フランスのゲームファンは“日本文化”を求める!

 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。8月21日に開催されたセッション“日本のゲームでもっと遊びたい!~ヨーロッパから日本のゲームクリエイターへのエール~※なんと日本語セッション!”のリポートをお届けする。

フランス人がいちばん好きなゲームは、なんとRPG! “日本のゲームでもっと遊びたい!”リポート【CEDEC 2013】_01
▲左から、アン・フェレロ氏、フロラン・ゴルジュ氏、遠藤雅伸氏。遠藤氏はCEDEC 2013の運営委員会 プログラムWG ゲームデザイン(主担当)でもある。

 このセッションは“「日本のゲームが海外に通用しない」なんてウソだ!~大人気の日本コンテンツの実態~”(⇒【コチラ】)の後編にあたる内容。そのため登壇者も、フロラン・ゴルジュ氏とアン・フェレロ氏が続投。フランスのゲームファンに回答してもらったアンケートをもとに、フランス人が日本製のゲームをどう思っているのか検証していく、という内容だ。両登壇者のプロフィールおよびアンケートの概要は、前セッションの記事を参照してほしい。

 なお、『ゼビウス』の作者として有名な、現モバイル&ゲームスタジオ 取締役の遠藤雅伸氏がこの後編よりゲストとして登場。フロラン氏、アン氏の両名に交わり、アンケート回答について意見を述べた。

 遠藤氏は、まず「フランス人は日本のゲームに興味を持っていると聞くが、その実態について解説してほしい」と両名にセッションのオファーをしたところ、フランスのゲームサイトでアンケートを採ってくれたという。そのアンケート結果はフランス人の両名も驚くようなものとなり、「この結果をできるだけ日本の開発者へ紹介し、もっと“日本らしさ”を出してもいい、自信を持って開発してほしい、というエールにしたい」(遠藤氏)という趣旨でこのセッションを開いたのだという。では、各設問ごとのアンケート結果をくわしく見ていこう。

――いちばん好きなゲームジャンルは?

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 フランス人が好きなゲームジャンルの1位は、なんとRPG。2位はアクションで、この2ジャンルだけで全体の約半数を占めるという驚きの結果が出た。また古くから根付いた人気ではなく、『ファイナルファンタジーVII』以降によるものだという。なぜかというと理由は簡単、それ以前のRPGはフランス語版が存在しなかったからだ。

 ローカライズされなかった理由は、「“文章が多いから、きっと流行らないだろいう”という偏見があった」とフロラン氏は分析する。だが実際に『ファイナルファンタジーVII』が発売されると爆発的に売れて人気はうなぎ登り、RPGは一番人気のジャンルになるまで成長したという。

 この事実から、フロラン氏は「“流行らないかもしれないけれど、やってみよう!”と積極的にフランス語へローカライズすれば、RPGと同じように成長する可能性がある。ゲームがおもしろければ、どこでも通用するんですよ」と可能性を語った。

 アン氏は女性ユーザーの人気にも言及し、「『ファイナルファンタジー』のキャラクターやコスチュームが好きな女性は多く、ジャパンエキスポでも、コスプレをしている女性はたくさんいる」とコメント。またフランスではコスプレの衣装はほとんど売っておらず、「基本的には手作り」だそうだ。そのため、裁縫が苦手な人はお母さんに手伝ってもらい、お母さんもコスプレにハマってしまうこともあるんだとか。「45~50歳ぐらいの“カードキャプターさくら”がいたりします」と秘話を披露し、会場の笑いを誘っていた。

――いちばん好きな日本製ゲームソフト

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 この質問では、圧倒的な票数で『ファイナルファンタジーVII』が1位を獲得。“RPGが大好き”という、先の回答を裏付ける結果となった。アン氏が中学生のころに『ファイナルファンタジーVII』が出たそうで、「すごく遊びたくて、親にプレイステーションをねだった」と思い出話も語ってくれた。同様にランクインしている4位の『テイルズ オブ シンフォニア』、30位の『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』は、いずれも初めてフランス語で登場したシリーズ作品なのだという。2位の『ファイナルファンタジーX』は、ラブストーリーのために女性人気が非常に高いことにも言及した。また『MOTHER』シリーズがランクインしていないことについて、アン氏は「『MOTHER』はフランスで発売されていないんですよ!」と、ローカライズを望むコメントを行った。

 このランキングを注意深く見ると、リアルなゲームがほとんど存在せず、ファンタジーな世界観を持つ作品に人気が集中していることがわかる。たとえば3位の『大神』は、「日本人にしかできないビジュアルセンス。ストーリーには日本の神さまなど難しい話が出てくるが、それ自体が楽しい。外国人には足を踏み入れにくい文化が題材でも、ゲーム自体が楽しければ人気が出る、というということを示している」と、フロラン氏はフランス人から見た『大神』の魅力を解説してくれた。

