世界がこの物語を待っている

『rain』コアスタッフインタビュー 世界への挑戦、遊びありきのゲーム作り【特別企画第1回】_16

 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)より配信予定のプレイステーション3用ダウンロード専売タイトル『rain』。その幻想的な世界観と”プレイヤーキャラクターが見えない”という一風変わったゲーム性で注目を集める意欲作だ。本記事は、この『rain』の魅力にさまざまな角度から迫る特別企画の第1回。ここでは、コアスタッフへのインタビューをお届け。企画立ち上げの経緯や開発秘話、物語の作り方など、さまざまな角度からお話を聞いている。(TEXT:ファミ通.com編集部 佐治キクオ)

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ディレクター
池田佑基氏(文中は池田)
アートディレクター
寺島誠一氏(文中は寺島)
メインプランナー
藤井知晴氏(文中は藤井)
デザイナー
大木友和氏(文中は大木)

ワールドワイドに挑戦できる作品を

――1年前の発表以降、注目度は高まるばかりの『rain』ですが、改めて本作のコンセプトをお聞かせください。
池田 プロジェクトの目標として掲げたのは、「プレイステーション3のダウンロードタイトルで世界に挑戦できるものを作ろう」というものでした。そして、『LIMBO(リンボー)』や『BRAID(ブレイド)』など、すごくおもしろい、クォリティーの高いタイトルがどんどん出てきているなかで、そこで目を引くものと考えたときに、すごい設定とか、新しいシステムを例え考えついたとしても、説明するのが難しくなって伝わりにくいのではないかと思いました。そこで、シンプルに、誰もが持っている感覚を刺激できるものを目指す方向で企画を考えていました。そうしたなかで出てきたアイデアが”見えるものを操作する”というゲームの一般的な形を崩す、”見えないものを操作する”というものでした。これなら、わかりやすくインパクトがある。ですが、5秒くらい考えたらわかるんですけど、それだけだとゲームにならない(笑)。そこで、条件付きで見えるときがある、その条件は”雨にあたる”ことにしよう、といった感じで軸となる部分を考えていきました。

――日本も含めた世界で勝負する、というのは最初から意識されていたんですね。
池田 そうですね。配信型のタイトルですし、北米や欧州には大きな市場がある。世界中で、広く皆さんに遊んでもらいたいという気持ちがありました。

――”雨”という条件はすんなりと決まったのですか?
池田 決まりましたね。正直、砂とか雪とか何でもいいんですけど、世界へ挑戦すると考えると、雪なんかは降らない地域も多いですし、雨なら誰にでもわかりやすく実感してもらえるだろうと。

――順番として、操作キャラクターが見える見えないというゲーム性のコンセプトがあって、そのわかりやすい見せ方として”雨”という要素が出てきたんですね。
池田 はい。よく「最初にストーリーから考えたんですか?」と聞かれるんですけど、全然そんなことはなくて。まずゲーム性があって、それをよりよく見せるためのストーリーだったり舞台設定だったりを考えて行きました。
寺島 作り方として一般的かどうかはわからないですけど、ゲームの仕組み、”遊び”の部分がありきで、その遊びをより楽しんでもらえるように物語や設定、マップなどを入れていきました。
藤井 実際の作業に入ると、ランドマークと呼んでいる印象的な建物などをどんどん作っていって、そこに遊びを入れて行く場合もありましたね。
池田 ほぼ同時進行ですね(笑)。まとまらなかったどうするんだ、という不安点はありますが、比較的少人数で制作しているので、そういうやり方ができたのかなと思います。

