日本法人を立ち上げた理由とは?

 2013年9月19日から開催されている東京ゲーム2013に、ベラルーシのオンラインゲーム開発・運営メーカー、Wargaming.netのCEO Victor Kisly氏が来訪している。同社の代表作『World of Tanks』は全世界に7000万人のユーザーを抱えるモンスタータイトル。9月5日からは日本でも正式サービスを開始しており、いま世界でもっとも勢いのあるメーカーと言っても過言ではないだろう。

 今回はそのKisly氏にインタビューをすることができた。日本は世界のゲーム業界的には特殊な環境にあると言われている。その日本で成功を収めるために、Kisly氏本人はどんな戦略を練っているのだろうか。

『World of Tanks』破竹の勢いで進軍するベラルーシのメーカーは日本で何を為そうというのか Wargaming.net CEOに突撃インタビュー【TGS2013】_01
Wargaming.net CEO Victor Kisly氏

――日本でサービスを開始して、手ごたえはいかがですか?
Kisly氏 じつは日本で正式サービスを開始する前から、アメリカのサーバーで数万人の日本人プレイヤーがプレイしていたんですよ。2年前ほど前からだと思いますが、これにはたいへん驚きました。サーバーはアメリカの東海岸にあるので、通信のラグが発生することもありました。そういう環境であっても、ハードなゲーマーの方がプレイしてくれるという状況を見て、やはり日本でビジネスを展開したいと思いたったんです。日本法人を立ち上げましたので、これからは日本人のスタッフといっしょにやっていこうと考えています。

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 いまは日本からはシンガポールのアジアサーバーに接続するようになっています。そこにはタイやフィリピン、シンガポール、台湾といったアジア各国のプレイヤーが集まっています。日本への対応はそれで十分だという声もあるかもしれませんが、日本のプレイヤーのために、日本人中心のカスタマーサポートやPR、マーケティングなどのサービスを提供しています。

――日本法人立ち上げ後の反応はいかがですか?
Kisly氏 おかげさまで日本人ユーザーの反応はいいですね。登録者数が伸びているのは、そういう理由もあると思います。まだ始まったばかりなので、これがどれくらいまで伸びるかは読みきれていませんが、一気に登録者数が伸びたのは事実です。これからも期待しています。

――近年の東京ゲームショウで、1タイトルでこれだけの規模のブースはそうとう珍しいと思います。やはり今回のブースの大きさは意気込みの表れなのでしょうか?
Kisly氏 アメリカやシンガポールのサーバーの日本人のプレイ状況を見ると、おそらく世界中のプレイヤーのなかで、日本人プレイヤーがいちばん盛り上がっているでしょう。日本には競合タイトルも多くありますが、それらより『World of Tanks』や『World of Warplanes』のほうがプロダクションレベルが高いと自信を持っています。ユーザーの動向やほかのタイトルとの競合性を見て総合的に判断しても、日本の市場には大きな希望があると感じていています。
 弊社の次期タイトル『World of Warplanes』はオープンβテストが最終フェイズを迎えているところなのですが、すでに日本人のプレイヤーの方も参加されています。リリースをする際には日本三菱の戦闘機も最初から登場予定です。3つ目のタイトルは海戦の『World of Warships』。まだ開発完成度はβレベルではありませんが、こちらにも日本の戦艦がたくさん出ます。
 また、今日はとても大きな知らせがあります。『World of Tanks』に日本の戦車が実装されます。じつはこの情報、世界で初めて知ったのはファミ通さんです。

(※編注:インタビューは下記の記者発表会の前に行われました)
『World of Tanks』日本の戦車の実装が決定! “ガルパン”ヒロインボイスのダウンロードも近日スタート!【TGS2013

――本当ですか!? 光栄です。

2台の戦車が火花を散らすシーンで、Kisly氏は「サムライ!」と言っていた。

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▲「ツリーをしっかり見たい」という声が多いようなので、少しでも細かく見られるように分割して掲載。

Kisly氏 こちらが日本戦車の開発ツリーです。最初は中戦車と軽戦車のみですが、重戦車も登場します。ドイツやロシアなどは戦車関連の本がたくさん出ているんですが、日本の戦車は歴史的に情報が少ないので、開発は難航しました。すごく古い写真や設計図を見つけたり、美術館に取材に行って研究をしました。
 ちなみに、実在した戦車のよりも上位の機体としてスペシャルな戦車も出します。プロトタイプだったり、世間的にあまり知られてない戦車ですね。これからもどんどん増やしますので、期待していてください。

