日本を飛び出して海外で働く人々
ファミ通.comでは3回に渡って『ウォッチドッグス』の開発を担当するユービーアイソフト モントリオールスタジオ(以下、モントリオールスタジオ)の取材リポートと、『ウォッチドッグス』開発におけるキーパーソンへのインタビューを掲載したが、今回はこれまでとは趣向が異なる記事をお届けしよう。
モントリオールスタジオには、現在4名の日本人スタッフが在籍している。日本を飛び出して海外で活躍する人たちは、いったいどのような生活を送っているのか? そして、どんな考えの持ち主なのか? そんな記者の疑問を解消するべく、3人のスタッフにお話をうかがった(ひとりの方は、ゲーム開発が佳境を迎えており、取材する時間を捻出できなかった模様。……残念!)。ここからはインタビューの内容を掲載する。
また、記事のラストで『ウォッチドッグス』オリジナルTシャツのプレゼント企画を実施する。ぜひ最後まで読んでほしい。
『ファークライ3』を作った人
全世界の出荷本数が600万本以上を越えた一人称視点のアドベンチャーゲーム『ファークライ3』。日本でもコアなゲームファンを中心に話題となったので、プレイしたことがある人も多いだろう。「『ファークライ3』? ぜんぜん知らないんだけど!」という人は、ファミ通.comの特設ページ(→【コチラ】)をご覧いただきたい。
プレイヤーをグイグイ引っ張る巧みなストーリーテリングと、オープンワールドで何もかもが自由に楽しめる自由度の高いゲームデザインが結び付いた、この『ファークライ3』の開発には、ふたりの日本人が関わっていたという。それが、アシスタントテクニカルディレクターの杉山英哉(すぎやま ひでや)氏と、アシスタントアートディレクターの田中現績(たなか げんせき)氏だ。おふたりにモントリオールスタジオで働くことになった経緯や、ユービーアイソフトのゲームの作りかたについて訊いてみた。『ファークライ3』のこぼれ話も聞けたので、ファンはお見逃しなく!
まさかの電話で採用決定!?
――まずはおふたりの業務内容について教えてください。
杉山英哉氏(以下、杉山) 職種は“アシスタントテクニカルディレクター”です。ひとくちにテクニカルディレクターと言ってもモントリオールスタジオには、デザイン(ゲームデザイン及びステージの環境を構築・調整するレベルデザイン)、アート、アニメーションなどのテクニカルディレクターがいて、僕は、デザインのアシスタントテクニカルディレクターで、おもにプランナー、レベルデザイナーとプログラマーのあいだで働いています。また、大量生産の必要はなくて、技術寄りのゲームデザインやレベルデザインの組み込みなどは自分自身でやっていたりします。それとレベルデザイナーが効率よく安全に作業ができる方法を考えたりもしていますね。
田中現績氏(以下、田中) “アシスタントアートディレクター”をしています。おもな仕事はゲームのビジュアルを決定する権利を持つアートディレクターの補佐です。アートのチームで、ゲームのビジュアル的なアイデンティティーを考え、ゲームデザインを考慮しつつ、アートをどういう形でゲームに落とし込んでいくかを決めています。
――おふたりはつねに同じ開発チームに所属しているのですか?
杉山 いえ、『ファークライ3』で偶然同じチームになっただけです。モントリオールスタジオでは、日本人だからと言って同じチームに配属されることはありませんね。
田中 僕と杉山さんは、そもそも仕事で関わることがあまりないんです。僕がふだん話しているのはアーティストやゲームディレクターだし、杉山さんはレベルデザイナーやプランナーやプログラマーだったりします。
杉山 日本では大抵の場合、ひとつのプロジェクトにつきプロデューサーはひとりで、ディレクターといっても数人しかないませんが、モントリオールスタジオだとプロデューサーが数人いて、その下にゲームデザインやレベルデザイン、アート、アニメーションなど、それぞれの分野のディレクターがいます。
――なるほど。それではユービーアイソフトに入ったいきさつを教えてもらえますか? まずは杉山さんからお願いします。
杉山 この会社に来る前は、日本のゲーム会社で働いていました。当時、日本の大規模プロジェクトに限界を感じていて、日本に残るなら小規模プロジェクトを、大規模プロジェクトをやるなら海外でやってみたいという思いがあり……。ちょうどそんな折、知人が海外のゲームメーカーに僕の職務経歴書を送ってくれまして。するとユービーアイソフトの人事から「あなたを電話で面接をしたいプロジェクトチームがいるんだけど、どう?」という趣旨のメールが返ってきて。その後、電話面接で採用された感じですね。
――えっ? 電話で採用決定に至るのですか?