 リアルな世界を描いた作品は、6位に『シェンムー』がランクインしているが、じつはフランス人にとっては日本文化自体がファンタジーに感じるそうだ。「日本を舞台としたものを見るとエキゾチックな気分になり、観光している気分になる」とフロラン氏。ちなみに、フロラン氏は何年か前からフランス人のゲーマーを連れて日本を観光するツアーを開催しており、日本の下町を歩くと『シェンムー』みたいだ!と感動されるという。

 日本のリアルな世界を舞台にした作品つながりということで、『龍が如く』にも言及。アン氏は日本を旅するような感覚で遊んでいたという。遠藤氏は「『龍が如く』は、“日本人が向こうに合わせてもダメ”と、日本人向けに侍魂で造りあげたゲーム。結果的には、そういう作品のほうがフランス人に合っていたね」と分析した。

――いちばん好きな日本製ゲームシリーズは?

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 こちらも1位は『ファイナルファンタジー』シリーズで、2位の『ゼルダの伝説』シリーズが追いかける結果となった。注目は19位の『東方Project』シリーズ。フランスでは発売されていない日本の同人作品がランクインしていることは、かなり驚きの結果だ。30位の『スーパーロボット大戦』シリーズは、「ファンがローカライズして欲しいから、アンケートに書いたのでは?」とアン氏が予想していた。43位の『初音ミク -Project DIVA-』については、「“初音ミク”はパリ郊外の大きな映画館で放映されており、2~300人が映画館でミクを見るために遠い郊外へ行く」ぐらいは浸透しているようだ。

――いちばん好きな日本のゲームメーカーは?

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 この質問には、少々おもしろい結果が表れた。というのも、「好きな“ゲームメーカー”は?」という質問であるにも関わらず、クリエイターを回答したファンが非常に多かったからだ。その原因は、「メーカーとは関係なく、作家性の強いものを求めている」とフロラン氏は分析。海外でインディーズゲームが流行しているのも、これが理由の一環にあるという。「たとえばフランスでは“須田剛一さんのゲームが大好き!”という熱狂的なファンがいる。グラスホッパー・マニファクチュアというメーカーではなく、須田さんという名前が挙がるのが大切なこと。ゲームクリエイターが伝えたいことを体感したい、クリエイターにのせられたい、という思いが強い」と、作家性の重要さをアピールした。

 さて肝心のランキング結果だが、1位に任天堂、2位にスクウェア・エニックスという結果となった。フロラン氏は「6位に“スクウェア”が入っているのに驚いた。よく見てみると、スクウェア・エニックスになる前のスクウェアが好き、ということだった」と、昔の日本製ゲームファンが多いことに言及した。

――現在の日本製ゲームの評価

 ここでは、いくつかの回答がまとめて紹介された。「日本製のゲームを購入する数は減っている?」という質問には、“減った”という回答が48%。逆に“増えた”という回答は29%にとどまり、全体的には減少傾向にある。この結果を、フロラン氏は「以前、我々はゲーム=日本という印象だったが、最近では海外ゲームのクオリティが上がったため、結果的に減っている」と分析。

 日本製ゲームの評価については、“8/16ビット時代は西洋諸国制よりも日本製ゲームのほうが優れている”と感じたユーザーは81.5%にものぼる。だがプレイステーション3/Xbox 360/Wiiの現行世代となると一気に逆転、日本製のゲーが優れていると感じている人は25.8%まで減少した。ただし、“日本製ゲームはグラフィック、アニメーションなどで技術的な後れをとっている”と感じた人はわずか27.6%にとどまっている。つまり、多くのフランス人ゲーマーは、昨今の日本製ゲームを“技術面以外で劣っている”と感じているのだ。

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――日本製ゲームのここがすばらしい!

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 アン氏は回答コメントの“日本製のゲームの魅力はクレイジーさである”に着目。「たとえば『塊魂』や『TOKYO JUNGLE』、『NO MORE HEROES』、『メイド イン ワリオ』といったクレイジーなゲームは、日本人にしか作れない」と、フランス人が“クレイジーさ”を感じる作品を具体的にピックアップ。フランスのゲームファンは、このような新鮮な体験を求めているようだ。

 遠藤氏は“難易度がうまく調整されている”という回答に注目。「こういう声があることには、日本のゲームデザイナーは胸をはっていいんじゃないかな」と開発者へエールを送った。

 “声優の質が高い”という回答には、「ヨーロッパやアメリカでは、劇団や映画にあまり出演していない人が、食べていくために声優になる」と現状に言及するアン氏。結果的に、声優を目指す人が多い日本のほうが、声優のクオリティが上がっているようだ。遠藤氏は声優の演技にふれ、「日本の声優さんは派手に演技をしたり、音響監督も“そこは全力でいけよ!”なんて指示を出す。でも、それぐらいで丁度いい仕上がりになったりする」とコメント。このやりすぎなぐらいの演技は、“クレイジーさ”につながると、アン氏は日本語ボイスの魅力を語った。

――日本製ゲームの欠点は?

