『グランツーリスモ6』で目指す拡張性は、プレイステーション4をも視野に入れています
我々がまず話を聞けたのは、『GT』シリーズの産みの親である山内一典氏。ステージでのプレゼンテーションの内容を踏まえ、数々の質問が各国のメディアから寄せられた。
――もしも昔の山内氏に現在の山内氏の状況を見せたら、昔の山内氏はどんな反応を見せると思いますか?
山内一典氏(以下、山内) 自分の夢が叶ったと思うんじゃないですかね(笑)。こんなゲームが遊びたかった、と思うと思います。
――この15年間の『GT』の進化には、山内氏自身も驚かれているのですか?
山内 “つねに目の前にあるものを、よりよくしよう”ということをくり返してきただけで、狙ってできるものではないと思うんです。ただ、15年間に渡ってひとつのチームで同じゲームを作り続けることができたということは、幸運だったとしか言い様がないと思います。ゲームインダストリーの中でも希有な存在だと思います。
――15年周年を笑顔で迎えることができたと思うのですが、笑顔で20周年を迎えるための中長期的展望はありますか?
山内 中長期的なスパンって、ちゃんと考えたことはないんですけれど(笑)。基本的には、目の前のことをキチンとやる、改善できることは改善していく、という点に尽きると思います。最近気づいたんですが、ハードワークすることって楽しいんですよ。それをいつまでも続けていければ、おのずと未来が広がって行くんのでは? と楽観視しています(笑)。
――プレゼンテーションで発表された『グランツーリスモ6』(以下、『GT6』)の拡張性というものを具体的に教えてください。
山内 マルチデバイスへの対応という意味での拡張性がひとつ。これはクライアント側だけではなく、サーバー側も含みます。もちろん、今年の冬をターゲットにしているので、プレイステーション4を視野に入れた拡張性というものがあります。でも、まずはプレイステーション3版で楽しんでいただきたいですね。そのプレイステーション3版でさまざまなアップデートやDLCを提供し、プレイヤーのみなさんがプレイステーション3版を遊び尽くしたころに、プレイステーション4版が登場すればいいな、と思っています。とはいえ、リファクタリングの作業もキリがないんですけれど(笑)。基本的に『GT』シリーズの作りかたって“急がば回れ”なので、まずはキチンと作っていきたいと思っています。
――『GT』シリーズにおける、リアルとバーチャルの差というものはどう考えていますか?
山内 『GT』を作るということは、リアルとバーチャルの差を埋めていく作業ではないんです。むしろ、リアルとバーチャルが影響しあって、現実が変容していく感じがおもしろい。必ずしもリアルが絶対で、バーチャルがそれに追従していくものではないと思うんです。相互作用しながらおもしろいものが生まれていくというのが、『GT』シリーズの営みだという気がしています。たとえば、我々がコンセプトやアイデアを出し、GT-Rに付けられたファンクションメーターもそのひとつです。“GTアカデミー”も現実が変容していっている最たるもので、『GT』シリーズの、バーチャル出身のドライバーが、“レーシングドライバーの成り立ち”の定義そのものを揺るがそうとしている。それは、バーチャルが現実世界のルールや仕組みを壊していると言って良いと思うんです。
――ゲーム全般として、グラフィック性能が向上することによる驚きは減ってきたが、この先、『GT』で驚きを与えたい部分はどんなところでしょう?
山内 プロフェッショナルな目で見ると、変化した部分というのはわかると思うんですが、確かに変化はわかりにくくなったと思います。とはいえ、僕たちは新しい技術が大好きですから、それは極めていきたい。ひとつのキーワードは、リアルとバーチャルの境界から生まれる“おもしろい作用”。それが、新たな驚きを与えてくれると思っています。
ゲームでトレーニングを詰んだドライバーをF1に送り込みたい
続いてインタビューできたのは、日産自動車のグローバルモータースポーツディレクターであるDarren Cox氏。ゲーマーをプロのドライバーに養成することを目的とした”GTアカデミー”の責任者でもあり、ステージイベントで”GTアカデミー2013”の発表を行ったDarren氏に、『GT』シリーズへの想いを語ってもらった。
――ゲームからプロドライバーを養成するという発想はどこから?
Darren Cox氏(以下、Darren氏) かつて、ソニーUKと『GT4』と日産自動車でプロモーションを行い、ゲームユーザーの方々に実車をドライブしてもらう機会がありました。そのうちの何人かは、実車の運転もとても上手でした。それを知ったとき、「ゲーマーがプロドライバーになれるのではないか?」というアイデアが閃き、GTアカデミーを通じてそれが確信に変わったのです。
――いまのゲームはどこまで現実に近づいていると思いますか?
