話題は最新作『モンスターハンター4』へ

『モンスターハンター4』発売記念! 辻本プロデューサー&藤岡ディレクターに聞く『モンスターハンター』の設計図の作り方【後編】_03
辻本良三プロデューサー(左)
藤岡要ディレクター(右)

 2013年9月14日に、シリーズ最新作となるカプコンの『モンスターハンター4』が発売となった。すでに国内出荷本数が200万本を突破したことも発表され、非常に好調なスタートを切っている。そこでここでは、最新作の発売を記念して同作のプロデューサーとディレクターであり、シリーズに長く関わってきた辻本良三プロデューサーと藤岡要ディレクターにインタビュー。前編では日本を代表するビッグタイトルとなった『モンスターハンター』シリーズはどのような設計思想で作られているのかなどについてお聞きしたが、後編ではこれに加えて最新作の『モンスターハンター4』では何が変わり、何が変わらないのか。さまざまな視点からディープなお話を聞いた。

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『モンスターハンター』よもやま話

『モンスターハンター4』発売記念! 辻本プロデューサー&藤岡ディレクターに聞く『モンスターハンター』の設計図の作り方【後編】_02

――『モンスターハンター』では、例えばある程度慣れてくるとマルチプレイで倒される直前に「ごめん!」という声が挙がったり、味方を吹っ飛ばして大変なことになったり、逆に偶然助ける結果になったりと、ならではのドラマが生まれます。前者は先ほどお聞きした回復アイテムを使用するときに隙があることから生まれるものだと思いますが、このような“その先に起こりうるもの”というのはある程度狙っている部分なのでしょうか?
藤岡 狙っているというと少し語弊がありますが、そういう設計で自分たちがテストプレイをしたときに、同様のことが起こったりして、それが楽しかったからということはありますね。攻撃に味方を吹き飛ばす効果があるものがあったり、タル爆弾は当たるとプレイヤーにもダメージがあったりというのは、ネガティブな印象を与えるのでやめたほうがいいのでは、という意見はもちろんあります。でも、自分たちでプレイしていて「爆弾置きまーす」でみんなが集まってきて、間違えて起爆してしまったりというのも、みんなゲラゲラ笑っていましたからね(笑)。味方を大剣で打ち上げてしまったときもそうでした。そういうところは大事にして変えていない部分ですね。コミュニケーションのひとつのきっかけになりますし、吹き飛ばすのがマズイ状況で、じゃあ位置取りをどうしようとか、ここは違う攻撃をしようとか、上達のきっかけにもなりますから。

――フィールドの環境にもこだわっているというお話は常々されていますが、ブナハブラの動きはいやらしすぎる気がします(笑)。
藤岡 ふゎ~ん、ひゅん、って感じで、確かにそうですね(笑)。ああいういやがらせをする小型モンスターはやはり必要なので、いなくするつもりはないのですが、実は昔は、一度プレイヤーを認識すると無限に追ってくるという仕様だったんです。そこは『3(トライ)』で生息域を設けて、ある程度移動すれば追ってこないようにしました。『3(トライ)』では群れ制御を入れたり、小型モンスターに関してはかなり手を入れましたね。

――魔法職(武器種)を入れようと考えたことはありますか?
藤岡 ありませんね。『モンスターハンター』の世界には合わないかなと。ファンタジーの世界なので魔法、というのは確かに考え方としてはあると思うのですが、モンスターなどすでにありえないものが生息していて、さらに自分までありえないこと(魔法)をやりだすと、メリハリがなくなってしまうかなという判断です。ですので、『モンスターハンター』においては、もたらす効果という面で言うと、魔法職的なポジションは、狩猟笛やガンナー、『MH4』で追加した操虫棍だと考えていただければと思います。

――『モンスターハンター』は女性プレイヤーも非常に多いですが、女性ならではの意見や傾向などはありますか?
藤岡 プレイスタイルで言うと、二極化するんですよね。ものすごくアタッカーか、狩猟笛の旋律でサポートだけします、という感じで。なので、太刀、双剣、ハンマー、狩猟笛が人気ですね。ガードできる武器が人気がないという(笑)。
辻本 ランスとかガンランスは女性人気が本当に低いですね(笑)。ほとんど見たことないです。最初、双剣が女性には圧倒的に人気だったのですが、最近は太刀も人気ですね。

最新作ではなにが変わっているのか?

