弾幕シューティングとケイブ
ケイブは、その前身となった東亜プラン時代から、ショット+ボムのスタイルを突き詰めた多数のシューティングゲームをリリース。アーケードで強い存在感を示してきたゲームメーカーだ。設立から3年後となる1997年に発売した『怒首領蜂』で、“弾幕シューティング”と呼ばれるシューティングのサブジャンルを創始・完成させた。『怒首領蜂』はスプライトの表示限界に挑み、画面を埋め尽くすほどの圧倒的な物量の敵弾が飛来することが特徴。そのかわり、弾速は非常に遅く、自機の当たり判定もきわめて小さい。その結果、シューティングの初級プレイヤーであっても、敵弾を華麗にかいくぐるカタルシスを味わうことができた。撃つだけではなく、避ける楽しさを新たに付加し、当時はマニアックになりつつあったシューティングに多くの一般プレイヤーを呼び戻し、幅広く支持された作品だ。弾幕シューティングに対するイメージは、人によって多少の差異はあるだろうが、前記のような特徴は概ね共通していると思う。
そんなケイブ会心のヒット作『怒首領蜂』は、同社の看板タイトルとしてその後も『怒首領蜂大往生』(2002年)、『怒首領蜂大復活』(2008年)とシリーズを展開。2012年4月には、最新作となる『怒首領蜂最大往生』が稼動を開始した。そして、そこから約1年後となる2013年5月30日、早くもXbox 360版が発売。ここでは、待望の発売を迎えたXbox 360版『怒首領蜂最大往生』をレビューしていきたい。
『怒首領蜂最大往生』のシリーズでの立ち位置
Xbox 360版に触れる前に、まずはシリーズにおける『怒首領蜂最大往生』の立ち位置を俯瞰しておこう。『怒首領蜂』シリーズ全般に共通する要素としては、自機の強化スタイルを選べることや、連射ショットと低速レーザーの使い分け、敵への撃ち込みや爆風を途切れなくつなげることでコンボが継続し、スコアがアップする“ゲットポイントシステム”、レーザーの先端を規定の場所に撃ち込むと出現する“蜂アイテム”、特定の条件を満たすと進める2周目および2周目にのみ登場する“真ボス”の存在などが挙げられる。また、『怒首領蜂大往生』以降は、一定時間自機が強化されるハイパーを使用可能だ。
アーケード版の難易度(1周目)については、『怒首領蜂』と『怒首領蜂大復活』は一般向け、『怒首領蜂大往生』はコア向けに作られた部分があり、本作は後者を踏襲している。アーケード版のみに限って言えば、ケイブシューティングの中でも『怒首領蜂最大往生』の難易度は難しめの部類に入る。ちなみに、『怒首領蜂大復活』から採用されたオートボムは、本作でもオン/オフの形で選択可能。オンにするとミス時に自動的にボムを撃つが、威力はきわめて低いうえにストックをすべて消費する。また、オフにした場合はミスのたびにボムのストック数が増えていく長所がある。そのため、無条件でオンにするほうが有利というわけではない。
本作ならではのシステムとしては、“ドレスシステム”が挙げられる。ただ、これは実質的には従来の強化スタイル選択の発展形で、完全に新規のシステムというわけではない。『怒首領蜂大往生』には兵装を強化するサポートロボットの“エレメントドール”という設定があり、どのエレメントドールを選ぶかで強化スタイルが変化した。本作では自機タイプによってエレメントドールは固定だが、その衣装の選択でスタイルが変化するのだ。具体的には戦闘服がショット強化、私服がレーザー強化、水着がエキスパート強化となっており、この順に露出度が高くなるとともにゲーム難易度も上昇する。ちなみに、本作に2周目はないかわりに、エキスパート強化が2周目相当の難易度になっている。総合すると、ドレスシステムはスタイル選択と難易度選択、さらに衣装のバリエーションも楽しめる。これらを兼ねたハイブリッドの仕組みと言える。
多彩なモードでエレメント・ドールの真実に挑め!
