ヨコオ氏独特の世界はどう生まれるのか

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 2013年8月24日、沖縄県那覇市にあるビジネスカフェ tab’spotにて、『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズや『NieR Replicant/NieR Gestalt』などで知られるゲームクリエイター、ヨコオタロウ氏が講演する“第10回 Creators Night ヨコオタロウの「ゲームとシナリオの話」”が開催された。

 Creators Nightは、沖縄にあるアールプランニング 玉城道矢氏によって、沖縄のクリエイターに都心部のクリエイターとの出会いを提供するイベントとして開催されているものだ。

つまらない話の聴きかた

 まずヨコオ氏は、「僕の講演がつまらない、とこれから思う人のために、つまらない話の聴きかたをお教えします」という破天荒な話からスタート。

 読者の方も退屈な授業や会議などに参加することはあるだろう。そんなとき、どう過ごしているだろうか? 寝てしまう? ヨコオ氏は、寝るくらいなら、自分が将来どんな職業に就きたいか(またはどんなことがやりたいのか)、どんな人間になりたいか、そのためにいま何が必要かを考え、メモに残したほうが有意義だと語る。

 「未来のビジョンを考えたとき、すぐに思い浮かぶのはせいぜい20個くらいだと思いますが、日ごろ、そういったことを考え、(つまらないと感じた講演や会議中であっても)メモに残すようにしておけば、将来に役立つと思います」(ヨコオ)。

 またヨコオ氏は、講義がおもしろくないと感じた場合、なぜつまらないか、自分ならどうするかといったことを分析すれば有意義に時間が過ごせるという。とにかく、ボーっと過ごしていると時間がもったいない、ということだ。

 そして、本題に入る前のまとめとしてヨコオ氏は、「教わるのは楽しくないが、学ぶのは楽しい」と語り、学ぶということは誰かにやらされることではなく、自分のためにやることだから楽しい。今回の講義でひとつでも役立つことがあればうれしいと語り本題に入った。

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▲ちなみに、ヨコオ氏がふだん考えているおおよそのことが、こんな感じだという。

ゲームシナリオとは何なのか

 ゲームのシナリオとは何なのか。小説や映画とは何が違うのか。ヨコオ氏はまず、主人公が魔王を倒しに行く、というRPGでよく見られる構造のシナリオを例に解説。

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▲主人公が魔王を倒しに行く。RPGでよくある構造だ。
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▲1本道ではなく、サブシナリオ(行っても行かなくてもいいところ)として“立ち寄れる村”を追加。その“立ち寄れる村”をギャグ満載の村にすると……。
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▲ギャグ満載の村から魔王の城のギャップがありすぎて、ふつうの人はついていけない。そこで、そのギャップを埋めるために、ギャグ満載の村のあとに悲しい事件を追加したり。

 プレイヤーの感情と物語の展開のギャップは、自由度のあるゲームの構造だと、じつはすごく発生してしまいがちなので、気をつけなければいけないポイントだという。

 さらに、セーブして次にプレイするのは1週間後かもしれない→1週間も時間が開くとプレイヤーが前の話を覚えていない→覚えてないと、感動が伝わらない、ということも考慮しなければならないのがゲームのシナリオだ。

 じつは自由度が高いゲームのシナリオにも、映像ではできるような、ゲームならではの制約がいろいろあるのだ。

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▲“異なる場面をつなぎづらい”とは、主人公(プレイヤー)の主観で語られるので、時間や場所をワープしづらい。“視点を複数持てない”→たとえば、主人公側と魔王側の物語を同時進行させづらい。

 それらをどう解決していくか。ヨコオ氏は以下のように提示する。

不自由ななかで、どうおもしろさを出していくか

 そもそも人はなぜ“おもしろい”と感じるのだろうか。ヨコオ氏自身も、映画や小説などから“おもしろい”と感じることはあるが、根本的には“なぜ自分の心が動かされたのか”という根本的な理由はよくわからないという。

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 そこで、“どういう条件で自分は感動するのか”という視点で“おもしろさ”を感じる部分を自己流で解体してみたという。

 その解体のために、例として取り上げられたのは靴のネット通販“ザッポス”のエピソード。これはネットなどでも話題となったため、ご存知の方もいるだろう。

【実話とされるザッポスのエピソード】
 ある女性が病床の母親のためにザッポスで靴を買ってあげたが、母親は病状が悪化して亡くなってしまう。そんな最中、ザッポスから靴の具合をたずねるメールが彼女のもとに届く。女性は、返品期限は過ぎてしまったが母親が亡くなってしまったので靴を返品したい旨を返信したところ、通常は購入者が集荷場まで返品したい靴を持っていかなければならいところ、ザッポス側が宅配の集荷サービスを送るという返答があったという。規則を曲げて自宅への集荷を手配してくれたことに女性は驚き、感謝する。
 さらに後日、女性の玄関先にはお悔やみの花束が届けられ、ザッポスからのメッセージカードが添えられていたという。

