米時間の6月11日から13日にかけてロサンゼルスで行われたE3 2013。今年は据え置きの次世代機が2機種控えているということもあり、連日大きな盛り上がりを見せた。
 本誌でも数多くのニュースをお届けしてきたが、ぶっちゃけて言ってしまうと、気になったもの以外まで全部をフォローするのは正直厳しい量(ガッツのある人は一覧からどうぞ)。というわけで今年は何が来ていたのか、手っ取り早くトレンドだけを探る総括的な記事をお届けする。

オープンワールドが増えた理由

 今年のE3での各社の発表で目立ったのが、オープンワールドタイトルだ。開幕前日に行われたマイクロソフトカンファレンスでKONAMIの『METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』が冒頭を飾ったのに始まり、カプコンは『デッドライジング3』を発表。ポーランドのCD Projekt REDのオープンワールドRPG『Witcher 3』も映像が流れた。

 以降の各社カンファレンスでも、エレクトロニック・アーツはオープンワールドRPG『Dragon Age: Inquisition』を、Ubiはレースゲーム『THE CREW』とオープンワールドRPG『Tom Clancy's The Division』が、ソニーのカンファレンスではワーナーからオープンワールドアクション『Mad Max』などが発表されている。
 これ以外にもすでに発表されているタイトルとして『バトルフィールド4』、『ニード・フォー・スピード ライバルズ』、『アサシン クリード4』、『Watch_Dogs』といったタイトルの続報が出ているのだが、キリがないのでタイトル名を挙げるのはこの辺にしておこう。とにかく、世界中のスタジオでオープンワールドゲームが作られているのだ。

 こういったタイトルのすべてが次世代機向けというわけではなく、現世代機とのマルチプラットフォームタイトルになっているものも多いのだが、今年これだけ発表が集中した背景のひとつとして、次世代機の処理能力や豊富なメモリーなど、マシンパワーの向上があるのは間違いないだろう。
 というのも、オープンワールドは、とにかく物量を用意し、優秀なエンジンでゴリゴリと処理すれば、一応はハイエンドなグラフィックによる没入感のある世界を提示できる。もちろんゲームのメカニズムの進化やタイトルの特色となる捻りも必要だし、それこそが肝心だが(ロックスター・ゲームスが『レッド・デッド・リデンプション』で荒野を意味がある世界に見せるのにどれだけ細かい仕組みを盛り込んでいたか思い起こされたし)、これまでの蓄積をうまく応用した上で、これまででは難しかった次世代のゲーム世界を作れるというのは、次世代へのファーストステップとしては悪くない。

 オープンワールドは、グラフィックの進化ほどにはそれほど変わっていないゲームにおけるナラティブ(物語表現)の限界を超える上でもそこそこ有効な手段である。もし書き割り感のある会話や行動しかしないNPCでも、オープンワールドで動いていれば、とっとと次に目が移って気にならなかったり、NPC同士の相互干渉(例えば『フォールアウト3』でレイダーとクリーチャーが勝手に戦うとか)により“生きた世界”の奥行きを感じたことはないだろうか?
 何かとてつもないAIやセリフ選択の仕組みなどが開発されるまでは、同じ書き割り感のある世界ならばオープンワールドで圧倒的な世界を用意して没入感を高める……といったような選択が続くのかもしれない(もちろん、今回例に挙げているようなタイトルはすべて一級品のストーリーテリングを目指すタイトルであり、どれがナラティブが弱いといったようなことではなく、単にオープンワールドの仕組みが補強する部分が大きいというだけである)。

欠かせない優秀なゲームエンジン

 しかしすでに書いたように、次世代にふさわしいフォトリアル(写真のような現実感)でビリーバビリティ(もっともらしさ)がある世界をオープンワールドとして見せるためには、優秀なゲームエンジンが必要だ。これにはDirect X11世代のハイエンドグラフィックの処理能力だけでなく、パンクせずに大量の素材の制作に応えられる、制作手法やツール群なども含まれる。
 『METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』や『Witcher 3』が、それまでのシリーズと異なる次世代オープンワールドゲームとなる上で、FOX ENGINEやREDengine 3の開発が欠かせなかったのは、つまりそういうことだ。

