黄昏シリーズは終わらない!?

 2013年6月27日にガストより発売されたプレイステーション3用ソフト『エスカ&ロジーのアトリエ~黄昏の空の錬金術士~』。ガストを代表する『アトリエ』シリーズの最新作である本作への反響や、シリーズの今後について、岡村佳人ディレクターに話を聞いた。

※インタビューには若干のネタバレが含まれています。未クリアーの方はご注意ください。
※このインタビューは、週刊ファミ通2013年8月8日号(2013年7月25日発売)に掲載された文に、加筆したものです。

『エスカ&ロジーのアトリエ』岡村ディレクターに聞く、『アトリエ』シリーズの現在と未来_01
ガスト ディレクター
岡村佳人氏
Yoshito Okamura

■前作よりもさらに王道へ 滅びへ向かう世界の『アトリエ』

――『エスカ&ロジーのアトリエ』がリリースされてから2ヵ月が経ちましたが、いまのお気持ちを教えていただけますか?
岡村佳人氏(以下、岡村) 毎年同じことを言っている気がするのですが、今年も無事に『アトリエ』を発売することができて、ホッとしています。プレイしてくださった皆さんからの反響も、すでに届いていまして、よかったな、と思うところもあれば、改めなければならない、と思うところもあり……。皆さんの率直な感想をいただけたことは、大きいですね。

――本作は、『アーシャのアトリエ~黄昏の大地の錬金術士~』に続く“黄昏”シリーズ第2弾となりますが、本作のコンセプトを改めて教えてください。
岡村 それにはまず、『アーシャのアトリエ』のコンセプトからお話ししたいと思います。『アーシャのアトリエ』の前に展開していた“アーランド”シリーズは、岸田メルさんの描くイラストのお力もあり、皆さんから一定の支持をいただくことができました。アーランドシリーズによって、『アトリエ』を再生することができたと思っているのですが、今度はそこから方向性を変えて、新しいユーザーさんに『アトリエ』を遊んでいただきたいと考えたんです。そこで、より正統派のRPGを目指し、黄昏シリーズを立ち上げました。

――キャラクターデザインが左さんに代わり、イベントがすべてキャラクターの3Dモデルで表現されるようになって、アーランドからイメージが大きく変わりましたね。
岡村 はい。ただ、『アーシャのアトリエ』では、どこまで方向性を変えていいのか悩んだため、中途半端になってしまったところがありました。滅びへ向かう世界の描写も抑え目でしたし。その点を改善し、システムの面でもより遊びやすいものを目指したのが、『エスカ&ロジーのアトリエ』です。新しいユーザーさんに興味を持っていただくため、ふたりの主人公による物語を作り、遊びやすいシステムの構築に力を注ぎました。

『エスカ&ロジーのアトリエ』岡村ディレクターに聞く、『アトリエ』シリーズの現在と未来_03

――『アトリエ』でダブル主人公が採用されるのは久しぶりだったので、発表されたときは驚きました。ふたりの主人公に対する、ユーザーの皆さんからの反応はいかがですか?
岡村 おおむね好意的に受け入れていただいたと思っています。「プレイしてみたら、予想していた性格と、いい意味で違った」というご意見をいただきました。

――発売前は、岡村さんの「ロジーは萌えキャラである」という発言が、物議を醸していましたね(笑)。
岡村 ロジーが萌えキャラというのは、根本的には間違っていないと思っています(笑)。ロジーは、石川界人さんの演技のおかげもあり、万人に受け入れられる、嫌みがないキャラクターになりましたが……これで、ハードル上がっちゃったなあ、とも思ったりもして。

――ハードルと言いますと?
岡村 今後の作品で、男主人公を作る場合、ロジーを超えるキャラクターを作るのは難しいなあと……。それだけ、いいキャラクターになったということですけどね。

――エスカについてはいかがでしょうか?
岡村 エスカも、『アトリエ』の主人公らしい女の子として、皆さんに好きになっていただけたと思います。村川梨衣さんの、エスカになりきった演技もすばらしかったですし。今回は、主人公ふたりに限らず、若手の声優の方を中心にキャスティングさせていただきましたが、どのキャラクターも声優さんの演技がマッチしていたと思います。

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――このエスカとロジーを中心とするストーリーの中で、岡村さんがとくに気に入っているシーンはどこでしょうか?
岡村 ロジーの過去を受けて、エスカとロジーの絆が深まるイベントがお気に入りです。ある理由から、物事に対し消極的になっていたけれど、エスカとの交流によって明るくなりつつあったロジーの背中を押す、最後のできごとですね。あのシーンは、ほろりときてしまいました。ほかに挙げるなら……水涸れ村から人がいなくなってしまうお話が、個人的に好きです。

