無課金ユーザーからの反感を買わない課金スタイルとは?

 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。初日の2013年8月21日に行われた、““家庭用ゲーム機でFree to Playゲームを作ったらこうなった! ~バトオペの事例~”と題したセッションをリポート。

 本セッションは、PS3で人気を博しているオンライン専用アクション『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』(以下、『バトオペ』)がF2P(Free to Play。基本無料ゲーム)として製作された経緯や、戦略と成果、定性調査の結果などを開発者自らが明かし、成功要因を分析したものだ。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_01
▲『バトオペ』のテクニカル・ディレクターを務めた株式会社B.B.スタジオの近藤亮治氏(写真左)、同社のディレクター神戸秋義氏(写真中央)、株式会社バンダイナムコゲームズのプロデューサー、桑原 顕氏(写真右)の3名が登壇。

 まずは近藤氏が、株式会社B.B.スタジオの沿革を簡単に説明。同社はベックとバンプレソフトの合弁会社で、『スーパーロボット大戦』シリーズを筆頭に、ガンダム系のタイトルを中心に手掛けているメーカーだ。この『バトオペ』もその一つというわけだ。

 続いて『バトオペ』のPVが流された後、桑原氏が開発の流れを解説した。本作が一般の目に触れたのは、2012年3月のクローズドβのタイミングだが、開発がスタートしたのは、3年以上も前、2008年のこと。しかし、当時はフィーチャーフォンが全盛で、モバイルですらF2Pが一般的ではなかった時代だ。『バトオペ』も当初はパッケージタイトルとして、少人数体制で開発がスタートしたのだそうだ。
 そこから約2年後の2010年10月にはα版が完成したが、どう売っていくべきかについては悩んでいたという。当時はすでにソーシャルゲームが中心。家庭用ゲーム市場でも、追加コンテンツがじわじわと伸びていたタイミングだ。
 結果として、α版完成の翌月、2011年11月には、家庭用ゲーム機では先駆けとなる、F2Pというビジネスモデルを採用することを決定。これは、『ガンダムロワイヤル』と『ガンダムカードコレクション』がともに成功していたことが決め手になったという。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_02
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_03
▲初期から考えると、じつに3年半ほどの開発期間がかけられている。ちょうど携帯電話の劇的な進化の渦中であり、さまざまな模索があったことが伺える。

 しかしながら、家庭用ゲーム機でのF2Pは前例がなかったため、本当に成功するかはわからない。そこで、さまざまなビジネスモデルを参考に、家庭用ゲーム機でF2Pを成功させるための提案書を作成したという。その内容と1年間の運営結果が明かされた。

 ここからは、株式会社B.B.スタジオの神戸氏にバトンタッチ。『バトオペ』をF2Pとして作るにあたり、家庭用ゲーム機のユーザーにマッチする仕様を考えた流れを説明した。
 開発チームが貫いたのは、“課金をしたユーザーが、しない人から反感を買わない対人戦ゲーム”というコンセプト。たとえば、課金をすればプレイテクニックに関係なくいちばん強くなれるのでは、負けたユーザーが納得できない。加えて、そういうゲームだと課金者が無課金者の反感を買いやすく、“課金をしたくてもしにくい”状態になると指摘。かといって、課金することにもメリットは必要だ。そこで、“課金をすると強くなりやすい”と“課金した人が反感を買わない”という、一見すると矛盾するようなふたつの命題を両立させるものを考えるに至ったという。

 ここからは桑原氏と神戸氏が適宜交代しながら、壇上で解説を続ける。まず、これまでの課金コンテンツを大きく以下の5つに分類。いずれも“時間をお金で買う課金アイテム”と説明する。

【1】経験値が増えるアイテム
【2】レアなアイテムが入手しやすくなるアイテム
【3】ゲーム内のお金が増えるアイテム
【4】一定回数無料、それ以上遊ぶための回復アイテム
【5】強いユニットや装備の販売(入手までの手間を短縮)

