PS4ソフト充実のカギを握るSCEワールドワイドスタジオ吉田プレジデントを直撃!

「PS4でのソフト開発スピードはビックリするほど速いですね」SCEワールドワイドスタジオ・プレジデント吉田修平氏インタビュー【E3 2013】_01

 E3開幕前日のカンファレンスで、プレイステーション4(PS4)の本体デザインや多数のタイトルラインアップ、欧米の本体価格などを公表したソニー・コンピュータエンタテインメント。ここでは、SCEワールドワイドスタジオ・プレジデント吉田修平氏へのインタビューをお届けする。

――今回のカンファレンス、非常に印象的なものになりましたね。終わったあと、僕らも口々に「SCEのカンファレンスは、ここ数年でいちばんよかった!」と話していたんです。
吉田 ありがとうございます! 会場からの反応がすごくあったので、率直にうれしかったですね。ずっとソフト開発の現場を見ていて、作っているものに自信はあるんですけども、初めて皆さんにお見せしたときはどんなリアクションが返ってくるのかってわからないじゃないですか。今回は基本的にデモプレイをお見せするのではなく、ビデオを上映することにしたのですが、ひとつひとつの作品にキチンと声援や拍手が飛んだり、笑いがこぼれたりもしていたので、「ああ、よかった!」とホッとしました。そういう意味で、手応えはすごくありましたね。

――日本で開かれる発表会と違って、こちらは報道陣も業界関係者もいいものにはダイレクトに反応しますからね。
吉田 そうなんですよ! しゃべっているほうも、すごくやりやすいんです。日本だとプレゼンをしても、メディアも関係者もまったくの無反応なので、気に入ってくれたのかどうかもわからないじゃないですか(笑)。

――自戒を込めて言いますと、ホントはいつも(海外メディアのように騒ぎたい!!)って思っているんです……(苦笑)。
吉田 なので昨日はとくに、気持ちよくしゃべることができました。

――吉田さんのプレゼンに長く時間が割かれていましたけど、これはファーストパーティーを取りまとめるワールドワイドスタジオとして、プレイステーション4の独占タイトルをキチッと作っていきますよ、という意思表示の意味もあったんですか?
吉田 今回のカンファレンスには、3つのポイントがあったんです。ひとつは、2月にニューヨークで開いた発表会ではお見せできなかった本体をお披露目すること。ふたつめは、カンファレンスの最後に公表した本体価格。そして3つめが、箱があってもどんなゲームで遊べるのかわからないのでは意味がないので、対応ソフトをしっかりとお見せすること。2月にもいくつか公開しましたが、サードパーティーのものも含めて、キチンを数を揃えてアナウンスしたいなと思っていました。

――要素はたくさんありましたけど、例年非常に長くなるSCEのカンファレンスが、今年はコンパクトにまとまっていた印象を受けました。
吉田 そう、いままでのようにすべての作品のデモプレイを見せていると長くなってしまうので、いくつかのポイントになる作品以外はすべてビデオ上映にしました。あとは、カンファレンスがスタートするのを待っているあいだにデモをお見せしようと思ったんです。

※開場からカンファレンススタートまで30分ほど時間があったのだが、その間、ステージ上では、『Killzone』や『インファマス』の最新作など6タイトルのデモプレイが披露されていたのだ。

――ああ、あれはおもしろい試みだと思いました。待っているあいだ、じっくりとデモプレイを見ることができたので。
吉田 ウチのアメリカのチームからの提案だったんですけどね。聞いたときに、「それはいいかも!」と思いました。と言うのも、開発チームはカンファレンスのステージでなるべく長く見てもらいたいですから、すごく作り込んだデモ映像を持ってくるわけです。でも、上映できるのは長くて5分程度。短く切り取らなければいけません。「それだったら、カンファレンス開始までのあいだずっと、デモを見せてしまえばいいのでは?」という提案があり、「やってみよう!」と。

――すごくよかったです。開演前は手持ち無沙汰ですから(笑)。
吉田 ですよねー。待っているほうも楽しいですし、制作チームはじっくりと観てもらえますからね。カンファレンスの時間を圧縮しつつデモもキチンと観てもらう……という初めての試みでした。

――よかったと思います!
吉田 で、先ほどの質問にお答えしますと、プレイステーション4じゃないと遊べないゲームを作る……というところでいちばんの重責を担っているのは、ワールドワイドスタジオです。私がE3でプレゼンをするのは今回が初めてだったんですけど、本来、こういう場で話すのはスピーチが得意な人間ですよね。でも、今年はプレイステーション4のローンチの年だし、キチンとワールドワイドスタジオで取り組んでいることを皆さんにお伝えすべき、ということになりまして、ゲームの映像やデモをお見せするだけじゃなくて、「やっていますよ!」というメッセージを私が発することになりした。