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――世界への挑戦、そしてダウンロードタイトルというキーワードで言うと、『風ノ旅ビト』の大ヒットが記憶に新しいです。皆さんはどう見られていますか?
池田 素直に羨ましいですね。
大木 嫉妬しちゃうというか(笑)。
寺島 お手本ですよね。先ほどの物話とゲーム性の話で、『風ノ旅ビト』は言語フリーな感じがあるじゃないですか。物語がどうこうというよりは、その都度その瞬間に進んでいく気持ちよさがある。基本的にはスタートからゴールまで行くという以上のものはないんですけど、ステージの雰囲気があまりにもいいので、プレイヤーが勝手にストーリーを見出してしまうという。そういう部分は影響を受けていますね。
池田 みんなかなり影響を受けやすいんですよね。例えば、『ゴッド・オブ・ウォー』や『アンチャーテッド3』、『The Last of Us(ラストオブアス)』を見て、「最先端はここまでやってるのか~。よし俺たちも」となっちゃう(笑)。
寺島 なんか、ああいう風にしないといけないのかな? って(笑)。
大木 「背景もっと増やしましょう」とか。
池田 「ここ草が少ないんじゃない?」とか(笑)。

――(笑)。開発規模で言うと『rain』はいわゆるAAAタイトルと比べると小さいと思いますが、それでも影響を受けると、いろいろと入れていってしまう?
池田 開発の規模って、ユーザーにとってはあまり関係ない話で、300人で作ってるからそっちのほうがスゴイというものではないじゃないですか。あくまで並べたときにどう評価されるかだと思うんです。今年のE3のSCEカンファレンスで『rain』は、『The Last of Us(ラストオブアス)』、『パペッティア』と同じタイミングで映像を流してもらえました。やはり、まずはSCE内でもそういったタイトルと並べても遜色がないと思ってもらえるように作るという気持ちでやってきたので、その部分は達成できたのかなと思っています。

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物語の読後感はどんな感じ?

――では、現時点では『rain』の要素でもっとも気になっている方が多いであろう、物語についてお聞きします。先ほど遊びありきで考えていったというお話がありましたが、どのように作られていったのでしょうか?
池田 大きいテーマとして”迷子”というものを掲げています。姿を失った少年、少女、道を見失う、方向感覚がなくなってしまう、というものを掛け合わせて、これがストーリーを作る上での指針ですね。そして、物語ですが、基本的にセリフもない、登場人物も極めて少ない。また、ファンタジーに見られがちですが、ファンタジックな要素をどんどん入れていくということはしていません。極めてシンプルです。意識したのは、ひとつのステージの中で、そして全体を通して、プレイヤーに感情の起伏ができるような形です。それに合わせてストーリーが展開するように考える。なので、ストーリーはかなり後のほうにできてくるという作り方でした。

――ゲームコンセプトの一部として、より遊びを盛り上げるためにストーリーがあるという形なんですね。
池田 そうですね。これは先ほどの開発規模という話にも関わってきて、じゃあまず誰かがストーリーを考えます、とやると、ほかのスタッフがほとんど動きだせないわけです(笑)。それでは困るわけで、やはり同時進行が望ましい。システムが決まればマップデザインができる、その作り込みもできる、そういったパーツがあれば、ストーリーを考えるベースにもなる、というスタイルですね。
寺島 どちらがいいというものではないですが、何もないところから素晴らしいストーリーを生み出すというのも簡単なことではないですし、ストーリーありきになると、入れたい遊びの部分に制限が出てきてしまうこともありますからね。

――物語の内容についてもお聞きします。まず、少年と少女以外のキャラクターは登場しますか?
大木 登場しませんね。ほかに重要なキャラクターとして怪物がいますが、その三者だけです。

――怪物の立ち位置というのはどのようなものなのでしょう?
池田 すべてをお話することはできませんが、単に少年と少女に対する敵という存在ではなく、物語に関わる秘密を持っています。

――”雨”はやはりストーリー的にも大きな意味を持っている?
池田 そうですね。常に降り続いている点など、雨には雨の存在意義や役割があります。

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――詳しい内容、結末はまだお話しできないと思いますが、物語の読後感としてはどういった類のものになっていますか?
池田 いやな感じはまったくないです。痛みが心に残るようなダーク系ではないですね。
大木 ひとことで言えば”明”でしょうか。
藤井 最後は、気持ちよくコントローラを置いていただけると思います。
寺島 個人的には”救われない系”も好きですが、『rain』に関してはそういうものはないですね。