 だが、同じ時短系アイテムでも、この中に「ひとつだけ決定的に性質の違うものがある」と説く。それが【4】の“一定回数無料、それ以上遊ぶための回復アイテム”である。なぜならば、ほかの4つはプレイ時間を短縮するための課金アイテムなのに対し【4】はゲームを遊べない時間を短縮するアイテムだからだ。神戸氏たちはここにコンセプトの突破口を見出した。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_04
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_05
▲従来の対人戦ゲームは、当然ながらやり込んだ時間が長いプレイヤーほど強くなる。『バトオペ』はこの法則を崩すことのない課金スタイルを提唱。

 こうして考え出されたのが、ゲームプレイに対して課金をさせる“出撃エネルギー制”だ。2時間に1回のペースで1プレイぶんのエネルギーが支給され、フルに貯まった状態なら1時間程度は無料でプレイできる。それ以上連続で遊びたければ、そこで初めて課金するというスタイルだ。この、「遊ぶためにお金を使うという図式は、アーケードゲームに近いスタイル」で、「たくさん遊んだ人が強くなれる」と神戸氏。ただし、無料で遊べるぶんがあるため、アーケードゲームよりも経済的なのが魅力でもある。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_06
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_07
▲2012年のPlayStation(R)Storeにおけるニューゲーム、追加ダウンロードコンテンツのランキングでも、“エネルギー(27個分)”が見事1位に輝いた。ちなみにこのアイテム、適宜、増量キャンペーンも開催され、そのときは40個ぶんになる。

 それ以外の要素も、課金しないことでプレイ内容に制限が生まれないように注力。そして、無料プレイの延長線上にあるご褒美も豪華なものを設定し、「遊べば遊ぶほどうれしくなる」ようにしている。たとえば、レベルアップでモビルスーツがもらえたり、トロフィーシステムと連動した累計プレイ回数でのアイテム褒章など。モビルスーツなどのペイントは当初は有料で考えていたが、さまざまなご褒美に分散させて無料配布することになった経緯がある。

 とはいえ、『バトオペ』には“反感を買いやすい”経験値2倍やドロップ率アップなどの“ブースター”と呼ばれる時短系アイテムがある……とみずからに突っ込みを入れる一幕も。もちろん、これは前置きで、ある種典型的な時短アイテムにも、反感を買わないための工夫が施されていることを説明した。これらのアイテムは購入したユーザーだけでなく、チームメンバー全員に効果がおよぶ。すると、チームメンバーは課金ユーザーに感謝し、課金ユーザーは満足度して再び課金する……といういい流れが生み出されたと分析した。
 同様に、強いユニットや装備を直接購入する“リミット解除”のカテゴリに属するアイテムも存在する。しかし、ゲームを遊ばずに強くなれるものは排除し、その象徴とも言えるガチャシステムは避けられている。『バトオペ』で強いモビルスーツを入手するには、ゲーム内で手に入る“設計図”が必要で、そのうえで開発を行えば新規のモビルスーツや装備が手に入る仕組みだ。モビルスーツにはレベルの概念があり、レベル5のみを課金対象としている。ちなみにレベル5の設計図は、通常のプレイでは数十時間ほどかかるという。こうした理由から『バトオペ』では、「モビルスーツをたくさん持っている人は、お金をたくさん使った人ではなく、ゲームをたくさん遊んだ人」と認識してもらうことに成功。対人戦のアクションゲームという本質は継承し、プレイを重ねることで上達していく“成長過程の体験”というテーマが『バトオペ』を深く貫いているわけだ。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_08
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_09
▲出撃エネルギー以外の課金要素についても、無料ユーザーの反感を買わないというポリシーを徹底的に貫いてる。無料で遊べる部分も、少しずつ拡張されている。

「ガンダムだから」を越えた先にある『バトオペ』の雄姿

 続けて、2000円以上の課金経験者かつ現役プレイヤーを対象とした定例調査の結果が提示された。それによると、『バトオペ』の課金システムは好意的に受け止められ、“課金すれば高性能のモビルスーツが直接買える”というようなシステムには、ほぼすべての調査対象者が否定的な見解を示したことが報告された。

