最高峰の頭脳が集まる教室で、松山氏が語った内容とは?

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 2013年5月23日、東京大学駒場キャンパスにおいて、サイバーコネクトツー代表取締役社長の松山洋氏が講義を行った。これは東京大学・馬場章教授による、教養学部生(1、2年生)向けの、ゲームをテーマとした講義の中で行われたもの。これまでも馬場教授は、ゲーム業界からゲスト講師を招いての授業を実施しているが、この日の講義は、今学期の最初のゲストとして、かねてより馬場教授と親交のある松山氏に要請したことから実現したものだ。

 馬場教授の講義は非常に人気が高く、この日も広い教室が満員となる盛況ぶり。前回の講義で馬場教授から指示があった模様で、満場の学生たちからの“ぴろしさーん!”コールで迎えられた松山氏は、まず第一印象として、「ここに来たのは数年ぶりですが、相変わらず、しっかり授業を受けている学生さんが多く、頼もしく感じました」と笑顔で挨拶し、さっそく講義をスタートした。

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▲馬場教授
▲松山氏

 この日のアジェンダは以下の通り。

【1】開発タイトルとその制作秘話
【2】サイバーコネクトツー独自の体制・開発環境
【3】学生のみなさんによくある質問-傾向と対策-
【4】インターンシップ・会社説明会ご案内
【5】質疑応答

 しかし【1】、【2】については、「サイバーコネクトツーのホームページを見れば全部書いてありますから。そちらを見てください(笑)」(松山氏)と、いうわけで、ざっくりとした説明のみに。これは、松山氏に、【3】と【5】により多くの時間をかけたいという意図があったためのようだ。

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 ただ、ここで語られた話題のうち、スマートフォン用ゲームに関するぶっちゃけ話が非常に興味深かったので、それだけはお伝えしておきたい。ご存じの通り、サイバーコネクトツーでは、バンダイナムコゲームスとタッグを組んで展開している『ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い』と、サイバーコネクトツーがGREEプラットフォームで展開している『Shadow Escaper(シャドウエスケイパー)』の2本を手掛け、配信している。
 『ギルティドラゴン』については、「ここまでユーザー数も順調に伸びていて、手応えを感じています」(松山氏)と、絶好調なのだそうだ。
 しかし一方の『シャドウエスケイパー』。“無料プレイでも楽しく遊べる”、“夢中になれる”をコンセプトに掲げた本作、スタッフもコンセプト通りに満足のいく内容に作り上げることができたが、その結果、「本当におもしろいし、よくできています。おかげさまで……お金を払わなくても十分すぎるほど楽しく遊べてしまいます(苦笑)」(松山氏)という状況なのだとか。松山氏は、「いまは売上よりも、まずは楽しく遊んでもらって、そこからです。いままさにバージョンアップを重ねている最中ですので、期待してください」と、今後の巻き返しに向けて手を打っていく意欲を語った。

ゲーム業界は「心の底からだいじょうぶだと思っています」

 ここからが、本講義の本題。これから社会に出て行こうという学生に向けて、こうした講演などでよく訊かれる質問と、それに対する回答という形で進行していった。

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◆学生時代に「これだけはやっておくべき」ということはありますか?

 これから社会に出て行こうとする学生にとって、「いまをどうすごすべきか?」は大きな難問だ。これに対する松山氏の主張は、「勉強をするのは当然のこと」としつつ、たとえばクリエイターを目指すなら、「もっとマンガを読んで、アニメを、映画を観てください」。そして、それを「やらなければいけない」ではなく、好きだから楽しんでやる、というくらいでなければ社会では通用しない――松山氏は、自身の経験を踏まえて語った。

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◆ゲームをつくるとき、アイデアはどのようにして出すのですか?

 某RPGのように電球がつくようにピコーンとひらめいたり、突然神がかったアイデアが降りてくる……なんてうまい話はないと語る松山氏。サイバーコネクトツーでは、まずコンセプトを決め、そこから数人のスタッフと何十回とディスカッションを重ねながらアイデアを生み出し、その果てにようやく仕様書を書くのだそうだ。

 ここでよいアイデアを生み出すためには、コンセプト、つまり「こういうものは世間にないな、こういうものを作ろう」といったスタート地点をいかに定めるかが重要となるわけだが、コンセプトの決めかたについては、任天堂、とくに宮本茂氏のやりかたが非常に秀逸で、サイバーコネクトツーでも同じやりかたをしていると松山氏は言う。
 松山氏いわく、「いま流行っているものではなく、世の中の人が困っていること、何に不平不満を言っているかを見て、そこにニーズがあると考えるんです」。わかりやすい例として松山氏が挙げたのは、おなじみの『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』だ。「ゲームばっかりやっていると頭が悪くなるよ、と言われる風潮に対して『脳トレ』を作り、お年寄りにまで遊ばれる大ヒット作になりましたよね。いろんな問題点に着眼点をおいて、そこからニーズを見つける。そこがコンセプトを決めるうえで大事なんです」(松山氏)というわけだ。

◆面接の時に見る一番のポイントは何ですか?
◆採用される方の特徴・傾向はありますか?