誰もが楽しめる難易度調整

――ゲーム部分を作っていく際に、強く意識されたことなどはありますか?
池田 いわゆるステルスアクションってあるじゃないですか。最初は、そういう方向で今回のコンセプトをフィットさせていけば、受け入れられるものになるんじゃないかと考えました。ただ、開発初期はアクション要素を強めに作っていたんですけれど、それだとやっぱりスゴく難度が高いゲームになってしまうんです。パッと見そういう雰囲気のゲームではないのに、難度が高すぎるとかなりの人が折れてしまうだろうと。そこで、難度を下げていったのですが、その過程で、探索やギミックを使って進んでいくアドベンチャー要素を強めました。そうすることで、ステルスでマップを進んでいくある意味気持ちが抑えられるような感覚から、解放される場面が出てくる。そうやってプレイヤーに気持ちの起伏を持ってもらえるようにしています。

――総合的なゲームの難度としては、どのくらいのレベルのものになっていますか?
池田 テストの結果を見ても、いわゆるライトな層からコア層まで、幅広く楽しめるものになっています。自分たちで言うのもアレですが、絶妙な調整になっていると思いますよ。
藤井 最初のテストでは誰もクリアーできなかった、という状態からスタートしたのですが、調整にはとても苦労しましたね。開発を始める際に改めてステルスアクションというものを勉強し直して、そこに含まれる要素をピックアップしていたのですが、実際に作り始めると、”プレイヤーキャラクターが見えない”というのがひとつ入るだけで、成り立たないものが多いんです。例えば物陰に隠れるという行動はステルスアクションの基本ですが、そもそも自分が消えているから物陰の意味がない(笑)。ジャンプひとつとっても、自分が見えないことで踏み切り位置がわからないとか。そのままだと難度が異様に高いのは当然で、それらの要素をひとつひとつ潰していく作業でした。最終的には「ジャンプの仕方がわからない」というようなテストプレイヤーの方もなんとかクリアーできるものになったのでホッとしています。やはり、遊んでいただいた方すべてに、物話を最後まで見てもらいたいですしね。また、”キャラクターをキーやアナログスティックで動かす”、”ジャンプは対応するボタンを押す”といったゲームの基本文法というのは、昔からのゲームファンであれば『スーパーマリオ』などで覚えて来ているところですよね。ですが、もちろんそういう経験がない人もたくさんいます。『rain』がそういう人の『スーパーマリオ』になれたら嬉しいですね。

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――『rain』は大きな枠で言うと3Dアクションに分類されると思いますが、固定視点というのは最近では珍しいですよね。
大木 固定視点だと、ひとつの場面を映える画角で演出しやすいんですよね。カメラの寄り引きなども意図的に使えますし。見える部分が決まっているので、マップやオブジェクトの作り込みをしやすい利点もあります。
藤井 一番映える視点を作り手側が提示できるという部分ではよかったですね。
池田 ですが、実際にやってみると、FPSやTPSのようにプレイヤーに視点操作を委ねるというのは、実に理に適った方法だと実感しましたね(笑)。ちょっと数えてみたんですけど、『rain』では全部で300個くらいの動くカメラがステージに置いてあるんですよ。当然ですがひとつひとつ全部に調整が必要になるわけです。カメラワークだけでなく、シーンが移る時のカメラの切り換えなどなど。固定視点はカッコイイ演出はしやすいんですけど、カメラをきちんと調整しないと、すごく遊びにくくなっちゃうんです。ましてや『rain』ではキャラクターが見えない時がある。制限やストレスというのは解放感や充実感との兼ね合いで必要ではありますが、理不尽に感じるものではいけませんから。カメラに関しては非常に細かく調整しましたね。

