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 東京・五反田の“ゲンロンカフェ”で、トークイベント“黒川文雄のエンタメ創造記”第2回が行われた。ゲストとして登場したのは、飯田和敏氏、中村隆之氏、納口龍司氏ら、黒川氏率いるゲーム開発プロジェクト『モンケン』のコアメンバー。
 『モンケン』はクラウドファンディングサイトCAMPFIREで制作費を募集していたが、奇しくも当日に希望額の200万円を集めることに成功。本来はこのイベント中に盛り上がって到達……というシナリオを描いていたそうだが、イベントはファンディング成立を祝った拍手からスタートした。

祝クラウドファンディング成功! 『モンケン』中心メンバー4人が考えていたコト_01
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黒川文雄氏(発起人)
中村隆之氏(サウンド)
納口龍司氏(イラストレーター)
飯田和敏氏(ゲームデザイナー)

 トーク前半はメンバー4人がひとりずつ登場し、それぞれの思いやエピソードを明かしていく形で進行した。
 まず最初に登場した黒川氏は、自身の経歴を振り返りつつ、新しい取り組みにより業界などで固定化された概念を“ぶっ壊す”ということが自分のコンセプトであると語った。
 ちなみに『モンケン』のアイデアは、同氏が子供の頃にテレビで見た、あさま山荘事件でモンケン(鉄製の分銅)が打ち込まれるシーンの記憶がベースになっているという。ただし政治的なメッセージをゲームにしているというわけでは必ずしもなく、巨大な鉄球でテロリストが籠城される建物が破壊されるという、その衝撃の記憶を継ぐという意味合いが強いようだ。

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▲黒川氏はまず自分の経歴を振り返った。ジャワティーと『バーチャファイターキッズ』のコラボとか懐かしい。
▲プロジェクトのおおまかな流れ。同人・インディーズゲームの展示会“東京ロケテゲームショウ”で、ある子が繰り返し遊んでくれたのが記憶に残っているという。

 続いて登場した中村氏は、チームモンケンの長所と短所などを解説。あくまで有志が集ったチームであり、会社や金銭的な繋がりで構成されているわけではないフラットかつ能動的な組織であることを長所としつつも、リーダーシップを誰が取るかはっきりしなかったり、スケジュールがルーズになりがちであるという、その裏返しの部分を短所として指摘。
 またオンラインチャットでの打ち合わせが多いところ、議事録がはっきりと残らず忘れがちであるといった問題もあるという。

 クラウドファンディングについては、プレイヤーと直接繋がれるところ、成功してほしい支援者との仲間意識が生まれるといったクラウドファンディング自体のゲーム性などを長所であるとする一方で、クラウドファンディングの認知が低い点や、いろんな情報をオープンにしなければいけない点、かなり積極的なPR活動が必要とされる点などがプロジェクトの負荷になっているという。

 また『モンケン』そのものについては、普通は想定したプレイヤー層に対して開発を行うところ、真に作りたいものを作れるプロジェクトであると語り、かつてのように、コアなゲーマーを対象に限定していってしまうのではなく、そこにとらわれない制作をしている点に可能性を感じているようだった。クラウドファンディングを使ったインディーゲームでも「旧作のファン」といった層を想定していることが少なくないので、真にそういった制作体制になっているのであれば、これは『モンケン』独自の部分であると言えるだろう。

 しかしながら今後の大きな課題としては、現状で集まっている200万円超の制作費は完成までに十分なものではないこと、現状で“有料0円”という無料モデルでの配信を予定しており、それ以降のマネタイズをどう行うか決まっていないことなど、さまざまな解決すべき問題があると考えているそう。
 確かに現状のままでは業界のプロが集まってクラウドファンディングを使ってフリーゲームを作ったという以上のことにはならないので、マネタイズやマーケティング面でも何か刺激的な挑戦ができるのか注目したいところだ。

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▲中村氏が挙げる、チームモンケンのいいところと悪いところ。ちなみに現在各人は結果的に無償で働いているそうだが、利益が出た場合の分配などはどうするのか気になるところ(フリーランス集団の利益分配はGDCでそれだけについて講演されるほど深いテーマなのである)。

