冒頭で『METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』を発表!
世界中のゲーム開発者が集い、最新技術やゲーム制作の過程などを解説、紹介する国際会議“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2013”が、現地時間の3月25日~3月29日の期間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターで開催中。この記事では、、KONAMI 小島プロダクションの小島秀夫監督、CGアートディレクターの佐々木英樹氏、テクニカル・ディレクターの多胡順司氏、ライティング・アーティストの鈴木雅幸氏による講演“Photorealism Through the Eyes of a FOX: The Core of Metal Gear Solid Ground Zeroes”の模様をリポートする。
今回のGDC2013で、とくに注目を集めていた小島プロダクションの講演。というのも、小島監督のTwitterで、講演の内容は“FOX ENGINEのプレゼンテーション+α”ということがあらかじめ伝えられていたためで、FOX ENGINEの真価はもちろん、小島監督によるサプライズを期待する世界中の開発者、メディアが会場に押し寄せた。
会場内のアナウンスで小島監督が会場に呼び込まれるが、なにやら風貌が……?(右上写真) のっけから会場を沸かせたところで、注目のトレーラーが公開。既報(コチラ)の通り、『メタルギア ソリッド』シリーズの最新作、『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』(以下、『MGSV』)が発表となった。2012年8月30日の『メタルギア』生誕25周年記念イベント“METAL GEAR 25th ANNIVERSARY PARTY”で披露されたリアルタイムデモ『METAL GEAR SOLID GROUND Zeroes』(以下、『GZ』)と、2012年12月8日に米テレビ局Spikeのゲーム賞Spike Video Game Awardsで発表された『The Phantom Pain』(以下、『TPP』)がつながり、『MGSV』という大きなゲームになる。これまでに公開されてきたピースが、ようやくひとつになった形だ。何はともあれ、まずはそのトレーラーを見てほしい。なお、トレーラーはすべて実機映像となっている。
小島監督みずから実機プレイをデモンストレーション
『GZ』は『MGSV』のプロローグにあたり、そこから9年後の世界が『TPP』となる。『TPP』の冒頭はチュートリアルになっており、今回の講演では、小島監督みずからの操作による実演も行われた。デモはPCの実機によるもので、その映像は次世代機水準と言ってもいいほど。発売されるハードはどうあれ、この水準のゲームが家庭用のコンソールで遊べるようになる、そしてそれが眼前で動いているということに、大きな期待を抱かせてくれた。
こうして、不自由な体を引きずりながら病院を脱出するところで、チュートリアルのシーケンスは終了。この後の本編では、自由に動き回れるようになるとのこと。
小島監督は、4年前のGDC2009で、“不可能を可能にするゲームデザイン”という講演を行っている。そこで小島監督は、「これまでのゲーム作りというものは、不可能を可能にするためにアイデアやゲームデザインという橋を架けて乗り越えてきた。しかし今後は、欧米型の技術で不可能を乗り越え、その上にゲームデザインという橋を架けることで、さらに高度なゲームが創れるようになる」という、未来を見据えた宣言をした。あれから4年が経ち、“FOX ENGINE”という技術の橋が完成。今後は、よりおもしろく、より高みのゲームを目指していくという。また、テクノロジーの追究だけではなく、映画や小説といった歴史あるメディアのストーリーテリング、演出方法なども取り込みながら、ゲームならではの新しいエンターテイメントを創造していきたい、とも語った。続けて小島監督は、「なぜなら、我々が創っているゲームは、『“Epic”メタルギア ソリッド』ではなく、『メタルギア ソリッド』だからです」という、印象的な発言を残し、プレゼンテーションを締めくくっている。これに込められた意味は、いわゆる“ありもの”のエンジンで『メタルギア ソリッド』を創るのではなく、自分たちの思想を反映し、自分たちが創りたいものを実現するために生み出したエンジンで『メタルギア ソリッド』を創っていく、ということなのだろう。小島プロダクションが“FOX ENGINE”とともに紡ぎ出す、新しいゲーム・エンターテインメントに期待だ。
“FOX ENGINE”のフォトリアリズム
今回の講演では、“FOX ENGINE”でのアセット制作、ライティング、シェーダー、カメラなど、グラフィクスエンジンの詳細が公開されている。スライドの写真と合わせて、解説をつけていきたい。