――ここまで『モンスターハンター』というタイトルのベーシックな部分についてお話をうかがってきましたが、最新作『モンスターハンター4』についてもお聞きします。まず大きく変わったところでは“段差”が思いつきます。
藤岡 そうですね、『MH4』では段差へのアプローチをこれまでと変えようと考えて、いろいろと調整しました。いままでは、「よっこらしょ」という感じで段差を越えて、高い所から飛び降りるとグッっとふんばる溜めがありましたが、ここをスッスッといけるようにしました。細かい所ですと、武器をしまうときにこれまでは真っすぐしか歩けなかったのですが、レバー入力を受け付けるようになって、方向を変えられるようになっています。

――それは地味ですがうれしい変更点ですね。
藤岡 やはり、崖や段差など高低差を導入した事での、様々なストレスをなるべく取り除きたかったので、いろいろな要素を見直しました。こういう細かな調整はいくつか行っていますね。
辻本 これまではフィールドの設計が比較的平面だったので段差周りのメリットとデメリットがあまり直接影響がなかったのですが、今回は大きく影響してきますからね。

――ジャンプ攻撃も『MH4』からの新要素ですよね。
藤岡 これは、最初から「ジャンプ攻撃を入れよう!」と導入したものではなく、段差へのアプローチのひとつとして、あとから生まれたものですね。段差を強調することによって、ジャンプをする場面が増えるようになって、そこでジャンプ中に攻撃できないとなるとこれはストレスだろうと。また、やっぱりジャンプ中に攻撃したいよね、ということで導入しました。

――大きい所では新武器2種類もあります。とくに操虫棍はまったく想像の外だった、思いも付かなかったという人が多かったと思います。
藤岡 そこは、皆さんが想像もしないもの、という部分では狙い通りでしたね(笑)。これまでの新武器は、遊び心地はもちろん違うのですが、ベーシックな武器からの派生系だったり攻撃のレンジ的に近いものがある、というのが基本パターンでした。これに当てはまらないのは、スラッシュアックスくらいですね。スラッシュアックスのように、分岐元がない武器を作るときは、まず「こういう武器を作りたい!」というアイデアをいっぱい出して、それらを“作り込んでいったときにうまく遊びが広がりそうか”という視点でふるいにかけていきます。最初はいろいろな候補がありましたね。鞭とかブーメランとか。そういう過程を経て操虫棍が生まれたのですが、チャージアックスが王道なスタイルでもあるので、対比したときにやはり異色というかベースがないものにしたかったので時間がかかりました。“虫使い”というのはわりと昔から候補に挙がるものだったのですが、どういう遊びを入れるか、というところまではいかなかったんですね。また同時に、攻撃のレンジがうまくはまらなかったというのもあります。遠距離はガンナーが持っていて、中間距離は弓、近距離はほとんどの武器が埋め尽くしている状況で、なにかうまいこと違いをだせないかな、という部分ですね。

――操虫棍は攻撃レンジという面ではかなりフレキシブルな印象です。
藤岡 そうですね、どの距離でも何かやれることがある感じです。距離に合わせてやることを判断していくので、テクニカルな武器になっています。
辻本 操虫棍もそうですが、開発の発想力にはいつも驚かされますね。狩猟笛が追加されたときも、予想した人は誰もいませんでしたから。最初に聞いたときは笛ハンマーって言ってたかな……。
藤岡 本当はハンティングホルンにしたかったんですけど、長すぎてボツに(笑)。
辻本 で、その笛ハンマーを吹いてるモーションが出てきたんですけど、そこからどうなるのかまったくわからない。旋律という要素も決まっていなくて、これどれが攻撃なの? ていうか何してるの? という。
藤岡 モーションを作る人も困ってましたね「まったくイメージが沸かないんですけど……」って(笑)。
辻本 操虫棍も「虫を操る」ということは聞いていたんですけど、それだけだと「人気出るかなあ、大丈夫かなあ」と僕はちょっと不安でした(笑)。ですが、できあがったものを見たら、棒術がすごくスタイリッシュでかっこよくて、これはイケると。これが地味~な武器を持ってたりしたらけっこう目も当てられない感じになっていたと思います(笑)。
藤岡 そういうのも候補にあったかな。で、芋虫みたいのが大量にワラワラとモンスターに襲いかかるっていう(笑)。さすがに気持ち悪すぎてボツになりましたが。
辻本 よかった棒術で……(笑)。