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 この質問の回答に先立って、フロラン氏は「今回は日本製ゲームの欠点という聞きかたをしたが、アメリカ製やヨーロッパ製ゲームの欠点を聞いても、似たような回答が多くなるだろう」とフォローした。

 “フォトリアリズムタイプのゲームは、グラフィック面で洋ゲーに劣っている”というコメントもあった。ただし、ここでいう“フォトリアリズムタイプ”は、単に映像がリアルなゲームというわけではなく、「『ファイナルファンタジー』は実際に存在しない世界のため、フォトリアリズムとは異なると思う」とフロラン氏は補足。フォトリアリズムタイプの例として『アサシン クリード』を取り上げ、「昔の世界を完全再現していて、違和感がないように研究されており、フォトリアリズムとしては完璧」とも評していた。

 “海外市場を意識しすぎたせいで、最近の日本製ゲームは個性が失われている”というコメントには、フロラン氏は「我々が求めているのは、日本人がメッセージを伝えたいと考えているゲーム。結果的にアメリカ製のゲームに似たものを作るのであれば、日本で作る意味はなくなってしまう」と、アメリカの後追いはやめてほしいと意思表示した。

 話題はインディーズゲーム/同人ゲームにも。遠藤氏は「日本では同人ゲームが流行しているが、外へ行こうという意識は低い。そこがインディーズゲームと同人ゲームの違い」と分析。また先の質問で『東方Project』シリーズが挙がったことから、フランスには少数ながら同人ゲームのファンも存在している。だが入手機会が限られ、情報も少ない点について残念に思っているようだ。フロラン氏は「Steamなどのシステムで、インディーズゲームのマーケットは大きくなった。だが日本製の同人ゲームはほとんど売られていない。海外でも遊びたいと思っている人はいるんです」と、同人ゲームの海外進出にも期待を寄せていた。

――日本人クリエイターに期待されるキーワード

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 ここまでのまとめとして、“夢の世界”、“幻想的な世界”、“クレイジーな発想”などのキーワードが並んだ。遠藤氏は「日本のクリエイターで名の通っている人は大抵クレイジーで、自分のセンスを信じて突っ込んでいく状態こそがクレイジーという気もする」と、フランス人が抱く“クレイジーさ”を解釈していた。

――今後を乗り切るであろうハード

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 “みんなが期待しているハード/プラットフォーム”というアンケートでは、プレイステーション4が圧倒的に期待される結果となった。ただし、「このアンケートを採った時期はE3直後で、フランス人ゲーマーのあいだでは“Xbox Oneは絶対に買わない!”という意見が多かった時期」とフロラン氏がフォロー。E3後、Xbox Oneはリージョンロックの撤回をはじめ、さまざまなコンセプトを変更したため、「現在は少しずつシェアを取り戻していると思う」とコメントした。

 日本と大きく異なる結果が出たのは、携帯機の期待が軒並み低いこと。ニンテンドー3DS、PlayStation Vitaの2機種合わせて11%にとどまった。この結果は、日本とフランスにおける習慣の違いが表れているという。フランスはスリが多く、また移動時間も日本ほど長くはないため、外でゲームを遊ぶスタイルは多くないそうだ。ただし不人気かというとそうでもなく、「ニンテンドー3DSは売れているんですよ」とフロラン氏は語る。

――日本のゲームの将来性は?

 こちらの質問は、嬉しいことに58%もの人が“明るい”と回答した。ネットの掲示板では辛辣なコメントが目立つが、「実際はそこまで悲観的ではない」とアン氏は語る。また遠藤氏は「これはありがたい結果」と感謝を述べた。だが会場で同様の質問を行ったところ、“将来は明るい”と挙手した人はわずか数人。当の日本人は、大きく悲観していることを裏付ける結果が出た。この状況に、フロラン氏は「みんな期待しているので落ち込まないでくださいよ!」とフォローしていた。

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 最後に、フランスのゲームファンからの応援メッセージが紹介された。“『鬼武者』や『零』、『大神』にはエキゾチックなロマンを感じる”、“想像力にリミットをかけず、いい意味で変わったゲームを”、“自分がユーザーに伝えたいものを作ってほしい”などなど、熱いメッセージが並ぶ。

 これらのメッセージを受け、遠藤氏は「自分がおもしろいと思うものを信じて、新しいものを作っていこうぜ、ということを伝えたい。ほかの国々も応援してくれている」と、日本の開発者へエールを送ってセッションを締めくくった。

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 本セッションを通じて判明したのは、フランスのゲームファンは日本人がおもしろいと信じて作った作品を求めており、そんな作品が愛されているということ。また当の日本人以上に将来を期待してくれていることが印象的であった。このエールを日本の開発者が受け取り、さらにおもしろいゲームが登場することを願って、リポートを締めくくりたい。

(取材・文:ライター/喫茶板東)