新たなストーリーテリングへの挑戦と魅力的な世界
米時間の2013年3月25日、サンフランシスコでゲーム開発者向けの国際会議GDC 2013(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス 2013)が開幕。ユービーアイソフトのWii Uローンチタイトル『ZombiU(ゾンビU)』についての講演の模様をお届けする。
講演を行ったのは、Ubisoftモンテペリエのガブリエーレ・シュレーガー氏と、フリーランスのアントニー・ジョンソン氏。テーマは、フツーのゾンビシューターで終わる可能性があった本作が、いかにして独自の立場を築き上げたかをストーリーテリングの面から探るというものだ。
当初『Killer Freaks from Outer Space』というエイリアンサバイバルホラーとして発表された本作。コンセプトとしては良かったが、Wii Uというハードウェアに惹きつけるローンチタイトルとしてはいささか弱く、プロジェクトをキャンセルするか、何かひねりを加えて再始動するかという岐路に立たされることになる。
そこで選ばれたのが、すばしっこいエイリアンではなく、もっと遅い敵にするという選択。敵の速度を遅くすることで、インベントリを開いている最中もリアルタイムに時間が進行するといったような、『ZombiU』の緊張感ある仕掛けが可能になるというワケだ(敵が素早くアグレッシブだったら発見された瞬間に打つ手なしなわけで、ドキドキしながらインベントリを開きようもない)。
遅い敵とあれば、ゾンビはわかりやすくて最適だ。しかし、ゾンビを扱うということにはさまざまなメリットとともに、デメリットもある。どうやって数多あるほかのゾンビゲームとの差別化をはかるのか? ここでプレイヤーに語りかけるキャラクター“プレッパー”のアイデアがヒントになり、本作の「できるだけ長く生き残る」というテーマが立ち上がってくる。
つまり、プレイヤーキャラクターは一度噛まれたら本当に死ぬ。そして死んだ場所にはゾンビが残り、プレイヤーはたまたまその場所にいる新しい生存者となる。この本来関係ない両者が、プレッパーによって物語的な一貫性を与えられているという構造だ。
この物語構造を発見し、構築する過程は、長年ゲームの物語デザインに関わってきた登壇者たちが一番やりがいを感じたことであったという。
先に進むには前に死んだ自分を殺さなければならないという構造は、他にはない特徴となる。しかし逆にストーリー面では、プレイヤーキャラクターはどんどん死んでいくので、各キャラクター専用のプロットやセリフは用意できない。
だが、それで問題ないのだ。本作は、プレイヤーキャラクターよりもプレイヤー本人が地図を理解し、サバイバルスキルを獲得していくゲームなのであり、キャラクターに蓄積が行われるのではなく、プレイヤーにこそ蓄積が行われるのだから。
これを補足する要素として、冒険の過程を記録したノートブックも用意されることになる。プレッパーだけでなく、ログ(ノートブック)も使ってさらに物語に連続性を与えるのだ。
さてここまでで“プレイヤーキャラクターが何回も死ぬゾンビサバイバルシューター”という、実際の『ZombiU』らしいコンセプトになってきた。だがロンドンという場所はうまく使えていない。アメリカを舞台にしたゾンビものはたくさんあるが、ロンドンならではの要素とは?
それは歴史である。大災害の歴史、陰謀論や暗い伝説の歴史。ロンドンには長い歴史の記憶が共有されている。
そこでライター陣は史実をうまくミックスし、コンセプトアーティストの協力なども得て、架空の英国史を紡ぎだすことにする。イングランドの宮廷と深い関係を持ち、心霊研究を行なっていた謎多き男ジョン・ディー(実在)、そして大災害の到来を予知し、備えを進めていた組織……。現代科学では説明のつかないゾンビという設定を十分に補強できる、いかにも英国らしい闇深さの、オリジナルな魅力とそれらしい説得力を併せ持った設定が組み上がっていく。
マーケティング面では、“どれだけ生き延びられるか?”というテーマがオリジナルな売り文句として機能する一方で、固定の主人公がいないことがストーリーの弱さや感情移入の難しさと捉えられかねないリスクを懸念したそう。
しかしこの点については、ユニークな設定や、謎に満ちたシンボル、近衛兵のゾンビを有効活用したイメージ戦略を行ったり、プロローグとしてコミックなどを使ってバックストーリーを示すといったことで、世界観を押し出して対応したとのこと。
こうして『ZombiU』は、大きな転換を行い、さらにはプレイヤーキャラクターがどんどん交代していくという挑戦的な構造を持つことになりながらも、プレイした人の記憶に残るカルト作品となることに成功したのだ。