『ジョジョASB』大ヒット(ほぼ確定)御礼、とことん秘伝を公開します!?
2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。8月23日に行われたセッション“キャラクター版権タイトルにおけるゲームデザイン論”をリポートしよう。
講師は、サイバーコネクトツーの代表取締役社長・松山洋氏と、中舎健永氏。“原作版権タイトルへのゲームデザイン視点からのアプローチ”をテーマに、サイバーコネクトツーがいかにして質の高い“キャラクター版権タイトル”を作り上げているのか、その極意が実例を挙げながら語られた。
例に挙がったのは、同社の代表作のひとつで、シリーズ世界累計1200万本を超える大ヒットタイトル『NARUTO-ナルト-ナルティメット』(以下、『ナルティメット』)シリーズ。そして、『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』(以下、『ジョジョASB』)だ。
『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』と言えば、つい先日、発売を前に受注本数が50万本を超えたことが明らかになり、大きな注目を集めている(詳しくは→関連記事:【『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』の受注本数が50万本を突破】)。まさに旬の人たちが登場するとあって、会場は超満員。ふだんから、歯に衣着せぬトークを展開することでおなじみの松山氏だが、この日は『ジョジョASB』が絶好調、さらに講演の聞き手がクリエイター=もの作りを生業とする“仲間たち”とあって、いつも以上の“ここだけトーク”も多かったが、可能な範囲で、詳しくお届けしていく。
なお、『ナルティメット』については松山氏が、『ジョジョASB』については中舎氏が、それぞれ解説を行ってれた。
サイバーコネクトツー代表取締役社長
◆中舎健永氏(写真右)
サイバーコネクトツー リードゲームデザイナー
1各キャラクター要素の選別方法
原作の魅力を最大限に活かしておもしろいゲームを作るためには、原作のキャラクターの、どの要素を、どんな形でゲームに落とし込むかを決める作業が重要になる。
まずは、“各キャラクター要素の選別方法”について、『ナルティメット』、『ジョジョASB』それぞれで採った手法が説明された。
【『ナルティメット』シリーズの場合】
◆step1:“何処まで”やるかを決定
『ナルティメット』シリーズは、テレビアニメ版権をもとに制作されているタイトル。当然ながら、アニメで放映されるストーリーより先に行ってしまうのは御法度だ。どこまで収録オーケーかのルールは版権ごとに異なるが、いずれにしても、まずどこまでの範囲でゲームを作るかを、最初に決定する。
◆step2:“何で表現するか”を決定
原作キャラクターの魅力を、いかにゲームに落とし込むかを決める。『ナルティメット』の場合は、おもに以下の4つにうまく要素を落とし込んでいくことで、キャラクターの魅力を表現。全キャラクターについて詳細なコンセプトシートを作成し、それをもとにゲーム制作を進めていくのだそうだ。
1)コンボ=“アクション性”重視
2)忍術=“ゲーム性”重視
3)奥義=“派手さ”と“トドメ感”重視
4)覚醒=“キャラクター性の強調”重視
◆step3:コンセプトを元に“絵コンテ”作成
step2で確定させた“キャラクターの設計図”をもとに、モーションチームのスタッフが、それぞれが担当するパート(コンボ、忍術、奥義、覚醒)の絵コンテ、仕様書を起こす。
◆step4:“トリプル”ディレクション
“ゲームデザイナー”、“アートディレクター”、“バトルディレクター”の3カテゴリの責任者が、お互いに話し合って統一を採り、完成させていく。たとえばゲームデザイナーはキャラクターの設定やオリジナル要素の選別にこだわり、アートディレクターは演出面としての善し悪しにこだわり、バトルディレクターは遊びのバランスやアクションのイメージにこだわり……と、それぞれの視点からのこだわりを持つため、必ずもめることになるが、徹底的にもめた末に結論を出す、というのがサイバーコネクトツー流、とのこと。
