今年度の“FOST熊田賞”受賞者は2名

▲FOST理事長を務めるコーエーテクモゲームス代表取締役社長の襟川陽一氏

 2013年3月7日、公益財団法人科学技術融合振興財団(FOST・フォスト)は、都内で“第6回FOST賞授賞式”を開催した。FOSTは、シミュレーション・ゲーミングの研究など、科学と技術との融合を促すような研究協力に対し助成などを行うことを目的に、1994年4月に設立された団体で、理事長をコーエーテクモゲームス代表取締役社長の襟川陽一氏が務めている。“FOST賞”は、研究助成金に基づいて成果を発表した研究者の中から、もっとも優れた人を表彰するというもの。また、2008年度からは若手研究者向けの“FOST熊田賞”、2012年には、社会に貢献した人もしくは団体を表彰する“FOST社会貢献賞”も設立された。

FOST賞

 今年度の“FOST賞”に輝いたのは、“問題解決の見方、考え方を養う技術教育用S&G教材の開発”をテーマに研究した東京工業大学大学院の松田稔樹氏。従来の知識偏重的技術教育の改善方策として、問題解決力を育成するためにゲーミングの手法を利用したeラーニング教材を開発し、また、ゲーミング教材の設計原理に関する考察を行い、受賞に至った。松田氏は、「“方法を教える”のではなく、“自分で考える力をつける”ためのゲームを目指している」と、教育現場の未来を見据えた研究について語った。

▲東京工業大学大学院 松田稔樹氏

FOST熊田賞

 科学技術融合振興財団の監事である熊田節郎氏が寄贈して、次代を担う若手研究者を対象として設置された“FOST熊田賞”は、今年度はふたりの受賞者が登場することとなった。ひとり目は、“オートマティックライフロギングシステム“勝手に絵日記”の開発・実装~実世界の集合知を利用した空間意識の可視化に関する研究~”をテーマに研究したシンガポール国立大学の末田航氏。インターネット上の位置情報が付与されたユーザコンテンツと、それらに含まれるユーザタグを実世界の集合知と見なし、集積処理を自動的に記録する日記風のライフログ自動生成システムを開発しての受賞となった。末田氏は本アプリが作られた経緯を、「三日坊主で日記が書けない自分の代わりに、アプリが自動で書いてくれないかなと思ったのがきっかけです」と照れながら明かした。ふたり目は、“推理アドベンチャーゲームを学習へ応用するためのゲームデザインとその評価~中学校理科天文分野を中心に~”をテーマに研究した東京大学大学院の浅見智子氏。シリアスゲームのおもしろさと学びが高いレベルで両立する条件を考察し、科学という知的な営みを体験できるゲームとして、「それでも地球は回る」を開発し受賞。浅見氏は「ガリレオ・ガリレイの時代、世間では“天動説”が圧倒的に支持されていましたが、調べてみると、じつは“地動説”は中学生レベルの理科で理解できるようになっていたんです。それがおもしろいなと思い、テーマにしました」と制作にいたるきっかけを語った。

▲シンガポール国立大学 末田航氏
▲東京大学大学院 浅見智子氏

FOST 社会貢献賞

 2012年に新設されたゲームの研究、開発、応用に関連して社会貢献という観点から顕著な業績をあげた者に送られる“FOST 社会貢献賞”は、日本では「ウィルスバスター」などのインターネットセキュリティ製品として有名なトレンドマイクロ社が受賞。コンピュータウィルスからインターネットの信頼性を確保するために、絶え間ない技術革新により変化する環境に対応した最適なソリューションを迅速に提供し、かつ、社会各方面でインターネットの安全教育などの啓蒙、啓発活動にも取り組んできたことが受賞理由となった。会場には、世界各地を出張中のエバ・チェン社長の代わりに、副社長の大三川彰彦氏が登壇。「トレンドマイクロは本社を日本に置き、税金も支払っている会社でございます」と場を和ませながらも、「ITの最先端をすべて米国に集めるのではなく、日本から、世界に向けて発信、発展していくつもりです」と頼もしい姿勢を見せた。

▲トレンドマイクロ 取締役副社長 大三川彰彦氏