豪華メンバーが語る“フリーカルチャー”の未来
2013年2月28日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”の第6回、“黒川塾(六)が都内で行われた。
今回のテーマは、“フリーカルチャー@ゲーム”。昨今、音楽やコミックなど多くの分野で、著作物を一定の規約のもと、自由に利用できる仕組みを採用する動きが目立ち始めている。今回は、ゲームにおける“フリーカルチャー”の現状と、“フリーカルチャー”がゲームにもたらすものなどについて、活発な議論が交わされた。
今回のゲストは、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェン氏、ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介氏、ゲーム作家の飯田和敏氏、ゲームミュージックを手がける作曲家の中村隆之氏、ゲームグラフィックデザイナーの納口龍司氏。各氏の詳しいプロフィールについては【コチラ】の記事を参照してほしい。
なお会の冒頭では、先日急逝したクリエイター、飯野賢治氏への黙祷が捧げられた。
フリーカルチャー=“作品を受け取るときの自由度”
議論を始めるにあたり、まずチェン氏から、“フリーカルチャー”とは何か、その起源から現在までの流れが説明された。
そもそも“フリーカルチャー”という場合の“フリー”とは、“自由”の意味で、“作品を受け取るときの自由度”という意味合いのものだ。「作者が自分の作品を、受け取ってもらう人にどう使ってもらうのか? ただ鑑賞するだけではなく、場合によっては改造し、作り直し、リミックスすることを、作者みずからがデザインする、という発想です」(チェン氏)。
言葉ではわかりにくいかもしれないが、ここで例に挙げられた、「初音ミクの公式イラストがクリエイティブ・コモンズライセンスを採用し、世界中のファンが利用しやすくした」、「コミック『ブラックジャックによろしく』の自由な二次利用が作者の佐藤秀峰氏自身が許可した」などのニュースは大きな話題となったし、ご存じの方も多いだろう。これらは、“フリーカルチャー”の流れの代表的な事例と言える。
現在、“フリーカルチャー”の運用において、一般的に用いられているのが“クリエイティブ・コモンズ・ライセンス”だ。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、著作権で保護される領域と、保護されないパブリックドメインとの中間に位置するもの。著作権で保護されている著作物を、作者自身が、著作権よりももう少し緩く、自身の作品を自由に使うことを許可するものだ。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスには6種類あり、それぞれに許可する範囲が異なる。詳しくは、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの公式サイト(【コチラ】)を参照してほしい。
クリエイティブ・コモンズの発想はきわめてシンプルで、「過去に作られた物が、現在作られる物を構成している。いま作る物も、やがて誰かが作る物の一部になる」という考えかただ。この認識に基づいて、“イノベーションを起こす気がない人たちが既得権益に固執し、クリエイティブを阻害する”ことに対抗しようというわけだ。
クリエイティブ・コモンズへの賛同者は急速に増加しつつあり、最近10年間でクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは世界で4.5億件以上に増加しているのだそうだ。
音楽業界では、すでにクリエイティブ・コモンズを利用するケースは増えはじめている。津田氏はレディオヘッドを例に挙げつつ、メジャーレーベルと契約せず、自分たちのサイトで直接MP3ファイルを配信し、利益を挙げているミュージシャンは多いと説明。また、仮に配信による利益が小さくとも、ライブ興業で利益を挙げられるのもミュージシャンの強みだと語った。
実況動画のムーブメントは“フリーカルチャー”を推進するのか?