杉山 それには自分自身も驚きました(笑)。電話面接の後はカナダに2次面接とかで行くことになるのかなと思っていたら、「採用です。2週間で返事をください」という返答があって。カナダには行ったことはありますが、モントリオールは初めてだったのでかなり悩みましたが、せっかくのチャンスだと思って現地に飛び込むことに決めました。それが4~5年前の話ですね。
――田中さんはどんな感じですか?
田中 僕の場合は、杉山さんとはルートがぜんぜん違います。日本の高校を卒業したのちニュージーランドの美大に留学しました。美大卒業後は、ニュージーランドで2年、日本で2年、イギリスで4年といった感じでグラフィックとWeb関係のアートディレクターをしていました。でも、昔からエンターテインメントの分野の仕事に憧れていたので、知り合いのツテをたどってカナダのバンクーバーにあるエレクトロニック・アーツのスタジオに入りました。そこでゲーム製作のおもしろさを知り、ユービーアイソフトのモントリオールスタジオに移籍することになりました。ユービーアイソフトでは、実績と実力、あとプロジェクト内でいい結果を残すことができる人材なら、キャリアアップはそう難しいことではないと思います。僕の場合、最初はテクスチャーアーティストから始まって、コンセプトアーティストを経て、現在アシスタントアートディレクターを任されています。
――田中さんのときもやっぱり面接は電話でしたか?
田中 はい、電話でしたね(笑)。ただ、僕の場合はポートフォリオ(作品集)が評価されたんだと思います。アートの人間はポートフォリオが命ですからね。電話面接は5分くらいで終わっちゃいましたよ(笑)。ちなみに、いまは僕がインタビューする立場なんですよ。世界中から志望者がコンタクトしてくるから、会うのがなかなか難しいんです。モントリオールスタジオでは、人種や国籍に関係なく、つねに実力、実績のある人材を求めているので。
日本と海外の違い
――日本と海外での違いにギャップを感じたことはありますか?
杉山 日本では残業が当たり前で“ゲーム業界だからしかたがないよね”と思って仕事をしていましたが、モントリオールスタジオでは、定時で帰ったり、長期休暇を取ったりすることがふつうだったんです。これには驚きましたね。
――残業がないのは、事前のスケジューリングがしっかりしているからですか?
杉山 いえ、これは日本でも海外でも同じだと思いますが、ゲーム作りっていつも最初に決めた通りに進まないんです。ヤバイと思ったときには取り返しがつかなくなっていたりします(笑)。この場合、最大の要因は規模の違いかな、と。
田中 モントリオールスタジオには2400人以上のスタッフが在籍しているので、いつでも人員の補充ができるんです。たとえば、誰かが長期休暇で2週間くらいいなくなったとしても、その穴を埋められるような仕組みができ上がっている。
杉山 自分は日本のすべての会社を知っているわけではありませんが、日本では開発の中心人物がいなくなると作業がストップするので、皆いっせいに休むことが多いような気がします。
――“特定の人にしか任せられない仕事”がある、と。
杉山 ええ。日本ではそういう状況がけっこうありました。こっちはその人がいなくても、誰かが代わりになれるシステムになっています。全体を見ると“特定の人にしか任せられない仕事”は、ほとんどないという考えかたです。開発が本格化する前に徹底してルールを作り、誰が見ても同じ作業ができるようにするのです。
――仕事を代わるときは引き継ぎが必要ですよね。コミュニケーションが大事になるのでしょうか?
