重要なのは「開発」「ローカライズ」「運営」の3つのステップ
米時間の2013年3月25日、サンフランシスコでゲーム開発者向けの国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)が開幕。中国ゲーム市場をテーマにした講演が行われた。
登壇者はTencentのBo Wang氏。Tencentは1998年に設立され、ゲーム運営サービスを提供する中国最大手のIT企業。ポータルサイトやメッセンジャー“QQ”などゲーム以外にも幅広く展開している巨大複合企業である。
Bo Wang氏は中国市場について、欧米と比較するとさまざまなゲームに慣れていないユーザーが多いと分析し、すなわち「高いクオリティーのゲームに対する需要が眠っている」と語る。こうした魅力的な中国市場でゲーム事業を展開するステップは大きく分けて、「開発」「ローカライズ」「運営」の3つであり、それぞれについて説明を行った。
「開発」において大事なことは、中国市場に進出する欧米の開発会社に対して、早い段階でパートナーとなり、中国市場の特徴を知る強みを生かしてアドバイスを提供することだと明かした。中国企業であるTencentが市場をよく把握しているのは当然といえば当然だが、IT企業としてユーザーにサービスを提供していることから、膨大な顧客データを保有していることも見逃せない。それらを解析して、精度の高いマーケティングデータを開発段階に生かしているのだ。
さらに「開発」のキーとして挙がったのが、チーム編成。Tencent側のプロデューサーはさまざまな情報を統括して、開発会社側のプロデューサーと連携して制作を進めていく。そして仕様変更を伝えるときには意見をぶつけるのではなく、分析されたデータを提示して、理由を明確にしているという。あくまでもデータに基づいた変更であれば、意見の衝突を避けてスムーズに作業を進めることができるのだろう。
「ローカライズ」に関しては、中国市場のニーズに合わせるために重要な3つのポイントを挙げた。
1)GUI (グラフィカルユーザーインターフェース)の対応
単純に言語を置き換えるだけでなく、レイアウトやデザインの修正も必要。ログイン画面に短時間でたどり着けるようにする、ユーザーの視点が移動する範囲を減らす、ロード時間を削減するといった細かな変更が、中国のユーザーにとっては重要になる。
2)チュートリアルの調整
欧米のユーザーと違って、中国のユーザーはゲームに慣れていないことを念頭に置く必要がある。たとえば60ドル払ってゲームを遊ぶユーザーはゲームを熟知しているが、F2P(基本プレイ無料)ゲームのユーザーはそうではない。スタート時に多くのユーザーを呼び込めるが、とりあえず試しているだけで、これから継続して遊んでくれるかどうかわからないので、スタート時の敷居を下げる工夫をするべきだ。いかに優れたゲームでも、この点をおろそかにしては中国ではうまくいかない。ちなみにユーザーがゲームするのを止めてしまった場所をデータから特定して、分析材料にしている。
3)中国向けのコンテンツ
旧正月は中国人にとってひじょうに大事な時期であり、それに合わせたコンテンツを作るべき。その際、グラフィックだけでなくアイテムなどの機能を変更することも。ちなみにアイテムの売上の6割はキャラクターの見た目を変更するアイテムで、残りの4割が実用的なアイテムとのこと。
最後は「運営」についてだが、4つのポイントを挙げている。
1)ソーシャルグラフの統合
中国で大勢のユーザーが利用しているソーシャルサービスに対応することで、ソーシャルグラフ(人と人の結びつき)をそのままゲームに持ち込む。
2)オフラインイベントやトーナメント
オフラインイベントやトーナメントを定期的に開催することで、ユーザーと運営側の結びつきを強化する。
3)サーバーの分散
広大な中国では、地域によりネットワークのインフラ整備状況が大きく異なる。地域ごとに適したサーバー環境が必要になる。
4)クライアントサイズ
回線状況があまりよくない実情に合わせて、リッチなカジュアルゲームは1GB以下、MMOゲームでも 2GB以下に。ただし、当然ながらゲームのクオリティーに影響がないようにする。
以上が中国最大手のTencentが手掛けるサービス運営方法だが、決して中国特有の突飛な施策があるわけではない。運営側はできるだけユーザーの立場から、どうしたら快適なサービスを受けられるのかを研究して実行するという、どの地域であっても通用する当たり前のことだろう。ただし、Bo Wang氏はそのためには、サービスを提供する地域について知識やデータを豊富に蓄えているパートナーと協力関係を結ぶことが重要であると挙げて、講演を締めくくった。