◆step5:“監修”を受ける
各種資料を作成し、集英社、ぴえろの監修を受ける。ここでは原作に忠実であるか、といったチェックだけではなく、“漫画は今後こういうストーリー展開にする予定なので、この表現はマズイ”といった理由でのNGもあるそうだ。基本的に、指摘された部分はすべて修正を行う。この工程を、初代『ナルティメット』から12年にわたって徹底してきたことによる、版権もととの信頼関係も、サイバーコネクトツーの強みとなっているわけだ。
【『ジョジョASB』の場合】
◆1 キャラコンセプトを早期決め込み
まず、キャラクターのコンセプトを確定させる。その作業は、開発開始からの1ヵ月で完了させる。さらにそこから2ヵ月で、技の抽出なども含めて、おおよその仕様をFIXさせたそうだ。
◆2 挙動を原作コマ単位でピックアップ
各キャラクターのモーションを作成するために、原作の漫画のコマからの抜き出し作業を行う。例として一部のジョナサン・ジョースターの場合、基本挙動ひとつに対して約7~15コマ、モーション全体では240~250コマほどだったとのこと。また、“どこかで使用するかもしれないコマ”も、“その他”としてストックしたこともあり、ゲーム全体では、おおよそ10000コマをピックアップしたそうだ。
◆3 キャラコンセプトに合わせて挙動制作
1、2をもとに精査し、採用した原作コマをもとに、各キャラクターのモーションを制作。ここは極めて原作コマに忠実に進められており、一部ジョナサンを例に挙げると、約9割の攻撃挙動が原作コマから再現されたものになっているとのこと。
2原作の魅力を再現する手法
続いては、原作の魅力を再現するためのゲームデザインについて、より踏み込んだ内容が語られた。
【『ナルティメット』の場合】
デモシーンのみならず、バトル中においても、原作の魅力が十二分に再現されているのが『ナルティメット』の魅力だ。バトルにおいては、“遊び=プレイアブル”と“演出=カットシーン”で役割分担をする、というのが原則。短く表現できるものなら、極力プレイアブルで表現。一方、シーンとして表現する必要がある規模のものは、プレイアブルにならないかわりに、再現カットをしっかり描き、とことんド派手に演出する。
なおゲームとしてのテンポを損ねないよう、シーンとして表現する“奥義”については、当初は“6秒まで”というルールを決めていたそうだが、「最近はだんだん原作が派手になっているおかげで、尺もちょっとずつ伸びていますね」(松山氏)とのこと。大本に“原作の魅力を表現する”という命題がある以上、これも必然ということだろう。
【『ジョジョASB』の場合】
原作の魅力を表現するため、本作で重視したのは【1】名ポーズ、【2】名擬音、【3】名台詞だ。それも、登場時や勝利時の演出は当然として、プレイ中にニヤリとできる瞬間に、“ジョジョ立ち”などを入れ込んでいこう、と考えたというのが、このゲームの大きな特徴。具体的には、以下のようなものだ。
・スタイリッシュムーブ:相手の攻撃をジャストタイミングでガードすると発生
・挑発:相手がダウン中に任意で発動
これらは、対戦ゲームの要素として有効に機能しつつ、同時に原作再現としても機能するように組み込まれた、本作ならではの趣向だ。そのほかにも、キャラクターの通常の立ちポーズや、技中の待機ポーズなどが、原作コマやコミック表紙イラストなどをもとになっている、といった工夫も随所に盛り込まれている。
さらに、“名シーンの再現”については、“シチュエーションフィニッシュ”というシステムで対応している。これは特定条件を満たして相手をKOすると、原作を再現した特殊演出が発生するというもの。“特定条件にチャレンジする”というゲーム性を高める要素であるとともに、“条件達成=名シーン再現”となることから、プレイヤーの“してやったり感”を高める効果もあるというわけだ。
一方で“シチュエーションフィニッシュ”としてシステム化しにくい名シーンについても、専用で対応し、再現されているものも多いそうだ。たとえば“シーザーが最終ラウンドで吹き飛ばない攻撃で死んだKOされたとき、鮮血のシャボンを飛ばす原作での死亡シーンを再現”といったもの。「あらゆる要素で“原作再現”に努める」という、本作の開発コンセプトの徹底ぶりが伺える。
