ゲームのみならず、幅広いジャンルからノミネート

 
 2013年8月22日、パシフィコ横浜で、ゲーム開発者向けの技術カンファレンス“CEDEC 2013”の2日目が開催。その中で行われた、“CEDEC AWARDS 2013”の模様をお届けする。

 “CEDEC AWARDS”は、コンピュータエンターテインメント開発の進歩へ顕著な功績のあった技術にフォーカスし、技術面から開発者の功績を称え表彰することで、開発技術の普及・啓蒙と産業の発展を目指すというもの。今年も、昨年度CEDECにおける聴講者アンケート結果上位者のメンバーで構成される「CEDEC AWARDSノミネーション委員会」を組織、CEDEC運営委員会とともに協議しノミネーションリスト(優秀賞)を決定し、ノミネーションリストからCEDEC受講者が投票して、栄えある最優秀賞受賞者が決定される。

“CEDEC AWARDS 2013” 5部門の最優秀賞が発表 『Dの食卓』の故・飯野氏や、久夛良木氏らが受賞【CEDEC 2013】_01

 開場入場時と表彰の一部にて、ゲーム音楽を主体に音楽活動を行う日本発のプロオーケストラ、日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の弦楽四重奏によるゲーム音楽の演奏が行われ、式典に華を添えていた。
※日本BGMフィルハーモニー管弦楽団 公式サイトはこちら

演奏予定楽曲:
アクトレイザー』/「小組曲アクトレイザー"Act2"」、「Ending」
MOTHER』/「Eight Melodies」

 
【表彰部門(全7部門)】
(1) エンジニアリング部門
(2) ビジュアル・アーツ部門
(3) ゲームデザイン部門
(4) サウンド部門
(5) ネットワーク部門
(6) 特別賞(ゲーム開発への貢献全般)
(7) 著述賞

 表彰部門は全部で7部門。まず、先んじて発表されていた著述賞、特別賞の表彰が行われ、受賞者がそれぞれ喜びのコメントを述べた。

■CEDEC AWARDS 2013 著述賞

「ゲームを動かす技術と発想」(ソフトバンククリエイティブ・刊)著者
株式会社バンダイナムコスタジオ 堂前 嘉樹氏
<授賞理由>
本書は、プログラマではない人や、プログラマを目指す人に対して、基礎となるコンピュータサイエンス、数学、物理をわかりやすく解説していること。

<コメント>
 この本を書く当初から、ある一定の評価を得られるようにと思って書いていましたので、著述賞というすばらしい賞を実際にいただくことができ、、本当にうれしく思います。この本は、ゲームの処理を噛み砕いて説明するという内容になっています。私自身、この本を人に紹介するときに、プログラマー以外の方に向けて書いている、ということをよく言っています。実際に読んでいただいた方はわかると思いますが、ソースコードは一切載せていません。何故、プログラマー以外に向けて書いたかといいますと、私自身、ゲームプログラマーとして15、6年従事しているのですが、仕事自体は誇りを持ってやっていますし、プログラミング自体楽しくやれています。しかし、プログラマー以外の人からプログラマーやプログラミングを見たときに、とっつきにくいのではないかということを強く感じていました。プログラムはそんなに難しいものではなくて、すごく簡単なことの積み重ねで動いていますし、私自身、とても楽しいものだと思っていますので、それをプログラマー以外の方にも伝えていければなと思い、この本を書きました。本業の合間で書いており、けっこう大変な時期もありましたが、実際に出版してみて、好意的な感想や、お叱りの感想などたくさんいただき、また、この本を元に大学で講義させていただいたりと、広がりを持ることができたので、とてもよかったと思います。最後に御礼として、この本に直接関わってくださったソフトバンククリエイティブさん、本を実際に読んでくださった方、執筆を手伝ってくださった方に感謝を伝えたいと思います。また、この本を書くにあたって、自分のプログラマーとしての経験が活きて書けているところも多分にありますので、これまでのゲームプログラマー人生で関わったすべての皆様に対して、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

“CEDEC AWARDS 2013” 5部門の最優秀賞が発表 『Dの食卓』の故・飯野氏や、久夛良木氏らが受賞【CEDEC 2013】_02
“CEDEC AWARDS 2013” 5部門の最優秀賞が発表 『Dの食卓』の故・飯野氏や、久夛良木氏らが受賞【CEDEC 2013】_03

 
■CEDEC AWARDS 2013 著述賞

「ゲームの作り方 Unity で覚える遊びのアルゴリズム」(ソフトバンククリエイティブ・刊)著者
株式会社バンダイナムコスタジオ 加藤 政樹氏
<授賞理由>
本書は、ゲームを作る観点からのゲームアルゴリズムを解説するもので、さまざまなゲームジャンルの仕組を多くのTIPSを交えながら学ぶことができること。