――すごくメッセージ性が強かったですよね、今回のカンファレンスは。「本気でやっているよ!」というのが伝わってきたというか、ユーザーに寄り添っている感じがしたというか……。
吉田 プレゼンの中で、Twitterでたくさんの意見がPSユーザーから送られてくる……という話題に触れたんですけど、いまって反応がダイレクトじゃないですか。それを見ると本当に、我々業界の人間、メディア、そしてユーザーの垣根ってなくなったんだなーって思うんです。当然、言えないことは言えないんですけど、意見はどんどん来ます。たとえば、E3開幕の1週間くらい前かなぁ……中古ゲームをプレイステーション4でも使えるようにすべき! という運動の波がドドーッと押し寄せてきたんです。

――ああー……。今回のカンファレンスで、中古ゲームの使用や友人とのソフトの貸し借りもフリーでできる……ということが発表されましたね。会場から割れんばかりの歓声が沸き起こりましたが。
吉田 そうなんです。このことに対する意見が、E3が開幕する前から私のTwitterにたくさん届けられていたんですよ。それこそ、一生懸命スクロールしないと読みきれないほどに。もちろん、このことはE3でしっかりと発表する予定だったので、私は何も言えないわけです。それでも、意見はどしどし寄せられてくる……。こういったユーザーの反応によってハードのポリシーを決めたわけではないんですけど、自分たちで何を説明しなきゃいけないのか、どういう表現をすればいいのかというメッセージを考えるときに、ユーザーからの声はすごく参考になります。「こういうことが知りたいんだ!」というね。

――でも、Twitterとかをやっていると手厳しい意見も多いのでは……と思いますが。
吉田 そうですね。でも、最近は期待感の大きさからくる「こうしてほしい!」という意見が非常に多くなっています。そこからも、プレイステーション4への関心度の高さを感じますね。

――では、ソフトの開発状況なのですが、いかがでしょうか?
吉田 順調です! カンファレンスで、『Killzone: Shadow Fall』と『Knack』、『DRIVERCLUB』は本体と同時発売、『インファマス』は来年1月~3月に発売……とアナウンスしましたけど、この4タイトルに限らず、来年に向けて開発しているタイトルも見るたびに進化していることがわかります。どのチームも言うことですが、プレイステーション4は開発がしやすい。それもあってか、びっくりするほど開発スピードは速いですね。でもやはり、次世代機向けなので、すごく作りこもうとするわけです。彼らがいままで作ってきたタイトルと比較しても、取り組みの気合の入りかたはハンパじゃないなと感じます。

――それは頼もしいですねえ。
吉田 そういった大きなタイトルだけではなく、我々はここ最近、開発の規模は小さくてもアイデアがキラリと光る作品にも力を入れているんです。『風ノ旅人』などがそうですね。つい先日も、プレイステーション4向けに2作品発表しましたけど、そういうものを作るチームは「プレイステーション4なんだからスタッフを増やしてよ」なんて言うこともなく、のびのびと開発している印象を受けます。

――ワールドワイドスタジオとして、小さなタイトルにも力を入れていく、と。
吉田 はい、そうです。しっかりと注力していきたいと思っています。

――チームから企画があがったときに背中を押してあげる……という感じで?
吉田 それもありますが、もっと根本的に、我々のほうから規模は小さくてもアイデアを持っているディベロッパーを発掘し、ソフトを作ってくれるようにお願いする……ということも増えました。ダイヤの原石のようなチームを見つけるために動いている……という感じですね。そういったチームからは、時にとんでもない企画が出てきたりするんです。プレイステーション Vitaの『どきどきユニバース』なんてまさにそう。2Dのキャラクターを使った、とても変わったゲームなんですけど発想がおもしろい! これ、プレイステーション4、プレイステーション3、Vita、そしてスマホなどにもつながる仕組みになっているんですけど、こういった自由な発想って、小さいチームだからこそ生まれてくるんですよね。尖ったゲームには、どんどんでてきてほしいです。

――プレイステーションの、最初のころのような感じを覚えませんか?
吉田 あ、それにすごく近いかもしれません! 大きいゲームは何十億もかけたりするので「失敗するわけにはいかない!」というプレッシャーも大きいのであまり突飛なことはやりにくいんですけど、小さいゲームでしたら「大失敗してもどうにかなる!」と開き直れるので、「このアイデア、ちょっとおもしろいからやってみようか」という流れになりやすいんですよね。そういう意味では、プレイステーションの黎明期と似ていますねえ。

