続々インタビュー!

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 『スプリンターセル』シリーズの最新作、『スプリンターセル ブラックリスト』(以下、『ブラックリスト』)を手掛けたユービーアイソフト トロントスタジオ(以下、トロントスタジオ)の取材リポートを掲載! トロントスタジオリポート ~その2~(→【コチラ】)から引き続き、『ブラックリスト』のビジュアルを統括するアートディレクターのスコット・リー氏と、シングルプレイのゲームデザインを担当したゲームディレクターのパトリック・レディング氏を直撃。

SAM IS BACK!

 『スプリンターセル』シリーズの主人公、サム・フィッシャーのトレードマークと言えば、複眼ゴーグルと任務用スーツ。サムは、ゴーグルに内蔵された暗視装置(ナイトビジョン)や、静音性に優れる任務用スーツを駆使して闇から闇へと移り渡り、任務を遂行していく。とくにゴーグルはシリーズを象徴するアイコンとして、さまざまなビジュアルで使用されており、“ゴーグル=サム・フィッシャー”と言っても過言ないほどだ。

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 ところが、前作『スプリンターセル コンヴィクション』(以下、『コンヴィクション』)では、ゴーグル姿のサムがほとんど見られなかった。『コンヴィクション』のストーリーは、最愛の娘を奪われたサムが復讐のために、かつて自身が所属していた政府機関“サードエシュロン”と対決するというものだからだ。このときのサムは政府機関のエージェントではなく、一個人として行動しているため、私服姿で任務に臨む。

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 『ブラックリスト』でのサムは、アメリカ政府が運営する組織に所属することになり、最新鋭の軍事的な支援を受けられるようになった。ようやく我々がよく知っている、“ゴーグルと任務用スーツ姿のサム”が帰ってきたのだ。というわけで、『ブラックリスト』のアートディレクターを務めたスコット氏に、本作のビジュアルのコンセプトや、サムの任務スーツのデザインのポイントなどについてうかがった。ちなみに、このスコット氏、超がつくほど気さくな明るい人物で、インタビューは終始和やかな雰囲気で行われた。ゲームの情報はもちろん、スコットさんならではのビジュアル構築術もたいへん興味深いので、ぜひ最後までご覧いただきたい。

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アートディレクター
スコット・リー氏

――まずは『ブラックリスト』の開発におけるスコットさんの役割を教えてください。

スコット・リー氏(以下、スコット) 私は『ブラックリスト』のアートディレクターとして、全体のビジュアルの管理を担当しています。作品の設定やコンセプトだけではなく、目標とするグラフィックを達成するための技術的な部分も担当しました。たとえば、ひとつのグラフィック関連のアイデアを実現するために、ゲームエンジンのこの仕組みを利用しよう、といった決定をするのです。あとは自分でライティング(照明の加減)を調整しますし、キャラクターデザインも受け持ったりします。自分は、とにかくいろいろな部分に口出ししたくなる性分なのです(笑)。

――なるほど(笑)。個人的な印象ですが、ゲームのアートディレクターと言えば、ナイーブでいかにもアーティスト然とした方が多いイメージがあります。しかし、スコットさんは気さくな感じで、ちょっとタイプが違いますよね?

スコット (大きな声で)ありがとうございます! よく言われるんですよ(笑)。アートディレクターって変わり者というか、内向的な性格の人がすごく多くて。ユービーアイソフトのゲームは開発チームの規模がとても大きいので、ミーティングやプレゼンテーションをリードしていかないといけません。コミュニケーションが苦手な恥ずかしがり屋だと、きっと苦労することになりますね(笑)。私はこのスタジオに来る前、マーベルコミックスやDCコミックでスーパーヒーローもののアメコミを書いていました。その業界では、自分よりもアーティストとして優れた人がたくさんいたのですが、彼らはどこか対人恐怖症的というか、自分のイメージをうまく相手に伝えることが苦手な人が多いのです。その点、私は話好きなので、伝えたいことをうまく言えることができていた気がします(笑)。

――太陽のように明るいスコットさんが、『ブラックリスト』では、夜や闇がふさわしいハードなビジュアルイメージを作っているというギャップがおもしろいですね。今回のビジュアルのコンセプトを教えてください。

スコット もともと私は『スプリンターセル』シリーズの大ファンで、このゲームの製作に携わるためにトロントスタジオにやってきました。長いあいだファンだったので、“自分だったらこうする”というアイデアを溜め込んでいるわけです。個人的には、2003年にリリースされたシリーズ1作目は、洗練された見栄えがいいゲームだったと思いますが、作品を重ねるにつれて少しずつクオリティーが下がっていると感じていました。今回は、シリーズの原点に立ち返るつもりで開発にあたっています。

――『コンヴィクション』と『ブラックリスト』のビジュアルの違いはなんですか?