タイトルごとに固有の問題も
開発にあたって、『ナルティメット』、『ジョジョASB』それぞれに固有の問題について。それは当然、挙げればキリがないほどではあるだろうが、ここではその中からピックアップして、問題点と、その解決方法が説明された。
【『ナルティメット』の場合】
ワールドワイドで展開している『ナルティメット』において、レーティングは大きな問題だ。『ナルト-NARUTO』という作品は、日本では少年誌に連載され、ゴールデンタイムにアニメが放映されるなど、低年齢層にも大きな支持を受けている。そのため、レーティングに関わる表現には、極めて慎重になる必要があるわけだ。
一方、欧米ではむしろ大人を中心に楽しまれているという事情があり、ある程度踏み込んだ表現もしていかないと、なかなか満足してもらいにくいのだそうだ。
そこで、たとえば胸に刃物が突き刺さるシーンでは、日本版はカット割りを工夫して刺さっている部分を見えないようにし、欧米版は刺さっている部分や吐血表現なども含めて隠さず描写する、といったように、表現を変えているという。
【『ジョジョASB』の場合】
まず問題になったのが、“ハンパない物量”。前述の通り、原作再現のための趣向に加えて、各キャラクターに“スタンド”という存在があることからも、通常の対戦格闘ゲームと比べて3~3.5倍以上のモーション制作が必要になる。さらに、それを約1年半で制作するというスケジュール。それをどう解決したのか?
答えは、“開発チームがフル稼動する”というシンプルで壮絶なもの。リアルタイムで作業優先度を管理し、できあがったものをどんどん実装。さらにチェック作業も最高で1日3回行うなど、フル稼動できる体制を整えたうえで、ひたすら走り続けたのだという。
ただし、熱心なファンに受け入れてもらうため(誰よりも熱心なファンである開発チーム自身が満足できるものにするため?)に、とことん作り込んでいった結果、開発期間が土壇場で2ヵ月延期。工数にして約70人月もオーバーすることになってしまったそうで、それについては「開発スタイルとして、問題があるな、と考えております。バンダイナムコゲームス様、申し訳ありませんでした」(中舎氏)と恐縮しきりだった。
また、まだ完結していない第8部・定助の制作については、登場した技を即作成するなど、諦めずに追いかけ続けて、なんと『ウルトラジャンプ』2013年5月号までの挙動を実装してあるそうだ。
以上のように、特殊で、困難の多い開発となった『ジョジョASB』。中舎氏は、それを乗り切れたのは、「真の“覚悟”はここからだッ! “ASBチーム”! てめーらも腹をくくれッ!」と、まさに“覚悟”に尽きる、と振り返った。
「その作品に世界一の愛を!」
まとめとして松山氏は、タイトルによって性質も、求められるものも異なるため、作り方も当然変わるとしながらも、「お客様を観察し、何を求められているのか。イベントにも足を運び、版元、原作者様とも話し合ったうえで仕様を決めます」と、根本の思想は同じだと語る。そして、いちばん大事なことは、原作の魅力を活かしきるゲームデザインを、「世界でいちばん、原作者以上に考え抜くこと」(松山氏)だと言う。
そして、最後に松山氏は、「その作品に世界一の愛を」と強調する。それはオリジナルタイトルの開発時でも同様ではあるが、「キャラクター版権があるタイトルは、ゲームを開発する前から、すでにファンの方がいらっしゃるということを自覚する必要があります」(松山氏)と強く語りかけ、講演を締めくくった。
『ナルティメット』シリーズで、“キャラクター版権ものタイトル”の常識を変え、“スゴいキャラゲー”が成立しうることを世に示したサイバーコネクトツー。それを可能にした手法は極めてロジカルなものだったが、やはりその原動力、思想の根本にあるのは、“作品への世界一の愛”だ。判断の決め手になるものは、つねに“作品への愛”であり、そこが揺らぐことがないからこそ、困難な開発を貫徹し、多くのファンを納得させるものを作ることができるのだろう。興味を持った人は、もう間もなく、2013年8月29日に発売される最新作『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』に触れてみてはいかがだろうか。