三国志好きライターが三国志のプロにインタビュー
“三国志演義”を原作とした、骨太のストーリーが魅力なオンラインシミュレーションRPG『三国志を抱く』。同作の世界をもっと知るために、日本はおろか、中国や韓国などでも三国志関連の著作を持つ三国志研究の第一人者、渡邉義浩氏(早稲田大学文学学術院教授)にインタビューを決行してきた。
ゲームの記事ではなかなか出てこないようなマニアックな話もたくさん飛び出しているので、とくに“三国志”好きを自認するプレイヤーには、ぜひ隅々まで読んでいただきたい。なお、本稿と併せてファミ通APPで掲載された同氏へのインタビュー記事も読むと、よりたくさんの知識が得られるはずだ。
【三国志を抱く】第一人者に聞く、“三国志”って奥が深い!(その1)
【三国志を抱く】第一人者に聞く、“三国志”って奥が深い!(その2)
【三国志を抱く】第一人者に聞く、“三国志”って奥が深い!(その3)
早稲田大学文学学術院教授、三国志学会事務局長。
専門分野は中国古代思想史で、“三国志”を始め、中国古代の漢~六朝時代の政治、思想などを研究している。
『三国志を抱く』公式Twitterで三国志講義を2013年3月より担当。
【【http://ywata.gakkaisv.org/:※渡邉氏のWebサイト】】
【【http://sangokushi.gakkaisv.org/:※三国志学会のWebサイト】】
“三国志”が愛されてきた理由
――“中国四千年の歴史”などと言われたりしますが、その長い歴史のなかで、わずか100年足らずだった後漢末~三国時代が愛されているのはどういう理由があるのでしょうか?
渡邉義浩氏(以下、渡邉) この時代が、中国における歴史の変革期だった……など、歴史的な背景はいろいろあるのですが、ひとつ変わった視点から分析してみると“3”という数字が鍵を握っていると僕は思っています。“三国”という組み合わせの妙がおもしろいんですよね。勢力間の争いも、ひとつだけではないし、かといってたくさんあるわけではないので、どんなことをしているのかを追いやすい。このバランスのよさが、物語のおもしろさを支えている理由のひとつではないでしょうか。
――確かに、三国だと単調になりすぎず、複雑にもなりすぎず、いいバランスになりますね。
渡邉 中国史には項羽と劉邦が争った時代(※1)だとか、南北朝時代(※2)のようにふたつに分断されていたり、五代十国時代(※3)や五胡十六国時代(※4)のように、さまざまな勢力が入り乱れた時代というのはありましたが、3つというのはこの時代のほかは宋朝期に北から異民族が侵攻してきて成立した南宋、金、西夏の時代くらいです。ただ、この時代はいま言ったように“異民族”による支配の時代なので、物語としてはあまり人気になる要素がなかったんですね。
※1 始皇帝が建てた秦の滅亡後に勃発した、覇権を巡る楚の項羽と漢の劉邦との争い。最終的に勝利した劉邦が漢(紀元前206年~8年)王朝を建てることになる
※2 5世紀半ば~6世紀末にかけて、中国の南北に王朝が並立していた時代
※3 10世紀、唐(618年~907年)滅亡~宋(960年~1279年)成立のあいだに、中国の南北でさまざまな勢力が乱立した戦乱期。5つの王朝と、多数の有力な勢力が成立したことからこう呼ばれる
※4 晋代後期(4世紀初頭~5世紀半ば)、中国北部で多数の勢力が興亡した時期のことを指す
――その物語が、日本でこれだけの人気になったわけですよね。一般的には、吉川英治氏の“三国志”(※5)がよく知られていると思うのですが、それ以前はどうだったのでしょうか?