『モンスターハンター4』発売記念! 辻本プロデューサー&藤岡ディレクターに聞く『モンスターハンター』の設計図の作り方【後編】_01

――ストーリーの部分もかなり作り込まれたものになっているんですよね。
藤岡 これまでは、村を拠点にモンスターが出たので困っているとか、モンスターが原因で何かが起きているという流れでしたが、そこに個性的なNPCをからめて、彼らのことも描かれます。拠点も転々としていきますし、それぞれの場所でいろいろなことが起こる。もちろん大きな意味でモンスターを追っていくという部分はあるのですが、描かれ方は大きく変わっていると思いますし、そのぶんボリュームもアップしています。

――ストーリー部分を強化しようと思った理由はなにかあるのですか?
藤岡 これまでは、世界観をメインに強調して、プレイヤーの皆さんにそれぞれ『モンスターハンター』の物語を想像して遊んでもらえたらいいな、というスタイルでした。そうしてきたなかで、今回は一度開発側が思っている『モンスターハンター』のストーリーをぶつけてみることで、それをプレイヤーが見てさらに世界が広がっていくんじゃないかと考えて、やってみました。これまでやっていなかったので、開発の考える物語要素もかなり貯まっていましたし(笑)。また、ひとりで遊ぶ人、ひとりで遊ぶときも多いと思いますので、その部分の満足度も高めたいというのも理由ですね。

――シングルプレイという部分ですと、ギルドクエストもまずはひとりで、という遊びですよね。
藤岡 最終的にはみんなで回して欲しいというものではあるのですが、導入部分はそうですね。いいギルドクエストが入手出来たらすれちがいで広める、みんなで遊ぶというシングルプレイのモチベーションにもつながると思います。それから、ギルドクエストに付随する要素で発掘装備がありますが、これもいままでの『モンスターハンター』のセオリーを大きく変えるものです。シリーズを通して多くのモンスターが登場していますが、作品によって登場したりしなかったり、というモンスターがいますよね。これまでは、登場するモンスターとその素材を使用して作る装備がワンセットで、逆にいうと登場しないモンスターの装備はその作品ではでてこなかった。さすがにシリーズが長く続いてさまざまなファンがいることを考えると、もう今までの仕組みだけでは限界があると思い、それに対応するための要素として導入してみたんです。

――そういう意味では、過去作から復活するモンスターも今回多いです。
藤岡 そうですね、高低差が加わったことで、過去のモンスターの狩猟も違った体験になるのではないかと。
辻本 復活モンスターのなかではラージャンが注目ですね。もうえらいことになってますよ(笑)。
藤岡 メインプランナーがラージャンに対してすごく思い入れがあるんですよ。で、「なんでこいつだけこんなに技増えてるの?」という状態に(笑)。
辻本 ラージャンだったら何でもアリなの?(笑)、という。無茶苦茶なことしてきますね。
藤岡 まあ面白いものになっていますので、楽しんでいただければと。

――新作が出る際にはいつも「過去最高のものになっています」とおっしゃられていますが、『モンスターハンター4』もそう考えて大丈夫ですよね?
辻本 バッチリです。すべての面でシリーズ作品を超えたものになっています。
藤岡 据え置き機、携帯機で培ったこれまでの経験を活かして、シリーズのいいところを全部詰め込んでいます。自分としてはひとつ突き抜けた手ごたえを持っていますので、ぜひ皆さんにプレイしていただきたいです。