キーワードは“スマートフォン、ソーシャル、グローバル”
2013年8月21日~23日、日本最大のゲーム関係者向けカンファレンス“CEDEC2013”が、パシフィコ横浜で開催された。ここでは、2日目に行われた“ゲーム先進国と新興国の最新事情とクリエイターにとってのビジネスチャンス”というセッションをリポートする。 講師を務めたのは、立命館大学 ゲーム研究センター 客員研究員/オフィス矢田 代表 矢田真理氏と、立命館大学 映像学部 教授 中村彰憲氏だ。
このセッションは、世界のゲーム産業に詳しい両氏が、各地の最新事情を紹介し、日本のゲームクリエイターにとって勝機がどこにあるのかを解説しようというもの。近年、国際競争力を失ったと言われる日本のコンテンツだが、両氏とも、モバイルソーシャルゲーム分野においては優位に立つことができると見ている。まずは矢田氏が登壇し“ゲーム先進国の最新事情とクリエイターにとってのビジネスチャンス――現在のゲーム業界のキーワードは、「スマートフォン、ソーシャル、新興国を含めたグローバル化」――”というテーマで講演を行った。
矢田氏は、さまざまな統計資料を用いて、ゲーム先進国である日本や北米で家庭用ゲーム市場が縮小傾向にあること、日本で2012年度にソーシャルゲーム市場が家庭用ゲーム市場の規模を上回ったこと、新興国も含めた世界各国でスマートフォンとソーシャルメディアの利用率が急速に高まっていることなどを説明。現在の世界的なゲーム市場のキーワードは“スマートフォン、ソーシャル、グローバル”であるとしたうえで、「私が主張したいのは、日本のモバイルソーシャルゲームメーカーの国際競争優位性です」(矢田氏)と切り出した。
フィーチャーフォンでの開発ノウハウ蓄積が日本の強み
モバイルソーシャルゲーム分野で日本が優位である根拠として、矢田氏は、海外でもヒットした『進撃のバハムート』『パズル&ドラゴンズ』といったコンテンツの存在や、PCベースのソーシャルゲームで成功をおさめたジンガの凋落などを挙げた。
また、自ら赴いた韓国での現地調査も参考に、世界的なゲーム市場の方向性を分析。まだしばらくは、韓国ではPCオンラインゲーム、日本や北米では家庭用ゲームが主流であり続けるものの、モバイルゲームの成長ポテンシャリティは高く、将来的にはゲーム産業の成長ドライバーとなる可能性が高いとした。しかし、成長の課題として、モバイルゲームの開発に慣れたクリエイターの不足を指摘。ここに、日本勢のビジネスチャンスがあるという。
たとえば、MMORPGが人気の韓国では、クリエイターはカジュアルゲームをあまり作りたがらないのだとか。志向のほか、開発手順やプログラミングも異なるとあって、ノウハウも不足していると矢田氏はみる。ところが、日本の場合、もともとフィーチャーフォン向けにモバイルソーシャルゲームを制作してきた経緯があり、クリエイターにはすでに開発ノウハウが蓄積されている。つまり、モバイルゲーム市場の成長=今後のゲーム市場の拡大を牽引していくのは、日本のクリエイターかもしれないというわけだ。
モバイルゲームが家庭用ゲーム市場をも活性化?
さらに、矢田氏の持論は飛躍する。モバイルソーシャルゲームで成功し、資金面でも開発スキル面でも充実したメーカーが、家庭用ゲームに参入することによって、市場全体が活性化するというのだ。すでに、モバイルソーシャルゲームの『アングリーバード』が複数の家庭用ゲーム機に移植されてヒットした事例もある。
また、家庭用ゲーム側の動きとしては、任天堂とソニーが、簡単なツールでのソフト開発を可能にすることで、新規クリエイター参入の敷居を下げる施策を取りはじめている。こうした相互の働きかけによって両産業が活性化し、家庭用ゲームとモバイルソーシャルゲームのWin-Win関係が築きあげられるというのが、矢田氏の考えだ。
新興国でもっとも注目すべきは中国
続いて、中村氏からは“ゲーム新興国の最新事情”をテーマに、新興市場の可能性や、日本のクリエイターが進出するうえでのヒントについて、レクチャーが行われた。
この日、中村氏がもっとも時間を割いて説明したのは、中国のゲーム市場について。まずは、数年前まで1000万人程度だったモバイルユーザーが約4億人にまで急伸しているこ
とや、オンラインゲーム産業の市場規模が日本を超えてアジア最大 (※アーケード市場を除いた場合)となったことなど、その成長性をグラフで解説した。
続いて、スマートフォン向けコンテンツに対する事前審査がまだないことや、ガチャ系モデルがまだ禁止されていないことなどを挙げて「今年がまさに中国参入の絶好のチャンス」(中村氏)と力説。日本の『拡散性ミリオンアーサー』や欧米の『World of Warcraft』などの成功例を挙げ、行政と関係の深いメジャーな現地パブリッシャーと組むことなどをアドバイスした。
また、ロシア、ブラジル、インドについても、急速にモバイルゲーム市場、あるいはスマートフォンでのゲームユーザー数が拡大していることを、数値で説明。各国の人気アプリランキングから、大手ばかりでなく海外の新規参入メーカーが入り込む余地があることを分析した。
そして再び矢田氏も登壇し、ASEAN諸国攻略のポイントを次のようにまとめた。
・ひとり当たりGDPが少ない国でも、首都、人口密集地、富裕層の多い地域を狙う
・人口ピラミッドがきれいにピラミッド状になっており、平均年齢の若い国を狙う
成功のためには障壁の克服とスピード感が大事
最後に矢田氏は、インフラが未整備だったり、娯楽より生活必需品のほうが先であったりという、新興国のネガティブファクターに言及。障壁を克服してビジネスチャンスを得てほしいと、クリエイターにエールを送った。
また、中村氏は、チャンスを活かすためにはスピードが重要であるとし、海外版を同時に立ち上げることによってグローバル展開のスピード化をはかるよう提案して、セッションを締めくくった。
(取材・文:櫛田理子)