渡邉 “三国志”の原著自体は、古くは遣唐使(※6)によって入ってきています。大宰府(※7)が朝廷に出している手紙の中にも、「“三国志”を読みたいから送ってほしい」といった内容の文があるんですよ。それから、空海(※8)の文書の中にも“諸葛亮”などの人名が出てきています。ちなみに、遣唐使を迎えた唐の太宗(※9)という人物がたいへんな歴史マニアで、自分が書いた“晋書”(※10)を使者に渡しています。使者にしてみれば、欲しいのは“三国志”で、“晋書”は必要じゃなかったんですけどね(笑)。
※5 1939年(昭和14年)~1943年(昭和18年)にかけて新聞小説として連載され、後に多くの“三国志”を題材とした作品に影響を与えた名著。渡邉氏が文中の解説を手掛けた新潮文庫版が、2013年2月より全10巻で刊行中
※6 630年~894年にかけて、日本の朝廷が唐に派遣していた使節団
※7 7世紀後半から筑前国(現在の福岡県)に置かれていた行政機関で、神社である“太宰府天満宮”とは別機関
※8 平安時代の僧で、弘法大師の名でも知られる。唐に留学して密教を学び、帰国後日本で真言宗を開いた。書家としても有名
※9 唐の2代皇帝で、父を助けて唐王朝建国に貢献し、皇帝に即位後は“貞観の治”と呼ばれる善政を敷いた
※10 魏の司馬懿の孫の司馬炎が建てた王朝、晋(265年~419年)について記した歴史書
――その後、日本ではどのくらい読まれていたのでしょうか。
渡邉 わかりやすいところでは、鎌倉時代以降の武家文学、戦記物などに大きな影響を与えています。たとえば、“太平記”(※11)などの戦いの場面は、“三国志”をお手本にして書かれているものが多いんですよ。その後、戦国時代にはその内容が知識として定着していて、たとえば竹中半兵衛のことを“今孔明”と呼んだりしています。
※11 鎌倉時代末期~室町時代初期の時代を描いた、軍記物語。現代でも非常に人気が高く、1991年にはNHKで大河ドラマ化された
――“戦国”と“三国”、日本で愛されている時代の2大巨頭が、こんなところでつながっていたんですね! さらに時代は流れて、現在では『三国志を抱く』の原作となった“三国志演義”を始め、三国時代を扱ったさまざまな作品が出版されていますが、「“三国志”好きならこれがオススメ」というものがあれば教えてください。
渡邉 読むとおもしろいのは“三国志平話”(※12)ですね。語り物として書かれ、後の“三国志演義”のもとになったお話が多く含まれていて、圧倒的におもしろい作品です。現在では2種類の日本語訳が出ています。それから、原著の雰囲気を味わいたいのであれば“十八史略”がオススメです。これは当時の受験参考書なんですよ。だからすごく簡潔にまとめられていて、原文で読むならこれがいちばんわかりやすいですね。ただ、まとめられすぎていて“出師の表”(※14)などはかなり簡略化されてしまっているので、もしちゃんとした文で読みたいなら、ほかの本で補足していく必要があります。
※12 宋代に各地で展開された、三国時代のさまざまなエピソードを題材にした語り物のお話をまとめたもの
※13 元代に曾先之によってまとめられた歴史本。神話として伝えられる三皇五帝の時代から、南宋(1279年にモンゴル帝国によって滅亡)までの18の正史(歴史書)が取り上げられている
※14 諸葛亮が北伐にあたって蜀の2代皇帝劉禅に奉った上奏文。先君の劉備に対する忠義や、劉禅への諫言、自身の強い決意などが記された、心を揺るがす名文として有名
『三国志を抱く』マニア必見の秘話満載――“三国志”の真実についてプロ中のプロに訊く!(その2)へ続く。
【『三国志を抱く』とは】
PCだけでなく、スマートフォンやタブレットなど、多様なプラットフォームで同一のゲームをプレイ可能なクロスプラットフォーム型シミュレーションMMORPG。ゲームはすべて連動し、いつでも、どこでも、好きなときに遊べるのが最大の特徴だ。三国志演義のストーリーを背景としており、約200名の武将たちを指揮して戦略的なバトルを楽しめる。