杉山 はい。メールだったり、社内のwebサイトだったりで、つねに情報をシェアするようにしています。
――日本では、仕事を辞めた人のプログラムのコードを見てみたら、その人のクセがあって作業がストップしてしまうことがあると聞きました。
田中 十分な引き継ぎをしないで職場を去ることを、こちらでは“バーニング・ブリッジ”と呼びます。渡った橋を燃やすみたいな感じでしょうか(笑)。僕たちの仕事でいちばん重要なのが、コネクションというか信頼を広げていくことです。辞めるときに何も残さない人はみずから人とのつながりを断ってしまうことになるんです。だからこっちの人間は引き継ぎをなるべく丁寧にやることが多いですね。
充実しまくりの余暇活動
――(モントリオールスタジオの近くにあるレストランで、昼食を取りながらの取材だったので、ここで料理がやってくる)うわー、ポテトフライの上にチーズとグレービーソースがたっぷり! 美味しそうだけど強烈ですね。こういうのを毎日食べていて、太らないんですか?
田中 モントリオール発の郷土料理“プーティン”ですね。プーティンはこちらではすごくポピュラーな料理で、日本で言うとラーメンみたいなものですかね。お酒を飲んだ後にプーティンで締めたりとか(笑)。太るわー(笑)。でも、杉山さんは大丈夫だと思いますよ。かなり本格的にサッカーをやっているから。
――地元のクラブチームに所属しているんですか?
杉山 いえ。モントリオールスタジオには、5つほどサッカークラブがありまして、僕はそのうちのひとつに所属しているわけです。社内カップとかも盛んに行っていますよ。
――サッカークラブが5つも! でも、確かに2400人以上もの従業員がいれば納得できる気がします。
杉山 スタジオでは運動を趣味にしている人が多いですよ。ゲーム業界は“不健康”というイメージがありますが、ここでは、サッカー場が近くにありますし。公園が広いから予約もしないでもコートが利用できたりします。
――社内のサークル活動は、サッカー以外にもあるんでしょうか?
杉山 僕が知っている限りでは、バスケやバレー、冬はアイスホッケーをやったりしますね。
田中 聞くところによると、アイスホッケーはめちゃくちゃ真剣らしいですよ。部活の熱血なノリだとか(笑)。
杉山 冬はアイスホッケーで、夏はサッカーをやるという人も多いです。
田中 そういえば、モントリオールスタジオには社内にフィットネスジムがあって、ヨガのコースがあったりしますね。あとは、会社がスタッフの健康に気を配ってくれるのがありがたいですね。プロジェクトの山場で残業が続くと、会社がマッサージ師を呼んでくれて、マッサージが受けられるんです。
――それは羨ましい! 無料で受けられるんですか?
田中 もちろんです! ひとり30分くらいですけどね。
杉山 『ファークライ3』の開発中は、スタッフのモチベーションを高めるために、“バグを一定量修正したら社内でカクテルバーを実施する”というお触れが出て。みんな必死になってバグを直してカンパーイ、と(笑)。
――(笑)。仕事中にカクテルパーティーなんて、欧米ならではですね。ところで、モントリオールスタジオには2400人も従業員がいると聞きましたが、ちょっとした街のような規模ですよね。2000人以上が同じ建物で働いているのはちょっと想像しづらいのですが。
田中 僕も想像しづらいです(笑)。というのも、会社ってやり取りする人がだいたい決まっているじゃないですか。僕は1日につき50人くらいに会う感じですかね。それ以外の人とはなかなか接点がなかったりします。
杉山 確かにね。でも、1年に1回ホールを貸し切ってスタジオの全体ミーティングがあります。そのときは全員が集まるので壮観ですね。ミーティング後にはバーベキューのイベントがあるので、会場まで歩くことになるのですが、2000人以上いるから、モントリオールの街の人にとっては異様な光景でしょうね(笑)。
――モントリオールに住んでいれば、ユービーアイソフトのことだとわかりそうですよね。
杉山 ここ近辺に住んでる人はそうですね。けど、観光でこの街を訪れた人がいたらビックリすると思いますよ。
田中 スタジオ付近のこのあたりは、モントリオールスタジオができてから活性化したんですよ。8年前には何もなかったのに、いまはレストランやショップが連なっていますから。
――スタジオの存在が、街の流れも変えてしまった、と。
俳優の演技が“バース”を変えた!?
――『ファークライ3』の開発で印象に残っていたことはありますか?