 このエピソードでどの部分で心動かされたのか。ヨコオ氏自身が挙げたポイントは以下の4つ。

・“家族の死”は心を動かす。
・ネット通販会社なのに“情”がある。→近所の靴屋が同様のことをしても、あまり感動しないかもしれない(勝手なイメージだが、ドライで冷徹そうなネット通販会社が手書きのメッセージカードを贈ったというギャップ、意外性に意味がある)。
・“情”とはルールを越えた奉仕行為。
・“集荷”、“カード”の二段サービス。

 上記のポイントを下記のように抽象化すれば、心動かされるシナリオを書く際の手掛かりにすることができる。

・“死”や“愛する対象”は心を動かす→対象は家族ではなくとも、恋人や可愛がっていたペットでもいいかもしれない
・“ギャップ”は“驚き”をもたらす→不良が仔猫をかわいがるときのギャップ。
“前提”を破壊したところに驚きがある→ネット通販会社なのに情がある。ただし、前提をしっかり描く必要がある。
・“驚き”は多段で使用する→自分が書いたシナリオを読み返して、もう一度、話をひっくり返すことを意識する

 ヨコオ氏は、シナリオを書く人は感動的な話も醒めた目で見ないといけない、とアドバイス。そして、「ここに書かれた要素はあくまでヨコオの分解の一例で、いちばん大事なのは、自分の心の動き」(ヨコオ)で、なぜ心が動いたかを自分なりに把握していれば、人の心を動かすシナリオも書けるようになる(はず)だと説明する。

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シナリオと体験

 続いて、実際のシナリオで気持ちがどう動くかが具体的に説明された。まず、シナリオを作る際、話をどう構成するか設計(プロット)を考え、そのあと、それぞれの章の詳細を詰めていくという流れになるのがふつうだ。

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 ここで注意したいのは、多くのユーザーにとって、いまプレイしている、見ているシーンが重要であって、乱暴な言いかたをすれば、前半の話をほとんど覚えてない、というということだ。記者の勝手な想像だが、ゲームや連続ドラマなどの序盤のストーリーを細かく覚えている人はごく一部の少数派だろう。「序盤の話を覚えていられるのは小説や映画がギリギリの尺」(ヨコオ)で、開始から数十時間かけて体験するテレビゲームは、オープニングからエンディングまでを1日で消化できる、という作品はほとんどない。RPGではとくにそうだ。しかも、途中でキャラクターの成長やアクションなどに気を取られる要素も多く、ことさら最初のエピソードは覚えづらいものだ。

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 たとえ、お姫様を殺された主人公が、その復讐のため魔王に向かっていく、というシンプルなシナリオであっても、数日間、時間が開いただけでも、主人公への感情移入は薄れ、魔王と対峙するころには、物語の展開とプレイヤーとの感情にギャップが生まれてしまうこともある。

 そこでヨコオ氏は「各話、各章ごとに理由をつけて、(プレイヤーに)“魔王は悪いヤツ”ということを印象付けていく、刷り込んでいく必要があります」と、ゲームのシナリオ作りならではの重要点を挙げた。

設定は行為から逆算して考えていく

 ヨコオ氏が手掛けるゲームは、プレイした方ならおわかりだと思うが、『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズしかり、『NieR Replicant/Gestalt』しかり、印象的な世界のものが多い。それが要因だろうが、「設定はどう考えるのか」という質問をよくされるという。

 その質問に対するヨコオ氏なりの回答の前に、よく目にする失敗の例として、設定を細かく考えて物語を書き出すパターンを挙げる。曰く、細かく設定すると、それに縛られてしまいがちで、意外性もなくつまらない話しか出てこないことが多いのだという。

 たとえば、不良という設定を考えるとする。不良というイメージ、概念はふつうの人は持ち合わせているため、ケンカが強いなどという設定を細かく考えても、意外性は生まれづらい。

 だが一方で、ベタな展開だが、この不良が仔猫を助けるというエピソードを考えると、そのギャップゆえに「この不良は本当は心が優しいのでは?」と多くの人が不良に対して興味が湧き、この不良について知りたくなる。

 この例からヨコオ氏がオススメする設定の作りかたは、適当なキャラクターを考えて、そのキャラクターをおもしろくなるように動かしてみることだという。そのあと、その動きに対してどういう設定が必要なのかを考える。上記の例で言うと、不良が仔猫を助ける→じつは心が優しい少年→その心が優しい少年がなぜ不良に? といった具合に設定を考えていく。

