『アサシン クリード』に“海賊”がもたらすもの

 2013年6月11日~13日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて開催されている世界最大のゲーム見本市E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2013。ユービーアイソフトのWii U、プレイステーション4、プレイステーション3、Xbox One、Xbox 360用ソフト、『アサシン クリード4 ブラックフラッグ』の開発者にシリーズ最新作の見どころを直撃した。

『アサシン クリード』に“海賊”がもたらすもの

 『アサシン クリード』シリーズと言えば、史実の裏で暗躍するアサシンを操り、歴史的人物を極秘裏に葬っていくアクションアドベンチャーである――。シリーズ最新作『ブラックフラッグ』では、そんな固定観念を覆すかのようなインパクトを持つ主人公が誕生した。新主人公エドワード・ケンウェイは、なんとアサシンであり“海賊”でもあるというのだ。多くのゲームファンの度胆を抜いたアサシンと海賊の組み合わせは、いったいどのようにして生まれたのか。本作のプロデューサーを務めるMARTIN SCHELLING氏に直撃した。また、クリエイティブディレクターのJean Guesdon氏には、本作のゲームプレイの要点についてうかがった。聞けば、本作にはストーリーテリングだけではなく、ゲームプレイにおいてもさまざまなチャンレンジが盛り込まれているようだ。開発者の言葉から、つねに変化することを恐れない『アサシン クリード』シリーズの魅力の一端を感じ取ってほしい。

アサシン クリード4 ブラックフラッグ プロデューサー MARTIN SCHELLING氏

アサシン クリード4 ブラックフラッグ
プロデューサー
MARTIN SCHELLING氏

――MARTINさんは本作のプロデューサーですが、具体的にはどんな業務に携わっているのでしょうか?
MARTIN SCHELLING氏(以下、MARTIN) 私のおもな仕事は、ゲームの大きなビジョンをスタッフ全員に共有させることです。本作の開発には、カナダのモントリオールからシンガポールまで全世界で6つのスタジオが関わっているので、スタジオどうしでビジョンを共有することがすごく大事になります。考えると、世界中で24時間つねに誰かが働いているわけです。そんな大きなスケールのゲームのなかで、ビジョンが失われないように維持していくのです。役割としては、オーケストラの指揮を執るような感じですね。

――今回、海賊の主人公を採用したのはなぜですか?
MARTIN 弊社には『アサシン クリード』シリーズを統括するブランドチームがあって、シリーズのすべてを把握しています。そこでは、“つぎのストーリーをどんな形にすれば、ファンを喜ばせつつ、驚かすことができるだろうか?”と、つねに考えています。そのため、今回のストーリーは、前作『III』の主人公であるコナーの父方にあたる“ケンウェイ”の血筋を掘り下げたらどうかと思い至りました。そして、ゲームとしては『III』で登場した“海戦”をさらに発展させようというアイデアが浮かびました。“ケンウェイ”と“海戦”の結びつきから海賊にたどりついたというわけです。あとは開発チームに、小さいときから海賊に憧れを持っているスタッフが多かったからでしょうか。彼らはいますごくモチベーションが上がっていますよ(笑)。

――『アサシン クリード』シリーズは、これまで15世紀から18世紀というように、少しずつですが時代が進んでいましたが、今回は『III』よりも少し前の時代が描かれるようですね。その意図を教えてください。
MARTIN コナーの出生に関するエピソードを描いた『Assassin's Creed: Forsaken』(※日本未発売)という小説で、“ケンウェイ”の血筋についてしっかりとした記述があるので、新たに主人公エドワードのエピソードを描こうとすると、どうしても時代を戻らざるを得なかったからです。

――『アサシン クリード』シリーズのいち作品を作るときは、全体と見据えるビジョンが大切だと思いますが、それぞれの作品は、つねに次回作につながるように作られているのでしょうか?
MARTIN さきほど説明したブランドチームが全体を統括しているので、現時点では何も言えませんが、次回作のことはすでに考えていると思います。

――本シリーズの醍醐味は、実際の歴史のグレーな部分にプレイヤーとして介入するところだと思います。今回もまた、実際の歴史に基づいたストーリーが展開するのですか?
MARTIN もちろんです。海賊というのは、ここ10~15年のあいだにいろいろな映像作品に出てくるので、私たちにはある程度固定されたイメージがありますが、本作では、海賊を決まり切った姿とは違う形に描こうとしています。やはり、今回も歴史家や大学教授といった歴史のスペシャリストの監修のもと史実を取り入れて、そこにゲーム的な味つけを加えています。本作のおもな舞台はナッソー、キングストン、ハバナの3カ所ですが、それぞれの都市の雰囲気というものがあるので、歴史的資料にあたってそれを活かしつつ、ゲームに落とし込んでいます。