田中 一人称視点のアドベンチャーゲームだったので、ほかのゲームのビジュアルと似ないようにするのがたいへんでした。“何が『ファークライ』を構成しているのか”という点をイチから掘り下げていって再構築した感じです。
――敵役のバースをキービジュアルに起用したのがヒットしましたよね。
田中 あれは僕たちがものすごく幸運だったと思います。バースのモーション・キャプチャーのモデルのオーディションを実施したときに、いまのバース役の俳優が来たんです。そのときの彼のパフォーマンスが強烈で、スタッフ一同圧倒されてしまいました。バースは当初無口で身体がゴツいキャラクターだったのですが、役者の演技に引っ張られて、残忍でおしゃべり、そして狂気を感じさせるキャラクターに変更しました。
――バースがスキンヘッドのラフ画を見たことがありますが、あれは変わる前のバースだったのですね。
田中 はい。『ファークライ3』でもうひとつ注目してほしいのが、イベントシーンです。ざっくりとしたあらすじが書かれている台本を役者にわたして、ほぼアドリブで演技してもらったのです。そのほうがキャラクターの潜在的な魅力が引き出せると思いまして。結果、バースを中心に鬼気迫る演技が見られたと思います。
――へー! あの衝撃的なオープニングはアドリブだから出せた生々しさだったのですね。
ですね。
田中 あと見てほしいのは、オープンワールドの景観ですね。見えているところは全部行ける。
杉山 すべてを見せようとするとあっという間にメモリ不足に陥ります。
田中 だからすごく難しかったです。たとえば、A地点からB地点に行くとしますよね? ほかのゲームだとほぼ一本道だから景色を作り込むのも少しでOKです。でも『ファークライ3』では、どんなルートでもシームレスで通れるから、それだけオブジェクトをたくさん表示する必要があったのです。
杉山 一時期メモリ不足が問題になりました。このトラブルを解決するために一週間掛かりっきりだったことがあります(笑)。メモリ不足が発生すると、チームの全員が協力しないと直りません。アートチームはムダな表現を削るし、ゲームデザインも余計なものをカットする。取捨選択が重要なんです。
田中 僕たちはアイデアを出す側ですが、杉山さんは、そのアイデアの解決策を提案してくれる側です。
杉山 ゲームを快適に遊ぶために必要のないデータがメモリに読み込まれていないか、また、似たようなデータが複数読み込まれていた場合、同じデータをシェアできないか、といったチェックを行いました。ときには、アニメーターは「このアニメーションを絶対入れたい」、そしてアーティストは「このグラフィックを実現したい」と言ってきて、困ることがありましたね。アシスタントテクニカルディレクターとしては、その都度問題箇所の調査を行い、解決策やそれによって生じる効果や影響などを提示し、取捨選択する人たちのサポートをしていきました。
――ときには衝突もあると。喧嘩になりませんか?
田中 さすがに喧嘩までは(笑)。でも、皆情熱を持って作っているので、少しヒートアップすることもありますね。社内では英語とフランス語が飛び交っていて喧々諤々(けんけんがくがく)と意見をぶつけ合うこともあります。これは余談ですが、よくミーティングの始めに「英語? フランス語?」みたいなやり取りがあるんですけど、一回ジョークで「日本語で!」と言ってみたんです。すると、みんな日本のアニメやゲームに影響を受けていたりするんですかね。突然有名なキャラクターのセリフをしゃべりだしたりして、不意を突かれて笑ってしまうことがありました(笑)。
ジュニア→インターミディエイト→シニア
――これまでモントリオールスタジオの魅力について聞いてきましたが、逆にここが気になるというところはありませんか?
杉山 ルールを最初に決めておかないと、皆が好き勝手に動き出すところですかね。日本では共通のルールがない箇所でも、わりと空気を読むというかまわりに合わせて調整してくれるのですが、こちらでは“察してください”というのがあまり通用しません。だからこそ最初にルールをきっちりと作っていく必要があると思います。
――定時に帰れて、サークル活動も充実しているモントリオールスタジオですが、そういった恩恵は有能なスタッフが恩恵を受けられる仕組みではありませんか? たとえば、がんばっているけどなかなか結果が出ない、そして仕事が遅いというスタッフは扱いが違うのでしょうか?