スコット 『コンヴィクション』は、全体的にビジュアルの印象がフラットで、コントラストが弱いと思いました。ですので、『ブラックリスト』では影の暗さや照明にもっとメリハリをつけるようにしています。

――今回はステージの時間帯が昼もあれば夜もあるし、ロケーションもイランやロンドン、シカゴなど、バリエーション豊かですね。

スコット もちろん時間帯や場所ごとの違いも表現していますよ。都市ごとのカラーやその土地の温度をプレイヤーに感じてもらいたいですね。たとえば、『ブラックリスト』の作中では冬のシーンが登場します。冬と言っても降雪だけではなく、いろいろな気候がありますよね? ロンドンだったら寒さとともにどことなくウェットな感じを出しています。イランだったら山間部でも砂漠のように乾燥した鋭い寒さ。アフリカのリビアだと、太陽の光がもう少し柔らかくなります。そういった微妙な違いを、ロケーションごとのコントラストとして表現しています。

――つぎはサムの任務スーツについてうかがいます。『コンヴィクション』のサムはおもに私服で行動していましたが、今回は大統領直属の部隊に所属し、再び任務用のスーツをまとうことになりました。スーツのデザインは、ひとつ間違えるとスーパーヒーローものやカートゥーンの主人公のようになってしまうと思います。それを本作のようにハードな世界観にマッチさせるのは、たいへんな苦労があったのではないでしょうか?

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スコット そこに気づいてもらえるなんて、うれしいです! サムはこのシリーズの象徴でもあるので、トム・クランシーの世界観にマッチするようにきちんと表現しようと、いろいろとデザインを考えました。もっとも大事なことは“サムはスーパーヒーローではないこと”。それでいて、強さを示さないとなりません。自分はマンガ家としてスーパーヒーローをたくさん書いてきたので、キャラクターデザインのコツを知っているんです。……それは、デザインのパーツひとつひとつに必ず説明をつけること。パーツと説明を表にまとめて、この形にはこれ、この形にはこれ、というようにわかりやすく整理するのです。これは『機動戦士ガンダム』の大ファンだった私の父が教えてくれたやり方でして、父は私に「機動戦士ガンダムのデザインは、たとえばプラグひとつとっても科学的根拠がある」とていねいに解説してくれました。私は父の教えをいまでも持ち続けているのです。だから、今回もサムのデザインひとつひとつに理由づけをしました。周囲からは「設定が細かすぎてクレージーだ」と言われることもありますが、納得いく理由があるからこそ、リアルなデザインにたどりついたのだと思います。

――ロジカルなアプローチによって、地に足が着いたビジュアルを構築したわけですね。

スコット まったくその通りです。我々アーティストは思いついたことすべてを盛り込むのではなく、よく考えてからフォーカスを狭めることが大事だと思っています。最初にルールをきちんと作っておけば、いろいろな決定をする中でいいことと悪いことがわかりやすくなります。ビジュアルがはっきりしていれば、ゲームプレイのデザインもおのずと決まってくるのです。理想は、ビジュアルを見ただけでサムの能力と限界が理解できることです。

――ゴーグルはサムのトレードマークですが、デザイナーとしては、象徴的なアイテムをどう見せるか、試行錯誤があったのではないでしょうか?

スコット はい。ゴーグルはサムの象徴でもあるので、きちんと作り込む必要がありました。開発当初は近未来風のデザインにしようと思いましたが、悩んだ挙げ句、けっきょくは基本に立ち返ってオリジナルに近い形を採用しました。今回はサムの装備品をカスタマイズできるので、ベースとなる形を作り、その後に派生の形を考えていきました。ただ、どのパーツを選んでもサムとして認識できることが大事だと思い、デザインのテイストをなるべく統一するように気をつけています。それと、パーツのデザインとその効果は、密接に結びつくようにしています。私たちが注意したのは、スーパーパワーのアイテムを作らないことです。たとえば、ゴーグルをナイトビジョンに切り替えた直後は視界が不明瞭になります。少し経つと画面が落ち着いて見えてくる。音波で敵の動きをキャッチするソナーにしても、サムが走ったりすると途端に使えなくなる。ゴーグルは実用的ですが、一長一短の能力になるように調整しています。

――最後に、アートディレクターとしてアピールしたいポイントはありますか?

スコット すごくありがたい質問です!(笑)。私たちが大事にしたのは、リアリズムを大事にすること。ディテールを作り込み、壁の質感ひとつとっても、感触が伝わりそうなリアルな世界を目指しました。光や雨、空気中の湿気など、ひとつひとつにこだわり抜いて作り、それらが世界を作り出しています。アートディレクターとしては、ステージを急いで通り過ぎるのではなく、注意深く周囲を見回して世界そのものを感じてほしいですね

“中間管理職”の苦悩!?