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 サイバーコネクトツーの採用面接では、松山氏が二次面接ですべての応募者と面談し、合否を決めるのだそうだ。そこで全員に必ず訊くのが、「好きなものは何か?」ということ。クリエイティブの原動力になる“好き”という気持ちを強くもっていない人間は信用できない、と松山氏は語る。
 また同時に、それを伝える表現力も必須だという。100人を超える大所帯でゲームを制作する場合、100人で100人分の力では不足で、200人分の力を発揮してもらわなければいけない。そのためには、ひとりひとりが自分だけでがんばっているだけではダメで、円滑にコミュニケーションを取る力が必要、というのが松山氏の考えだ。
 細かいところでは、「容姿がチャラすぎたり、不衛生だったりするのも不合格になりやすいですね。能力や勉強も重要だけど、見た目への気配りも大事ですよ」(松山氏)とのこと。また、意外なところでは“肥満”も不採用になりやすい要素だそうだ。肥満の人は健康に支障をきたしやすいのは事実で、とくに過酷なゲーム業界にあっては、自身の健康管理ができていることも大事なポイントとなる。「思いのほか、体力がものをいう業界でもあるので、体育会系の部活動をやっていた経験などは、プラスになりますね」(松山氏)とのことだった。

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◆これから業界はどのように変化していくのでしょうか?

 松山氏は、2006~2007年をピークに家庭用ゲーム市場が縮小傾向にある事実は認めつつも、オンラインゲームやソーシャルゲームを含めれば、「ゲームというカテゴリーで楽しんでいる人口、売り上げは爆増中です」と語る。ただし、こと家庭用ゲームに限って言えば、売れなくなってきているのは事実で、「ゲーム会社も、みんなから見えないところでつぶれています。生き残っているところが活躍しているように見えるだけなんです」(松山氏)。
 しかし松山氏は、「私は心の底から、だいじょうぶだと思っています」という。それは、ゲーム業界が黎明期からいままで、ひたすら変わり続けてきたからこそ。昨日売れていたものが今日は売れなくなる。昨日まで通用していた技術が、今日は時代遅れになっている……ゲーム業界はそうして変化を続けてきた業界で、「これからもどんどん変わります。ぜんぜん安定していないし、超タイヘンです」(松山氏)。それでも何とかしてきたのがゲーム業界で、世の中の変化に耐えられる会社でなければ通用しないという点では、いまも昔も、そしてこれからも変わらない、というわけだ。

 いまの変化で言えば、やはり注目しないわけにはいかないのがソーシャルゲーム。松山氏は、ソーシャルゲームと家庭用ゲームは、完全に交わりはしなくとも、近づいていくであろうという考えを明かし、「両方の経験と技術がないと、クリエイターとして、ゲーム会社としてきびしくなるでしょうね」(松山氏)と語る。“ソーシャルゲームの隆盛”という変化への対応では、すでにゲームメーカー各社で明暗が分かれてきているようにも見える。しかし、“変化に耐えられる会社”は強く生き残り続けるし、生き残るゲームメーカーが活躍し続ける限り、ゲーム業界も生き残っていく、ということだろう。

 まとめとして松山氏は、ゲームクリエイターになりたいのなら、“なりたい”という意識ではダメで、「つくりたい、ではなく、気がついたらつくっていた、でないと(笑)」(松山氏)と、得意の言い回しを交えつつ、強い意欲が必要だと語った。

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 そして、意識を高く持つということに付随して、やはり最低限の準備が必要であることも当然だと語る。松山氏は、下の画像を挙げつつ、「たとえばこの中に知らないものがあるようでは、アンテナが低すぎます。業界を目指す準備が不足していますよ」(松山氏)と断言した。

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▲サイバーコネクトツーのインターンシップ制度についても、軽く説明が行われた。松山氏が“精神と時の部屋”と呼ぶ「尋常じゃなくたいへんだけど、出てきたときには一人前のクリエイターになっている」、サイバーコネクトツーのインターンシップ。興味がある人は、サイバーコネクトツーのホームページでチェックしてほしい。
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▲最期に、質疑応答の時間が設けられた。さすがに意識が高く、聡明な学生ばかりとあって、鋭い質問が頻発。松山氏は、若干たじろぎながらも真摯に回答していたが……公にできない話題も多かったので、ここでは割愛します。
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▲講義終了後には、講義中には訊ききれなかった質問をぶつけようと、学生達が列を成した。サインを求める熱心なファンの姿も!
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▲さらに最後に、松山氏のポーズ指導のもと、一部の有志たちと記念撮影。楽しそう!

 なお、講義終了後、馬場教授と松山氏にお時間をいただき、興味深いお話をたっぷり伺うことができた。その内容は後日お届けする予定なのでお楽しみに。

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