田中 いえ、ユービーアイソフトでは扱いに違いはまったくありません。プロジェクトの半数以上は“ジュニア”と呼ばれる新人ですから。
杉山 ここでは勤務年数ではなく、すべて実力で評価されます。職種別にクラス分けがされていて、誰かの指示を受けて作業するのが先ほど出たジュニア。そして、ジュニアに指示を与えて導いていくのが“シニア”。ジュニアとシニアの中間に位置するのが“インターメディエイト”です。
田中 中には、仕事の手が遅い人もいます。でも、それはその人のせいではなく、管理するほうの責任なんです。責任というよりも役割といったほうがふさわしいでしょうか。
杉山 プロジェクト全体を効率よく進めるためにシニアとリード(リーダー)が管理しているというわけです。
田中 ある作業で結果が出せない人がいたら、適正のある仕事を与えるのが仕事です。そのやりくりを毎日しているので、僕たちの白髪が増える原因かもしれませんね(笑)。
杉山 部門ごとにさらに小さいチームを作っていて、リーダーが部下の進捗状況をチェックし、誰かが遅れていたら進んでいる人間にフォローさせて全体を進めようという感じです。あくまでもチームが前提。
――日本のゲーム開発は違うんですか?
杉山 会社によると思うのでなんとも言えませんが、僕が日本にいたころは、早く終わった人はつぎの仕事に移って、遅い人はいつまでも同じ作業をやっているから、全体の進捗がわかりにくいことがありました。遅い人の作業を補うという仕組みがなくて。
――そういうゲーム作りはユービーアイソフトの特徴ですか?
田中 はい。モントリオールではおそらく多くのスタジオがこのやりかたを採用していると思います。ただし、バンクーバーではエレクトロニック・アーツのやりかたが主流だったりしますね。ゲーム会社ごとに戦略や作っているゲームが違うので、どちらが正しいというのはないと思います。
――ところで、ゲーム開発の山場を越えたら、ジュニアの人たちは何をするのですか?
杉山 そのときは手が空かないようにすぐ別のプロジェクトに回されますよ。ジュニアはいろいろなプロジェクトを経験して鍛えられるのです。
――ジュニアはつねに鉄火場にいる、と。
杉山 そこで磨かれて育っていく人と、そうでない人に分かれる感じですね。
田中 モントリオールスタジオのいいところは、プロジェクトどうしがライバル関係でありながら助け合いの仕組みがあることです。たとえば、僕たちが持っていないテクノロジーをほかのチームから提供してもらうこともあります。
杉山 プロジェクト間の壁はほとんどありませんね。
――モントリオールスタジオ製のゲームを遊んでいると、どこか共通のプレイ感覚が味わえるのはそのためですね。
田中 そう言っていただけるとうれしいです。
門戸はつねに開かれている
――日本人ということで、スタジオで変わった体験をしたことはありますか?
田中 日本はゲーム大国じゃないですか。そしてマンガやアニメーションもある。だから皆日本をリスペクトしている感じです。
杉山 「いつかゲーム発祥の地で日本で働いてみたいんだ」と声を掛けられることが多いです。ただ、日本人だから、どうこうっていうのはあまりありません。このスタジオには世界各国から人がやって来ているので、日本人はその中の一部です。
――ところで、この記事を読んでくれたかたが“モントリオールスタジオ”で働きたいと思ったとしたら、どうすれば入ることができますか?
杉山 それこそユービーアイソフトの海外のWebページを見たら、求人募集が載っているはずですよ。アニメーターとかエンジンプログラマーだとか、部門に分かれて。職務経歴書を送ってくれたら人事部が預かって、いろいろなプロジェクトで回覧します。そこで条件にあったチームから声がかかる仕組みですね。
田中 採用されれば、ユービーアイソフトがビザだとか引っ越しの手配を面倒みてくれますよ。
――えっ、引っ越しのケアまでしてくれるんですか?
杉山 はい。もちろん予算の制限はありますけどね(笑)。最初の一ヵ月は、マンスリーマンションを借りてくれて、アパートを探す人もつけてくれるんです。
――それなら身ひとつで世界に飛び込んでいけるわけですね。
田中 はい。モントリオールスタジオでは、つねに人材を募集しています。語学に不安があったとしても、向上心さえあればカバーできると思います。この記事を読んでくれた人がモントリオールスタジオに少しでも興味を持ってくれたらうれしいですね。
インタビューはまだまだ続きます!