 設定は、行為から逆算して考えていくと作りやすい、ということだ。

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物語のレイヤー構造とフラクタル的認識

 膨大なボリュームが求められるゲームの物語。まずは一般的に物語がどういう構造になっているのか、解説されたのが下の構図だ。

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・コンセプト→ひと言で説明できるキャッチーさ。例を挙げると、マンガ『DEATH NOTE』。ノートに名前を書くと人が死ぬ、など。
・構造→物語の起伏による感情操作。一般的にストーリーと言われるものにいちばん近い。
・演出→瞬間的な演出による感情操作。たとえば、マンガ『ONE PIECE』。「キャラクターの表情など、その瞬間の描写がすごく上手で、すごくのめり込める。また、『AKIRA』は何が起こっているかを実写かのような精密な絵で表現するという“体験の新しさ”があった。映像としての新しさや人の感情を引き出すための瞬間的な感情操作が演出です」(ヨコオ)。

 作品はコンセプト、構造、演出のレイヤー(階層)に分かれており、プレイヤーや視聴者はそれぞれで“おもしろさ”を認識している。“ノートに名前を書くと人が死ぬ”というコンセプトで引き込まれて、物語でおもしろいと思い、演出でスゴイと感情が動かされる。

 ただ実際には、ユーザーが映画や小説、マンガ、ゲームなどを体験したときに、コンセプト、構造、演出の3つすべてを完全に認識するわけではない。とは言え、それぞれの一部だけを見ているわけでもない。人はさまざまなレイヤーを行き来しながら、フラクタル的(一部を抜き出しても全体と似た形になる)に作品の理解を深めているのだ。たとえば、好きな映画やゲームを思い出してみよう。その映画を思い浮かべるとき、アタマに浮かぶのは印象に残るエピソード(構造の一部)だったり、シーン(演出の一部)だったりしないだろうか。つまり、ユーザーは作品を構成するさまざまなレイヤーを断片的に認識しているのだ。

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 そう考えるとコンセプト、構造、演出のすべてが大事に思えるが、ヨコオ氏はゲームの場合、すべてを満足させることはほぼ不可能で、「作り手はある程度、この作品はここがポイントという部分を判断しななければならない」と語る。先に例に挙げた“ノートに名前を書くと人が死ぬ”というコンセプトが秀逸な『DEATH NOTE』で、仮にダイナミックな演出を加えたいからといって、そのノートよりさらに強力な魔力を持つアイテムを出すといったコンセプトがブレるような構造にしてしまうと、『DEATH NOTE』の魅力が損なわれてしまう、というわけだ。同様に演出面に大きな魅力がある『ONE PIECE』も、そこを疎かにすると、魅力の一部は失われてしまうかもしれない。

 作品には、それぞれ違うレイヤーにおもしろさがあり、作り手はどこをフォーカスすべきか、大切にすべきかの判断が重要で、乱暴な言いかたをすれば、そこさえしっかりしていれば、作品としては成り立つという。

他者を意識する

 表現するという行為は誰かに見せることで成立する。自分が作りたい作品を作り、それが万人に受け入れられる……といった天才肌の人のいるだろうが、それ以外の人、とくに商業的に成功させなければならない人なら、誰に向けて、どういったゲームを作るか。受け手(ターゲット)を想像することが重要だという。

 ヨコオ氏がゲームを作る時は、自分のゲームをどういう人がプレイするかをまず想像するという。同氏は「僕のゲームはメジャーなゲームではないので、どちらかと言うと若干オタクの人向け。そんな人がプレイしているゲームは……『テイルズ オブ』シリーズや『ダンガンロンパ』などと想像します。また、僕のゲームはスクウェア・エニックスから発売される作品が比較的多いので、もしかしたら『ファイナルファンタジー』、『ドラゴンクエスト』シリーズを遊んでいる人もいるかもしれない」と想像しているのだそうだ。

 そうした人に向けて、どういったゲームを作れば心動かされるかを推測・想像することができれば、他の作品にあまり似過ぎず、それでいて「求められる製品になれるのか?」が見えてくるというわけだ。

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質疑応答

 最後に質疑応答の時間も用意されていたが、記者もこの手の講演の取材の際、よく見かけるのだが、挙手して質問する人は少ない。質問する人が皆無で、シーンとなって気不味い雰囲気になってしまうこともしばしばある。そこでヨコオ氏は「よく聞かれることを質問として用意してきました」と、自分が用意してきた質問に自分が答える、というユニークな質疑応答をスタートさせた。

Q.ゲーム作りで楽しかったことは?