――この日本の戦車はいつ頃の実装を予定していますか?
Kisly氏 いま鋭意開発中なんですが、年内には出したいところですね。年内が難しくても、年明け早々を目標にしています。

――日本では『World of Tanks』は『ガールズ&パンツァー』というアニメとコラボレーションをしていますよね。コラボ展開は今後も考えられていますか?
Kisly氏 日本での展開は始まったばかりなので、いまこの時点でYESかNOとは言えないところですね。

――やはり今後の評判やユーザーの反応を見てから、ということでしょうか。
Kisly氏 そうですね。これからの評判をしっかり見ていくために、日本法人を作ったという意味もありますし。じつは『ガールズ&パンツァー』も好きで、何話か見たこともあります。現在は日本でしか展開していませんが、やっぱり『ガールズ&パンツァー』とのコラボレーションはとても大切なものなので、これからは世界中にコラボレーションを拡大するなどして、『ガールズ&パンツァー』のお手伝いもしたいと考えています。

――それがうまく進めば、ゲーマー層以外にも認知がさらに拡大するでしょうね。
Kisly氏 ご覧のとおり、この東京ゲームショウで大規模なブースを設置するくらいですから、しっかり投資していきたいという気持ちはあります。これが“旅の始まり”と考えていただいて、これが1年だけの旅ではなく、10年、15年と続けていきたいですね。

プレイヤーの負担を軽くする“Free-to-play(基本無料)”へのこだわり

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――つぎは運営姿勢について聞かせてください。やはり“Free-to-play”には大きなこだわりがあるんでしょうか。
Kisly氏 Wargamingは今年で15周年の会社ですが、『World of Tanks』の前に『Order of War』というパッケージタイプのゲームを発売したこともあります。ですが、今後はコンシューマーゲームのようなパッケージ商品はなくなりつつあると感じています。大きな問題がふたつあって、ひとつは海賊版、もうひとつは開発者からユーザーまでの仲介的な会社がありすぎて利益を上げにくいという点です。Wargamingが考えている未来は“Free-to-Play”です。PCだけではなく、ほかのプラットフォームでもFree-to-Playで展開できるように練っているところです。

――なるほど。では、現在の開発状況と今後のタイトルについて教えていただけますか?
Kisly氏 Wargaming社は世界16ヵ所に拠点があって、2200人の従業員がいます。その約半分は開発者です。PCでは『World of Tanks』のほかに空戦の『World of Warplanes』、海戦の『World of Warships』が進行中です。以前、Gas Powered Gamesという会社を買収して、そこでChris Taylorが秘密のタイトルも作っています。コンシューマーのほうでは『World of Tanks』のXbox 360版を開発中です。これは近日中に登場します。

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▲『World of Warplanes』
▲『World of Warships』

Kisly氏 ほかに、カードをコレクションして戦うブラウザゲームの『World of Tanks Generals』や、スマートフォンアプリの『World of Tanks Blitz』もあります。我々が得意とするミリタリーゲームを、ほぼすべてのプラットフォームに拡大しています。これらの売り上げを再投資して、新しいタイトルをどんどん増やしたいですね。

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▲『World of Tanks Generals』カードイメージ
▲『World of Tanks Blitz』

Kisly氏 『World of Warplanes』と『World of Warships』、『World of Tanks Generals』は『World of Tanks』用のアカウントでプレイできます。そうだ! 『World of Warplanes』と『World of Warships』について、ひとつ語らせてください。

――なんでしょうか? ぜひお願いします!
Kisly氏 『World of Tanks』は、だいたい1ヵ月1000円ほどのプレミアムアカウントに登録すると、経験値やゲーム内ゴールドに+50%のボーナスが上乗せされます。プレミアムアカウントは今後スタートする『World of Warplanes』と『World of Warships』にも共有されています。ひとつプレミアムアカウントを持っていれば、3タイトルで経験値とゲーム内ゴールド+50%アップの恩恵を得られるわけです。もともと1タイトルが好きでプレイしていた方が、別のタイトルに興味を持つときもあると思います。そのときにさらに課金をさせるようなことはありません。
 また、戦闘で溜めた経験値で新しい兵器をアンロックできるようになっているのですが、このポイントも共有なんです。『World of Tanks』で溜めたポイントを使って『World of Warplanes』の新しい戦闘機をアンロックするという使いかたもできます。

eSportsへの挑戦 日本人プレイヤーに大きな期待が!?

