往年のファンが待ち望んだプロジェクトが始動!

 2013年8月21日、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”がスタートした。初日の2013年8月21日に実施されたあるセッションでは、2013年9月7日の公開に先駆けて、映画『キャプテンハーロック』の制作エピソードが語られた。“映画『キャプテンハーロック』 -Behind the Scene -”と題されたセッションの内容をお伝えしよう。

 映画『キャプテンハーロック』は、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』などを手掛けた荒牧伸志氏が監督、『機動戦士ガンダムUC』の著者として知られる福井晴敏氏が脚本を担当。主要キャストに小栗旬、三浦春馬、蒼井優ら実力派俳優が起用された話題の注目タイトルだ。

 セッションの前半では、映画『キャプテンハーロック』の3DCGのアニメーションを制作した、マーザ・アニメーションプラネットの宮本佳氏が登壇。プロジェクトマネージャーとして映画の制作に携わった宮本氏から、プロジェクトの全体像とマネージメントのポイントが語られた。

 宮本氏が最初に説明したのは、プロジェクトの時系列だ。

2009年:東映アニメーションのもと、映画の企画・開発がスタート
2010年:東京国際アニメフェア2010でパイロット版の映像が流された
2011年:フランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭で制作発表を実施
同年、制作がスタート。約2年かけて制作が進められた
2013年:9月7日に映画が公開予定

 約4年の歳月を振り返りながら、“東京国際アニメフェア2010”で流されたパイロット版の映像が特別に再生された。「このパイロット映像は、4年近く前に制作されたものなので、実際のものとソフトウェアやパイプラインがまったく違う作りかたが違います」と語る宮本氏。だが、実際に放映された映像は、4年も前に作られたとは思えないほどのクオリティで、本物さながらの迫力があった。

初の映画制作で大作を完成させることができた理由とは!?

 セガの映像を作る部署からスタートし、映画を作るために独立して作られたというマーザ・アニメーションプラネット。『キャプテンハーロック』は、同社が初めて制作する映画作品で、プロダクション全体を大きくマネージメント、アート、テクノロジー、CGチームの4つのグループに分けて制作に臨んだという。宮本氏によると、分業で制作する姿は、よくハリウッドスタイルと紹介されるそうだが、「分業するよりは、ひとりひとりがもっと幅をもった制作をしているので、ハリウッドと日本のハイブリッド的な形というのが正しい表現」とみずから分析していた。

 また、今回初めての映画プロジェクトにも関わらず、スケジュール内、予算内で制作ができたそうだ。宮本氏は、その要因を「内外に優秀なスタッフが集まってくれたことのほかに、いくつかポイントがあると思っています」と語った。そのポイントとは、

【1】ショットを作る工程を初めから四分割にしていた
【2】情報共有をしっかり行う

のふたつ。とくに“情報共有”は、最初あまり重要性を感じていなかったが、制作を進めるうちに情報共有がしっかり行えていないのが、プロジェクトの効率化を低下させていることに気づいたという。そこで宮本氏たちが取り入れたのが、北米で開発されたプロダクションマネージメントツール“Shotgun(ショットガン)”だ。

 このツールで、スケジュールの管理や外注の韓国の会社とのやり取りなどを効率的に行ったという。今回のプロジェクトを通して宮本氏は、「マネージメントの視点で、100名以上ものスタッフが関わるプロジェクトでは、情報インフォメーションツールが重要だと思った」と語った。

『キャプテンハーロック』のメイキングエピソード

 宮本氏に代わって壇上に登場したのは、マーザ・アニメーションプラネットのギデ・ガエトン氏。セッションの後半では、ギデ氏からは、同社のソフトウェアやレンダーファーム、パイプラインなどの環境の話に加え、キャラクターやセット&プロップスといったメイキングの解説が行われた。

 最初に説明したのが制作環境。ギデ氏は、使用したソフトウェアを3rdパーティー、インハウス、そしてふたつの要素を併せ持つハイブリッドの3つに分類。メインにハイエンドの3DCGソフトウェア“Maya”(3rdパーティーに分類)などを使っていたことなどを紹介した。

 また、気になるメイキングの解説では、

【1】キャラクター
【2】セット&プロップス
【3】レイアウト&アニメーション
【4】ライティング&コンポジット
【5】エフェクト

の順に解説していった。

 ギデ氏によると、キャラクターの総数は230体。そのうち、マーザ・アニメーションプラネットはメインキャラクターを中心に100体ほど制作したそうだ。とくにメインキャラクターは時間をかけて手掛けられており、6カ月もの時間をかけて完成させたという。また、キャラクターの表情パターンをまとめることで、モーションキャプチャーの役者が演じやすくするという工夫も。「モーションキャプチャーの撮影に使える時間が限られていて、リテイクを減らしたかった」(ギデ氏)

 今回、トータルで122のセット(背景)と58のプロップスを制作したそうだが、キーワードになったのは“密度”だった。ギデ氏によると、「『キャプテンハーロック』は、SF作品ならではの壮大なスケールを感じてもらうために、密度の高いものをたくさん作らないといけないかった」そうだ。また、メカニックデザイナーとしても活躍している荒牧監督の強いこだわりにより、アルカディア号のモデルはかなり細部まで作りこまれているとのことなので、こちらも期待してほしい。

 レイアウト&アニメーションでは、複雑なショットだけプビリズ(実際の映像制作を行うまえに、完成状態が想像できるシミュレーション映像を作成すること)したというエピソードを披露。「セットはレイアウトを作りながら作っていったので、大きさなどが変わったりすると対応していた」とも。

 ステージライト→マスターライト→ショットライトのシークエンスで行われたライティング&コンポジット。光を増やしてよりリアルなセットを再現しているほか、ヒロインの顔がより魅力的に見えるように、「コンポジットで化粧したところがある」と教えてくれた。

 ギデ氏によると、エフェクトは「1400ショットのうち、半分の700ショットくらいは入っている」とのこと。とくに苦労したのは、「スケジュールが厳しかったことと、デザインがほとんどなかったこと」だそうで、デザインは作りながら決まっていったという。

 これらの説明を受けた後、最後に最新のトレーラーが流された。本編は、当たりまえだが、冒頭に放映されたパイロット版と比べて洗練されており、ますます迫力のある内容に仕上がっていた。4年の歳月をかけて作られた大作を、ぜひ劇場で堪能してほしい。

(取材・文:ジャイアント黒田)