ゲームにおけるストーリーのありかた、そして未来は?

 2013年8月21日~25日(現地時間)、ドイツ・ケルンにて開催される欧州最大級のゲームイベント“gamescom 2013”に先駆けて、 2013年8月20日に行われた“PlayStation Gamescom 2013 Press Conference”。ここでは、本カンファレンス後に行われた、パネルセッションの模様をお届け。テーマは「ゲーミングを通してのナレティブ(物語、語り口)とストーリーテリング」。登壇したのは、吉田修平氏(SCEワールドワイドスタジオ)、David Cage氏(Quantic Dream)、Dan Pinchbeck氏(The Chinese Room)、Russell Harding氏(SCEワールドワイドスタジオ・ロンドンスタジオ)、Darby McDevitt氏(ユービーアイソフト)の5人。MCの質問にそれぞれが答える形でパネルは進行した。

豪華クリエイター陣が語る「ゲーミングを通してのナレティブ(物語、語り口)とストーリーテリング」パネルセッションリポート【gamescom 2013】_01
▲写真左から、吉田修平氏、David Cage氏、Dan Pinchbeck氏、Russell Harding氏、Darby McDevitt氏。

――ここ最近、ゲームにおけるストーリーテリングにおいてナレティブの重要性はどう変わってきたと思うか?
吉田 自分はアクションゲームが好きなゲーマーだったので、ストーリーにはあまり関心がありませんでしたが、ここ数年『Journey』などのゲームを通じて感じるようになりました。ただ、ストーリーが良くてもストーリーとプレイヤーのアクティビティが繋がっていないとうまくいかないと思います。
Darby いまのストーリー作りは、過去に同じようなものがあったかどうかを調べ、それを除外するなどの制限が生まれる。これによって、かえって今までとは違った考え方が出来てアイディアが出てくるのではないでしょうか。
Dan 私は、設定によって異なりますが、ゲーム、ストーリー、旅、感情を考慮してビジョンを伝えられるかどうかが大事だと思っています。
Russell 自分は実際に経験したことからストーリーを作ることが多いです。『The Last of Us』は自分が父親になったことがきっかけになっている。しかし、実際ゲームにしてみると思っていたものとは違ったりして、いろいろな発見があります。カットシーンを多用してストーリーを押し付けるのではなく、ゲームをプレイすることがストーリーが語られること、という形が理想ですね。

――ゲーム開発の初期からリリースまでに、ストーリーが大きく変化することはありますか?
Russell 多くは、開発期間中にまとまり、落ち着いてきて存在感が出てきますね。

――モラルや教育などには影響するか?
Russell ゲームに参加してロールプレイすることで学ぶところは多いと考えています。

――異なるカルチャーによる影響はありますか?
吉田 これは少しネガティブに言われることが多いですが、JRPGなどの例はあります。西欧と日本ではカルチャーの影響で違う表現になることはありますが、本質的にストーリーが優れていればうまくいくことが多いですね。インディ・ゲームでは、もっと個人的なストーリーが語られることがあり、それが感情に訴えてくることも多い。

――ゲームは映画から学ぶべきだと思うか?
Russell 動くイメージを通じてストーリーを語るという点では同じですが、ゲームにはアクティビティが関与してきますね。

――アルゴリズムを使って優れた監督のやることを研究した例があると聞いているが?
Darby それはパターンを把握するということであり、音楽では普通に行われていますね。

――テレビの人気番組のようにエピソード構成にすることについてはどうか?
Darby 『アサシンクリード』では平均60~90分区切りで展開しています。ゲームはプレイ時間が長いので、長、中、短と変化をつけて注意深く構成する必要があります。
Dan プレイヤーのストーリーを中断したくないのでそこには注意して作っていますね。
David 自分はテレビ番組に近い構成にしています。全部で10時間ほどのストーリーになるので、変化をつけたり因果関係に多様性を持たせることを意識しています。