まず、“FOX ENGINE”の概要だが、レベルエディタ、アニメーションエディタ、カットシーンエディタ、FX(特殊効果)エディタ、UI(ユーザーインターフェース)エディタなどで構成される、総合開発環境となっている。ところで、ゲームエンジンというと、ゲーム制作をライン化し、汎用のプログラム、ライブラリ群を使って作業を効率化する、というように説明されることも多いと思うが、最近ではそれに“フォトリアル”というキーワードが加わっている。フォトリアルとは、その名の通り、写実的な表現だ。フォトリアルは、ほぼライティングで決まるといってもよく、最近のゲームの絵作りでは、もっともここに神経を注ぐ。ひと昔前なら、朝の薄暗さと夕方の薄暗さを演出するには、そのシーンに合ったテクスチャーを用意したりと、写実的表現を全部手作業で構築する必要があったが、ここ数年では、ライティングを始めとする環境の変化を“自動生成”や“演算”で対応するようになってきている。そうすることで、何かひとつパラメーターをいじって環境的な変化を生み出しても、ほかの関連要素はちゃんとそれに合わせて更新される。FOX ENGINEでも、このライティングの処理はかなり肝になっている。
アセットの制作には、フォトスキャン(3Dスキャン)なども活用している。これは、対象(立体)の写真を全方向から撮り、それらのデータを合成することでポリゴンモデル、そしてテクスチャーまで生成するというものだ。これの大きな利点は、モデルからテクスチャーを生成するため、綺麗に“貼れる”ということ。いちからテクスチャーを作り、それがきちんと表示されるように調整するといった手間がないのだ。
アセット制作の効率化が解説された後は、キャラクターの衣装の話。これは、韓国製の服飾制作ツールである、“Marvelous Designer 2”が使用されている。このMarvelous Designer 2のすばらしい点は、型紙から服のモデルが作れることだ。
これまで、高品質なモデルや質感の追求のために使われていた膨大な時間が大きく減り、そのぶんクリエイティビティーに回されるのは、開発者にとってもユーザーにとっても幸せなことだろう。
フォトリアルを支えるライティング
続いて、ライティングの話に移る。FOX ENGINEのようなフォトリアルは、すべてのテクスチャー・カラーに対してガンマ補正を行う、“リニアワークフロー”でなければ、実現できなかったという。リニアワークフローでは、ガンマを考慮することで、よりリアルな結果が得られることで知られている。
現実世界で生活している私たちがふと思うのは、現実世界のライティングに基づいているということは、ゲームとして暗すぎる空間ができてしまうのではないかという懸念だ。実際にそうしたQAがあったようだが、「その場合は、ゲームデザイナーやレベルデザイナーと話し合って、そういう暗い空間を利用するようにしてほしい」と伝えたという。つまり、FOX ENGINEによって生み出されている“説得力のある環境”をゲームの都合でいじるのではなく、この“説得力のある環境”で何をするべきか、という姿勢なのだろう。
レンダリングについては、ディファードレンダリングを採用している。ディファードレンダリングとは、Deferred(遅らせた)というキーワードが意味する通り、「ひとまず高度なシェーダーをいっさい動作させずにシーンをレンダリングしつつ,そのあいだにさまざまな中間値を複数のバッファに出力。後段で高度なピクセルシェーダーを動かして、それら中間値を基にしてライティング計算を行い、最終的なレンダリング結果を得る」という、一見すると風変わりなレンダリング手法のこと。一種の「変わり種のマルチパスレンダリング手法」とも言えるこのディファードレンダリングには、GPUでサポートされる動的光源の数の上限を撤廃できるというメリットがある。それからもわかるように、ディファードレンダリングを採用する大きな動機として、ライトの数が多い、そして、キャラクターと背景で統一感のある見た目を実現したいから、ということが挙げられていた。
フォトリアリアルがもたらすもの
逆説的ではあるが、テクノロジーが進化したことにより、現実世界のものを理解する必要性が高まったという。演出としてのライティングを現実世界のライティングから学び、“物理的に正しい結果”をもたらす必要が出てきている。このためには、つねにさまざまなものを観察することを大切にしているとのこと。しかし、もっとも重要なのは、リアルであることが優れているわけではなく、アーティストとしての才能も必要ということを認識しておくことだという。アーティストの目から見て品質の高いものを作る、それが小島プロダクションが目指すクオリティーだと語った。
この講演を通じて小島監督が4年前に語ったことがつながった気がする。FOX ENGINEによって写実的な表現を効率的に生み出し、ゲームデザイン、ひいてはゲーム開発全体の柔軟性を保った状態で進められるため、ビジュアルの写実性(すなわち説得力)を犠牲にすることなく、自分たちのクリエイティビティーを最大限に発揮してゲームを作れる、ということなのだろう。FOX ENGINEのすごさは、今回見たグラフィックの技術が本質ではなく、柔軟性のある開発環境で生み出される、つぎのコジマゲームなのだ。
小島プロダクション LAスタジオが設立
講演の最後には、小島プロダクションのLAスタジオ設立が発表された。ステージに登壇したトムセキネ氏は、LAスタジオの哲学やビジョン、課されたミッション、そして自分たちの価値について説明。
・哲学
年齢を超えて驚きと興奮を届ける。そして、批評家の支持を得て商業的にも成功すること。LAでは、ユニークで新しい文化も醸成していきたい。
・ビジョン
深い感情を引き出す、最高のインタラクティブ・エンターテインメント作品を作ること
・ミッション
世界一クリエイティブな開発スタジオになること
・自分たちの価値
品質。妥協しないこと
ゲーム体験第一
コラボレーション
最先端