 次世代ゲームで開発コストの増大をできるだけ抑えて、いかに効率的に高品質なゲームを作り出すかというのは、オープンワールドゲームに限ったことではなく、大手パブリッシャーでは優秀なエンジンの共有も進んでいる。エレクトロニック・アーツはDICEのFrostbite 3をBioWareの『Dragon Age: Inquisition』やGhost Studiosの『ニード・フォー・スピード ライバルズ』に使ったり、スポーツタイトルで種目に依存しない基幹部分を担うIGNITE Engineを開発して共有するなど、グループ内の他スタジオのプロジェクトでも広く共有。
 FOX EngineもKONAMIのサッカーゲーム『PES 2014』で使用されているし、ベセスダ・ソフトワークスもid Softwareのid Tech5をTango Gameworksの『サイコブレイク』やMachinegamesの『Wolfenstein The New Order』で使っている。
 そのほか、『コール オブ デューティ』シリーズがこれまで機能向上を重ねながら使ってきたエンジンを一新して新エンジンの開発に至ったことや、ハードやソフトの発表に先駆けてエピックゲームズのUnreal Engine 4やスクウェア・エニックスのLuminous Studioなどが早くから次世代クオリティのエンジンを発表しているのも、こういったことの先取りでもある(技術の開発は実際のゲーム制作よりも先に進んでいないといけないのだ)。

シングルプレイとマルチプレイのいい所取り

 今世代は家庭用ゲーム機でのオンラインマルチプレイが非常に伸びた期間であったと言えるだろう。しかし、シングルプレイとマルチプレイは基本的に切り離された関係であることが多かった。その折衷案としてオンラインCo-op(協力プレイ)の普及もあったわけだが、今回のE3では、次世代機と今世代機双方で、シングルプレイとマルチプレイのいい部分をミックスするような取り組みがいくつか見られた。

 たとえばエレクトロニック・アーツの大作FPS(一人称シューティング)『Titanfall』は、基本的にはマルチプレイのゲームでありながら、シングルプレイのようなインパクトのある体験の実現を目指している。ゲーム画面を見てもらえればわかると思うが、『コール オブ デューティ』のとてつもない演出のシングルプレイのような、ド派手で、はしばしにNPCの通信が入ってくるような没入感の高い体験ができる。

 また『Forza Motorsport 5』は、友達のプレイの癖などを分析したものが、クラウドに保存されて“NPC”として登場する。これは一緒にプレイする時間が合わなかったりしても、一緒に遊んでいるような気分になるアシンクロナス(非同期)なマルチプレイと言ってもいいだろう。
 同じレースゲームでも、『ニード・フォー・スピード ライバルズ』の場合は、もう少し直接的なアプローチを取っている。本作ではシングルプレイとマルチプレイの境目をなくし、友だちがシングルプレイのつもりで走り屋としてレースしているところに、警察側として乱入するようなプレイが可能。

 またE3では残念ながら出展がなかったが、ロックスター・ゲームスの『グランド・セフト・オートV』では、ひとりのプレイヤーが3人の主人公を切り替えるスイッチングシステムを採用していて、ソロCo-opとでも言うようなユニークなゲームデザインを行なっている。こうしたマルチプレイやCo-opの要素・魅力をシングルプレイに取り込んだり、シングルプレイの強い部分をマルチプレイにフィーチャーするといった傾向は増えていくのではないだろうか。

映像コンテンツとの連動、そして映像コンテンツとしてのゲーム

 ゲーム以外のメディアへのマルチメディア展開は、これまで映画化やコミック化など、“ゲームとは別物”なことも多かったが、双方をこれまでになく連動させるような動きも出始めている。今世代での試みを元にこれを『Defiance』モデルと仮に呼びたい(『Defiance』はTrion Worldのオンラインゲームであり、テレビ番組も展開している)。

 Xbox Oneをゲームだけでなくリビングのホームエンターテイメントのハブとしたいマイクロソフトの動きが特に顕著で、Remedy Entertainmentの『Quantum Break』 でゲームとテレビドラマを連動させているし、E3で発表された新『Halo』も、スティーブン・スピルバーグが関わるとされる『Halo』のドラマシリーズと無関係ではないだろうと推測するのが普通だ。
 E3以外でも、CCP Gamesのオンラインゲーム『EVE Online』が、プレイヤーから集めた実際のゲーム中のエピソードをベースにテレビシリーズ化を行うという発表を今年4月にしており、今後もこういったゲーム内の体験と映像コンテンツを結びつけて、より既存ファンの忠誠心を煽ったり、逆にドラマのストーリーやエピソードの魅力を武器に新規ユーザーのゲームへの誘導を図るといったマーケティング施策が増えていくのかもしれない。

