思い出以上に美しく甦る『ファイナルファンタジーX HDリマスター』

 2013年6月11日~13日(米国時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催中の世界最大のゲームの見本市“エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ 2013”(E3 2013)。本記事では、スクウェア・エニックスブースで出展されたプレイステーション3用ソフト『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』(以下、『FFX/X-2 HDリマスター』)のプレイリポートをお届け。さらに、プロデューサーの北瀬佳範氏と、当時開発に携わっていた鳥山求氏のインタビューも掲載する。

E3 2013試遊バージョンをプレイ

 E3 2013に出展されている試遊版は、『ファイナルファンタジーX HDリマスター』の序盤部分が楽しめるものとなっている。まずは、リニューアルされた美しいタイトル画面に興奮。そして、さっそくプレイを開始すると、「最後かもしれないだろ?」というティーダのセリフ(試遊版の音声は英語)で有名なオープニングシーンが流れ始める。ティーダのピアスの輪郭まではっきりと見ることができ、PS2版『FFX』との解像度の違いに驚かされた。

『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発進捗状況は? 北瀬・鳥山両氏に訊いた【E3 2013】_01
▲こちらは以前公開された写真。試遊版では、少しモデリングやライティングが変わっているように見えた。

 ティーダに群がってくるファンとの会話を終えて、ブリッツボールの会場に行くと、PS2版『FFX』発売当時、衝撃を受けたド迫力のムービー(プリレンダリングのもの)がスタート。ここで感じたのが、HDリマスター化したことによって、ムービーシーンと通常のゲーム画面での美しさに差がなくなっている、ということ。ムービーシーンはもちろんより美しくなっているが、当然ながら、通常のゲーム画面のほうがHDリマスター化による恩恵を多く受けている。

 ムービーシーンの後は、アーロンと合流してバトルに突入。内容はチュートリアルにあたる簡単なもので、コケラくずやシンのコケラを相手に、HPの回復や“オーバードライブ”の方法を学ぶことができる。『FFX』のバトルは、直前に使用したコマンドによって行動順が決まる、ターン制の“カウントタイムバトル”が採用されているので、じっくりと戦略を考えながら進められるのが特徴。ちなみに、『FFX-2』はつねに時間が流れるスピード感のあるバトルシステムが採用されている。『FFX-2』のバトルシステムは個人的にとても好きなので、バトルしながら『FFX-2 HDリマスター』も試遊したかったな……、とつい思ってしまった。

 バトルを終えると、シンに飲み込まれて海の遺跡へ移動。PS2版『FFX』では、ここに宝箱やアルベド語合成スフィアなどがあったのだが、奥にまっすぐ進んでしまったため確認することができなかった。アルベド語合成スフィアは、ほかのセーブデータとアルベド語辞書(『FFX』特有の言語であるアルベド語を解読できるアイテム)を共有できる便利なシステムだ。そこで思ったのが、『FFX HDリマスター』ではシステムデータが作られ、そこにアルベド語辞書やクリアー状況などを保存できるようになるかもなあということ。PS2当時は、メモリーカードのデータを読み込んでいたのが懐かしい!

 その後、海の遺跡を奥に進み、ジオスゲイノから逃げたタイミングで試遊版は終了。個人的に思い入れのある作品なので、プレイしながら先の展開が思い出され、早くHDリマスター版を最後まで遊びたいという気持ちが強くなった。少し気になったのは、解像度が上がり、画面が非常に鮮明になったぶん、キャラクターの表情が若干堅く感じられる点。とはいえ12年前の時点で、すでにこれだけのクオリティーの作品が生まれていたということには驚き。しかも、キャラクターの表情に限らず、建物や背景などもHDリマスター化に合わせて日々改良されているようなので、あまり心配することはなさそうだ。つぎは、『FFX-2 HDリマスター』も触ってみたいな~!

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▲ユリパもHD! 『FFX-2 HDリマスター』にも期待大だ。なお、“ラストミッション”の収録については、まだ未定とのこと。


北瀬佳範氏&鳥山求氏インタビュー

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北瀬佳範プロデューサー

――2011年9月の東京ゲームショウで制作が発表され、今年に入って待望の動画や画面写真が公開されましたが、ユーザーの反応はいかがでしたか?

北瀬佳範氏(以下、北瀬) とても好評をいただけたと感じたと同時に、改めてファンの皆さんの期待を感じることができました。

――今回、公開されたトレーラーでは、ティーダの顔が以前公開されたものから変わっているようにも見えました。

北瀬 そうですね。モデリングもクオリティーアップしていますし、ライティングなどでも顔の見えかたはだいぶ変わります。そこは、最後まで調整していきます。

――制作発表時は早期のリリースを予定されていたと思うのですが、想定より時間がかかっているように感じます。何故、期間を要しているのでしょうか?