――えっ、水涸れ村ですか!? エスカとロジーの感動的なシーンとは対照的ですが……。
岡村 黄昏シリーズでは、ああいうお話がやりたかったんです。当初は、プレイをがんばれば、水が涸れずにすむ仕様にしようかと思っていたのですが……本作は新しいユーザーの方も楽しめるようなゲームバランスにしているので、そうすると誰もが水が涸れないようにプレイしてしまうと思ったんですね。それは、本作で表現したかったことと異なるので、思い切って涸らせてしまいました。

――あのイベントを見て、「ああ、この世界は本当に終末に向かっているんだ……」と感じました。
岡村 「この世界が少しずつ滅びに向かっていることを表現したい」という、私の要望が反映されたイベントのひとつですね。ほかには、フラメウとクローネの一連のイベントも気に入っています。黄昏に関するエピソードでありつつ、『アトリエ』らしさもありますので。

■KTGLエンジンが実現した連携がカギの6人制バトル

――本作では、岡村さんの念願だったという6人制バトルが導入されましたが、バトルでとくにこだわった点を教えてください。
岡村 連携を活かして楽しんでもらえるよう、アイテムを中心にしたバトルにしました。前作のバトルは、アイテムを使うよりもスキルを使ったほうが強いバランスになっていましたが、やはり『アトリエ』は爆弾投げてなんぼのゲームだと思いまして(笑)。アイテムを使うと、仲間と連携しやすくなるように調整しました。『アトリエ』に戻れば、アイテムの使用回数が回復する“探索装備”システムを導入したのも、どんどんアイテムを使ってほしいからです。

――使用回数が回復するシステムはうれしかったです。前作では、アイテムを使うのを惜しんで、アーシャには杖で敵を殴らせていたので……。
岡村 それがふつうですよね。どんなRPGでも、貴重な回復アイテムは、最後まで使いたくないじゃないですか。探索装備システムは、『アトリエ』のバトルに新しい風を吹かすことができたと思っていますので、今後のタイトルにも活かしたいです。欲を言えば、難易度を設定できるようにしたかったのですが、それは今後の課題ですね。

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▲使用回数が回復するのがうれしくて、アイテムを使いまくった記者。ロジー専用の最強アイテムである“タウゼントブリッツ”にはとくにお世話になりました。ちなみに、タウゼントブリッツの演出(通常使用時、ダブルドロー時、ダブルドロー ダメージレート200%以上時でそれぞれ違う)は、『ヴィオラートのアトリエ』、『マナケミア』、『トトリのアトリエ』の“アインツェルカンプ”演出のセルフパロディになっています。お気づきでした?

――ただ今回、アイテムが強化されたぶん、「スキルが弱くなった」と嘆く声もあるようですが。
岡村 確かに相対的には弱くなったかもしれませんが、連携を意識しながら戦うと、スキルが有効な場面もありますよ。

――6人制バトルが実現できたのは、コーエーテクモゲームスの開発エンジン“KTGL”を採用したからだと伺いました。エンジンをこれまでと変えたことで、開発にはどのような影響がありましたか?
岡村 すべてのことにいちから対応しなければならないので、デザイナーとプログラマーはかなり苦労していました。KTGLは『無双』シリーズに使われているエンジンですが、このエンジンでRPGが作られたことはなかったので、RPG作りに必要な仕組みを実装しなければいけませんでしたし。ただ、6人制バトルや、快適なロードの速さを実現できたのは、KTGLのおかげです。KTGLを使うメリットは大きいと思っていますので、今後の作品では、さらに活用していきたいですね。

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▲エスカ編とロジー編では作れる最強アイテムが違いますが、“あるやり込み”をすると、2周目で両方使えるように。隠しボスクラスの敵と戦うなら、2周目からのチャレンジをオススメ。
▲エスカ専用の最強アイテムのひとつ、“小悪魔の坩堝”。3回行動が可能になる“瞬間移動”の効果をつけるには、スキルを駆使し、あえて属性値を下げなければいけません。こういうイジワルな調合にチャレンジするのも醍醐味のひとつ。

■ガストと『アトリエ』の今後

――エスカとロジーの物語には、エンディングでひとつの区切りがつきますが、この黄昏の世界が今後どうなってしまうのか、非常に気になるのですが……。
岡村 これまでの『アトリエ』シリーズが、三部作、二部作、三部作、二部作、三部作……という流れだったので、「これで黄昏シリーズは終わりでは?」と思っている方が多いようなのですが、本作で終わらせるつもりはありません。この世界でやりたいことは、まだまだありますので。

――本当ですか! では、次回の『アトリエ』は黄昏シリーズの新作なのでしょうか?
岡村 黄昏シリーズではない『アトリエ』のアイデアも温めているので、いつ発売するかはお答えできませんが、黄昏シリーズでやり残したことがないようにしたいと思っています。正直なところ、本作でもやりたいことを100%やりきれたわけではないんです。ビジュアル面では、前作より黄昏らしさを出すことができましたが、ゲームを進める中で、黄昏を感じられる点が少なかったのかな、と思います。「不作が続いている」と言うわりに、調合で食べ物がいくらでも作れますし、水は汲み放題ですし、リンゴも採り放題ですし。