 3番目に登場した納口氏は、なぜ『モンケン』に関わることになったかを心情を交えて率直に語った。
 同氏が『モンケン』に参加することにより実現したかったのは、“選択肢の幅を広げる”ことであるという。10年後に自分がいかにしてお金を稼ぎ、家族を養っていけるかに具体的なビジョンが見いだせなかったことが発端となっているそうで、「パブリッシャーとかデベロッパーが全部ダメになるとは思わない」としつつも、業界構造が変動していく中で、自分がありつけるパイは減っていくだろうと指摘。
 “下請けなどに入ってでもなんとか業界にしがみつく”、“完全に独立してアプリ制作などをする”、“まったく別業界に転職する”といった選択肢を考えたものの、どんどん先細りになるだけで「幸せになれない感じがする」と悩んでいたところに今回の話が来たのだそうだ。

 当時はまだクラウドファンディングを使うという話ではなく、クリエイティブ・コモンズを採用したゲームを作ろうという計画だったそうだが、それでも(クリエイティブ・コモンズライセンスの採用により)自身が手掛けたキャラクターをいろんな人が描くことによって、それ自体が得にならなくても、後々そのオリジナルを描いた人になれるのであれば得になるのではないかと考え、参加することにしたのだという。

 結局、『モンケン』はクリエイティブ・コモンズだけでなくクラウドファンディングも採用することになるのだが、パブリッシャーから出資を得るのでもなく、自己資金でリリースまですべてを完結させるのでもない、新たな“選択肢”を感じているそう。

 記者はこの納口氏のパートが一番納得がいった。というのも、『モンケン』の何が画期的なのかと言えば、インディー界隈のトレンドを全部ブチ込んでやってみようということそのものにあるわけで、ひとつひとつの要素は特段新しかったりするわけではないからだ。
 同人やインディーデベロッパーとして収益とクリエイティビティの独立を両立させて活躍している人はいくらでもいるし、クラウドファンディングを使った日本のプロジェクトとして初なわけでもないし、そもそも個人開発者などがファンから直接お金を集めて販売するという構造自体は昭和からある。小規模チームのアプリ製作者も昨今たくさん生まれたし、プロクリエイターが制作物にクリエイティブ・コモンズライセンスを与えるという例もある。

 でも、何かの可能性、新たな選択肢を求めて全部やってみる、というのは新しい。しかも参加するのは、業界の酸いも甘いも知り尽くしたベテランクリエイター陣であり、腕が不足ということはない。全部やってみて何が起こるのか、そこに有効な選択肢を見出すことができるのか。確かにここにこそ大きな価値があるのではないだろうか?

 ……という記者の浅薄な考えを見事にモンケンばりに破壊したのが、トリとして登場した飯田和敏氏。「コンピューターゲームをやってるおかげで人類は生きている」とか、「モンケンという遊びを作るという遊びにハマっている」といった断片的なトークが飛び回っていくいつもの感じだったのだが、どこかで見たらしい「(このプロジェクトが)目新しいわけではない」といった意見を紹介すると、これは「“絶対イェーイ”なんだ!」、「Epic Win(偉大な勝利)」なのだと宣言。その喜びを歌にして熱唱した。

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▲ファンディングの成功は「“絶対イェーイ”なんだよ!」というメッセージを力強く発したのち、ギター片手に熱唱する飯田氏。
▲講談社のプロジェクトアマテラスの何やら新企画でやってきたアイドル大場はるか。「歌での参加とかどう?」と誘うチームモンケンのメンバーたちに「音痴なので!」と力強く拒否。諦めて歌うか、帰るか、(サポーターとして)お金を置いていくか……と迫られ、結局新企画の方で定期的に『モンケン』が扱われる模様。

 質疑応答では、さまざまな観点から質問が集まった。一般的に遊べるようになるのは「秋頃」、マネタイズについては、追加ステージや機能を販売する可能性などもあるとのこと。イベントは7月11日に第3回としてゲストに麻生香太郎氏を迎え、音楽業界の衰退の理由を探るという。
 なお『モンケン』の出資者募集は6月21日0時まで行われている。