――E3で公開されたアートワークを見ると、エドワードが悪名高い黒ひげたちと並んでいます、彼らはどういう関係なのでしょうか?
MARTIN 彼らは仲間というか知り合いに近いです。お互いにいっしょに仕事はするけれども、それぞれの目標があって共闘していた。そんな関係ですね。アートワークのいちばん左の人物は、キャラコ・ジャックという実際の海賊です。その右隣りは、エドワードといっしょに船を動かすアリワリという架空の人物になります。そしてエドワードの隣りに黒ひげがいて、その右となりはゲーム中の架空の人物です。

アサシン クリード4 ブラックフラッグ クリエイティブディレクター Jean Guesdon氏

アサシン クリード4 ブラックフラッグ
クリエイティブディレクター
Jean Guesdon氏

――本作のクリエイティブディレクターの業務について教えてください。
Jean Guesdon氏(以下、Jean) 自分は全体のガイド役で、ゲームのコンセプト、デザインなど、すべてをコントロールしています。今回いちばん最初に取りかかったのはビジョンの確立ですね。まずはビジョンを明確に打ち出し、つぎに開発チームがフォローするガイドラインを作成し、制作にあたってどんなところにフォーカスしたらいいかディレクションを行いました。

――2013年6月10日に開催されたソニー・コンピュータエンタテインメントのカンファレンスでは、ジャングルという新しいステージが公開されました。海賊が主人公だからといって、メインの舞台は大海原とは限らないようですね。
Jean 本作では、自然に囲まれたジャングルや都市、大海原が舞台になります。それぞれのフィールドがバラバラではなくて有機的に結びつき、かつシームレスにつながっている。そんなバランスになるように調整するのがたいへんでした。

――エドワードもコナーのように木上りができるんですか?
Jean もちろんです。木から木へと飛び移ってすばやく移動できます。

――シリーズ1作目からプレイしてきた身としては、どうしてもステルスの要素に注目してしまいます。ここ最近のシリーズ作品は、海戦もあって、集団戦もあって、ステルスもあってという、多種多様なアクションが混然となっている印象です。シリーズとステルスの関係性に変化はあるのでしょうか?
Jean いえ、『アサシン クリード』シリーズは、つねにアクションアドベンチャーであることを目指しているので、最初からステルスに偏ったゲームデザインではありませんよ。ただし、今回は『III』よりもステルスの割合をもう少し増やしたいと思っています。SCEカンファレンスでも披露しましたが、ジャングルでは自然の木々を使ってうまくステルスで進めるようにしています。

――『III』の海戦は船が大砲どうしで戦っていましたが、今回は海に潜って、そこから静かに近づくことができるのでしょうか?
Jean はい。今回は海戦においても砲撃かステルスかプレイヤーが自由に選択できるようになりました。しかし、敵の船まで泳いで近づくこともできますが、高速で移動している敵船に近づくのは容易ではありません。敵の船をある程度破壊して、動けないようにしてから泳いで接近することをオススメします。

――船を動かすためには船員が必要だと思いますが、船員たちが前作『III』における“アサシンの弟子”と同じシステムで、エドワードと共闘してくれるのでしょうか?
Jean エドワードはアサシンである前に海賊です。ですので、今回はこれまでとシステムを変えています。相手の船を捕えて仲間に引き込み、管理するという流れになります。

――それでは、前作のように仲間を呼んでいっしょに戦うシステムはなくなったのでしょうか?
Jean その要素はありません。

――なるほど。黒ひげといっしょにたたかうわけではないようですね。
Jean ええ。シナリオ上、いっしょに戦う場面はありますが、呼びつけることはできません。

――海賊の仲間を増やすとどうなりますか?
Jean 詳細はお伝えできませんが、本作向けに開発されたソフトを別の端末にダウンロードすることで、その端末を第2のゲーム画面として、船をコントロールをしたり、全体の地図を見て宝探しをしたり、統計を見たりすることができます。たとえば、職場に端末を持っていき、仕事のあいまにプレイすれば、それがゲームにも反映されるというわけです。

――それはシリーズとしても新しい試みですね。
Jean 我々は、つねにゲームファンのことを考えています。今回は、できるだけゲームファンの生活に密着させたゲームを作りたいと思いました。追加の要素があれば、よりゲームの奥行きが広がると思いますよ。

――本作は現行機と次世代機でリリースされますが、それぞれの内容に大きな違いはありますか?
Jean おもにグラフィックスと物理エンジンが違います。ただ、木々の葉の描写や波のうねりなど、次世代機のグラフィックのクオリティーは非常にすばらしいので、それを味わうと現行機には戻れなくなるかもしれません(笑)。そこが大きな違いですね。もちろん、次世代機の開発はスタートしたばかりなので、使いかたを学習しているところです。つぎがあるとしたら、もっと新しいことができるようになっていると思います。

――最後に、シリーズのファンにひと言コメントをお願いします。
Jean 日本の皆さんにはおそらくこのゲームを気に入ってもらえるはずです。というのも、シリーズのコアなゲームメカニズムを大事に作っているので。皆さんが好きなことを取り入れつつ、まったく新しい世界を作り上げたのが本作です。いままででもっとも新鮮な『アサシン クリード』をお見せしたいと思います。

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