クラウドファンディングの今後を予想する

 米時間の2013年3月25日、サンフランシスコでゲーム開発者向けの国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)が開幕。ゲーム業界に注目が集まるクラウドファンディングをテーマにした講演を行われた。

いまゲーム業界が注目するクラウドファンディング、その具体的な数字と傾向の話【GDC2013】_05

 登壇者はICO PartnersのThomas Bidaux氏。ゲーム開発に必要な資金が足りない開発者が、Webで出資者を募るクラウドファンディングについて分析結果を発表した。
 まずはもっとも有名なクラウドファンディングサイト“Kickstarter”について、もっとも大きな金額が集まるプラットフォームであると説明。その後、グラフを使って近年のデータを解説していった。たとえば2011年に出資が成立したゲームプロジェクトは90。この数字は、2011年と比較すると約3倍だが、出資額のほうは3倍どころではなく大幅に上昇していることがわかる。その理由のひとつとして、昨年3月に成立したゲームプロジェクト“Double Fine Adventure”(現在は正式タイトルが『Broken Age』に決定)の前後でお金の流れに大きな変化があったと分析した。

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 さらに傾向として、目標出資金額のグラフから、ゲームプロジェクトが小規模と大規模に分かれて二極化が進んでいるという。数千ドルを超えるプロジェクトを成立させることが難しくなっており、最近のデータによるとプロジェクト成功率は30%。つまり7割は却下されているわけだ。

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▲キャンペーン期間内の出資額には波があり、キャンペーンの立ち上げ時と終了直前が高くなる傾向がある。

 そこでプロジェクトを成立させるためには何が重要なのか? Thomas Bidaux氏はいくつかのポイントを挙げた。

・正しいゴールを設定する
人間は不思議なもので「そのアイデアは気に入ったから投資はするが、失敗したらお金を返してほしい」と言われる。本来、投資とはそういったものではないが、失敗する人の顕著な例として、目標金額が高く設定しすぎて、その結果、キャンペーンが長くなり、やがてダメなイメージが付いてしまうケースが多い。

・既存のファンベースを大事にする
まずはいま持っているファンベースを最大限に活用することを考えるべき。

・正しく積極的に広報活動すること
ちょっとTweetしてる……でも誰も知らないではダメ。

・製品の位置づけ
現在、クラウドファンディングはiOSや Android 、マスマーケット向けゲーム、子供向けゲームなどには適していない。“PCxニッチなジャンル”のようにサイトで出資する人に刺さるものを。とくにF2Pゲームはほとんど成立しない(クラウドファンディングはそういったゲームを好む層が出資するプラットフォームではないとのこと)。

・出資者の声に耳を傾ける
出資していくれる人たちが求めているものに合わせる姿勢を見せるべき。F2Pゲームとして立ち上げたプロジェクトを、その後、寄せられ声に耳を傾けて修正したことで成立した例もある。

 これらを総合して、プロジェクトを成功させたければ何よりもまずは「Kickstarterが本当にあなたに、あなたのゲームに、あなたの会社にとって最適なのか?」と自問するべきである、とまとめている。

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 続いて理想的なプロジェクト運営について解説した。たとえばプロジェクトの出費の内訳は以下のとおりとなる。
・5% Amazonへ支払われる
・5% Kickstarterへ支払われる
・0.5%~10% プロジェクト失敗時 (注:不成立ではなく、成立後のキャンセル) の支払額
・5~15% 事務費用と税金
・10~20% 制作にかけられる額
 一切ミスをしなかったとしても、プロジェクトに投入できる金額は出資額全体の60~70%にすぎない。

 そして一度は自分でも資金提供をしてみるべきだという。自分のプロジェクトと近い規模や方向性のものがあれば、その経験を参考にすることもできるからだ。

 結論として、理想的なプロジェクト運営には最初の1ヵ月はフルタイムで関わること。キャンペーンにはとにかく人も金も時間もかかるので、覚悟も必要。また、プロジェクトの成功に必要なスキルはすでに持った状態で始めるべきだとしている。
 しかし、それでも失敗する可能性はあるとのこと。念入りに準備として、それなりに決意と覚悟を持たなくては成功は難しいようだ。

 最後は今後のクラウドファンディングの予測について触れた。とくにゲーム分野は目覚ましい成長を見せているが、2013年には失敗例(完成したもののクオリティーが低い)やキャンセルの事例が出てくることが予想され、痛みを伴う一年になるだろうとまとめた。さらに洗練されたキャンペーンを展開することや、どうやって注目されるかなど、課題も増える。いかにしてプロジェクトに対して信用を獲得するかが、とても重要になるだろう。