続いてのインタビューは、現在モントリオールスタジオでソーシャルメディアのマーケティングを担当している小林正男(こばやし まさお)氏。同氏はアメリカに留学し、そこからユービーアイソフトに入社した経歴の持ち主だ。ゲーム開発からマーケティングチームに移り、さまざまな視点からユービーアイソフトを見てきた小林氏に、お話をうかがった。
――小林さんがモントリオールスタジオで働くことになった経緯を教えてください。
小林正男氏(以下、小林) いろいろあるので、話すと長くなりますけど、いいですか?
――もちろんです! まず出身はどちらですか?
小林 生まれは東京ですが、2歳くらいで神奈川県の相模原市に引っ越して。その後、幼稚園くらいのころ岐阜県の大垣市に移ってから義務教育はそこで受けることになりました。
――小さいころから転々としていたわけですね。英語の勉強はいつからしていましたか?
小林 父親が日本人、母親がアメリカ人という家庭で育ったので、家では日本語と英語を使っていましたね。
――義務教育を終えたあとの進路を教えてください。
小林 小さいころから日本の教育が自分に合っていないと感じていたので、両親に「大学はアメリカに行きたい」と相談しまして。すると、日本の高校からだと教育内容の違いなどからアメリカの大学に入りづらくなるから、どうせなら高校から行ってこい、と。それで15歳からカリフォルニアのナパで高校に入学しました。
――高校生でそこまでのビジョンがあるとは。結果的にどの大学に通うことになったのですか?
小林 サンフランシスコ州立大学です。
――そこからユービーアイソフトに?
小林 そうですね。大学では政治学科を専攻していて、弁護士になろうと思っていたんです。ただし、アメリカで弁護士になるためには、ロー・スクールに通わなければ行けないのですが、調べてみるとカリフォルニアには弁護士が多すぎて、弁護士の資格はあるけど事務所に入れない人がたくさんいる状態でして。そのころちょうど17~18歳のころから通訳と翻訳のアルバイトをしていたので、だったらそれを活かして子どものころから好きだったゲームの世界に飛び込もうと思い、ユービーアイソフトに入りました。
――最初はゲームクリエイターとして入社したのですか?
小林 ええ。サンフランシスコのスタジオで日本のゲームを英語に翻訳していました。それが2006年くらいのことですね。で、モントリオールスタジオから「『ーNARUTO(ナルト)ー』をモチーフとしたゲームを作っているから来ないか?」と誘われてモントリオールに来ることになりました。
――カナダに移住するときの心境は?
小林 モントリオールという地域がおもしろそうだな、と。あとはゲームの開発に入れるというのが大きかったですね。サンフランシスコにいたときも厳密には開発ではありましたが、翻訳がメインですから。
――当時のモントリオールスタジオはどのくらいの人数がいたのですか?
小林 1000人いかないくらいですかね。
――1000人規模でも世界有数のゲーム開発スタジオですけども、5~6年で倍以上になったのがすごいですね。『ーNARUTO(ナルト)ー』のゲームの開発終了後はどうしたのですか?
小林 仕事がひと段落して、つぎはどうしようか迷っていたときに、あるゲームのエグゼクティブプロデューサーのアシスタントを担当することになりました。ただ、すぐにそのプロデューサーが独立してしまい、宙ぶらりんの状態に……。その後、スタジオ内でソーシャルメディアのマーケティング部門が立ち上がり、そこで働くことになりました。
――ソーシャルメディアというと、FacebookやTwitterなどの更新がメインですか?
小林 そうですね。それに加えてファンの方を喜ばせられるようなコンテンツを作りつつ、FacebookやTwitterの情報を更新していきます。モントリオールスタジオは大きいので、情報をまとめて公開時期をコントロールする必要がありますからね。
――ソーシャルメディアは近年重要性が増していますよね。それにつれてチームも大きくなっているのでしょうか?
小林 ええ。以前は1タイトルにつき担当者はひとりでしたが、最近は人気タイトルは3人に増やしました。
――チームは全体で何人くらいですか?