北瀬 今回は、全世界で1400万人のファンに、12年間も愛し続けていただいている作品のHDリマスターに挑戦しています。それは、長年愛されてきた宗教壁画の修復作業に似ています。ただ単に、オリジナル版に忠実に組み立て直すのではなく、ファンの思い出を大事にするために丹念な修復作業を行っているので、時間がかかっています。

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――クオリティーを重視されているんですね。HD化に関して、技術的にはどのような苦労がありましたか?

北瀬 最大の問題は、PS2からPS3、PS Vitaへと描画エンジンを移植することでした。当時、さまざまな魔法エフェクトを実現するために、PS2のemotion engineに特化したプログラムが多く使用されていました。それを今回、PS3、PS Vita上で忠実に復元していくことが、大きな挑戦になりました。とくに、『FFX』で重要な要素だった“水”のイフェクト表現に力を入れていたようです。

――それは楽しみです。ほかにも、苦労された点はありますか?

北瀬 PS Vitaカードに、すべてのデータを入れ込むこともたいへんでした。HD版は、全グラフィックをPS Vitaの高解像度スクリーンに対応させるため、オリジナル版よりデータのサイズが大きくなっています。しかし、PS Vitaカードは、PS2で使用していたDVDより、データサイズが小さいんです。HD版制作担当のプログラムディレクターによると、データを入れ込むことが非常に大きな課題となり、データとコードを最適化する方法をかなり模索する必要があったそうです。

――HD化に際して『FFX』、『X-2』を見直されたと思うのですが、その際、今後の開発に役立つと思った要素や、現在でも通用すると思う部分はありましたか?

北瀬 とくにはありませんね。逆に、『FFX』や『X-2』でよかった点や不満だった点は、しっかりとその後の作品で強化・修正され、進化しているなぁと再確認できました。あえて挙げるのなら、ミニゲームなどの多さはHD時代のPRGでは難しい面があるので、あの洗練されていない“ごった煮感”はむしろうらやましかったりしますね。

――『FFX』、『X-2』はシリーズの中でもファンの人気の高い作品ですが、いま改めて振り返ってみて、ファンに支持された理由はどこにあるとお考えでしょうか?

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PS2版『X』ではイベントディレクター、『X-2』ではディレクターを務めた鳥山求氏

鳥山求氏(以下、鳥山) ユウナの召喚士としての切ない物語が人気の秘密だと思います。当時はボイス収録が初めての経験だったこともあって苦労しましたが、手探り状態のフレッシュな魅力が、そのままティーダやユウナというキャラクターを作ったのかなと。

北瀬 私もやはりストーリーだと思います。ユウナとティーダのドラマもそうなのですが、もうひとつの軸である、ティーダとジェクトの親子の話が心に刺さります。

――以前おうかがいしたときは、『FFX』のボイスについて、オーディションや収録の苦労などのエピソードをお話していただきました。今回は『X-2』に関して、印象深い出来事をお聞かせいただければと。

鳥山 『X-2』のインターナショナル版では、本編の追加要素として“クリーチャークリエイト”というモンスターを仲間にして戦うシステムを入れました。これはたくさんのモンスターをバトルに登場させるだけではなく、それぞれテキストやイベントなどで、個性的なエピソードが楽しめるようになっているものです。『X-2』本編のバトルをさらにボリュームアップするシステムで、物量もあり、たいへんでしたね。でも、今回のHD化で、さらに多くの方に遊んでいただけるようになるということで、苦心した甲斐があり、うれしいです。

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――北瀬さんはいかがですか?

北瀬 企画の立ち上げ時には苦労しましたね。『FF』シリーズは、毎回“ゼロから制作する”という認識があったので、“同じ世界観やキャラクターで続編を作る”という企画を、社内の人になかなか理解してもらえませんでした。当時は“X-2”という数字を重ねたネーミングにも驚かれましたし。いまでこそ、“コンピレーション オブ FFVII”や“ライトニングサーガシリーズ”といった、ひとつの世界観を連作で広げていく手法は当たり前になりつつありますが、当時は斬新すぎて、身内の理解を得るのがたいへんだったんです(笑)。

――『X-2』が以降の流れを作り、現在もその手法は発展し続けています。

北瀬 お話しした通り、当時は身内にも理解されない企画だったので、スタッフ集めにも苦労した覚えがありますが、いまはそういったことはありませんね。また、当時は“X-2”という数字をふたつ重ねたタイトルだけでもヘンテコな感じを受けましたが、いまでは“XIII-2”と言っても誰も違和感を感じないことに、時代の流れを感じます。

鳥山 ひとつの世界、ひとつのキャラクターを、より深く掘り下げていけることと、ファンの皆さんからの声をフィードバックし、つぎにつなげていけるのはとてもいいことです。開発のツールやゲーム仕様の機能面でも、作品ごとにバージョンアップをくり返していけることで、完成度は上がっていきます。開発に労力がかかるHDのゲームでは、しばらくこの流れは続くと思います。

――『FFX』と『X-2』が、その後のゲーム開発に影響を与えたと感じる部分は、ほかにもありますか?