 苦しいことばかりです。うれしいときは、作ったゲームをプレイしてくれた人が「おもしろかった」と言ってくれたときくらい。作っているときはぜんぜん楽しくともなんともないです。何で作ってるかよくわからなくなるときすらあります。ただ、ほかの仕事でも多くの場合、たいていはしんどいと思います。その中でもゲーム作りは、わりと好きなものが作れるので自分に向いているかなと思います。

Q.どうやって他人を想像すればいいのか

 いちばんのオススメは届けようとしている人に直接聞くこと。ただ、何千、何万の人に話は聞けるわけではない。また、面識のないクライアントに企画書を持っていくときなどは、やはり想像するしかない。そこで大事なのは、まず想像することの難しさを理解する、ということ。つぎに、ひたすら想像のループを回す。「こうじゃないか?」それが違ったら「では、こうじゃないか?」と、想像をくり返す。そうして、どんどん想定しうる状況を増やしていくことが大切。

 以下は、実際に今回の質疑応答で出た質問に対するヨコオ氏の回答だ。

Q.キャラクターを作るときに心がけていることは?

 イメージするのは飲み会。どういうことかと言うと、飲み会で「楽しい」というときはいろいろな側面があります。たとえば、ひとりの人のおしゃべりが楽しいとか、ある人がすごい有名人であるとか、飲み会の場でおもしろい出来ごとが起きたりとか、お店の雰囲気がいいとか……。僕の場合、自分のキャラクターと飲んでいることを想像して、そのキャラクターがおもしろいことが重要なんです。逆にイヤなヤツでもいいんですけど。それはそれでキャラクターとしては大切なので。つまり、そのキャラクターに興味が持てるかどうか。心動く相手かどうかというのが重要なんです。

 また、メインキャラクターはたくさん作るとお金がかかるので、6人くらいしかいつも作れません(笑)。そして、ゲームとしてコイツはヒロインタイプ、コイツはパワータイプなどと配置を決める。そこから性格付けして、話を考えます。

Q.いまいちばん興味あることと、いちばん印象的だった人

 いままでずっとゲームや映像などデジタルな仕事をしてきたので、アナログ的なものに憧れます。たとえば、紙媒体。一度、本作りには興味があります。

 心に残っている人は……たくさんのゲーム業界の方々とお会いさせていただきましたが、基本はだいたいいい人。印象的だったのは堀井雄二さん。堀井さんに一度飲み会でお会いしたときに、あんなに大御所なのに、物腰がすごく柔らかくてビックリしました。『ドラゴンボール』とか本当に強い究極形態のキャラはトゲトゲしてなくて、ツルッとしているじゃないですか。堀井さんもゲームクリエイターの究極形態なんじゃないかと(笑)。

Q.企画書はどこまで作り込む?

 企画書を書くことが目的ではなく、製品を作ってお客さまに届けることが目的。エライ人(クライアント)にどうしたらお金を払ってもらえるかを考えたとき、「この人はこうしたらお金を払ってくれるんじゃないか」と想像します。分厚い企画書が好きな人はそうしますし、1行で表現している企画書が好きな人はそうします。ですので、プレゼンする相手を調査することから始めます。企画書を書く前に、プレゼン相手と話す努力をすることが大切。

Q.「やられた!」と思ったゲームは?

 そういうのはあまりないですね。宝物のように好きなゲームは『ICO』と『斑鳩』なんですけれど、「これが作りたかった」と思うのではなくて「自分が作れたとは思えないし、自分は違うものを作ろう」と思うタイプです。すごいなと思う作品から学べることは多いですし、つまらないと感じたものは、「こうすればつまらなくなる」という勉強になりますし。

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▲セミナーのあとに行われた参加者との懇親会(飲み会)で、サインをするヨコオ氏。

 心の動きを抽象化してシナリオに活かす手法だったり、他者を意識した想像力だったりヨコオ氏流の“ゲームとシナリオ”の話が展開された今回の講演。そんなヨコオ氏だが「最初から最後までおもしろいゲームシナリオを書くのはムリ。半分諦めています。ということを言うと、いままでの話は何だったのかということになりますけど(笑)」と、ぶっちゃける。ただ、ムリだと思う中で何を最低限守るか。それは、ゲームとして成立させること。一応は最初から最後まで遊べるシナリオをがんばって書く、もしくは、作品としてうまく活かす努力をする、ということだという(シナリオがイマイチでもおもしろいゲームはある)。

 そのほか、ゲームシナリオやシナリオライターになる方法など、ヨコオ氏流の分析がもっと知りたい方は、同氏のブログ“ヨコオタロウの日記”をチェックしてみるといいだろう。