<コメント>
 暑い日が続いて、ちょっとグッタリしていたのですが、このような名誉ある賞をいただいて、夏バテもだいぶ回復してきました(笑)。ありがとうございます。3月11日の大震災以来、日本の“ものづくり”がピンチだという話があったり、ゲーム業界もここ最近、厳しい状況が続いています。しかし、“ものづくり”の力そのものが衰えたわけではないと思っています。そういうものを作る楽しさや、すばらしさを、世の中に広めたい。そのために、ゲーム業界の人間として何ができるかと考え、こういう本を書いてみました。こちらの本は業務外の活動としてやっていたんですが、上司や営業の方も、「どんどんやりなさい」、「『ハリー・ポッター』ぐらい売れてこい」と、みんな応援してくださりました。そういう理解のあるすばらしい職場でよかったなと思います。

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■CEDEC AWARDS 2013 特別賞

久夛良木 健氏
<授賞理由>
家庭用ゲーム機「プレイステーション」の発想者・開発者である久夛良木氏は、「プレイステーション」を世界中に普及させ、世界的なコンピュータエンターテインメント市場の創出と発展に寄与しました。後継機では、単なるゲーム機の機能を超え、半導体先端技術とデジタル情報処理技術の融合による情報技術の牽引役として、コンテンツ流通や関連分野にまで革新をもたらしています。

<コメント>
 最先端のテクノロジーとエンターテインメントの融合、コンピュータエンターテインメントという新しい市場の創造という大きな夢を託したプレイステーション。もう発売から19年近くが経とうとしています。私にとっての幸せはなんだろうかというと、ここにいらっしゃるゲームクリエイターの方々、デベロッパーのみなさん、ソフトメーカーのみなさん、もちろんゲームを楽しんで遊んでくださるユーザーのみなさんと、こうやって知り合うことができたということです。そして、みなさんがいっしょになって、コンピュータエンターテインメントという新しいエンターテインメントを作ろうという同じ想いを我々と共有していただいて、積極果敢に、すばらしいソフトを世の中に送り出してくれました。当初我々が夢に描いていた以上の、はるかに巨大なエンターテインメント産業が生まれ、そして世界中の人々がそれを遊ぶことができるというすばらしい年月を、皆様と過ごさせていただくことができました。プレイステーションの生みの親として、そしてコンピュータエンターテインメントをみなさんといっしょに育ててきたひとりとして、私から皆様に、心から御礼を申し上げます。ぜひこの新しい流れを、みなさんの力で、さらに大きく、より多くの人々へ。また新しい夢として、皆様のすばらしいアイデアをぜひ新しいエンターテインメントとして作っていただいて、届けていただきたいと思います。

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■CEDEC AWARDS 2013 最優秀賞

【エンジニアリング部門】
Oculus Rift Development Kit – 圧倒的で革新的なVR環境の提供
「Oculus Rift」開発チーム (Oculus VR, Inc.)
<授賞理由>
 ゲームに特化したHMD。本格的な展開はこれからだが、デモレベルのソフトウェアにおいても圧倒的で過去にない没入感を提供している。広い視野角をもった本格的なVRデバイスを普及可能な価格で提供し、オープンなSDKとともにゲームに新しい変革をもたらす高い可能性を評価。

※開発チームの方は欠席だったため、コメントはありません。

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【ビジュアル・アーツ部門】
3Dの空間を生かした大胆な演出と、2Dアニメーションのキャラクター表現の融合
「アニメ ジョジョの奇妙な冒険」オープニング制作チーム(有限会社神風動画)
<授賞理由>
 JOJOの世界観をより特徴的にアレンジし、読者のイメージを上回る表現と、心地よい疾走感のある演出は、JOJOファンのみならず視聴者を惹きつける力がある。3Dの空間を生かした大胆な演出と、2Dアニメーションのキャラクター表現の魅力、そして荒木飛呂彦先生の描く劇画タッチの全てを見事に昇華した映像はまさに、神風動画の真骨頂と言える。

<コメント>
 我々はアニメーション会社なので、ちょっとアウェーな空気もあるなと思いつつ、それを感じられるのもおもしろいなと思って席に座っていたので、ちょっといま驚いています。先日、サイバーコネクトツーさんとバンダイナムコゲームスさんの『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』がプラチナ殿堂(週刊ファミ通クロスレビュー)をとったそうで、アニメーションを作っている我々も何かそれに続きたいなという思いは非常にあったのですが、こういった形で後を追うことができ、皆様のご評価をいただくことができて、本当にうれしく思います。苦労した点としては、ここにいる3人含め、社内に『ジョジョの奇妙な冒険』を好きな人間が多すぎて、どのカットを拾うか、どのキャラをどのように処理しようかというところで、かなりドロドロになりました(笑)。「俺がいちばん好きなんだ!」という競争のようになってしまって。好きすぎて困りました(笑)。

