オンラインゲームは、いまや“当たり前のサービス”

 カプコンのオンライン専用ハンティングアクションゲーム『モンスターハンター フロンティアG』が、Wii U、プレイステーション3に移植されることが決定した。そこで今回は、カプコンのオンラインゲームを先導してきた小野義徳氏と杉浦一徳氏に、カプコンの見据えるオンラインゲームの現状と未来像を聞いた。
※この記事は、週刊ファミ通8月15・22・29日号(2013年8月1日発売)の記事に、掲載しきれなかった部分を追記したものです。

オンラインゲームの魅力を一般の人にも知ってほしい

カプコンの描くオンラインゲームの未来像【小野義徳氏&杉浦一徳氏インタビュー・完全版】_02
▲カプコン 執行役員・小野義徳氏(写真左)
カプコン CS開発統括 東京開発部部長・杉浦一徳氏

――まず最初に『モンスターハンター フロンティアG』(以下、『MHF-G』)を、Wii U、プレイステーション3へ移植することになった経緯から教えてください。
小野善徳氏(以下、小野) いちばんは余力、余裕ができたということでしょうか。ここ6年は『モンスターハンター フロンティア オンライン』(以下、『MHF』・★1)を続けてきたわけですが、オンライン専用ゲームを手掛けるのは、カプコンにとって初めての経験でした。
杉浦一徳氏(以下、杉浦) “ずっと走ってきた”という感覚がありましたね。
小野 5周年を迎えていたことさえ気づかないほどで、記念イベントの開催も過ぎた後でしたからね。「あ、5周年過ぎてた!」と(笑)。そんな中、ようやく「そろそろ移植できるかな」と思えてきたのと、サービスを始めた当初に比べて、オンラインゲームに対する認知度が上がり、一般の方が、ごくふつうにプレイしてくれるようになったことが大きいです。また、制作スタイルも確立して、市場的にも“いい雰囲気”ができてきたので、このタイミングならプラットフォームを増やしても問題ないだろうと思いました。
――オンラインゲームで対応ハードを増やすのは、かなりの大仕事だったのではないですか? たとえばWii Uなら、Wii U GamePad対応にする必要もありますよね。
小野 移植を決断したときはそう思っていましたが、じつはそこまでたいへんではなかったんですよ。オンラインゲームの場合、バージョンアップを3ヵ月に1回くらい実施するのですが、その“山”に比べると、それほどではなかったですね。「Wii Uで動くようになりました」と言われて開発現場に見に行くと、本当にもう動いているし、スタッフからも「作るのはたいへんでした」という声は聞かなかったです。もしかしたら、誰かが僕の耳に入らないように止めていただけなのかもしれませんが(笑)。
――制作に慣れてきたということですが、どういった部分でそう感じたのですか?
杉浦 Xbox 360という家庭用ゲーム機でサービスを提供する経験値を積んだことが、自信につながりました。Xbox 360版のときは、どうしても動かなかったり、フリーズしてしまうという不具合も起こりました。PC版なら、再起動や再インストールという改善策も取れますが、Xbox 360は家庭用ゲーム機ですから、動作上の不具合が起きているお客様にやっていただける対策は、ゲームディスクを入れて、インストールし直していただくぐらいになってしまいます。けっきょくどのように改善策をご案内したかというと、Xbox 360の外付けハードディスクを用意し、あらかじめ『MHF』をインストールしてお送りしました。そういった、ある意味なりふりかまわない発想や姿勢でサービスに当たってきたので、もしWii U版やPS3版で何かトラブルが起きたとしても、その経験が活きると思います。
――Wii U、PS3で発売するにあたり、期待するのはどんなことでしょうか。
小野 とにかく、オンラインゲームに触れる人を増やしたいんですよ。そこで、まずは皆さんになじみのある『モンスターハンター』からオンラインゲームに入ってもらい、「オンラインゲーム“も”おもしろい」と思ってもらいたいわけです。そういう経験をしてもらうには、プラットフォームを広げていくことが必要になってきます。それぞれのハードごとに、ユーザーコミュニティーがありますからね。
――オンラインゲームについて、ゲーム業界の認識や環境が変わったという印象ですか?
小野 プレイステーション2で“BBユニット”(★2)を使ってオンラインに接続していたのは、かなり限られた人たちでした。それから、PS3やXbox 360が発売され、いまやオンラインに“つなぐ”ということが、ほぼ当たり前になっています。また、オンラインで決済したり、デジタルコンテンツを入手したりする機会も多くなり、オンラインやネットワークというものに対する抵抗はかなり少なくなりました。一般の認識も、この5年くらいで劇的に変化したと思うんです。パブリッシャーやユーザーの意識だけではなく、市場や世界全体の流れがそうなってきたのだと思いますね。

