カプコンのサウンドはどのように作られているのか

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▲カプコンは今年で創業30周年、アップルのMacintoshも30周年! ここはアップルストア銀座店……というわけではなく、ゲーム音楽制作、ゲーム開発にMacは欠かせないツールだそうだ。

 2013年8月11日、東京のアップルストア銀座店にて、カプコンサウンドクリエイターによるスペシャルイベントセミナー“カプコンサウンドの創り方”が開催された。ここでは、その模様をリポートする。本イベントは、2005年から開催されているもので、普段なかなか目にすることのできないゲームサウンドの制作現場を肌で感じることができ、カプコンのゲームサウンドへの知識を深めることが出来るというもの。
 今回は、ゴールデンリールアワード最優秀音響編集賞を受賞した『バイオハザード6』や豪華声優陣を起用したマンガチック爽快アクションが話題となった『エクストルーパーズ』、人気のファンタジーアクション『ドラゴンズドグマ』シリーズなどの素材を使用し、カプコンのサウンドがどのように作られているのかを本編ゲーム映像、効果音素材の収録風景映像を合わせてプレゼンテーション。さらに、ゲームの魅力のひとつである“インタラクティブ性”について、山東善樹氏(カプコン サウンド開発室 サウンドディレクター)、北川保昌氏(カプコン サウンド開発室 コンポーザー)、岡田信弥氏(カプコン サウンド開発室 サウンドマネージャー)がわかりやすく解説した。

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北川保昌氏(右)、岡田信弥氏(左)
山東善樹氏
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▲まずはカプコンゲーム音楽当てクイズで会場を暖める。

 最初に、ゲームにおいてサウンドというものがどのように影響を与えているかを知るための実験映像が紹介された。使用されたのは『バイオハザード5』のカットシーン。これにカートゥーン調のサウンド、効果音を乗せたものと実際のゲームとが比較された。確かに前者は、「ポョ~ン、ポョ~ン」という足音など、シリアスなシーンにも関わらず完全にコミカル。実際のものとは大きく印象が違った。「このように、音楽によってまったく受けるイメージが変わります。今日は、こういったことをわかりやすく説明して、皆さんにゲーム音楽に興味を持ってもらえればと思います」(山東氏)。というオープニングで、セッションがスタートした。

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▲本セッションの大きなテーマとして示されたのは、「ゲームとは、映像が綺麗なだけでも、音楽が素晴らしいだけでもダメ。すべてが融合して出来上がる“総合芸術”である」ということ。

効果音の収録は超ワールドワイド

 では、ゲームのBGMや効果音はどのように作られているのか? これを、貴重な収録風景の映像を交えつつ、効果音の収録やオーケストラ収録などを例に紹介。アナログな生音収録から、生音をデジタルに加工していく工程まで、非常に手間がかけられていることに聴講者も驚きを隠せない様子だった。

『ドラゴンズドグマ』のモンスターの声の収録

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▲『ドラゴンズドグマ』のモンスターの声は、実際の動物の鳴き声がベースになっている。屋内で収録すると音が反響してしまうため、写真のように屋外での収録を行った。収録地はアメリカのワーナーブラザーススタジオ。アライグマの声が意外にも獰猛な感じで驚き!

『ドラゴンズドグマ』の鐘の音の収録

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▲こちらもワーナーブラザーススタジオ。街の中での鐘の響く音をリアルに再現するために、実際に周囲に建物がある環境で収録。

『ドラゴンズドグマ』の武器防具の効果音の収録

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▲毛皮の腰巻が擦れる音や抜刀の音、弓を射る音など、実物や使用されている素材を使って効果音を収録。

バイオハザート6』の敵“ナパドゥ”の効果音の収録

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▲ナパドゥは実在する生物に近いものがいないので、チューブや水枕を使ったフォーリー(スタジオで擬似録音された効果音)で効果音を乗せていく。

テーマ曲などのオーケストラ収録

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▲『バイオハザード6』のテーマ曲収録の様子。オーストラリアのシドニースコアリングオーケストラによる演奏。また、ジェイク編のラスボス曲は、作曲者のカプコン森本氏のどうしても躍動感を追加したいという要望を受け、あとからドラムの収録を別途行ったというエピソードも。
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▲埼玉・サンゼリア大ホール『モンスターハンター4』のテーマ曲の収録風景も、ソフト発売前に大公開!
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▲そのほかの、最近のオーケストラ収録実績も紹介。ゲームの世界観との親和性や、単純に大規模なオーケストラ収録は海外でないとできない場合がある、といった理由からさまざまな場所で収録が行われるとのこと。

世界を股に掛けるサウンドの仕事

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▲こちらは、中国での音素材の収録の様子。
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▲『バイオハザード6』では、ナンバリングとしては初の試みとして、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語の吹き替えに対応。これもサウンドチームの仕事だ。