Darren いま、F1チームを運営している会社が、レースをシミュレートできるソフトに多くの投資をしています。ところが、それは『GT』をステアリングホイールでプレイしているのとほとんど同じようなものなんです。実際、F1のドライバーがシミュレーターを使っていることは珍しいことではありません。ですから、『GT』を通じてプロのドライバーになるという道は、決して驚くようなものではなくなっているのです。また、これまでのルーチンでプロドライバーになろうとした場合、幼いころから大金をかけてカートレースなどをやらなければなりません。しかし、いまでは『GT』で速くなるという別の選択肢が用意されるようになりました。
――”GTアカデミー”などを開催するにあたり、もっとも心配したことは?
Darren 健康や安全の面です。安全でないと、プロジェクトを継続して行うことはできなくなってしまいますから。また、プロドライバーになるための体力的な事前トレーニングもしっかりと行っています。このプロジェクトは確かにリスクがありますが、ソニーや日産の法務部も問題無いと認識していますし、今後も”GTアカデミー”のような革新的な試みを行っていかなければならないと考えています。
――『GT』とのパートナーシップの中で、今後目指したいところは?
Darren 現状でも『GT』、そして”GTアカデミー”を通じて、世界中に埋もれた才能を見つけることが実際にできていると思っています。私たちにとって、ほかのメーカーやほかのゲームソフトが同じような試みを行っていないことがむしろ驚きです(笑)。今年、”GTアカデミー”からふたりのドライバーをル・マン24時間耐久レースに出場させたのですが、目指したいのは、3人のドライバーを同時に出場させることです。そしていずれは、ル・マン24時間耐久レースだけではなく、ゲームでトレーニングを詰んだドライバーをF1に送り込みたいです。今後は”GTアカデミー”のように、ゲームを通じてプロドライバーになるプログラムが増えればいいと思いますし、我々はそれを歓迎します。今回の『GT6』の発表でも、日産自動車は多くのプロモーションの機会を『GT』から与えられていてWin-Winの関係になっているので、今後は多くのメーカーが同じようなプログラムを行うことになるかもしれません。
――一般的なプロドライバーと比べて、“GTアカデミー”にやってくるゲーマーたちが持つスキルの中で高いものは何ですか?
Darren 一般のプロドライバーよりも柔軟性が高いと感じます。異なる環境……たとえばコースを逆走するといったとき、いち早く対応できるのは、ゲーマーたちのほうだと思います。吸収力が高く、頭の回転も速い人が多いんです。また、『GT』でたくさんのクルマを経験しているというのも、ゲーマーの柔軟性の高さに影響しているのかもしれませんね。
『GT6』は、幅広いユーザーに届けることを大きな目標にしています
3人目のキーパーソンは、ソニー・コンピュータエンタテインメント・ヨーロッパのCEO、Jim Ryan氏。『GT』シリーズの歴史とともに歩んできた15年間を振り返ってもらいつつ、『GT』シリーズに対する感想をビジネスパーソンとして語ってもらった。
――『GT』を初めて見たときの感想はどのようなものでしたか?
Jim Ryan氏(以下、Jim) 当時、山内さんに「新作を見てほしい」と東京の開発スタジオに呼ばれ、初めて『GT』を見ました。私は楽しいゲームが好きだったのですが、初めて『GT』を見たときの正直な感想は「美しいゲームではあるけど、楽しさはどうだろう?」と感じましたが……それは大きな間違いでした(笑)。
――『GT』が生まれてからの15年間で、いちばん誇りに思っている瞬間は?
Jim ビジネスの面から話すと、プレイステーション2の発売後でしょうか。当時のプレイステーション2は、価格が高く、利益は少ないハードであるとともに、ソフトの数にやや不安を抱えていたのですが、『GT3』の発売によってプレイステーション2の売上に大きな影響をもたらしました。豪華な同梱版もありましたしね(笑)。
――それだけインパクトのある『GT』シリーズをプレイステーション4のローンチタイトルに欲しいとは思いませんでしたか?
Jim プレイステーション4の発売タイミングには、良質のゲームが多数出る予定なのでラインナップに不安はありません。『GT6』は、『GT5』と同じプレイステーション3対応ソフトでも『GT5』より遙かに優れたものになっていると思いますし、進化のポテンシャルはまだまだあると考えています。まずは7000万人のユーザーがいるプレイステーション3で発売することがよいことなのではないでしょうか。PS4の発売日は、まだユーザーが0の状態ですからね。『GT6』は、幅広いユーザーに届けることを大きな目標にしています。
――ヨーロッパでの『GT』シリーズのヒットの要因は?