――『 BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー ソウル)』で、エレン・ページとウィレム・デフォーはどんな反応だったか?
David エレンは脚本の厚みにびっくりしていました。パフォーマンス・キャプチャーを通じて心に感じてもらって演技するので、エレンは「アクティング・ブートキャンプ(厳しい演技訓練)だわ」と言っていましたね(笑)。彼女のようにゲームというメディアに敬意を持ってくれる俳優でないとうまくいかないと思います。

―― 『アサシンクリード』は映画プロジェクトが進んでいるそうですが?
Darby 映画だけではなくコミックやショートストーリーも作っていますが、アサシン・クリードというユニバースを信じてやっています。派生したものすべてが、それぞれにストーリーを語るものでなくてはいけないと思っています。

――ストーリーを言葉で語るかどうかについて
Dan 『Journey』のような言葉なしのストーリーもありますよね。技術的進化によりキャラクターの目を通じて理解できることも多くなっています。
Darby メカニックそのものが感情に結び付くこともあります。ストーリー中のキャラクターと自分に違いを感じるときもある。『Journey』をプレイしましたが、一緒にプレイしている人と親しくなろうとしたらその度に逃げられてしまい、ある感情を引き起こした。そういうこともありますね。

――ストーリーテリングの将来は?
Russell 私は、技術、デザイン、感情、ストーリーを中心にやっていきたい。
Darby 『アサシンクリード』は非常に大きなゲームなので、常にクリエイティブな目で見守っていく必要があります。
David 違うデバイスを使って、どこでもストーリーが語れるようにしていきたいと考えています。

――ストーリーテリングを賢くやる方法はあるか?
吉田 ストーリーはひとつの要素であり、パフォーマンス、行動、AIなどの要素と関係してきます。一番面白いのは人間ですが、ゲームでもリアルで説得力のあるキャラクターがたくさん出てきている。将来は明るいと思います。自分は子どもが成長して離れていったら、デジタルワールドで面白いキャラクターたちと関わりたいですね。

――今後5年間では?
Darby ゲームがストーリーのスケールを表現できるようになると思う。
Russell ファミリーでストーリーを共有し、参加し、語り合えるようにしたいですね。
Dan インディ・ゲームのようにゲーム開発の敷居が低くなって色々な人がストーリーを語れるようになると思います。
David ストーリーの意味をより考えるようになるでしょう。政治的なもの、同性愛についてなどリアルな課題もある。また、ソーシャルなストーリーである、マルチプレイのナレティブも興味深いですね。

 そして最後に、集まったメディアとのQ&Aセッションも行われた。

Q:映画のようなゲームを作ることに夢中になりかえって限界を作ったのではないか?
Dan ゲーム開発は映画のマネをするのではなく独自の言語を持つべきだと考えています。
Darby メカニックとナレティブがかみ合わないこともある。『The Last of Us』をプレイしたが、自分と少女との関係はジョエルと少女との関係と異なっている感じを持っていた。彼女を保護したいと思って行動することが多かったので、カットシーンを見て違和感を感じました。この例からも、シネマに頼りすぎるのは良くないと思います。

Q:E3でジョージ・ルーカスが「コントローラーを持ったらプロットはなくなる」と言ったことについて。
David 自分はそうは思わないです。プレイヤーが一緒にストーリーを書いているのだから一層パワフルだと思っています。そもそも、ゲームは若いメディアなので映画とは比較にはならないでしょう。加えて、ゲームの言語は映画とは違うものなので、これからきちんと作っていかなくてはいけないですね。
Dan ルーカスはゲームをやっていないのでは?(笑) まったく馬鹿げた発言だと思う。
Darby 選択肢が作られていて動きがないものもあるが、システムを使った創発的ゲームプレイも多い。プロットとは違うかもしれないがストーリーは語れます。あるところまでは作り手が語り、後はプレイヤーが語ってくれる。それがゲームの素晴らしいところです。