HTMLやJavaScriptでWii Uソフトを開発?
世界中のゲーム開発者が集い、最新技術やゲーム制作の過程などを解説、紹介する国際会議“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2013”が、現地時間の3月25日~3月29日の期間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターで開催中。この記事では、任天堂による“Nintendo Wii U Application Development with HTML and JavaScript”と題された講演をリポートする。
講演を行ったのは、任天堂の島田健嗣氏、Nintendo Software TechnologyのRyan Lynd氏、Nintendo of AmericaのKevin McCullough氏。まずは、島田氏からふたつの質問が会場に投げ掛けられる。
「この中で、Wii Uのアプリケーションを開発している方は?」
挙手はまばらだ。続いて、ふたつ目の質問。
「Wii Uという製品を触ったことがある方は?」
この質問に対しては、多くの手が挙がっていた。この結果を受け、まだすべての人がWii Uを知っているわけではないとし、“そもそもWii Uとは?”といった部分から講演は始まった。
Wii Uとは、その前身であるWiiの“家族みんながリビングで”というコンセプトをそのままに、画面の付いた新しいコントローラ“Wii U GamePad”と、インターネットを介してゲーム体験をさまざまな形で世界中の人たちと共有できるインターフェース“Miiverse”によって、世界中のリビングルームをつなぐハード、と島田氏は説明。
さらに島田氏は、Wii Uはテレビ画面とWii U GamePadというふたつの画面を使うことができること、そしてインターネットとの相性のよさを重点的に紹介した。ゲームファンには周知されていることだが、リビングのテレビがふさがっていても、Wii U GamePadだけでゲームが楽しめる(対応ソフトのみ)ことを始め、インターネットブラウザーでは、動画などを観るときはテレビで、そして文字を読んだり操作を行うときはWii U GamePadでといった具合に、使い分けられることにも触れた。また、北米版のWii Uでは、Hulu PlusやAmazon Instant Video、You TubeといったWebサービスが最初から利用できる点や、『Wii Street U powered by Google』のようなリビングでの新しいネットワークサービスを提供しているということも丁寧に説明した。なぜ、いまさらこんな話をするのか? それは、今回の講演内容と、Wii Uのふたつの画面、インターネットとの親和性は、深い関係があるからだ。
いよいよ本題だ。『YouTube』や『Wii Street U powered by Google』といったWii Uのアプリケーション、ネットワークサービスを、一般的なゲーム開発環境で作ろうとすると、けっこうな労力がある、と島田氏。ゲーム専用機のソフト開発は、ハードが持つ特徴や性能を最大限に使えるように、基本となるOSは薄い(機能が少ない)。CやC++を使ってAPIを駆使しながら基本構造を準備して、その上にアプリケーションを構築していく。これは、ゲームによって必要となる要素が異なるためで、使いもしない機能をOSに含めてもムダになってしまうからだ。
しかし、昨今のハードウェアの向上によって、すべてのアプリケーションがこのようなアプローチを採らなくてもよくなってきたと島田氏は語る。サーバーとの親和性を考慮すると、CやC++ではない言語で開発できるほうがメリットが多いこともあるのだ。そこで、任天堂が提供するのが、Nintendo Web Framework(以下、NWF)だ。NWFは、HTMLやJavaScriptといった、Web系の技術だけでWii Uのアプリケーションが開発できるフレームワーク。すでにWii U向けにリリースされているVODアプリケーションのいくつかや、さきほどの『Wii Street U powered by Google』も、NWFのプロトタイプを使って作られたという。
NWFは、WebKit(オープンソースのHTMLレンダリングエンジン群の総称)をベースにしているとのことで、HTML5、JavaScript、CSSなど、Web技術としては標準的な言語をサポートしている。当然、ネットワークサービスとの相性もいい。ということは、すでにPCやスマートフォンなどのデバイスで展開されているネットワークサービスを、最低限の手間でWii U GamePadで動かすことができるようになるというわけだ。NWFでは、標準でWii U GamePadに映像が出力され、前述のような専用のAPIを新たに作る必要はない。しかも、そこからさらに、ほんの数行のコードをアプリケーションに書き加えるだけで、Wii U GamePadとテレビの2画面に、別々の映像を映すこともできるのだ。近年では、JavaScriptのライブラリも充実してきており、高度なゲームも増えている。たとえば、企画中のゲームのプロトタイプをNWFを使って短期間で制作、といった使いかたも想定できる。このようなフレームワークが開発者に提供されれば、HTML5ベースのWebアプリがWii Uにたくさん移植されることになる。そして、任天堂側もそれが思惑としてあるのだろう。
NWFとは直接関係ないが、島田氏はこんなニュースを紹介した。もともとは、iOSとAndroidのために制作された『Gunman Clive』というゲームアプリをニンテンドー3DSに移植し、ダウンロードコンテンツとして配信したところ、わずか1ヵ月でiOS版の累計売上を上回り、その後まもなくAndroid版の売上も超えたという。売上が伸びた要因はさまざまだろうが、物理的なボタン、キーによって操作性が向上し、ゲームの魅力が上がったことは無関係ではないと島田氏は推測する。NWFを使えば、それと似たようなことが起こるだろう。iOSやAndroid用に開発したアクションゲームを、Wii U GamePadの各種入力デバイスで遊べたら、人気が再燃する可能性だってあるのだ。
テクニカルデモでその実力をチェック!
島田氏によるNWFの解説の後は、Ryan Lynd氏とKevin McCullough氏による、技術デモが行われた。ここでは、スライドを中心に掲載していこう。
多くの開発者がNWFを使えるようなビジョンを
講演の最後に、島田氏からNWFのロゴに込められた意味と、思い描くビジネスモデルについて説明があった。NWFのロゴの右側を見てほしいのだが、竹のビジュアルが描かれている。竹は、地面にしっかりと根を張り、その土地を丈夫にする。また、春から初夏にかけてタケノコが顔を出すと、一気に成長するという特徴がある。これになぞらえ、しっかりとしたフレームワークを作り、多くの開発者が素早く、そして快適にアプリケーションの開発が行えるように、という想いが込められているそうだ。NWFは、任天堂とWii Uの開発者契約を結ぶことで誰でも無料で利用でき、ビジネス面でも新しい施策を導入するとのこと。具体的には、以下の通りだ。
・欧米では、コンセプト承認は行っていない(日本国内では不明)
・価格や発売日は開発者が主体的に決めることができる
・フリーミアム(※)のようなビジネスモデルもサポートできる予定
・利益配分も業界標準のモデル
※フリーミアム……基本的なサービスは無料で提供し、高度な機能やコンテンツの追加については課金制とするビジネスモデルのこと。
そして、このNWFのほかに、開発者にとってうれしい情報がもたらされた。現在、モバイル環境向けのゲームエンジンとして絶大な人気を誇る“Unity”が、Wii Uに対応。Unity for Wii Uとして、任天堂から無償で配布されるとのことだ。NWFとUnity for Wii Uの登場によって、Wii Uのゲーム事情が一変する可能性が出てきた。今後の動向に注目だろう。