小林 会社全体でソーシャルメディアのチームは15人くらいで、僕のチームは6人です。僕の立場は、スタッフの仕事の割り振りや進捗状況を管理することです。最近はゲームのコミュニティーがかなり大きくなっていて、たとえばFacebookの『アサシン クリード』のページだと、600万人が“いいね!”をしてくれています。『ファークライ3』がもうすぐで100万で、『ウォッチドッグス』は70万くらい。これだけ見てくれている方が多いと、しっかりと整備した情報をお届けする必要があるので、やりがいがありますね。
――お話をうかがっていると、小林さんの経歴はかなりユニークですよね。弁護士志望からゲームクリエイターになって、いまはソーシャルメディアのマーケティングを統括しているという。
小林 確かに。ユービーアイソフトでも、僕みたいにいろいろな部門を渡り歩いている人はあまりいないですね。基本的にひとつの業種で働く人が多いので。
――まさにいろいろな角度からユービーアイソフトを見てきたわけですね。
小林 そうですね。あとは変わった経歴を持っているから、新しい部門が立ち上がるとお鉢が回ってくるという感じですかね(笑)。
――「小林なら適応できそうだ」、と(笑)。今後世の中に新しいサービスが生まれたら、小林さんがその分野にチャレンジすることになるかもしれませんね。
小林 どうでしょうね? でも、新しいことが好きなので、気づいたらそこにいるかもしれませんね。
クリエイターの街“モントリオール”
――モントリオールの街はどんなところですか?
小林 特別なところだと思います。ユービーアイソフトだけではなく、ワーナー・ブラザースやアイドスなど、多くのゲーム開発スタジオがあるので。モントリオールくらいの規模の街で、これだけのゲーム業界の関係者がいるのは世界的にも珍しいみたいですよ。全部で1万人くらいいるようですね。
――道を歩けばクリエイターに出くわすとか。
小林 ホントにそんな感じですよ。
――モントリオールがゲームの街として栄えたのは、カナダの政府による経済援助がおもな要因だとは思いますが、街自体の雰囲気はどうですか?
小林 すごく住みやすいです。街にはアーティストがたくさんいて、文化的にもおもしろいのがいいですね。いくら政府からの援助があっても、住みたくない街に人は集まりませんからね。
――ゲーム関係者以外にはどんなアーティストがいるのでしょうか?
小林 映像関係の人間が多いですね。モントリオールスタジオのまわりにも映像関係の会社がたくさんあります。
――交流はありますか?
小林 交流どころか仕事のパートナーですよ(笑)。たとえば、マーケティングチームが映像を作るときは映像関係の会社にお願いしますし。
――そういうつながりがあるんですね。
小林 たとえば、マーケティングチームといっしょに仕事して、それが縁でユービーアイソフトに入社する人もいたりします。逆に弊社のクリエイターが独立して映像関係のスタジオを作ることもありますし。
モントリオールスタジオが求める人材とは
――日本人で、モントリオールで働いてみたい人がいたら、どんなスキルが求められますか?
小林 まずは必要なのが英語ですね。
――モントリオールはケベック州なので、フランス語圏ですが、英語だけでも大丈夫なんですね。
小林 もちろんフランス語ができれば、それでOKですけど、英語だけでも十分です。
――日本のゲーム開発会社からモントリオールスタジオに来る人はどのくらいいますか?
小林 少ないです。でも、ゲーム業界で3~5年程度の経験があれば、すぐに入れると思いますよ。もちろん、需要と供給ですから、需要のあるポジションが空いている場合の話ですけど。
――モントリオールスタジオが求めている人材は?
小林 経験豊富なベテランですね。どこも人手が足りないので。
――2400人もいるのに足りませんか?
小林 足りないですねえ。同業他社によるヘッドハンティングも盛んですし。
――モントリオールスタジオの魅力はどこですか?
小林 オープンなところですかね。モントリオールスタジオのオフィスでは、個室は社長の部屋しかありません。あとは仕切りがない作りになっていて、ゲームをみんなで作っています。欧米ではそれぞれのゲームシステムがいかにうまくつながっているかが重要視されます。ですから、スタッフどうしが円滑にコミュニケーションを取れるような仕組みができあがっています。ゲームスタジオの仕事はクリエイティブな仕事です。つねに新しいチャレンジがありますし、そういう楽しみもありますね。人を楽しませたいという高い意識を持った人が集まるので、職場環境としてはいいと思いますよ。
『ウォッチドッグス』のTシャツをプレゼント!
Ubi Workshop: Store モントリオール店で販売されている、『ウォッチドッグス』のTシャツ(Lサイズ)を抽選で4名様にプレゼントします。欲しい人は、下記の応募フォームから応募してください。応募期限は、2013年9月27日(金)23時59分まで。当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。なお、発送時期は、2013年10月を予定しています。