 『コンヴィクション』では、娘の死が事故ではなく、かつて自身が所属していた諜報機関サードエシュロンが仕組んだものと知ったサムが、娘の死に関わった者を始末していく様子が描かれた。娘を失った哀しみや組織に対する怒り……『コンヴィクション』のストーリーは、サム個人の感情の動きがテーマとなっている。疑わしき者すべてを尋問して血祭りにあげる、まさに“激おこ”状態のサムの鬼気迫る姿に戦慄させられたプレイヤーも多いはずだ。

 『スプリンターセル』シリーズ最新作『ブラックリスト』のサムは、アメリカ大統領直属の特殊部隊フォースエシュロンのリーダーとして登場する。サムの部下たちは、熟練のオペレーターやコンピューター工学の専門家、もと特殊部隊のエージェントなど、さまざまな分野のスペシャリストたちで、任務をバックアップしてくれる存在だ。『ブラックリスト』のストーリーのポイントは、これまで一匹狼だったサムが、組織のリーダーとして部下たちをどのように導いていくのか、という点だ。アメリカ大統領と部下たちのあいだの、いわば“中間管理職”的なポジションに立つサム。これまでとはひと味違う、新たな切り口のサム・フィッシャー像に注目だ。

 また、サムが対決するテロ組織“エンジニア”の正体も気になるところ。現時点では構成員の特徴や組織の信条など、すべてが謎に包まれている。わかっているのは、エンジニアはアメリカ大陸を対象としたテロ予告“ブラックリスト”を宣言したことのみ。サムはフォースエシュロンを率いてエンジニアの消息を追うことになる。果たして、サムたちはブラックリストを食い止めることができるのだろうか? 『レッドオクトーバーを追え』などで知られる小説家トム・クランシーが監修を務めたリアルな軍事考察に基づく、ハードなドラマ展開に期待したい。『ブラックリスト』のストーリーの魅力について、ゲームディレクターのパトリック氏に聞いてみた。

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ゲームディレクター
パトリック・レディング氏

――パトリックさんは『ブラックリスト』の開発で、どのパートを担当したのでしょうか?

パトリック・レディング氏(以下、パトリック) 『ブラックリスト』は、とても規模が大きいゲームなので、いろいろな要素が収録されています。やり応えのあるストーリー本編に加え、サブミッション、協力プレイ、スパイvs傭兵モードなど、ゲームプレイは多岐に渡ります。クリエイティブディレクターのマックスは、このゲームのアンバサダー(大使)のような役割で、その下にいる何人かのゲームディレクターがそれぞれ違った部門のクオリティーを管理することになっています。私はシングルプレイのコンテンツ、そのうちのキャラクターとストーリー、レベル(地形)デザイン、全体としてのプレイヤーの経験も管理しています。

――ここからは、おもにストーリーについてうかがいます。今回はテロリスト集団“エンジニア”との戦いが主軸になりますが、それと同時にサムの心の成長にスポットが当てられると聞きました。その意図について教えてください。

パトリック 『コンヴィクション』では、サムの個人的な感情を描き、ある程度の成功を収めました。サムが政治的な活動ではなく、娘を殺害した犯人を追ううちにいろいろな秘密が暴かれていくという物語によってプレイヤーの共感を得られたと思います。しかし、同じテーマをくり返すのは難しいと感じたので、話の方向性を少し変えることにしました。サムはこれまでひとりで任務に臨んできた男で、自分の力だけを行使していろいろな事件を解決してきました。それが今回はフォースエシュロンのリーダーに任命され、部下たちの責任を取る立場となるのです。サムを慣れない立場に押し込むことで、いろいろなズレが生じますよね? そのズレを解消することをドラマとゲームプレイのゴールに設定しました

――今回のストーリーを簡潔に教えてもらえますか?

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パトリック “エンジニア”と呼ばれるテロ組織が、アメリカを対象にした“ブラックリスト”という犯罪予告宣言を行います。それに対して、アメリカ大統領が秘密組織“フォースエシュロン”を作って対抗するのですが、そのチームをリードできるのはサム・フィッシャーだけです。サムはそのチームのリーダーとしてそれぞれの分野のスペシャリストを集め、後方支援を担当させるわけです。サムはフォースエシュロンを導いて、テロ組織と戦うのがストーリーのベースラインになります。

――サムは極秘機関のリーダーですが、現地でほかの軍の兵士と遭遇することはあるのでしょうか?

パトリック エンジニアはアメリカ全土に対するテロ予告をしているので、それに呼応して、世界中でいろいろな軍隊が動いています。ですので、サムが任務に向かうと別の戦いが起こっていることもあります。ただし、サムのフォースエシュロンは“レーダーに映らない部隊”なので、まわりの兵士はサムたちが何をしているかわからず、疑惑や闘争が生じることになります。そんな政治的な緊張を伴うドラマも本作の楽しみのひとつです。

――“レーダーに映らない部隊”とは?

パトリック サムたちの任務は、歴史の表舞台から消えた極秘任務です。サムが成し遂げたことはニュースには絶対に載らないし、“なかったこと”にされるわけです。だから各軍のレーダーに映らない存在という意味です。そして、彼らだからこそできる任務というものがあります。戦争は破壊的な行為であって、莫大な経済的コストがかかるおのです。そこで、見えない存在であるサムたちが“火種”を鎮火することで、破壊的な行為を未然に防げるわけです。

――発売が近づいていますが、ファンに向けてメッセージをお願いします。

パトリック 『ブラックリスト』は、いままでで最大の『スプリンターセル』であり、野心的なゲームでもあります。シングルプレイにはかつてないほどのボリュームがあり、協力プレイやマルチプレイも揃っています。とにかくいろいろな要素が集まっていて、いままでとは異なる『スプリンターセル』を表現することができたので、ぜひプレイしてください。