――カンファレンスでも、そういったタイトルの紹介にかなりの時間を費やしているように思いました。
吉田 そうなんです。最近のインディーズのパワーはすごいんですよ! エネルギーに満ち溢れていて。彼らもコンソール(家庭用ゲーム機)に興味津々なので、我々もタイトルを発売しやすいように門戸をどんどん広げようとしています。これまで以上にインディーズの方々が活躍できるような工夫をしていますので、それに応えてもらっている感じです。

――おお。
吉田 この取り組みでうまくいっているのが、PS Vitaなんです。PS Vitaって、コンソール向けのメーカーが、限られたリソースの中で次世代機用のゲームを作り、さらに伸びているモバイル向けに作品を……という戦略の狭間に入りがちでした。マルチプラットフォームでいっしょに作る……という戦略からも外れがちでしたし。欧米はとくにそうですね。そこに、インディーズの人たちが、PCやPSN向けに作ったゲームを「じゃあPS Vitaにも……」という流れで投入し始めたんですが、いざPS Vitaに落とし込んだときに、作品の出来が際立って驚くようなんです。すごくスクリーンがキレイだとか、どこにでも持ち運んで遊べるという点をすごく気に入ってくれて、どんどんいいゲームが生まれるという好循環になっているんです。カンファレンスでも「アメリカのユーザーはソフトを10本以上買っている」というデータが公表されましたけど、それは配信用のおもしろいタイトルがそろっているからなんですよ。

――ああ、そうなんですね。
吉田 「これ、日本でもやろうよ!」とSCEジャパンアジアにも強く訴えておりますので、きっと動いてくれると思います(笑)。でも、本当におもしろいゲームがたくさん出ているんですよ。私はアメリカのアカウントを取ったPS Vitaも持ち歩いていますけど、北米では日本の水曜日になると新作がタイトルが発売されるんですね。もう、それが楽しみで楽しみで。先週も『LIMBO』がPS Vita用に配信になったんですけど、これが非常に美しくて楽しいんです。

――日本の若者たちが、気楽にスマホにゲームを落として遊んでいる……という構図が、アメリカではPS Vitaでできつつある……という感じなのでしょうか?
吉田 そんな感じです! しかもそれが、キチンとコア層向けに作られたゲームばかりというね。中にはタッチ操作のみのものもありますけど、インディーズの方たちって、大手から独立してチームを立ち上げる……というパターンが多いんですが、その人たちが作りたい作品って古きよき時代を彷彿とさせるものが多いんですよね。ボタンとスティックを使って遊ぶタイプの。そうなるとPS Vitaは圧倒的に遊びやすいですし、スマホ用で出ていたけど物理キーがないとやりにくい……という作品もPS Vita用になると桁違いにおもしろく遊べる。プラットフォームの立ち位置というか価値を開発者にも認められていますし、ユーザーにも「PS Vitaを買ってよかった」と思ってもらえるので、今後もインディーズの方々とは積極的に関わっていきたいと思っているんです。こういった取り組みは欧米が先行していたんですけど、日本でもこれから本格化していくと思いますよ。

――やっぱりジャパンスタジオ、ジャパンアジアには存在感を主張してほしいですからね!
吉田 本当に業界は変わってきましたし、人々のプレイスタイルの変化も著しいですからね。それに合わせて、我々も変わらないといけないんです。「みんな目を覚ませ!」と社内では言っております(笑)。

――期待しています(笑)。で、今後の話ですけど、ローンチまでには東京ゲームショウなどもあります。展望を聞かせていただいてもいいでしょうか。
吉田 豊富も展望もめちゃくちゃたくさんあります! ……が、1歩1歩です。今年はまず、2月の発表会、GDC、そして今回のE3があって、東京ゲームショウの前にドイツのゲームズコムがあります。そういう意味では、まだ東京ゲームショウまで頭がいっていないかな……という感じでしょうか。だいたいのイメージはあるんですけど、イベントのギリギリまでソフトは作り込むので、その状況しだいでしょうか。ただ東京ゲームショウはスケジュール的にいちばん最後なので、プレイアブル出展を楽しみにしてくれている方たちにはもっとも有利だと思います(笑)。現時点では、あまりはっきりとしたお約束はできませんけどね。

――でも今年の一連の発表って、点ではなく線になっているんですね。あの話題の答えはここで出て、今回のE3の答えがゲームズコムや東京ゲームショウで……という筋書きがしっかりしているというか。
吉田 ずっと同じチームでやっていますので、話題の提供のしかたも“エピソード1”、“エピソード2”……というように、キレイに仕切れているんじゃないかなと思います。

