週刊ファミ通のニュースページ“エクスプレス”にて連載中の、ゲームに関連した著名人へのインタビューコーナー“Face”。誌面スペースの都合などからカットした部分を網羅した完全版を、ファミ通.comでお届け! 今回のゲストは、声優の山寺宏一(ヤマデラ コウイチ)さんです。

今週のお題

The Last of Us(ラスト・オブ・アス)

プレイステーション3
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア
6月20日発売 5980円[税込]

謎の寄生菌によって崩壊した世界でくり広げられる、サバイバルアクションゲーム。プレイヤーは、感染を生き延びた中年男性のジョエルと、14歳の少女エリーを操作して、暴徒化した生存者や“インフェクテッド(感染者)”らに立ち向かっていく。過酷な世界を生き抜くふたりの絆に注目だ。

きっと歴史に残る作品になります

声優:山寺宏一(やまでら こういち)
1961年生まれ。宮城県出身。声優だけではなく、俳優、ナレーター、司会者など、幅広く活動している。2009年、第3回声優アワード・富山敬賞を受賞。MBS・TBS系列で放送中のテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199 』に、アベルト・デスラー役として出演している。

——本作のオファーが来たときの心境を教えてください。
山寺 お話をいただいたときに、「ゲームというより、映画のような作品のつもりで演じてほしい」というリクエストをいただきました。それで実際に映像を見たら、ものすごく綺麗で、ストーリーもロードムービーのような趣があって、本当に映画のような作品だったのです。ぜひやりたいと思いました。

—— ジョエルは、山寺さんから見てどんな男性ですか?
山寺 最初は、主人公だし正義感が強くて、熱くもあり冷静でもあり……という人物を想像していたのですが、実際に見たら違っていました(笑)。もちろん、もともとはふつうの家庭を持つよき男性だったと思うのですが、感染が発生して、荒廃した世界でいろいろなことを経験していくうちに、単純に“いい奴”として括れる男性ではなくなっているんですよね。僕から見ると、こういう複雑な部分を抱えているほうがやり甲斐があるので、おもしろいなと思いました。

—— 演じるうえで気をつけた点、苦労された点はありますか?
山寺 英語版は、モーションキャプチャーをつけた役者さんがそのまま声も演じているので、表情と声が完璧に合っているんですね。それなのに、「吹き替え版は声がちょっとずれているね」と言われたら悔しいじゃないですか。ですから、英語版の声の“波形”に合わせることで、極力動きなどを再現してみました。「最初から日本語用に作られたゲームなんだな」と思ってもらえたらうれしいですね。

—— “波形”というのは、音の高さや大きさなどを表した波状の図のことですよね。英語音声の波形を見て演じられていたのですか?
山寺 そうです。ゲームは映画などと違って、ほかの声優さんがいないところでひとり、バラバラのセリフを録っていくんですよ。そして、ほとんどのセリフは文字だけで演じなければいけない。日本のゲームであれば自分の声に合わせて作ってもらえるのですが、先ほど言った通り、本作は声と人物の動きが完全にマッチしているんですね。収録では、とにかく英語音声に合わせて演じたのですが、音を聞いただけでは記憶しきれない。そこで、今回は“波形を見ながら演じる”ということを試みました。声の大きさや長さ、スピードの波があるのですが、そこにカラオケの歌詞のように日本語を乗せていくんです。タイミングだけでもダメですし、声の大きさだけでもダメ。感情もちゃんと入っていないとダメなので、たいへん難しかったですね。途中、スタジオで「俺、こんな難しいこと、二十数年声優やってて初めてだ!」って叫んでしまいましたよ(笑)。水の中に潜るシーンも、絵が一切ない。だから、どの瞬間で水に入ったのか、息を吐いたのか、すべて波形に合わせなくてはいけないんです。音だけを聴いていると声が遅れてしまうので、タイミングもすべて把握して臨まないといけないんですね。

—— 完全に職人芸の域ですね。
山寺 そうですね(笑)。目の前に本当にジョエルがいるように感じられるほうが、プレイしている方にとっては楽しいじゃないですか。また、この作品は映像といいストーリーといい、すべてが緻密に作り込まれているので、そこで声だけがいい加減だったらもったいない。ですから、妥協せず、難しさに叫びながらもがんばりました。

――細かいと言えば、BGMや効果音、ゲーム中の息遣いまでもが、本当にこだわられていますよね。
山寺 じつは、収録で一番難しかったのがゲーム中の息遣いでした。本作では、世界をリアルに感じてもらうために、最低限の音しか入れていないんですね。そのぶん、ちょっとした息遣いも目立つんです。その部分もすべて波形を参考に演じましたが、映画の吹替えでは絶対にやらないことだったので新鮮でした。本当にデジタル技術さまさまです(笑)。そして、僕もそうとう時間をかけましたが、映像を作った海外スタッフや音を調整した日本スタッフは、もっとすごい時間をかけているんですよ。何人か倒れてもおかしくないぐらいだったと思います。「そこまでやる必要あるのか!」というほどこだわっていますね。顔のシミのひとつひとつに、ジョエルが重ねてきた苦労などが染み出ているのがわかります。だからこそ、作品に深みや重みが出るのだと思いますね。遊ぶときには、ぜひその部分も注目していただけたら。

――そのほかの見どころを教えてください。
山寺 ムービーシーンと通常のアクションシーンの移り変わりがとてもリアルなので、より深い没入感が楽しめると思います。また、エリーとジョエルの関係がどうなっていくのかは見どころですね。エリーといっしょに行動していくうちに、ジョエルの中でいろんなものが変わっていくので、その変化と、結末を楽しんでほしいです。

――本作では“衝撃の結末”が待っているとのことですが、ジョエルの“最後の行動”を、山寺さんはどう思われますか? また、山寺さんだったら、ジョエルと同じ行動をとると思いますか?
山寺 詳しく語るとネタバレになってしまうのですが、ラストは「えええ!?」と思いました。僕だったらどういう行動をとるかは……難しすぎて考えるのをやめました(笑)。もう、そこまでいくと理屈ではないのだと思います。生きている人の数だけ答えがある。皆さんも、ぜひ自分の目で確かめて、自分の答えを見つけ出してほしいですね。

—— それでは、最後に読者へのメッセージをお願いします。
山寺 かなり緊張感のある作品ですが、そのぶん達成感もひとしおですし、僕もきめ細かく演技させていただきました。本作に、どっぷりつかって楽しんでいただければと思います。そして、自分だったら最後にどうするかを考えながら、結末に向かってがんばってほしいですね。きっと歴史に残る作品になると思いますので、迷っている方はぜひプレイしてみてください。深くて切ないテーマを感じ取っていただけたらと思います。