――確かに、実際にプレイしていて、“世界が滅びつつあるがゆえに困る”ということはありませんでした。
岡村 はい。より正統派の“黄昏の世界での冒険”を期待されていた方には、物足りなかったかもしれません。“未踏遺跡”が絡む展開は、盛り上がるものを用意できたと思うのですが、そこにいたるまでが長かったのも反省点です。つぎの作品では、“その世界を感じられる冒険”に焦点をあてて、物語やシステムを構築したいと思っています。

――未踏遺跡は、ボスに至るまでの道がもっと長くてもいいのでは? と個人的に思いました。
岡村 一般的なRPGであれば、“長いダンジョンを進んだ先にボスがいる”という流れがふつうですが、『アトリエ』の場合、ひたすら長い道を進むのはどうかと思いまして……。カゴもいっぱいになってしまいますし。いろいろ考えた結果、あのような形になりました。

『エスカ&ロジーのアトリエ』岡村ディレクターに聞く、『アトリエ』シリーズの現在と未来_08

――『アトリエ』は毎年1本のペースで発売されていますが、岡村さんの納得がいくまで、長い期間をかけて作るのもひとつの手ではないかと思いますが。
岡村 そのようなご意見もいただくのですが、ガストとしては、1年に1本『アトリエ』を発売するというペースは、いまは崩すべきではないと思っています。毎年出るからこそ、ファンの皆さんに楽しんでいただけていると思いますので。シリーズを重ねるたびにいろいろな試みをしているためか、「開発費がかさんで、これ以上『アトリエ』を作れないんじゃないか?」と気にしてくださる方もいるのですが、心配されているほど開発規模が変わっているわけではないんですよ。毎年「ガストは『アトリエ』を出さないと死んでしまう」と言っているとおり、来年も、何らかの形で『アトリエ』を発売することは間違いありません。

――“いまは崩すべきではない”ということは、いつかは崩す可能性もあるのでしょうか?
岡村 そうですね。ガストがコーエーテクモグループに入って1年半が経ち、ガストがガストらしさを保ちながら大きなタイトルを手掛けるための土台を、ようやく作り始められるようになってきました。いまは若手のスタッフたちを育てているのですが、彼らが『アトリエ』を担えるように、または新しいIP(知的財産)を生み出せるようになれば、ガストの開発スタイルも変わっていくと思います。これからが正念場ですね。短期間でRPGを作る中でスキルを身につけるのはたいへんですが、若いスタッフたちには、その短期間のなかで、できるかぎりで無茶をしてもらいたいんです。

『エスカ&ロジーのアトリエ』岡村ディレクターに聞く、『アトリエ』シリーズの現在と未来_02

――今後、岡村さんが『アトリエ』ではないタイトルを手掛けることもあり得る?
岡村 はい。早く『アトリエ』を任せたいな、と思っています(笑)。これは、『アトリエ』を作るのがイヤということではないです。僕は『ヴィオラートのアトリエ』からシリーズに関わっていて、もう『アトリエ』を10本以上担当しているんですが、同じ人間が作り続けていると、どうしてもゲームの内容が似てきてしまうと思うので。新しいスタッフに、新しいおもしろさを提示してもらいたいですね。

――20周年を迎え、さらに変わろうとしているガストの意気込みを感じます。
岡村 新しいことには毎年チャレンジしていきたいと思っています。とくに今年は20周年ということで、いろいろチャレンジしてみたいとも考えていますので、ご期待ください。

――楽しみにしています。それでは、最後に読者へのメッセージをお願いします。
岡村 『エスカ&ロジーのアトリエ』を遊んでくださった方、ありがとうございます。まだ遊んでいないという方は、ぜひ手に取ってみてください。『アトリエ』に触ったことがない方でも遊びやすいタイトルになっています。パーティーキャラクターやマップを追加するダウンロードコンテンツも配信していますので、長く楽しんでいただけるはずです。そして、遊んでいただいて、「こうしてほしい」という要望がありましたら、ぜひガストまで送ってください。つぎの作品で、皆さんの声にお応えしたいと思います。これからもガストと『アトリエ』シリーズをよろしくお願いします。

週刊ファミ通2013年9月12日号(2013年8月29日発売)には、ファミ通オリジナル衣装のダウンロードコートが付いてくる!

 明日2013年8月29日に発売される週刊ファミ通2013年9月12日号では、特別付録として“ダウンロードコンテンツ福袋”をご用意。この福袋内のダウンロードコードを入力すると、『エスカ&ロジーのアトリエ』エスカの衣装“アップルパイレーツ”と、ロジーの衣装“テイルズバトラー”が手に入る。ファミ通限定のコスチュームなので、お見逃しなく!

『エスカ&ロジーのアトリエ』岡村ディレクターに聞く、『アトリエ』シリーズの現在と未来_12
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