――それが年末のプレイステーション4の発売で、ひとまず完結する……と。
吉田 そうですね。そうなってほしい(笑)。

――ひとつ、ちょっとピンポイントな質問になるんですけど、昨日のカンファレンスでPS+を拡充するというメッセージを発していましたけど、マルチプレイに関しては、PS+に入らないとサードパーティーのタイトルもプレイできない……という理解でよろしいのでしょうか?
吉田 プレイステーション4ではそうなります。オンラインの、リアルタイムのマルチプレイに関しては、PS+会員が必要になります。ただし、それがあれば、これに上乗せしてのオンラインパスとかは必要なくなるんです。これまで我々は、プレイステーション3にしてもPS Vitaにしてもオンラインパスの仕組みを使っていたんですけど、それはオンラインプレイへのアクセスの、パブリッシャー的なアプローチでした。プレイステーション4ではプラットフォームのアプローチに変わりますので、PS+ユーザーになっていただいて、オンラインのマルチプレイを遊んでいただくことになります。ただ、リアルタイムプレイ以外の遊びかたやビデオサービスの利用についてはPS+の会員である必要はありません。あと、プレイステーション4でも複数のアカウントを作れるんですが、メインのアカウントがPS+の会員であれば、ほかのアカウントでも同様に使うことができます。

――リアルタイムのマルチプレイを楽しむ人は、PS+の会員になってください、ということですね。……でも、プレイステーション4をキチンと楽しもうと思ったらPS+の会員にならない手はない、というメッセージにも聞こえます。
吉田 プレイステーション4のいちばんの柱は、オンラインの遊びですからね! 今後もいろいろな遊びやつながりを創出していこうと思っていて、リソースもすごく投入しているんです。そういったサービスのコストを考えると、がんばって無料で続けてもクオリティーが下がってしまったら本末転倒ですから、だったらちゃんとお金をいただいて、継続していいサービスを提供していこう、ということになりました。でも、やはりお金をいただくことはユーザーの負担になりますから、いまもやっているフリープレイなどのサービスも、プレイステーション4ではさらに拡充していく予定です。

――やはりこれからは、サービスが重要になってくるんですね。
吉田 はい、その通りです。社内でもそれを口がすっぱくなるほど言い続けていますし、パブリッシャーさんとお話しても、皆そうおっしゃいますから。

――もうひとつ、『Watch Dogs』のデモ映像で、タブレットを操作してゲームに反映させる……なんてシーンが映し出されていたんですけど、あれがすごく気になりました。
吉田 ああ、気になりますよねあれは! タブレットを触るとゲーム内で何らかのことが起こる……というね。

――ああいう、他の機器と連動させて遊ぶ試みは、プレイステーション4ならではだと思いました。
吉田 『Watch Dogs』はユービーアイソフトさん独自の仕組みでやられていますけど、プレイステーション4ではプラットフォームとして、オフィシャルなスマホ・タブレット用のアプリケーションを提供しますので、自社ですべてを用意できないパブリッシャーさんでも、いろいろなデバイスを使った仕組みを盛り込めるようになると思います。

――横に広がりますねえ。スマホやタブレットを使っても、何かしら楽しめるというのは。
吉田 モバイルのゲームの楽しさは、いつでもそこにアクセスして続きが遊べること。それに比べて据え置き機の場合は、家に帰らないとゲームの続きを楽しめませんでした。やっぱりそれって、いまのライフスタイルとは違いますよね。ゲームの本編を遊ぶのは据え置き機としても、その周辺の遊びはスマホやタブレットでできてもいい。すごいグラフィック能力を必要としなければ、そういった端末を使って外出先で何らかの遊びをし、サーバー経由でプレイステーション4に反映させればいいわけですし。かつて『グランツーリスモ5』でもPCを使った遊びがありましたけど、あそこでやっていたことを、さらにほかのデバイスにも広げて楽しむ……と考えるとわかりやすいかもしれません。ですのでつねに、プレイステーション4のゲームとつながっていられるイメージですね。

――プレイステーション3が発表されたときに「こんなことできるんだ!」と驚いたものですけど、それからわずか数年で、サービスがさらにジャンプアップした感じがします。
吉田 サービスの世界って、右肩上がりに徐々に充実していくものですよね。ハードが変わらなくても、システムソフトのアップデートだけでガラリと変わることもありますから。ですのでプレイステーション4も、年輪を刻むごとにどんどん成熟し、当初は考えられなかったサービスを楽しめるようになっていくと思います。

――わかりました! 期待しております! ……ではこれから僕らは会場に行き、ついにプレイステーション4に触らせていただきます。その感想を溜め込んでおきますので、また折を見てお話を聞かせてください。
吉田 はい、ぜひお願いします! 新しい世界を、存分に楽しんできてください!