【独占】『ゲーセンで出会った不思議な子の話』の作者、富澤南さんインタビュー

2013年9月20日にエンターブレインから発売される単行本、『ゲーセンで出会った不思議な子の話』。ネットの掲示板に投稿され、瞬く間に数千万人が読んだと言われる伝説のスレッドを小説化したものだ。その作者である富澤南さんに、独占インタビューを敢行! 富澤さんのインタビューがメディアに掲載されるのは、これが初めてだ。

■各界で話題を呼んだスレが書籍化!

2013年9月20日にエンターブレインから発売される単行本、『ゲーセンで出会った不思議な子の話』。ネットの掲示板に投稿され、瞬く間に数千万人が読んだと言われる伝説のスレッドを小説化したものだ。その作者である富澤南さんに、独占インタビューを敢行! 富澤さんのインタビューがメディアに掲載されるのは、これが初めてだ。


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■今年いちばん泣ける本ができました

「俺、ゲーセンで格ゲーをやるのが好きだった。そこで出会った、不思議な子のことを書かせてほしい」

 ある日突然、ネットの掲示板に投下された“大学生”を名乗る男の書き込み。「またクソスレか」。冷やかし半分で読み始めたネットの住人たちはいつしか、彼とその彼女との、まぶしく、甘酸っぱく、そしてどこか悲しい物語に引き込まれてゆく……。

「奇跡よ起こってくれ!!」

 多くの人々がそう叫ばずにいられなかった名スレッド“ゲーセンで出会った不思議な子の話”が小説に姿を変え、9月20日にエンターブレインから単行本として発売される。

 その作者である富澤南さんに、インタビューを試みた。

 富澤さんがメディアに露出してインタビューに答えるのは、これが初めてのこと。“ゲーセン……”のスレッドを立てた当時の気持ちを皮切りに、単行本のこと、そして書き下ろし小説『最後の花火』にまで話は及ぶ。富澤さんはどんな気持ちで文章を綴っているのか? じっくりと読んでほしい。


■読者といっしょに紡いだ物語

――『ゲーセン……』の原作は、富澤さんがネットの掲示板に立てたスレッド。なぜあの話を書こうと思ったのですか?

富澤 出発点は、“ゲーセンにこんな子がいたらいいな”という私の妄想です。「こんな女の子がゲーセンに通っていたら、どんな物語が紡ぎだされるんだろう」と考えていくうちに、スレッドに書き込んでいました。


――……ということは、ストーリーをすべて考えてから書き込んだわけではない……?

富澤 はい。登場人物についてはうっすらと考えていましたけど、彼らがどういう運命をたどり、どんな結末を迎えるのか……ということについては、まったく考えていませんでした。書きながら物語が育っていった……という感じなんです。


――信じられない……。そんな手法で、あんなキレイな物語が作られたなんて……。

富澤 すごく不思議な感覚だったんですけど、読んでくれていた方々のコメントとか反応を見ているうちにストーリーが紡ぎだされていきました。ヒロインが辿る運命についても、私が最初に想定していたものとまったく違いますから。登場人物が頭の中で勝手に動いてくれた……という感じです。確かに私がキーボードを打っていたんですけど、自分で想定していたものと、どんどん違う展開になっていきました。


――それはおもしろい感覚ですね。

富澤 このお話って、スレッド自体がすごく盛り上がってくれたので、読者の方たちからたくさんのコメントをもらえたんです。それらを読み、返事を書いていくうちにストーリーが育っていったというか……。ひとつレスを返したときに、私はつぎの展開を考えていないんです。でも、まったく迷うことなく、スラスラと書けてしまいました。もう一度あれと同じことをしろ……と言われても、たぶん不可能だと思います(笑)。


――すごいなぁ……。

富澤 書いている途中で思いましたもん。(この物語の登場人物たちは、本当はどこかに実在しているんじゃないか……?)って。それくらい、書き手の私の中にリアリティーを持って存在したんです。


――掲示板で書き始めたからこそ、育った物語なんですね。

富澤 それは間違いないです。たとえば、ひとつ例を挙げると、物語の途中でヒロインのお兄さんが登場します。すると読者のひとりが「あ、これは兄が死ぬパターンだな」というコメントを書き込んだんですね。じつは私もそうするつもりだったんですけど、そのコメントを読んで「違うストーリーを紡ぎだそう!」と思って、まったく違う道に進ませました。なので、もしもあのコメントがなければ、お兄さんが亡くなって終了する、もっと短いスレッドになっていたかもしれません。


――ああ……。それはスレッドで展開したからこその道筋ですね。

富澤 そうなんです。あのスレをリアルタイムで読んでくれいていた方たちには、本当に感謝しています。


――単行本の帯で作家の乙一さんが、「この物語が偉大だったのは、ネットという媒体を使用し、“作者の実体験かもしれない”と読者にフィルターをかけた点にある」と書かれていますね。まさに、その通りなんだなあ……。