ではゲームでは? というと、いまだゲームで採用された事例は少ない。それは、ゲームがかなり複雑で、巨大なコンテンツであることに起因するが、それでもチェン氏は、どんなメリットが生じるかを前向きに考えていくべきだと主張した。
津田氏も、「ゲームの場合、作った作品として楽しむほかに、ネットで対戦したりできるし、広がり、楽しさがある。そこは音楽のライブに近い体験があるし、フリーカルチャーとの相性は絶対にいいはずです」と語る。
さらに一歩進んで、津田氏は、いまはニコニコ動画を中心に、ゲームのフリーカルチャー化に向けた大きな動きが起こっていることを指摘。「ニコニコ動画は、動画サイトとしてではなく、みんなで盛り上がるコミュニティとしてウケているもの。“自分が再生したから100万再生達成できたんだ”というような、“俺が育てた的”な、音楽ではありえない価値観が生まれていますね」と説明する。またそれにともなって、「消費者とクリエイターのあいだの壁が、ニコニコ動画という場では、一部壊れている」とも指摘した。
これに中村氏は、その動きは、かつて対戦で賑わった格闘ゲームブーム時代にもあったと振り返り、「ゲームセンターにコミュニティができて、クリエイターがそれを無視できなくなった。あの時代は転換点だったと思います」と、ユーザーの盛り上がりが、クリエイターの考えに大きな影響を与えていることを説明した。
一方で、ゲームというコンテンツ独特の事情について指摘したのは納口氏だ。「僕が作った『チュウリップ』というゲームの動画もニコ動に上がっていて。それを見て思ったのは、作った側はもちろん思いを込めて作っていますが、遊ぶ側には遊ぶ側の思いがあって、さらにそれにコメントもついて……。それが“作品”を担っているという意味では、ゲームを動画などで見るという場合においては、音楽のようには、クリエイターだけでは完結しない。そこがフリーカルチャーとどうつながるのかな、とは思います」(納口氏)。
ブレインストーム・中村氏流の“フリーカルチャー”
と、ここまでゲームにおける“フリーカルチャー”はまだまだこれからだ……という現状が語られてきたが、じつは中村氏は、すでに先進的な試みを始めているのだという。中村氏は、同氏が代表取締役を務めるブレインストームの公式サイト(【コチラ】)で、約3300種類の“効果音”を、“SOUNDICONS by BRAINSTORM co.,ltd. ”の表記を添えることを条件に、商用も含めて自由に二次利用することを許可している(利用条件はクリエイティブ・コモンズに従う)。
この試みを始めた経緯として中村氏は、ゲームごとに異なる、膨大な種類の効果音を作るのがたいへんな作業であるため、まず効果音を効率的に作成できるソフト“Graph Arpeggiator 3”を制作したことを説明。これを使用してできた効果音を、無料で公開することにした……という流れなのだそうだ。
中村氏は、こうした効果音は、当然いままでは、制作して、購入してもらっていたものだとしつつ、「そういう時代は終わりつつあるのかな、と。もっと別な、クリエイティブなことに時間を割けるようにするべきではないかと思ったんです」と説明する。
ただし、もちろんそれは、従来のサウンドクリエイターの収入源を部分的に奪うことにもなるわけで、みんながよりクリエイティブな制作に打ち込める、理想の状況が生まれるまでの障壁は少なからず存在する。しかし、“フリーカルチャー”の考えかたが、基本的にはよりクリエイティブな方向への流れを促進してくれることは間違いないだろう。
※動画は“SOUNDICONS”の制作に使用している有料ソフト“Graph Arpeggiator”のプロモーション映像。
“MONKEN”プロジェクト発表、参加者大募集!?
会の最後に、【コチラ】でお伝えしたとおり、黒川氏が原案、飯田氏が仕様を考え、納口氏がキャラクターと世界観、中村氏が音楽を担当して制作中のプロジェクト、“MONKEN”が発表された。
その場ですぐに、「フリーで、派生のゲームを作れるとおもしろいですね。『Postal』みたいな、ものすごい残虐なゲームにすることもできますよね」(津田氏)、「モンケンを直接触ってはじくバージョンもありますが、それだと『Angry Bird』に似すぎていてコピーになっちゃうんですよね」(飯田氏)、「クレーン操作役と車操作役でふたり同時プレイとかもいいですね」(津田氏)など、つぎつぎとアイデアが飛び出し、飯田氏も「フリーカルチャー、いいな。アイデアが無尽蔵に出てくる(笑)」と満足げ。またニコニコ生放送でチェックしていた視聴者からも、即時に「エフェクトがしょぼいので僕が作ります」というツイートがあったそうで、飯田氏は「言ったからには作ってもらいましょう。もう批評家はいらないです(笑)」とニヤリとしながら呼びかけていた。
最後に黒川氏は、「僕は、思い立ったら、やらないと、続けないと気が済まない質なんです。これに関しては引き続き、monken.jpというサイトで、新しい情報がでるたびに更新していきますので、応援していただきたいと思います」と語り、会を締めくくった。