 最後に本日のまとめとして、出撃エネルギー制を中心とした開発の流れを再確認。そして、神戸氏は最後に、バトオペがここまで成功した理由は、「ぶっちゃけ、ガンダムだからです(笑)」と結論づけた。しかしもちろん、これは謙遜混じりの発言であるのは言うまでもないだろう。続けて神戸氏自身が、「ガンダムというIPは偉大」であるとしながらも、「それだけではなし得なかった部分もあった」とまとめて、セッションは幕となった。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_10
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_11
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_12
▲やはり古くから連綿と続く“ゲーム”の定義から外れていないことが、『バトオペ』の魅力につながっているようである。

 ここからは近藤氏が登壇し、株式会社B.B.スタジオの開発チームの雰囲気などをフランクに解説したあと、質疑応答の時間を設けることに。最初に近藤氏が説明したFAQを含めた、質問と回答を掲載しよう(※回答できないものは省略)。

――SCEから提供されている、PlayStation(R)Networkの機能のみで実装しているのか?
開発チーム サーバーの具体的な構成についてはお話できないが、SCEさんからご提供いただいているPSNの機能はすべて利用している。テレメトリログも収集と分析も行っていて、今後のアップデートではさまざまな機能の追加を予定している。

――ほかの開発タイトル(パッケージタイトル)に比べて、プログラム的に配慮した点や苦労した点は?
開発チーム プログラムに関しては、すべて見直しと再構築を行っている。中でも、慎重に実装した部分は2点ある。ひとつは“リアルタイム時間の利用”、もうひとつは“回数消費型アイテムの課金”。とくに後者は、トラブルがあったときにゲームセンターのように店員に報告してお金を返してもらうことができない。ユーザーに余計な手間や不利益を与えないよう、課金回りの通信エラーのロールバックは配慮した。いまも改善を続けている。前者については初歩的なミスで、βテストのときはリアルタイム時間をPS3の本体時間でコントロールしていた。後に、カレンダーを巻き戻して利用するお客様がいたため、サーバーで取得するように変更した。

――開発人員の構成は?
開発チーム 具体的な人数は増減している。割合で言うと、開発は企画・プランナーが20%、プログラマーが40%、グラフィックデザイナーが40%という比率。運営になると比率が変わり、企画とグラフィックデザイナーが40%、プログラマーが20%。ただし、アップデートのタイミングでは増減する。

――セーブデータの保存先は?
開発チーム 最初のころは、ローカルのHDDに保存していたが、セーブデータが壊れてしまう事例があり、現在はバックアップをPSNサーバーに置く仕様を追加している。ユーザーサポートの情報では、(2012年は)PS3本体を交換するお客様が多かったため、バックアップのシステムはニーズが高かった。

――課金アイテムの値段設定はどのように算出しているのか?
開発チーム 出撃エネルギーはひとつ100円、まとめ買いすると60円くらい。それに対して、得られる報酬の設計図は5つ程度。これを割ると、出撃エネルギーといっしょに消費するものとして、1個40円くらいなら買ってくれると判断。出撃エネルギーとの相対価格として設定した。

――課金ユーザーと無課金ユーザーの比率は?
開発チーム 詳しくはお答えできないが、(課金ユーザーの比率は)平均的なソーシャルゲームの比率よりは高い。

――出撃エネルギーの増量キャンペーンは、どのようなタイミングで開催しているのか?
開発チーム 正確には決めていないが、だいたい2週間開催して2週間休む、というサイクルで行っている。ただし、夏休みやお盆休みなど、遊べる時間が長く取れる時期は期間を長くするなど、臨機応変に対応している。

――失敗談は?
開発チーム 先日実装したGP-01というモビルスーツは、原作どおりにトップクラスの性能で、なおかつ期間限定の機体としてリリースした。しかし、あまりにも強すぎたため、全体のゲームバランスとの兼ね合いで性能を下げざるを得なくなった。本来はあってはならないことでたいへんご迷惑をおかけしてしまったが、やはりこの件については反響が大きかった。

『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_13
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_14
『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』はなぜ成功できたのか? 家庭用本格F2Pの先駆者が語る【CEDEC2013】_15