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【ゲームデザイン部門】
新規性の高いメカニクスデザインと、ゲームクリエイターという職業の一般への周知に対する功績
飯野賢治氏(故人)
<授賞理由>
 インタラクティブムービーの手法を用いた「Dの食卓」、音で敵の位置を特定する「エネミーゼロ」、画像がないビデオゲーム「リアルサウンド~風のリグレット」など、数々の挑戦的なメカニカルデザインとメディアミックス的な作品作り。広くメディアにゲームクリエイターという存在を訴え、一般にゲーム開発者が認知されるようになった功績を評価。

※飯野氏の奥様のコメントとなります。
<コメント>
 この度は、このような立派な賞をいただき、誠にありがとうございます。夫、飯野賢治が亡くなってから、早いもので半年が経ちました。2月20日、突然天国へ旅立ってしまった際、テレビや新聞、インターネットで大変な反響があり、葬儀にもたくさんの方にご参列いただき、夫がどれほど多くの方に愛され、慕われ、かわいがられていたかを知りました。そして、半年経ったいまもなお、このようなすばらしい賞をいただき、夫の偉大さ、すごさを改めて感じております。妻として、この上なくうれしく、感謝の気持ちでいっぱいです。いつも大口をたたく夫のことですので、この度の受賞は、「もっと前から僕のことを認めて、生きているうちに早くちょうだいよ」と、偉そうな感想を言いそうです。世間ではゲーム業界の風雲児と、強気で攻撃的な人物として紹介された時期もありましたが、家ではよく、何でもいいから褒めてほしいと弱気な一面を見せることもありました。人間として生まれてきたからには、何かを世の中に伝えなければいけない。そして、自分が生きている意味を認めてもらいたいと、人の何倍も自分の存在意義に対して意識をしていました。そんな夫ですので、この度の受賞は、多くの皆様から最大級に褒めていただき、自分の人生はこれでよかったんだと安心し、大いに喜んでいると思います。この度は誠にありがとうございました。

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【サウンド部門】
豊富な感情表現ができる画期的な音声合成技術
「CeVIO Creative Studio」開発チーム(CeVIOプロジェクト)
<授賞理由>
 革命的とも言える、豊かな感情表現が可能な音声合成技術をもとに、まったく新しいユーザー生成コンテンツ(UGC)展開の可能性を切り開いた。より裾野の広い展開を見据え、コンテンツ作成ツール(CeVIO Creative Studio FREE)を無償で提供している。

<コメント>
 今日はこのような栄誉ある賞をいただき、本当にありがとうございます。今回ご評価いただいたCeVIO Creative Studioは、音声合成ソフトウェア、割と最近、一部で流行っているジャンルですね。我々は、クリエイターに憧れている若い世代に、“ものづくり”の楽しさというものをひとりでも多くの人に知ってもらいたいなと思いながら、誰にでも簡単に、コストを極力抑えた形で、一定以上のクオリティーの音声を作ることができるツールを目指して、日々開発中です。4月末から、機能を制限されたフリーバージョンをWEBで公開しておりまして、非常に多くの方に使っていただいております。9月26日に、より機能面を強化、ボイスの種類を追加した製品版をリリースしますので、もしどこかで見かけていただけましたら、ひっそり応援していただけたらと思います。

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【ネットワーク部門】
ユーザ間のインタラクションの方法を増加させた
「ニンテンドーDSシリーズ」すれちがい通信技術 開発チーム(任天堂株式会社)
<授賞理由>
 ニンテンドー3DS/DSのすれちがい通信によって、ユーザ間のインタラクションの方法を増やしていき、ゲームの可能性を大きく広げた。特に他のゲームを遊んでいてもすれちがい通信できる事は可能性を広げる。

<コメント>
 まさか最優秀賞をいただけるなんて、感謝感激でございます。すれちがい通信の醍醐味は、目の前のお友だちではなく、ネットを通じた遠くの人というわけでもなく、たまたま近くをすれちがった人から、ふいにデータが届くという不思議な感覚です。最初のアイデアが生まれたのは、ゲームボーイアドバンスの時代です。このとき、ワイヤレスアダプタという、いままで通信ケーブルだったものを無線に変えるとう周辺機器が発売されているのですが、ただ線がなくなっただけではおもしろくないので、何か違ったことをやろうと考え、検討した結果、生まれたのがすれちがい通信になります。実際に世の中にお披露目することになった最初の機会は、ニンテンドーDSの『Nintendogs』というソフトでした。このソフトで多くのお客様に楽しんでいただいているということを聞き、これは1本のソフトで終わるものではなくて、よりいいものになるという感覚を持ちまして、つぎのニンテンドー3DSでは、この仕組みをシステムの根幹に取り込み、すれちがいが成功する確率を格段にアップさせました。また、さらにすれちがい通信のチャンスが広がる、“すれちがい通信中継所”というサービスも開始したところです。ちょうどそのタイミングでこのような賞をいただき、なんとも言いようながくうれしい気持ちでいっぱいです。これからも、より多くの方にすれちがい通信を楽しんでもらいたいと思います。

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