Jim ヨーロッパのマーケティングと開発スタジオのリレーションシップが大きなポイントでしょう。山内さんは、ヨーロッパのマーケットが要求しているものをゲームに内包してくれます。『GT』15周年イベントが行われ、『GT6』にも収録されるこのシルバーストーン・サーキットは、ヨーロッパのユーザーにとってたいへん魅力的なコースですし、実際にユーザーからの要望も大きかったコースでもあります。『GT』シリーズがヨーロッパで大ヒットした理由ですが……北米では比較的コアなユーザーが多く、アクションやFPSが好まれますが、ヨーロッパはライトなユーザーが多いので、レースゲームも好まれるのだと思います。
――同じジャンルのライバルソフトと比較したときの、『GT』の優れている点は?
Jim ドライビングシミュレーターとして、ほかのゲームに越えられていないと思います。リアリティも、多数のコースが収録されていることも、ライバルソフトには真似ができないと思います。また、さまざまな許諾を取る際に、『GT』シリーズの知名度は大きく役立っています。知名度が低いときは許諾を取るのがたいへんでしたが、いまではさまざまなメーカーが協力的になってくれています。
――今後の各種メーカーと『GT』シリーズのコラボレーションの予定は?
Jim 現段階ではまだ話せません。今後、E3などで発表できるのではないかと思います。
――『GT6』のプレゼンテーションで、タッチ画面について言及されましたが、それはプレイステーションvitaを意識したものなのでしょうか?
Jim どちらかと言えば、それらはスマートフォンやタブレットを指していると思います。
――『GT』シリーズの15年の成功によって、勉強になったことは何でしょう?
Jim “クオリティーはかけがえのないものだ”ということです。山内さんは完全主義者だと思うんですが、それがどれだけ重要なことなのか、ということがわかりましたね(笑)。
今後のレース界は、『GT』シリーズのようなシミュレーターでの練習が欠かせないものになるはず
最後にインタビューできたのは、“GTアカデミー”の初代ウィナーであるLucas Ordonez氏。2008年の大会で2万人を越える参加者を制し、その後本格的にレース活動を開始。GT4欧州選手権でのランキング2位を皮切りに、数々のレースで勝利を飾っているゲーマーの夢の象徴のような人物だ。
――『GT』で人生が変わってしまいましたが、それに対する率直な感想は?
Lucas Ordonez氏(以下、Lucas) “GTアカデミー”に参加する前は、ふつうのスペインの学生でした。そこからプロのドライバーになって、夢が叶いましたね。プロのドライバーとして5年間活動してきましたが、今回は”GTアカデミー2013”の広めることに貢献できて幸せです。
――プロのドライバーになって、もっとも『GT』と異なった点や苦労した点は?
Lucas 『GT』で受け取れるクルマからのインフォメーションは視覚が中心になりますが、実際のレースでは全身からさまざまなインフォメーションを受け取ることになります。たとえばコーナリング時にかかるGなどですね。それに対応しながらクルマをコントロールするということがとても難しいものでした。全身でサーキットを覚えていくという点が、もっとも『GT』の操作と異なる部分だと思います・
――”GTアカデミー”出身だからこそのアドバンテージはありましたか?
Lucas 現在は、F1のドライバーでもシミュレーターを使って勉強や練習をすることが増えています。そういうとき、我々のほうがシミュレーターとそこから得られる情報に慣れているので、実際のドライビングに大いに役立てることができます。これからのプロドライバーにとって、『GT』シリーズのようなシミュレーターでの練習が欠かせないものになるでしょう。ジョニー・ハーバートやデビット・クルサード、ミハイル・シューマッハといった一流のF1ドライバーですら得られないようなシミュレーターからの情報を受け取れるのは、我々の大きなアドバンテージだと思います。
――『GT』ゲーム、あるいは乗ってきたクルマの中でもっとも好きなものは?
Lucas ゲーム中でも現実でも、日産GT-Rがもっとも好きなクルマです。どちらの世界でも、GT-Rで腕を磨いてきました。そして、さまざまな大会で成果を出せたのもGT-Rです。いずれは、日本のスーパ-GTの500クラスに出場し、日産のドライバーとしてドライビングしたいと思っています。
――『GT6』にはもう触れましたか?
Lucas 今朝初めてプレイしましたが、これまでのタイトルより物理エンジンがさらに進化していると感じました。完成品ができたら、相当なものになるのではないかと思っています。