日本の開発会社の質は極めて高い

日本開発会社の海外展開をサポートする、アルケミック・ドリームの戦略_02

 この春、アルケミック・ドリーム社が日本市場に本格進出を果たす。アルケミック・ドリーム社というと、日本のゲームファンにはあまりなじみがないかもしれないが、カナダに本社を構える、ゲームのローカライズ支援を主要事業とする企業。2001年の設立以降、10年以上にわたって世界各国のMMORPGやソーシャルゲーム、モバイルゲーム及びカジュアルゲームの分野で、デベロッパーやパブリッシャーに対してユーザーサポートやコミュニティマネージメント、翻訳・ローカライズサービスなどを行なってきた。サポートする言語は40言語と、ほかの追随を許さない規模を誇っている。

 そんなアルケミック・ドリーム社が満を持して日本のゲーム開発メーカーに本格アプローチを開始。日本のゲーム開発会社に同社の事業をアピールすべく、チーフ・プロセス・オフィサーのフレデリック・アレンズ氏が来日を果たした。ファミ通.comでは来日にあわせてアレンズ氏にインタビューを実施。アルケミック・ドリームの日本市場への本格アプローチなどの経緯を聞いた。なお、アレンズ氏はこれまで100以上のゲームのサポート業務を行ってきただけではなく、みずからも生粋のゲーマーであるとのことだ。

日本開発会社の海外展開をサポートする、アルケミック・ドリームの戦略_01
▲アルケミック・ドリーム チーフ・プロセス・オフィサーのフレデリック・アレンズ氏。

――まずは、アルケミック・ドリームが日本市場に向けて本格アプローチを開始する意図を教えてください。
アレンズ アルケミック・ドリームでは、これまではおもに南北アメリカやヨーロッパにおいて重点的に事業を展開してきました。それが昨年あたりからアジア向けの事業拡大に取り組むようになりました。日本の開発メーカーに対するアプローチはその一環となります。日本の企業が海外市場に展開していく際のお手伝いをしたいと考えているんです。

――なぜ、この時期に日本を含むアジアへの展開を開始したのですか?
アレンズ 端的にいうと、iPhoneに代表されるスマートフォンの普及がきっかけになっています。スマートフォンという端末が世界に広がることで、モバイルゲームが世界のトレンドになりつつあります。そこには大きなビジネスチャンスがあり、日本の革新的なゲームを世界に向けて発信するお手伝いができるのではないか……と考えたんです。

――それだけ、日本のモバイル系の開発会社に注目していると?
アレンズ はい。日本のモバイルゲーム会社のゲームに対する努力や開発の質は非常に高いと思っています。私自身ゲームが大好きですが、ゲーマーとしての個人的な観点からも顧客満足度の高いユーザーサポートを高く評価しています。文化の違いによって好まれるゲームは違ってくるとは思いますが、よいタイトルがあれば日本のゲーム会社でも海外での市場拡大はできると思っています。世界が日本メーカーの進出を待っている状況にあるのです。

――日本の企業をかなり評価してくださっているのですね。では、日本の企業はアルケミック・ドリームにどのようなサポートを期待できるのでしょか?
アレンズ 私たちはこれまで西欧市場で数多くの事業を成功させてきました。その経験から西欧のユーザーがどのようなゲームに何を期待して、何を欲しているのかなどについて情報の提供ができます。それにより、ユーザーと会社のすべてのやりとりに関して顧客満足度に繋がるようなサービスをできると考えています。さらにローカライズサービスでは40言語とかなり大きな規模を誇っていますので、たくさんのフィードバックをデベロッパーに提供して、そのゲームのコンテンツを対象とする文化に適用できるようにお手伝いをすることができます。

――ゲームのもともとの製作側とは違う文化でローカライズするにあたって、気をつけていることはありますか?
アレンズ ただ単に翻訳するのではなく、ゲームの開発者がプレイヤーに対して「このゲームを通じて何を経験してほしいのか?」といったことを、ほかの文化のプレイヤーにも感じていただけるようにローカライズしようと意識しています。そのために、場合によっては内容やコンテンツを変えることもあります。

――ああ、いわゆるカルチャライズですね。では、コンシューマーとモバイルのローカライズを比較した場合、どのようなところに差異を感じますか?
アレンズ このふたつにそこまで違いはないと考えていますが、強いてあげるならモバイルゲームはコンシューマーゲームに比べてストーリーが短いので、翻訳する際に明確に意図を伝えられるようにしなければならない、という点でしょうか。さらに、根本問題として、ディスプレイの大きさも違うので、それについても考慮しなければなりません。

――せっかくの機会なので、北米のモバイルゲーム事情を教えていただけないでしょうか? 北米ではクルマでの移動がおもになるので、日本ほどモバイルゲームが盛んではないのではないか……という印象が個人的にはあるのですが……。
アレンズ そのかわりに、仕事中にやっています(笑)。

――あはは(笑)。そんなお話を伺うと、日本と変わらず楽しまれているようですね。
アレンズ はい。みんな、かなり盛り上がっていますよ。北米だけではなくヨーロッパでも市場は伸びています。西洋ではパソコンを使ったソーシャルゲームが入り口になっていますが、いまではそこから派生して、多くのユーザーがモバイルデバイスを持って、待ち時間や仕事場、自宅に戻っても、よくモバイルゲームをプレイしていますよ。

――欧米だと、難易度の高いゲームが好まれる傾向があるように思うのですが、嗜好も変わってきているのでしょうか?
アレンズ そうですね。そういった意味では、ゲーマーのプロフィールもこれまでと大きく変わってきています。以前は20歳前後の男性がおもなユーザー層だったのですが、いまでは40代女性のユーザーも増え、幅広い年齢層の方々がモバイルゲームを楽しんでいます。モバイルゲームが一種のエンターテインメントであると、認められるようになってきたと言えるのではないでしょうか。

――なるほど。欧米でも、モバイルゲームが“ゲーム”として認知されてきているいうことですね。ところで、日本以外にモバイル市場で注目している国はありますか?
アレンズ ブラジルに代表される南米の国々は、モバイルゲームに関してトップの成長を誇っています。さらにトルコを含めた東欧や中東あたりも興味深いですね。

――いずれにせよ、今後モバイルゲームは世界的な流れとなっていくということですね?
アレンズ はい。iPhoneやスマートフォン、タブレッドなどの技術の発展にあわせてモバイルゲームもどんどん進化していくと思います。それに加えてソーシャルゲームをモバイルゲームに取り込むという動きもありますし、スマートテレビの存在もあります。ゲームのモバイル化はますます発展を続けるでしょう。さらに言うなら、ユーザーも新しいものを求めている傾向にあるので、ひとつひとつ気軽にプレイできるモバイルゲームというジャンルは、いままで以上に注目されていくでしょう。まあ、コンシューマーも含めた今後のゲーム市場がどうなるかは……正直わかりませんが(笑)。

 人々によってモバイルゲームが身近になっている状況は、洋の東西を問わないよう。アルケミック・ドリームの日本市場への本格展開により、今後の日本メーカーの海外進出にもさらなる弾みがつきそうだ。