前置きが長くなったが、これを踏まえた上でXbox 360版について見ていきたい。まず、ゲームモードは“新Xbox 360”、“Arcade HD”、“Ver1.5”、“Novice”の4種類。“新Xbox 360”以外はアーケード版に準拠した内容で、“Ver1.5”は調整版、“Novice”は初級者向けのモードになっている。なお、アニメのオープニングがあることも特徴で、ケイブのシューティングでは初の試みである。
メインモードと言えるのが“新Xbox 360モード”だ。このモードはオリジナルキャラクターの“桜夜(さや)”が主人公で、自機のタイプもTYPE-Zという専用機体で出撃。両サイドの壁紙エリアに“桜夜”とオペレーターの顔が表示され、ほぼノンストップで会話を続けるという、ストーリー性の強いモードになっている。もちろん、エンディングも専用のものであり、ステージ5の最後には本来は隠しボスだった“陽蜂”と“陰蜂”が出現する。ゲームシステムも独自のものが採用されているため新鮮な気分で遊べて、耳でも賑やかなやりとりを楽しめるのが魅力だ。“新Xbox 360モード”は、画面左右の空白をうまく演出に使っている。ほかのモードでは、これまでと同様に設定した壁紙が表示される。
このモードでは、“マルチエネルギー”と呼ばれるゲージが画面最下段に表示されている。これはライフゲージとボムストックを兼ねていて、MAXは10000。ミスをするとオートボムが発動してゲージが2000減少する。つまり、ゲージが満タンなら5回まで連続で被弾できる計算になる。ただし、このモードではショットとレーザーを同時押しすると、ふたつの武装で同時攻撃を行える。それなりに強力な攻撃ではあるが、同時攻撃を行っているあいだはゲージが少しずつ減少する。本作に限らずケイブシューティングをプレイする際、Cボタン(連射)をつねに押しっ放しにして、レーザーを撃つときだけAを押下する人が多いと思うが、このモードでそれをやるとゲージが減るので要注意。同時攻撃を避けたいときはAボタンのみを使用し、連射(ショット)と押下(レーザー)を使い分けるといいだろう。この操作感覚はほかのタイトルやモードでは必要ないこともあり、慣れるまでは少し面倒に感じるかもしれない。
一方で、減少したマルチエネルギーを増やすこともできる。その方法は大きくふたつ。ひとつ目は、中ボスのパーツまたは中ボス本体の破壊。ふたつ目は、ハイパー使用中の撃ち込みや敵破壊で出現する緑の“星アイテム”を回収することだ。また、ハイパー中に限り、同時攻撃を行ってもマルチエネルギーが減らないため、高火力で果敢に攻められるのは爽快だ。ただし、ハイパー中にミスをしてオートボムが発動すると、ハイパーは即終了になる。
“新Xbox 360モード”はオートボムの恩恵もあり、とくにショット強化を選べば難易度はそこまで高くない印象だ。しかしながら、最終的には隠しボスの“陽蜂”&“陰蜂”と戦うことになるため、1コインクリアーを目指すとなると、なかなかに手ごわいかもしれない。いままでのケイブシューティングのアレンジモードの中でも、やや難しい部類に入ると思う。それ以外の新規モードについては、“Ver1.5”と“Novice”は遊びやすく調整されているものの、やはりアーケード版を未体験だと一朝一夕にクリアーはできないだろう。全体的に作りはていねいで、ケイブシューティングが好きな人には文句なしにオススメできるが、これまでの作品に比べて「劇的に何かが違う」というわけではない……というのがファーストインプレッションだったが、じつは“ある要素”のおかげで、いい意味でこれまでとはガラリと違う印象に変わっていくことになった。
ショップアイテムがもたらす全能感!
本作では、モードに関係なく1プレイごとにコインがたまり、これを使ってショップでアイテムが購入できる。どのモードも1面クリアーするたびに20コインが手に入り、エンディングまで通しでプレイすれば100コインがもらえる。一部、数千単位のコインが必要な高額アイテムもあるが、コツコツ続ければいつかは必ず手に入るというのは、大きな励みになる。
なお、コイン入手の方法はほかにもあり、“Arcade HD”にのみ用意された“CHALLENGE”というお題をクリアーしたときにも、まとまった額がもらえる。“CHALLENGE”の内容は徐々に難しくなっていくが、どこからプレイしても自由で、一部の“CHALLENGE”について解説つきの動画を視聴できる。また、発売後に開催が予定されている“オンラインチームバトル”でも多くのコインがもらえるとのこと。ドシドシ参加してガンガンコインを集めていきたい。
肝心の販売アイテムは、大きく“WALL PAPER(壁紙)”、“GAME OPTION(ゲーム内アイテム)”、“SOUND(キャラクターボイスの視聴)”の3カテゴリーに分かれている。この中でも大きいのは、GAME OPTIONだ。自機の判定を小さくしたり、蜂アイテムの位置が視認可能になったり、オートボムならぬオートハイパーが発動するようになったりと、非常に多彩なアイテムが売られている。中にはAIに操作を完全にまかせてしまうものまである。これらは個別にオン/オフを設定できるようになっている。
わかりやすい例として、たとえば自機の判定を小さくし、敵弾のサイズも大幅に下げ、被弾するとオートハイパーが発動し、ハイパーが溜まっていない場合にはボムをひとつ消費して弾消し用のシールドを展開する……こんな風に複数の特殊オプションをまとめてオンにすれば、生存率は飛躍的にアップする。第一印象としては、先述したように“新Xbox 360”や“Novice”でも思ったほど初心者向けではないと感じたが、ショップアイテムが絡めば話は別だ。パターンを覚えながら、コツコツ反復練習をくり返して上達する……それがある意味王道の攻略アプローチだが、そうした王道の征服感とは異なる、ゲーム全体を支配できる全能感がこみ上げてきた。この感覚は個人的に、いままでのケイブシューティングでは感じることがなかったものだ。基本的には骨太なゲーム性を持っているが、アイテムを活用すればやがて劇的に印象の違うゲームになっていくはずだ。ベースとなる部分は決してやさしくはないものの、ショップアイテムのおかげでシューティングが苦手なユーザーにもオススメできる作品に仕上がっている。ぜひ、体験してみてほしい。
■筆者紹介:バロンマサール
古参ライター。『デススマイルズ』でXbox 360に参入して以来、ケイブさんにはたびたび取材にお邪魔させていただき、その都度アーケード市場に対する強い思い入れ(ときびしさ)をうかがってきた。Xbox 360参入以降も『怒首領蜂大復活ブラックレーベル』、『デススマイルズII』、『紅い刀』、『怒首領蜂最大往生』と、およそ年1本のペースでシューティングを作り続けてきたので、今後にも淡い期待を寄せずにはいられない。