カプコンのサウンドはどのように作られているのか
2013年8月11日、東京のアップルストア銀座店にて、カプコンサウンドクリエイターによるスペシャルイベントセミナー“カプコンサウンドの創り方”が開催された。ここでは、その模様をリポートする。本イベントは、2005年から開催されているもので、普段なかなか目にすることのできないゲームサウンドの制作現場を肌で感じることができ、カプコンのゲームサウンドへの知識を深めることが出来るというもの。
今回は、ゴールデンリールアワード最優秀音響編集賞を受賞した『バイオハザード6』や豪華声優陣を起用したマンガチック爽快アクションが話題となった『エクストルーパーズ』、人気のファンタジーアクション『ドラゴンズドグマ』シリーズなどの素材を使用し、カプコンのサウンドがどのように作られているのかを本編ゲーム映像、効果音素材の収録風景映像を合わせてプレゼンテーション。さらに、ゲームの魅力のひとつである“インタラクティブ性”について、山東善樹氏(カプコン サウンド開発室 サウンドディレクター)、北川保昌氏(カプコン サウンド開発室 コンポーザー)、岡田信弥氏(カプコン サウンド開発室 サウンドマネージャー)がわかりやすく解説した。
最初に、ゲームにおいてサウンドというものがどのように影響を与えているかを知るための実験映像が紹介された。使用されたのは『バイオハザード5』のカットシーン。これにカートゥーン調のサウンド、効果音を乗せたものと実際のゲームとが比較された。確かに前者は、「ポョ~ン、ポョ~ン」という足音など、シリアスなシーンにも関わらず完全にコミカル。実際のものとは大きく印象が違った。「このように、音楽によってまったく受けるイメージが変わります。今日は、こういったことをわかりやすく説明して、皆さんにゲーム音楽に興味を持ってもらえればと思います」(山東氏)。というオープニングで、セッションがスタートした。
効果音の収録は超ワールドワイド
では、ゲームのBGMや効果音はどのように作られているのか? これを、貴重な収録風景の映像を交えつつ、効果音の収録やオーケストラ収録などを例に紹介。アナログな生音収録から、生音をデジタルに加工していく工程まで、非常に手間がかけられていることに聴講者も驚きを隠せない様子だった。
『ドラゴンズドグマ』のモンスターの声の収録
『ドラゴンズドグマ』の鐘の音の収録
『ドラゴンズドグマ』の武器防具の効果音の収録
『バイオハザート6』の敵“ナパドゥ”の効果音の収録
テーマ曲などのオーケストラ収録
世界を股に掛けるサウンドの仕事
ゲームならではのインタラクティブな音の鳴らし方
つぎに解説されたのは、収録した音を実際にゲーム中で使うときの“ならでは”の工夫。山東氏は「映画やアニメといったメディアは、情報の伝達としては一方通行。僕は常々話しているのですが、ゲームのいいところ、最大の魅力というのは、ボタンを押したら何かが起こる。ボタンを押したら音が鳴る、というところだと思います」と語り、まずは状況の変化による音の演出の違いを『バイオハザード5』と『バイオハザード6』を例に紹介。まず『バイオハザード5』では、主人公のクリスからパートナーのシェバに対して“こっちへ来い”といった指示が出せる。もちろんセリフを伴うのだが、当初はふたりとも無線機を付けているので、無線機を通した声でいいということだったという。しかし、カプコンサウンドチームは「近くにいるときに無線はおかしいだろう。仲が悪く見える(笑)」ということで、近くに居る時は生声、遠くに居る時は無線を通した声というように距離によってリアルタイムに切り替えるようにしたとのこと。
そしてこの演出を踏まえたうえで、『バイオハザード6』ではさらにシーンの状況によって声のトーンを変えるという演出も取り入れたそうだ。カットシーンならともかく、ゲームプレイ中はプレイヤーがどこでキャラクターに声を出させるかわからないため、演出の手法としては大変だとのこと。しかし、これこそが山東氏のいう“ゲームならではの魅力”であり、妥協せずにチャレンジし続けているということだろう。
続いて、今度は『エクストルーパーズ』を例にまた違った演出を紹介。本作は“マンガチック爽快アクション”というジャンルの新規タイトル。このため、シリーズ物ではなかなか難しい新たな試みを取り入れていったとのこと。ゲームならではのインタラクティブなサウンド演出に徹底的にこだわり、BGMはすべてクラブミュージックを採用したそうだ。こういった取り組みについて、いくつかの例を挙げて解説された。ちなみに、曲はすべて北川氏の手によるもの。
また本作では“長尺の映像に対するBGM演出”という珍しい取り組みも行っている。これについて、本作の約10分に及ぶオープニングムービーを例に、北川氏が解説。どのようにして尺の調整を行っているか、展開のメリハリがつけられているか、といった手法が紹介された。ちなみに、ここまでに紹介されたような高音、低音のカットといった曲自体をイジる演出は、作曲者にいやがられることも多いというが、北川氏は「どんどんやってくれ」というタイプだそうだ。
そして本日のまとめとして“我々は音楽や効果音を作っているんじゃない! ゲームを作っているんだ!”というキーワードを提示。フィルターをかけるのもビッチを上げ下げするのも、すべてゲームプレイを楽しくするためにやっていることである、というカプコンサウンドチームの矜持が語られ、セッションは終了した。
軽妙なトークとわかりやすい実例で、ゲームサウンドに興味を持てると同時に、カプコンサウンドチームの情熱をビンビンに感じられるこのイベント。機会があれば皆さんもぜひ足を運んでみて頂きたい。