のオセロット役のトロイさんはわざと声をつぶして演じていて、日本語版でもそうしたテイストでいこうと思っていたのですが、三上さんの声があまりによくて、これかなと。これで女性ファンが「クーッ」ってなってくれればいいのですが(笑)。

ーーオセロットというと、毎回重要な役回りですし、個性派が演じることが多いですよね。

小島 オセロットは毎回アクターを変えていますけど、ネタバレになるかもしれませんが、今回のオセロットはニュートラルなんです。そうした点も、三上さんを起用した理由のひとつですね。ちょっと若い印象がありますから。

ーーそう言えば、今回の東京ゲームショウでのプレイデモでは、初代『メタルギア ソリッド』のセリフが多数引用されていたようですが……。

小島 いいところ突きますね(笑)。そのうち、いろいろわかると思いますよ。

ーー楽しみにしています! では最後に、今回の東京ゲームショウ全体の印象をお聞かせください。

小島 今回、新世代ハードが登場するということで盛り上がりを期待していたのですが、少なくともビジネスデイの2日間はまだまだ大人しい感じですね。これは、E3のときとはだいぶ温度差を感じます。乙女ゲーとソーシャル系ばかりが報道されている印象なので、新世代ハードも含めて、我々の据え置きゲーム機のタイトルにもぜひ注目いただければと思います。