北瀬 記号化、デフォルメ化された世界、テキストで表現するセリフ、固定化されたカメラワークといった旧世代の物語の演出の方法が、この作品で劇的に変わりました。リアルスケールの世界、自由なカメラワーク、表現豊かなボイスなど、『FFVII』から目指していたテレビや映画と同等な映像ドラマ表現が、ここで決定づけられたと思っています。

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――『X-2』という“続編を制作したときの経験や苦労”は、おふたりが手掛ける『ライトニング リターンズ FFXIII』に、どのように活かされているのでしょうか。

北瀬 効率化を求めて変えない部分と、斬新性を求めて変える部分とのバランス感は、後の続編や派生タイトルへと活かされていると思います。

鳥山 『X-2』は“続編”という概念にはまらないよう、ゲームシステムはもちろん、世界の雰囲気まで『FFX』から一新することをコンセプトに制作しましたが、逆に大きく変えすぎて戸惑った、というファンの皆さんのフィードバックがありました。『FFXIII』シリーズでは、世界観の重厚さを維持しつつゲームシステムを一新することで、新たな続編としての立ち位置を作っています。

――ちなみに……当時、『X-3』のアイデアは出ませんでしたか? また、今回のHD化をきっかけに、『FFX-3』が出ることは?

北瀬 現在は具体的なプランはまったくありません(笑)。ですが『X-2』は、お客さんからの強い要望があったために制作が決定した経緯がありますので、お客さんの要望が強ければ、もしかしたら実現する……かも?

――もし『X-3』を作るなら、どのようなゲームにしますか?

北瀬 ガンナーとしてのユウナと、いまの時代性を考えてみると……バリバリのFPS!?(笑)

鳥山 ライトニングVSユウナで考えています! どっちが勝つかは秘密です!(笑)

――なんだかおもしろそうですね(笑)。ところで、『VII』と『VIII』はPC版がアナウンスされていますが、『X』、『X-2』はPC版でリリースされないのでしょうか。

北瀬 『FFVII』や『VIII』は、当時からPC版が存在していたので、比較的容易に移植ができました。『FFX』と『X-2』はそれとは事情が違うので、少し難しいとは思います。

――なるほど。それでは最後に、現在の開発度を教えてください。

北瀬 『FFX』は80%、『X-2』は65%といったところです。発売日はまだお伝えできないのですが、開発は順調に進んでいますので、もう少しお待ちください。

HD化の鍵を握るモデルのリファインについて

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 モデルを描き直す際、とくに配慮していることについて、制作現場のアーティストの方からコメントをいただいた。北瀬氏の言う“壁画の修復作業”にも似た今回のHD化を支える、細部へのこだわりを感じてほしい。

 「まず、いちばん難しいことは、やはりオリジナルのキャラクターのアートスタイルを維持したうえで、キャラクターのクオリティーを上げることにあります。

 今回、キャラクターのHD化は“ポリゴン数の増加”と“テクスチャーのHD化”の2点が重点項目になります。“ポリゴン数の増加”に関しては、PS2版当時のプログラムの仕様を守ったまま制作しなければならないので、オリジナルのポリゴンがどのようにアニメーションするかを配慮しつつ、面を増やしていく必要があります。とくにティーダやユウナなどのメインキャラクターは、顔などのモデル調整を非常に慎重に行わなければならないと思っていました。

 “テクスチャーのHD化”に関して、メインキャラクターのテクスチャーは、すべてPS2版のデータの4倍になっているので、オリジナルにはない材質感や、細かい模様・構造も、全部きちんと表現しなければなりません。それと、よりCGムービーモデルに近づくために、キャラクターの皮膚などにも、もっと多くの精細かつリアルな表現を追加する必要があります。しかし、それらを入れすぎると、オリジナルのキャラクターとの差が出すぎてしまい、異なる人物、あるいは違う年齢層になってしまうこともあるので、そこのバランスの把握は気をつけています。

 本作のファンにとっては、PS2版の印象が深く、皆さんのいい思い出になっています。今回は、モデルやテクスチャーのHD化により“綺麗”になったと言っても、あまり差異が大きくなると、やはり別人だと認識され、逆に批判を受けることにつながりかねません。野村(PS2版のキャラクタデザイナーである野村哲也氏)の設定した人物の雰囲気と性格を十分に把握したうえで、ファンの思い出の中の完璧なティーダとユウナをいかにHDで再現するか。これこそが、今回のHD化開発において終始を貫いた課題のひとつです」。

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