――『rain』はステージの作り込みにもこだわりを感じます。
寺島 物量的な作り込みと言うよりも、『rain』の世界には人も居ない、煙突から煙が出ていたりといった生活感もない、ましてやあたりで爆発が起きていたりするわけでもない、という中で、それでもその世界の中に確実に町が実在しているとプレイヤーに感じてもらえるように力を入れています。
大木 固定視点なので、場面場面で見どころを作りやすいという利点を活かして、作り込んでいますね。場面ごとにストーリーを付けようよ、と。ただコピペで物が置いてあるのではなく、ここは裏路地だからこういうものがある、ここは大通りだからこういうものがある、というように。ですので、置いてある小物なんかをボーッと見ていても楽しいと思います。ただ見ているだけでも楽しい世界というのは、テーマのひとつですね。
藤井 僕たちの中で”町力”と呼んでいる部分ですね(笑)。
寺島 ”町力”を高めるように作り込むという(笑)。

――雨の降り続く世界というと、どうしても悲しい雰囲気や暗いイメージがありますが、ゲーム画面を見るとすごく暗いということはないですよね。
寺島 夜と雨と迷子の少年少女、という要素だけ見るとネガティブな導入なので、画作りでホラーっぽくならないように気を付けましたね。
池田 真っ暗になっちゃったりとか、そういうのはやめようと決めていました。暗いところにはちゃんと明りが灯っていて、見にくい、わかりにくいということもないように。その結果、夜なんだけど暗くない、幻想的な世界になったんじゃないかと思います。
寺島 ゲーム性的にも、足跡が見えないとか怪物が見にくいとなってしまうと精神的なストレスを感じてしまいますし、視認性の高さという部分はすごく意識していますね。

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――登場する怪物は何種類いるんでしょうか?
池田 数種類いますが、それぞれ能力や役割が違って、ゲームプレイに絡んできます。見える見えないの遊びということで、見る対象がいるわけですが、それが本作では少女と怪物になります。ある怪物が何かを見ると、こういう反応をする、違う怪物が同じものを見たときは、こういう反応をする、といった特性を絡めて、ギミックなどのデザインをしています。

――デザインも特徴的ですね。
大木 最初は、マッチョないかにもモンスターという感じのデザインだったのですが、世界観に合わせて“不安な影”のようなイメージにしようということになり、いまの形になっています。
池田 彫刻っぽくしようという話もしましたね。

――怪物の種類というのは、どのようにして決まったのでしょうか?
大木 候補は多くありましたが、それぞれの個性を際立たせたいということで、レベルデザインの段階からゲームへの関わり方をきちんと設定していった結果、種類も絞られていきました。
寺島 細かい変化で種類を増やしても、ゲームが複雑になるだけ、という面もあります。例えば、少し足が速いだけで別の種類の怪物、とすることに大きな意味はないだろうと。
池田 ゲームの世界観的に、怪物の色を変えて違う種類だと認識させることができなかった、ということもありますね(笑)。
藤井 かといって、角を生やしてこれは攻撃力が高い個体……ってそういうゲームでもないですしね(笑)。収録されている種類でもまだ多かったかな、と考えているくらいです。しっかりと遊びを持たせたものにして、それを大事に出していくということを目指していましたので。常にワラワラと怪物が襲いかかってくる、というゲーム性だったら違ったかもしれませんが。せっかくの世界なので、余裕を持って迷子になりたいという要望もありましたし、要所要所で緊張感を出すために怪物が出てくる、という形に落ち着きました。

――お話を聞いて、ますます期待が膨らんできました。最後に、本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
池田 だいぶ前から”しっかり作る”段階に入っていまして、いまは最終的な仕上げをしているところです。これからどんどん情報も出てくると思いますので、楽しみにお待ちください。
寺田 ゲーム性やビジュアルだけでなく、音楽もいいものになっています。ブラリと散歩に出かけるような感覚で遊べるゲームだと思いますので、あまり構えずに遊んでみていただければと。
藤井 透明なキャラクターを操作するという、新しいゲーム体験を楽しんでいただけたら嬉しいです。
大木 気負わずに楽しめるゲームですが、細かな部分までしっかりと調整しているので、そういった部分にも注目していただければと。キャラクターも可愛がってあげてください。

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