Kinectの活用例も
10数年前……記者がこの業界に入ったころ、“イノベーション”という言葉にあまりなじみがなかった。それがしばらくして、海外のイベントを取材するようになると、頻繁に“イノベーション”という言葉を耳にするようになった。その意味を、ネットなどで検索してみると、“革新”、“技術革新”などとあり、“新しいものに取り組む”という前向きな語感に好感を抱いたものだ。以降、記者も“イノベーション”という言葉を好んで使うようになったりもしたわけだが、思えばIT関連ほど“イノベーション”を生命線としてきた業界はないのかもしれない。業界を拡大させるためには、新しい技術、新しいアイデアが必須であった。マイクロソフトがベンチャー企業を積極的に支援しているのも、ベンチャー企業ならではの新しい発想に期待しているからなのだろう。
2013年6月4日に秋葉原・UDXシアターにて開催された“マイクロソフト イノベーションミートアップ”は、ベンチャー企業支援の一環として、日本マイクロソフトが開催しているものだ。イベント名にある通り、イノベーションを起こしているベンチャー企業(もしくは団体)のmeet up(出会い)の場を提供すべく企画されたもの。イベントのメインとなるのは、“Microsoft Innovation Award 2013”優秀賞受賞者の紹介と、最優秀賞の発表だ。“Microsoft Innovation Award”は、ソフトウェアによる“イノベーション”をキーワードに、革新的なアイデアを形にしたソフトウェアやサービスを表彰すべく設けられた賞で、今回で5回め。会場では“コンシューマ部門”3団体と“ビジネス部門”3団体の計6団体のソフトウェアとサービスがお披露目された。せっかくの機会なので、以下、当日のプレゼン順に、それらのソフトウェア&サービスを見ていこう。
■[コンシューマ部門]しくみデザイン“DJ×VJ パフォーマンスツール”
カメラの前でアクションを起こすことで、音や映像をリアルタイムで処理できるアプリ。TRFの20周年コンサートなどでも活用された。
■[ビジネス部門]アシアル“Monaca”
クラウドで、HTML5を使ってアプリを開発するツール。すべての開発環境をひとつのアプリに集約。ブラウザとモバイル端末さえあれば、コーディングから動作確認、アプリのビルドまでできる。
■[ビジネス部門]Sassor“Energy Literacy Platform”
店舗などで消費される電力を、機器ごとに測定するサービス。消費電力の最適化を図ることができる。コスト削減に役立つ。
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■[コンシューマ部門]JX通信社“vingow(ビンゴー)”
自動収集ニュースエンジン。気になるトピックをタグ付けすることで、好みのニュースを収集できる。10万ジャンル(タグ)をカバーにしているので、ニッチや情報にも強いとのこと。ニュース記事を自動で要約する機能も実装されることも、イベントで明らかに。
■[コンシューマ部門]CeVIOプロジェクト“CeVIO Creative Studio”
感情表現ができる音声合成ソフトウェア。口やのどの形などの制御パラメータを推定して作成した “HMM音声”を採用することで、データサイズも軽くて済むのだとか。公開から約1ヵ月で、“CeVIO Creative Studio FREE”は15万ダウンロードを記録。
※CeVIO Creative Studio FREEはこちら
■[ビジネス部門]東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科分野(FATS)“Opect”
Kinectを活用することで、手術中に執刀医みずからが、医用画像などを非接触で操作できるインターフェース。ネーミングはオペ(手術)+Kinectに由来している。ニチイ学館により商品化もされている。
※Opectの詳細はこちら
※[関連記事]Kinectの技術が医療現場を変える 手術室向けの医療システム“Opect(オペクト)”とは
まさに“イノベーション”の名に恥じない、バラエティーに富んだソフトウェア&サービスが揃った印象だ。それぞれあまりに方向性が異なるサービスゆえに、「採点は不可能! 全部に賞をあげるべきでは?」との審査員の声もあったそうだが、「純粋に点数の多いソフトウェア&サービスに与える」という基準で選ばれた最優秀賞は、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科分野(FATS)の“Opect”。2010年にリリースされたKinectは、まさにマイクロソフトが誇るべき“イノベーション”の固まり。ここ数年は医療関係を中心に、ゲーム以外の分野での活用が目立つが、そんな注目ぶりを象徴する受賞となった。“Opect”は来場者が選ぶ“オーディエンス賞”にも選ばれており、来場者からの注目度も高かったようだ。最優秀賞を受賞した“Opect”には、副賞として100万円などが贈呈されており、登壇した東京女子医科大学の村垣善浩氏は、「賞金は“Opect”の海外展開のための足がかりにしたい」とのことだ。
表彰式のあとは、審査員らが中心となってのパネルディスカッション“グローバル時代のベンチャービジネス”が行われた。ITやベンチャービジネスに詳しい論客によるパネルディスカッションは本音トークも炸裂し、大いに盛り上がった。日本産業の振興のためには、ベンチャー企業の躍進が欠かせないとの印象だ。ことに印象的だったのが、東京大学 坂村健氏のコメント。かつては、何か新しいことに取り組もうとすると、実際にモノを作らなければならないので、人材も必要になれば、コストもかかる。失敗すれば大赤字になった。それがいまでは、ソフトだと在庫も抱えないし、何よりもひとりで始められる。一度うまくいかなくても何度でもトライできる。つまり実際のところ“失敗はない”のだ。「ベンチャーにとってこんなにいい時代はありません」と坂村氏。さらに、「どうしたら成功するかわかったら“イノベーション”ではありません!」(坂村氏)とキッパリ。勝手に解釈すると、“イノベーション”を実現するためには、失敗を恐れずにチャレンジするしかない、ということだろうか。
“ファーストペンギン”という言葉がある。群れの中で最初に水の中に飛び込むペンギンのことで、集団の中で、危険や困難を物ともせず、最初に飛び込む者のことをさす。勇気を持って最初に水の中に飛び込む者こそが、“イノベーション”を起こせるということなのだろう。記者は、“イノベーション”とはまったく縁遠い存在であるが、“Microsoft Innovation Award 2013”で接したファーストペンギンたちに大いに勇気づけられて、会場を後にしたのだった。