富澤 はい。リアルタイムで見てくれている人に感情移入してもらい、ともに育て、語り合っていくという手法は今後も続けていきたいと思っています。


――物語を作る、新しい手法ですね。

富澤 そうだと思います。掲示板で書くこと で、いろいろなツッコミが入ります。それを見 ながらつぎ の展開を考えたり、また変えたりする……という やりかたは、ふつうの小説やドキュメンタリー などで は不可能だと思いますから。もちろんこの方法は賛否両論あるでしょうし、「ずるいやり方だ」と思われる方もいると思います。ですが、これが私の原点なのです。


――このスレッドが完結したあと、ものすごく話題になりましたよね。それこそ瞬時に数万リツイートされて、有名人もたくさん反応して。それを見て、どう思っていたんですか?

富澤 あのころ、プライベートがとても忙しくて余裕がなかったんです。ですので、まとめサイトにまとめられたあと、それこそ1分間に500ツイートくらいのスピードで拡散していったんですが、ただただ傍観している感じで……。そのうち、いろいろな有名人が話題にし始めて、週刊誌でも“この話はウソかホントか?”と取り上げられたのを見て、(いったい何が起こっているんだろう……?)って思いました(笑)。


――電車の中とかで、このスレッドを読んでいる人に出会ったりしませんでした?

富澤 まとめサイトに載ったつぎの日に電車に乗っていたら、携帯を見ながら涙ぐんでいるサラリーマンがいたんです。で、チラリと携帯の画面が目に入ったんですけど、まさに“ゲーセンで……”のスレッドでした。もしかしたらそのときに初めて、(本当に拡散しているんだな……)って実感したのかもしれないですね。


――当時は「あの話、読んだ?」っていうのが挨拶化してましたよ。ウチの編集部でも。

富澤 ありがとうございます。この“ゲーセン……”があったので、その後も掲示板を使って作品を発表するようになったんです。


――そしてその後、「じつは“ゲーセン……”は私の創作です」とカミングアウトをする……。ここにも、理由があるんですよね。

富澤 はい。あえてカミングアウトする必要もないとは思うんです。実話なのか創作なのか、どう思おうと読者の自由なわけですし、そもそも無粋な感じがします。でも今後、私は物書きとして活動していきたいと思っていましたので、キチンと“ゲーセン……”と作者を紐付けたいと考えました。そうすることで“ゲーセン……”に、作者性が生まれると思ったので。


――活動の幅を広げるために、カミングアウトしたと。

富澤 はい、その通りです。


■ずっと書きたかった“夢”をテーマにした小説

――そしてこの単行本には書き下ろしの小説『最後の花火』が収録されています。これは、『ゲーセンで出会った不思議な子の話』とは毛色が違う、“夢”がテーマの物語ですね。

富澤 “ゲームクリエイターになりたい”という夢を抱き続けている青年が主人公の物語です。ずっと、“夢”をテーマにした小説を書きたいと思っていました。


――ふむふむ。

富澤 夢って、みんながみんな実現できるものじゃないですよね。夢を持っているからこそ悩むし、振り回されるし、挫折をしたりもする……。夢を実現できる人なんてほんの一握りでしょうし、私のまわりでも夢破れていく人がたくさんいました。そんな人を見るたびに、考えていたんです。「夢って、なんなんだろうなぁ」って。


――はい、わかります。

富澤 じつはこの物語には、モデルとなった人物がいます。医者を目指して勉強している親友がそうなんですが、彼はなかなか受験がうまくいかずに、何度も浪人を重ねているんです。ちょっと前に数年ぶりに会ったんですけど、高校生のときはよく笑う明るい人だったのに、まったく笑わなくなっていて……。聞いたら、「笑いたくても、笑えないんだ」と。驚いて、「大丈夫……?」と言ったんですけど、彼は「医者になるのが夢だから……」とうつろな表情で……。そんな顔を見たら、何も言えないじゃないですか。ずっとがんばっているのを知っているから「がんばれ」とも言えないし、「もう無理しないで」とも言えない。そんな彼を見ているうちに、夢をテーマにした物語を書きたいと思いました。


――『ゲーセン……』とは違う意味で、引き込まれる作品になったと思います。

富澤 ありがとうございます。この『最後の花火』を読んでくれた人が、自分の夢に想いを馳せてくれたらこんなにうれしいことはありません。


――ある意味、『ゲーセン……』以上に老若男女から共感を得られる作品だと思います。「自分もこんな時代があったなぁ」と感じると思うので。

富澤 「これ、書いている人って同じなの?」って思われる方がいるかもしれないですね。それくらい、毛色が違う作品だと思います。『ゲーセン……』の余韻を引きずらずに、切り替えて読んでいただくのがいいかもしれませんね。


――読者の反応が楽しみですね。

富澤 はい、そうですね。ひとりでも多くの人が手に取ってくれたら……。書店で見かけたら、ぜひパラパラとめくってみてください。よろしくお願いします!