<Keyword>
★1・『モンスターハンター フロンティア オンライン』……2007年にPC、2010年にXbox 360でサービスがスタートした、オンライン専用ハンティングアクション。4月17日に待望の“G級”が解禁となり、『モンスターハンター フロンティアG』としてサービス中。
★2・BBユニット……PlayStation BB Unitのこと。プレイステーション2でオンラインゲームなどをプレイするために必要とされた周辺機器。

カプコンの描くオンラインゲームの未来像【小野義徳氏&杉浦一徳氏インタビュー・完全版】_05
カプコンの描くオンラインゲームの未来像【小野義徳氏&杉浦一徳氏インタビュー・完全版】_01
▲Wii U、プレイステーション3版の発売も決定したオンライン専用タイトル『モンスターハンター フロンティアG』。

中国版『モンスターハンター』は、中国に合った開発を

カプコンの描くオンラインゲームの未来像【小野義徳氏&杉浦一徳氏インタビュー・完全版】_03

――中国の『モンスターハンターオンライン』(★3)は、どういった位置づけなのですか。
小野 いつか聞かれると思っていました。もちろん、まがいものなどではなく、カプコンと中国のテンセントの共同開発による、『モンスターハンター』ブランドで展開するオンラインゲームです。オンラインゲームとは何かというと、“サービス”です。それは、その国や状況に合った“カルチャライズ”をすること。逆に、日本で展開することになったとしても、今度は日本に合うサービスに切り換える必要があるし、日本のプレイヤーが好きな『モンスターハンター』に変えないといけないんです。ローカライズしただけとか、グラフィックをHD化しただけのものではないというのは、皆さんにお伝えしておきたいです。「いつ日本でもプレイできるのだろう」と期待している方がもしいらっしゃるとすれば、その期待を裏切ることになりますが、「ない」です。
杉浦 ベースは『MHF-G』なので、我々『MHF-G』チームが協力しています。PVが公開されていますが、映像だけでは違いは感じないかもしれません。ただ、中国に最適化したものとして開発が進んでいますので、日本のハンターの皆さんからすると「アレ?」と感じる部分があるかもしれません。もっと情報が公開されてくれば、いま言ったことも理解してもらえるのではないかと思います。
――中国での展開となると、相当数の方がプレイされることになりますね。
小野 テンセントという会社は、中国のオンラインゲームに関してはナンバーワンです。同時接続人数の話をしたとき、「何百万人」という単位でした(笑)。こちらは「何万人」ですからね。さすが人口13億人の国だと再認識しました。
杉浦 テンセントは、オンラインゲームの運営から成長した会社なので、テンセントでうまくいかなかったら、ほかの会社でも無理だろうと思っています。