ゲームならではのインタラクティブな音の鳴らし方

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 つぎに解説されたのは、収録した音を実際にゲーム中で使うときの“ならでは”の工夫。山東氏は「映画やアニメといったメディアは、情報の伝達としては一方通行。僕は常々話しているのですが、ゲームのいいところ、最大の魅力というのは、ボタンを押したら何かが起こる。ボタンを押したら音が鳴る、というところだと思います」と語り、まずは状況の変化による音の演出の違いを『バイオハザード5』と『バイオハザード6』を例に紹介。まず『バイオハザード5』では、主人公のクリスからパートナーのシェバに対して“こっちへ来い”といった指示が出せる。もちろんセリフを伴うのだが、当初はふたりとも無線機を付けているので、無線機を通した声でいいということだったという。しかし、カプコンサウンドチームは「近くにいるときに無線はおかしいだろう。仲が悪く見える(笑)」ということで、近くに居る時は生声、遠くに居る時は無線を通した声というように距離によってリアルタイムに切り替えるようにしたとのこと。

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▲近くに居る時は生声で会話。
▲下水道などでは、無線の声も反響して聞こえるように。

 そしてこの演出を踏まえたうえで、『バイオハザード6』ではさらにシーンの状況によって声のトーンを変えるという演出も取り入れたそうだ。カットシーンならともかく、ゲームプレイ中はプレイヤーがどこでキャラクターに声を出させるかわからないため、演出の手法としては大変だとのこと。しかし、これこそが山東氏のいう“ゲームならではの魅力”であり、妥協せずにチャレンジし続けているということだろう。

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▲静かなシーンでは落ち着いたトーン。
▲激しいシーンでは高いトーンになる。

 続いて、今度は『エクストルーパーズ』を例にまた違った演出を紹介。本作は“マンガチック爽快アクション”というジャンルの新規タイトル。このため、シリーズ物ではなかなか難しい新たな試みを取り入れていったとのこと。ゲームならではのインタラクティブなサウンド演出に徹底的にこだわり、BGMはすべてクラブミュージックを採用したそうだ。こういった取り組みについて、いくつかの例を挙げて解説された。ちなみに、曲はすべて北川氏の手によるもの。

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▲曲のスピードを上げることで時間制限が迫っていることを演出する手法は昔からあるが、『エクストルーパーズ』はクラブミュージックということで、ピッチを丸々上げてこの演出としている。
▲反対に、敵の攻撃で雪だるまになってしまったとき(何もできなくなり動きが遅くなってしまう)は、ピッチを下げてもどかしい気持ちを演出している。
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▲曲の音域を一部カット(フィルター)して、おなじ曲が流れているのだが、印象が大きく変わるという演出も紹介。例えば、プレイヤーが戦闘不能になったときに、高音域をカットすることで意識が薄れていく様を演出、復帰するとBGMが元に戻る。
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▲ワイヤーアクション時は低音をばっさりとカット。風の音を加えてスピード感を演出している。
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▲フィルターを使った演出の最たるものだという、室内に入ると低音がカットされる演出。さらに、併せて環境音は高音をカットするという複雑なことをしているとのこと。
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▲ゲームにはどうしてもロードが入ってしまうが、これを逆手に取って、ロード中からBGMや環境音を流してしまうという演出も。これは舞台の演出に近いもので、ロード=舞台転換、という考え方の置き換えで行ったそうだ。画面は、砂浜のステージへの移行シーン。
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▲ここで紹介した高音カットや低音カットは、なんとギャラリーモードのミュージックで特定の操作を行うと試すことができるという。説明書にも載っていない裏技だ。
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 また本作では“長尺の映像に対するBGM演出”という珍しい取り組みも行っている。これについて、本作の約10分に及ぶオープニングムービーを例に、北川氏が解説。どのようにして尺の調整を行っているか、展開のメリハリがつけられているか、といった手法が紹介された。ちなみに、ここまでに紹介されたような高音、低音のカットといった曲自体をイジる演出は、作曲者にいやがられることも多いというが、北川氏は「どんどんやってくれ」というタイプだそうだ。

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 そして本日のまとめとして“我々は音楽や効果音を作っているんじゃない! ゲームを作っているんだ!”というキーワードを提示。フィルターをかけるのもビッチを上げ下げするのも、すべてゲームプレイを楽しくするためにやっていることである、というカプコンサウンドチームの矜持が語られ、セッションは終了した。
 軽妙なトークとわかりやすい実例で、ゲームサウンドに興味を持てると同時に、カプコンサウンドチームの情熱をビンビンに感じられるこのイベント。機会があれば皆さんもぜひ足を運んでみて頂きたい。

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