中国ならではの難題をいかにして乗り越えたのか
米時間の2013年3月25日、サンフランシスコでゲーム開発者向けの国際会議GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)が開幕。さまざまなプラットフォームで展開しているカジュアルゲーム『Plants vs. Zombies』の中国展開に関する講演の模様をお伝えする。
講演を行ったのはPopCap Games初のアジア拠点、上海オフィスで5年を過ごしたJames Gwertzman氏。『Plants vs. Zombies』は世界中で大ヒットを記録したが、中国ではある難題に直面し、そこから成功に導くまでの試行錯誤と成功の秘訣を明かす興味深い内容となった。
PC用ゲームとしてリリース後、家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機、スマートフォン用アプリなど、さまざまなプラットフォームで展開している『Plants vs. Zombies』。世界中でリリースされている本作は、もちろん中国でも大ヒット。しかし、収益はほとんどゼロに近いものだった。その理由は、横行している海賊版の存在。コピー商品が氾濫する中国ならではの問題に対して、PopCap Gamesの上海オフィスは大胆な決断を下した。それは有料ゲームとしてリリースされた作品をF2Pゲーム(基本プレイ無料)にすることだった。
こうして誕生したのが『Plants vs. Zombies: Great Wall Edition』。正規版が無料になったことで、Tencent(中国最大手のインターネット企業)のAndroidストアでランキングトップになり、同時に中国でエレクトロニック・アーツ(本作のパブリッシャー)がローンチしたタイトルでも最高の売上を叩き出している。
見事に中国進出を果たしたPopCap Gamesだが、立ち上げる前は周囲から不安視されていたという。中国市場には問題が山積みだったが、それらをどのように乗り越えたのか?
ピンチを逆転の発想により利点に変えた例をいくつか紹介してくれた。たとえば、海賊版の存在について。この問題を逆に考えると、優れたIPであれば効率的に多くのユーザーに広がりやすいということになる。ほかにもトップダウン式のマネジメントであるがゆえに迅速な意思決定が可能だったり、低品質の商品が多い市場だから、必要最低限の製品であってもリリースできるなど、欧米の戦略をそのまま持ち込むのではなく、中国のスタイルに合わせて利点を見つけることで成功できたと振り返った。
中国進出によって新たな発見もあり、新事業につながっている。グッズ事業やコミック化などの事例を紹介。中でも海賊版のぬいぐるみについて、強く取り締まることで市場にキャラクターの姿が見られなくなり、売れていない=クールじゃない、というイメージで見られてしまい、商品が売れなくなったとのこと。欧米的な思考が、中国では仇になった事例だ。
『Plants vs. Zombies』を有料ゲームからF2Pゲームに移行するうえの試行錯誤としては、コンテンツの中国化を挙げた。まずグラフィックを中国風にして、ゾンビのアートにキョンシーの要素を加えたり、中国槍兵に似せている。
F2Pゲームで重要になるのはアイテム課金への誘導だ。本作の課金形態は3本柱になっている。
・レベル6以上になると課金が必要
・ゲーム内通貨のゴールドを購入
・アイテム購入に使えるダイヤモンド
アイテムを使わないで遊べるように作っていた有料版から無料版にシフトしたので、ユーザーのお金の使い方が変り、携帯業者に請求できる仕組みになったこともあって売上げアップにつながったようだ。
また、継続的にコンテンツを追加するようになり、タイトルの寿命を伸ばすことに成功しているという。追加コンテンツも中国風に作り替えており、オリジナルのPVやキャラクターの名前もローカライズするなど徹底的に市場に合わせている。
さらに中国ではAndroidが大多数を占めており、それに合わせてクライアントソフトのサイズを72MBから段階的に8MBまで小さくした。通信制限がかかっているユーザーが多いため、サイズが小さくなればなるほどダウンロード数は伸びていったようだ。サイズの縮小には画像の統合や再利用、サウンドファイルの形式を変更したり、画像を24ビットから8ビットにしたりと、ゲームプレイは変えないように最適化を図ったとのこと。また、大容量でも構わないWi-fiユーザー向けにHDバージョンも制作している。
最後に中国市場で成功を収めるための教訓を明らかにした。1点目はAndroidユーザーに向けた施策、2点目は海賊版対策として打ち出したF2Pゲーム化、そして3つ目はグッズ販売、これに尽きると語った。中国市場の特殊性を把握し、欧米流ではなく、あくまでも市場に合わせることが重要であるとして講演を締めくくった。