 そして映像コンテンツという点では、ゲーム機のダイレクトストリーミング機能により、ゲームプレイを映像コンテンツとして積極的に活用していく動きが出ているのも興味深い。プレイステーション4に続いて、Xbox Oneでストリーミングサイトとの連動(Twitch.tv)やリプレイの投稿機能が発表されたのは象徴的な出来事だった。
 ゲームのストリーミングやリプレイもまた、今世代で非常に伸びた分野だ。これまでも『FIFA』シリーズなどがリプレイの投稿機能を実装していたり、『コール オブ デューティ ブラックオプス2』が独自にTwitch.tvと契約してダイレクトストリーミング機能をサポートするなど、ソフトウェア側でのサポートが行われていたが、ハードウェア側で公式にこういった機能をサポートすることで、ゲームメーカー側は独自に開発や契約を行わなくても、積極的にこの分野をマーケティング戦略の一部として利用できるようになる。
 現状でもファンが独自にキャプチャボードなどを用意して配信・録画投稿を行なっているが、公式にサポートするというのはプレイヤーにこうした負担を負わせずにより幅広いプレイヤーに映像化を行なってもらえるし、配信を望まない部分(ネタバレなど)についてコントロールをかけられるというのは大きなメリットがある(もっとも気合の入った人はキャプチャ環境を用意して配信するので完全にネタバレゼロにはできないのだが、オフィシャルに楽な配信方法が普及すれば、それでできないことは諦めるという人もいるだろう)。

ハードコアコンソールF2P

 E3を前にバンダイナムコゲームスから『鉄拳』のF2P(基本プレイ無料)ゲーム『鉄拳レボリューション』が発表されたのは、非常に興味深い出来事だった。
 ソニー陣営は家庭用ゲーム機(コンソール)でのF2Pタイトルのサポートに力を入れている感があり、E3でもDigital ExtremesのオンラインTPS『Warframe』がプレイステーション4のローンチタイトルのひとつとして出展されていた。今年はCCP GamesのFPS『Dust 514』がプレイステーション3で正式サービスに入っており、コンソールでのハードコアゲームのF2Pタイトルは今後も要注目といったところ。特に、プレイステーション4もXbox OneもPCゲームと近いアーキテクチャとなったことで、優れたハードコアF2Pタイトルが多いPCゲームからの流入組も今後増えていくのではないだろうか。

 マイクロソフトもWargaming.netのオンライン戦車ゲーム『World of Tanks』のXbox 360版をカンファレンスで発表しているほか、任天堂もE3期間中のアナリスト向けの会見でF2Pタイトルのサポートを進めていくとしており、ハードコアコンソールF2Pは今後も注目であるのは間違いない。

新たなゲーム感覚への模索

 3D立体視以降も、ゲーム体験に新たな感覚をもたらす試みは続いている。中でも注目を浴びているのが、Oculus社のRift。これは3Dヘッドマウントディスプレイに頭の動きを検知するセンサーを組み合わせたもので、一人称視点のゲームで特に威力を発揮する。現状では開発者向けのプロトタイプが出荷されている段階で、まだまだ解像度が低いと問題があるが、自分の顔の動きに合わせてゲーム内の視点が追従するだけで、かなりの没入感を得られる。
 E3に合わせてCCP GamesがRift用に試作したシューティングゲーム『EVR』を限定公開していたほか、記者もE3会期中にRiftとともに使うVR機器“Omni”を触ってきた。これはすり鉢状の台の上を滑りやすい専用のソールをつけた靴で歩き、その足の動きをKinectで検出してゲーム内の移動とすることで、ゲーム世界を自分の足で歩いているかのような感覚が味わえるのだ。
 Riftのクラウドファンディングの成功以降、こうした試みは加速しており、海外ではショックフィードバックがついているスーツ“ARAIG”なんてものも発表されている。

 こうした流れが家庭用のビデオゲームに普及するまでは時間がかかるだろうし、そもそもガジェット好きの興味だけを惹いて消えていくのかもしれないが、スマートフォンやタブレットが出てくるまでは現在のような多様化したゲームビジネスを想定することは難しかったように、何が起こるかはわからない。
 スマートフォンやタブレット向けのゲーム市場が非常に大きくなっているのは言うまでもなく、攻略本を作っていたメーカーがコアゲームのインタラクティブなマップアプリをリリースしていたり、『バトルフィールド4』でタブレットを使って“コマンダーモード”で参加し、作戦行動を指揮できるようになっていたりと、こういったデバイスはすでにハードコアゲームとも無関係の存在ではないのだ。
 まぁそんなわけで、テレビ+本体+コントローラーで完結していたビデオゲームが次のステップに進む可能性のひとつとして頭に入れておくことをオススメしたい。