Kisly氏 eSportsの話もぜひ聞いてほしいのですが、いいですか?

――そちらも興味がありますので、お願いします!
Kisly氏 『World of Tanks』はeSportsと相性がいいと思うんですよ。まず、海賊版が作れません。各種の重要なデータはサーバー側に保存され、あまり細かいことは言えないのですが、ハッキングできない仕組みになっています。つまり、チートを防止して、すべての選手が同じコンディションで戦えます。

――そういう公正さはやはりeSportsにとって大切なことですよね。
Kisly氏 1試合の平均時間は7~8分ほどで、カメラアングルも映画のように動かせますから、映像配信にも向いています。今年からWargaming.netのリーグを開始しました。賞金はだいたい2500万円ほどです。

――えっ、スケールが大きすぎないですか!?
Kisly氏 サッカーの国際大会のようにいろいろな地域で大会を行って、各地の優勝者がひとつの競技場に集まり、グランドフィナーレを行う、と。こういった大会には大きな投資をしていて、すでに存在しているeSportsリーグや“World Cyber Games”、“G-STAR”などに参加して、『World of Tanks』を競技として広げようとしているところです。

――私もFPSなどのeSprotsは好きなのですが、まだ日本では浸透しきっていない印象があります。御社の動きには個人的にも期待したいです。
Kisly氏 ただゲームを作っただけでは、それをeSportsと呼ぶことはできません。いちばん大事なのは、最高のPvPと戦略。もちろん、何百万、何千万人という競技人口がいることも条件です。『World of Tanks』のプレイ人口は7000万人以上です。なかには日本人の選手も大勢いて、リーグでいい結果を出しています。この日本人のコミュニティーには私も希望を持っています。これからどんどん日本人の選手がeSportsでいい結果を出していくと思っています。

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――お時間も迫っていますが、ひとつ精神論的なことを聞かせてください。オンラインゲームの開発・運営するにあたって、何がいちばん大切だと思いますか?
Kisly氏 何かが大切というわけではなく、すべての要素がひとつになるからこそ、いい運営ができると思っています。ゲームの開発、カスタマーサポート、マーケティング、全部必要です。コミュニティーマネージメントで言うと、ユーザーのみなさんが何をやって何を考えているかをつねにリサーチする必要があります。フォーラムを読んだり、プレイヤーと直接会ったり。毎日、いまプレイヤーが何を考えて何を必要としているかをはっきりわからないといけません。それでもあえてひとつを選ぶのなら、“ユーザーの意見をきちんと聞くこと”でしょうか。

――それを日本でもしっかりやりたいからこそ、日本法人を作ったということですね。
Kisly氏 まだ始めたばかりですから、もう少しお時間をください。オフラインイベントも始めていますし、メイドカフェとのコラボレーションのような、いろいろなことも始めています。

――最後に日本のユーザーに向けてコメントをいただけますか?
Kisly氏 私たちは世界中に日本人のサムライスピリットを披露する最高の舞台を用意します。近い未来、日本人プレイヤーがほかの国の参加者を圧倒するときが来ると思います。ぜひ、大会に参加してみてください!

インタビューを終えて

 Victor Kisly氏は情熱がつぎからつぎへと溢れてくるような人で、通訳スタッフを介して話すのがもどかしそうだった。こういう情熱的な人だからこそ、熱意をもっとも大切にしているのではないかと思い、最後の質問をぶつけてみたら、しばらく熟考したあとで“バランス”を強調。勢いがあるだけでなく、冷静な判断や緻密な計算のうえで開発・運営を行っている。

 『World of Tanks』を皮切りに、『World of Warplanes』、『World of Warships』も順次リリースされる。陸を制した北欧の覇者が、空と海の戦いにどう手を打つのか。また、日本法人のスタッフはVictor Kisly氏の期待にどう応え、どういう活動を行っていくのか。興味は尽きない。