納得できるサービスを提供し続けるのが“カプコン”らしさ

カプコンの描くオンラインゲームの未来像【小野義徳氏&杉浦一徳氏インタビュー・完全版】_04

――最近は、家庭用でも増えてきたF2P(Free to Play)については、どうお考えですか?
小野 それも“サービス”なので、きびしい言いかたをすると、たとえ無料でも、お客様が納得しなければ続かないんです。逆に、月額6800円かかるとしても、その価値を納得してくれれば続けてくれるわけです。我々は、そのサービスに合うものを提供して、評価されれば続けていけるし、評価や納得されなければ、そこは変えなければいけないということです。たとえば、配信したばかりのクエストがあまりプレイされていなかったとすれば、それはお客様にマッチしていなかったのではないかと、提供する側もすぐわかるような時代になりました。
――オンラインゲームにおける、“運営の極意”とは?
杉浦 締めのような、究極の質問ですね(笑)。僕は“お客様を納得させること”だと思っています。納得していただけるのであれば、どういうやりかたでもいいと思います。スタッフにも言っているのですが、仕様やシステムを変更する際には、結論として「お客様が納得する説明ができる」ならやればいいし、どんなに正しいこと、こちらに理があったとしても、お客様が納得しないのであれば、それはNGです。納得してもらえる大義名分があれば、運営はキチンとできるという話をしています。いろいろとお叱りを受けている件というのは、やはり納得されていないのであって、そこは反省しています。
――イベントの開催など、臨機応変に対応されていてすばらしいと思います。
杉浦 6年運営してきて、臨機応変にやるしかないというのは、これまでも小野が強く提唱していますし、それがコンシューマにないスピードなのだろうと思います。
――新世代機発表を受けて、カプコンが描くオンラインゲームの未来像は、どんなものですか?
小野 当たり前だと思っていることが、当たり前にできるようになることではないでしょうか。“アーケード待ち受け”(★4)も、アーケードゲームでは当たり前のことです。今後、タブレットを使いながら、コントローラでゲームをプレイするのが当たり前になるなら、それも取り入れていけばいいと思うんです。ゲームでも、ふだんの生活で当たり前のことを、当たり前にできるように取り入れていこう、ということです。
――先に技術ありき、ではないと?
小野 オンラインゲームはこんなにおもしろいのに、10年前はここまで普及していませんでした。それは、当時は“当たり前”ではなかったからなんです。そういった“当たり前”を、ゲームの中のサービスとして提供するだけのことではないか、という感覚ですね。
杉浦 いま作っているゲームの中には、提供するデバイスを気にせずに作っているものもかなりあります。ハードの垣根はなくなっていくのが当たり前なんです。今後は、デバイスを気にせずに、当たり前にそのソフトのサービスを受けることができるようになると思います。
――オンラインゲームにおける“カプコンらしさ”は、どういった部分にあるとお考えですか?
小野 オンラインゲームは、とんがりすぎてもダメで、プレイヤーと目線を同じにして、ずっと続けてもらえるものをサービスすることが大事です。そのサービスというのは、ゲームに込められたメッセージなのか、バグをなくすことなのか、はたまたアイテムやコンテンツを増やすことなのか。それは、そのときどきのお客様の反応を見て決める。それらを“カプコンイズム”と呼ぶのではないでしょうか。
――最後にファンへメッセージをお願いします。
杉浦 これから、『MHF-G』以外の新作タイトルも多数リリースします(★5)。それらは、今後本腰を入れて、いろいろなオンラインゲームを出していきますという、カプコンからのメッセージです。“カプコンらしさ”を失わないようにしながら、どんどんリリースしていきたいと思っています。
小野 カプコンがオンラインゲームを作り続けてこられたのは、『MHF-G』のハンターの皆様のおかげです。もう、感謝するしかありません。そのお返しは、おもしろいゲームを出していくことだと思いますし、ひとりでも多くの方に提供するためにも、ハードの垣根なくやっていきたいと思います。もし、まだオンラインゲームをプレイしたことがなければ、まずは『MHF-G』から始めてほしいと思うくらい、力を入れて準備していますので、楽しみにしていてください。

<Keyword>
★3・『モンスターハンターオンライン』……中国の大手パブリッシャーであるテンセントが、カプコン監修のもと開発している、中国向けの完全新作ゲーム。現在はベータテストが行われている。
★4・アーケード待ち受け……PS3、Xbox 360版『ストリートファイターIV』などに搭載されているシステム。ひとりプレイ中でも、この機能を有効にしていると、オンライン上で対戦相手が出現した際、自動的にオンライン対戦に切り換わる。
★5・オンラインタイトルも多数リリース……8月1日、“カプコンネットワークゲームカンファレンス”を開催し、カプコンのオンラインゲームブランド“カプコンオンラインゲームズ”のタイトルを14本一気に公開した。以下、発表会での発表タイトル。
・Wii U版、PS3版『モンスターハンター フロンティアG
・アジア版『モンスターハンター フロンティアG』(『魔物獵人MONSTER HUNTER FRONTIER G』)
・『鬼武者Soul』マルチデバイス展開(スマートフォン版、コンシューマ版)
・『百年戦記 ユーロ・ヒストリア』(PC用ブラウザゲーム)
・『モンスターハンター メゼポルタ開拓記』(PC用ブラウザゲーム)
・『ストリートファイター バトルコンビネーション』(スマートフォン用カードバトル)
・『モンハン 大狩猟クエスト』(スマートフォン用カードバトル)
・『ストリートファイター×オールカプコン』(スマートフォン用育成RPG)
・『モンハン いつでもアイルーライフ』(スマートフォン用ゲーム)
・『大航海フロンティア』(スマートフォン用RPG)
・“rio(仮称)”(ソーシャルゲームの新規プロジェクト)
・『deep down』(プレイステーション4)
・『ブレスオブファイア6 白竜の守護者たち』(スマートフォン、タブレット、PC用オンラインRPG)