『inFAMOUS2』と『Resistance Burning Skies』を実例に挙げて解説

ローカリゼーションシステムの改善はどのようなメリットを生むのか【GDC2013】_01

 サンフランシスコで2013年3月25日~29日(北米時間)の期間にGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013が開催された。2日目に行われたローカリゼーションをテーマにしたセッションの模様をお伝えする。

 セッションに登壇したのはSony Computer Entertainmenr Europe(SCEE)でローカリゼーションツール“LAMS”のプロジェクトマネージャーを務めるChris Burgess氏。ローカリゼーションツールに投資・改善を施したことで、どのような効果があるのかを実際のタイトルを例に解説するという貴重な内容となった。

 まずはChris Burgess氏から、SCEが社内やパートナー会社で使っているLAMS(Language Asset Management System)と呼ばれるデータべースシステムの解説があった。このツールで管理できるアセットの種類はテキスト、スクリプト、オーディオ、テクスチャー。つまりローカライズに必要なデータを一括して管理できる。さらにWebインターフェースで操作することができるので、もちろんWebからデータの検索・編集・更新が可能になっている。WordやExcelなど各形式のファイルにエクスポート対応もしているようだ。

ローカリゼーションシステムの改善はどのようなメリットを生むのか【GDC2013】_02

 さて、SCEのタイトルではどれくらいのファイル数を管理することになるのだろうか? 単純にテキストファイル、音声ファイルだけでなく、エフェクト付与前やファイル形式の変換前などバージョン違いのサウンドファイルも含めると、管理しなくてはならないファイル数は膨大になる。

 Chris Burgess氏は音声データのアセット数について具体例を挙げてくれた。

inFAMOUS2』…20万ファイル(音声を含むフルローカライズだけでも12言語対応)
Resistance Burning Skies』…6万5000ファイル

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 この膨大なファイル数を管理するデータベースがLAMSだというわけだ。SCEは『inFAMOUS2』で使ったLAMSを『Resistance Burning Skies』にも使うにあたり、さらに改善を施したという。

 ここでLAMSを使った実際の作業の流れが紹介された。

シナリオライティング
 シナリオライターがセリフを登録すると、LAMSがテキストから対応する仮音声を生成。書いたセリフをそのまま仮音声としてゲームに組み込めるようになっている。後から修正したいときは、Webインターフェースから検索して直接修正が可能。

レコーディング
 登録したセリフのデータからボリュームと声優の人数を確認後、LAMSでレコーディングするファイルをすべてチェックアウト(同時にファイルをロックして編集不可に)。これでレコーディング中に誰かがセリフを編集して、音声とテキストに齟齬が生じることがなくなる。レコーディングが終わったら、収録した音声ファイルをLAMSにチェックイン。
 データベースには必要な情報がすべて集まっているので、レコーディング時に「セリフの意味や前後関係が確認しやすい」「資料を作成するのにほとんど時間がかからない」というメリットがある。声優は収録シーンに関する情報が足りないまま、おそるおそる収録することがなくなり、演技に集中できる。

翻訳
 LAMSから翻訳用にファイルをエクスポート。翻訳会社や翻訳担当者からあがってきたデータの品質チェックには、全言語で30人近くの人員が関わっているので、効率化が必須。

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 そしていよいよ『inFAMOUS2』から『Resistance Burning Skies』までにLAMSを改善したことで、どのような変化があったのかを発表。もちろん数値データは両タイトルのセリフ量が同サイズだった場合と仮定して計算されている。

○台本を準備する時間
『inFAMOUS2』の場合
56キャラクターの全言語の台本を準備すると、78.5時間

『Resistance Burning Skies』の場合
56キャラクターの全言語の台本を準備すると、56時間

結果:22.5時間(3日分の作業量)の短縮。

○収録した音声をシステムに登録する時間
『inFAMOUS2』の場合
1)ファイルをプレビュー(所要時間 1分)
2)チェックアウト(所要時間 3分30秒)
3)仮音声を削除(所要時間 5分)
4)ファイルをアップロード(所要時間 5分30秒)
5)チェックイン(所要時間 5分20秒)

『Resistance Burning Skies』の場合
1)チェックアウト(所要時間 30秒)
2)アップロード(所要時間 4分30秒)
3)チェックイン(所要時間 5分20秒)

結果:手順も所要時間も大幅に改善

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○音声ファイルをチェックする時間
『inFAMOUS2』の場合
音声ファイルをダウンロードしてから再生する必要あり。
9300のセリフをチェックすると、465時間

『Resistance Burning Skies』の場合
音声ファイルをダウンロードしないで再生可能に。
9300のセリフをチェックすると、62時間

結果:403時間(50日分の作業量)の短縮

○不具合の修正にかかる時間
煩雑だった作業の効率化を図り、【検索→発見→チェックアウト→修正→チェックイン】の手順を2分でできるように改善。また、音声ファイルのサンプルレートや波形データを自動的にチェックする機能や不適切なアセットが登録されたらメールで通知する機能を搭載した。

『inFAMOUS2』の場合
200のアセットを検証すると、80時間

『Resistance Burning Skies』の場合
200のアセットを検証すると、24分

結果:79.5時間(10日分の作業量)の短縮

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 以上の成果を総合すると、ひとつのプロジェクトで17.5週分の作業量(ひとりあたり)と65320ドルのコスト削減につながる。しかもプロジェクトが完了した後は、改善を図ったツールを次のプロジェクトに利用することで、より大きな費用対効果を得ることができる、とのこと。今回のセッションで提示されたのは一例ではあったが、「継続的にローカリゼーションツールに投資・改善することは目に見える利益がある」とセッションを結んだChris Burgess氏の発言は間違いではないだろう。

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