ショートアニメ&オーディオドラマの桑島龍一プロデューサーによる全楽曲解説

 2013年2月、3月にかけて全4巻が発売される小説『武装中学生 バスケットアーミー』。合わせて、ドラマCD2枚を同梱した「特装版」も同時発売するのは既にお知らせしたとおり(→こちら)。この「特装版」をエンターブレインのオンラインショッピングサイト・ebtenで購入すると、購入特典として『武装中学生 バスケットアーミー』サウンドトラックCDが入手できる。今回、ショートアニメ、オーディオドラマのプロデューサーを務めた桑島龍一氏にサウンドトラックの解説をしてもらった。

作曲は川井憲次氏! 『武装中学生 バスケットアーミー』ebten購入特典サウンドトラックCDの詳細を公開_05
作曲は川井憲次氏! 『武装中学生 バスケットアーミー』ebten購入特典サウンドトラックCDの詳細を公開_06
▲本サウンドトラックCDは、エンターブレインのオンラインショッピングサイト・ebtenで、特装版01、02の2巻セット、または、特装版03、04の2巻セット、または、通常版の4巻セットを購入するともらえる特典だ。

『武装中学生』のサウンドスケープ  文・桑島龍一(プロデューサー)

 小説『武装中学生 バスケットアーミー』刊行にあたり、ebten限定予約特典としてオリジナル・サウンドトラックの企画を、同作担当から提案されたのは、昨年の12月中旬だったでしょうか。『武装中学生』という新しいタイトルを広く認知させるため、このプロジェクトではWeb小説の連載と並行してショートアニメとオーディオドラマを一年以上にわたって配信してきたわけですが、これらの音楽を担ってきたのが、人気作曲家の川井憲次さんです。

 かつて押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や、中田秀夫監督の『リング』の音楽で世界中に衝撃を与えた川井さんは、その後ツイ・ハーク監督の『セブンソード』をはじめとするアジア各国のプロジェクトで活躍の場を広げつつ、日本国内においても様々な作品に対して精力的な楽曲提供を続けてきました。ここ最近の仕事ぶりを紹介するだけでも、劇場アニメ『009 RE:CYBORG』、木曜ミステリー『科捜研の女』第12シリーズ、月桂冠「つき」TVCM、メルセデス・ベンツ「NEXT A-Class」PVなど、話題作が目白押し。さらに2012年最大の出来事として特筆しておきたいのは、やはり連続テレビ小説『梅ちゃん先生』の音楽を担当したことでしょう。第63回NHK紅白歌合戦オープニングテーマ「Meet the Music」を手掛けたことも、川井さんの大躍進を象徴するようなニュースでした。

 そんな川井さんほどの作曲家であっても、つくった音楽が必ずCDとしてリリースされるとは限りません。特に『武装中学生』の場合、通常の劇伴ではなく、PVという「消えもの」扱いされてもおかしくない素材の音源ですから、一部サイトの特典という販促企画であってもCD化が実現するのは極めて珍しく、奇跡と呼ぶのはオーバーにせよ、それに近い幸運の賜物と感じています。なお、これは数量限定生産のため、いずれ入手困難になるのが明らかな一枚です。この貴重な機会をどうぞお見逃しなく!

 さて、宣伝はこれぐらいにして、今回のCDに収録する全19曲の楽曲解説をしながら、『武装中学生』の音楽や映像がどうつくられてきたのか、その足跡を振り返ってみましょう。

【01】 銃後の春(0:36)
2011年12月22日配信のショートアニメ#01より、冒頭を飾る不穏なピアノ曲「M1」。音響監督の亀山俊樹さんが書かれた音楽メニューには、曲の必要なカットやシーン番号のみが記され、曲調はロマのフ比嘉監督を交えたミーティングで映像を見ながら決定していきました。比嘉監督は当初、PVらしい音楽先行の制作を希望していましたが、川井さんの持ち味をフルに発揮するには画から音を引き出すほうが良いと判断し、できるだけ映像先行を基本に、その後の作業を進めました。(ちなみに曲名はCDのためにつけたもので、打ち合わせではMナンバーを用います)。

作曲は川井憲次氏! 『武装中学生 バスケットアーミー』ebten購入特典サウンドトラックCDの詳細を公開_01

【02】 陽動(1:34)
同じくショートアニメ#01より。新宿を逃走するカズキとヒカリの陽動作戦と共に、他の中学生たちの様子をカットバックする緩急の激しい「M2」。小説中ではカズキとナナミのふたりで別行動すると書かれ、アニメ版と差異が生じていますが、これは本文を書く前のプロットに基づいて映像化を進めてきたためです。ショートアニメは原作の忠実な映像化というより、世界観を創り上げるためのパイロットフィルムやイメージボードのような役割を担い、あえて小説にないシーンを描くこともありました。制作意図としては、まず皆さんに軽い気持ちでショートアニメを観てもらって、キャラクターやストーリーが気になったら小説を、という最初の「呼び水」にしたいと考えていました。

【03】 トライデント(1:14)
2012年2月27日配信のショートアニメ#02より、クリスのモノローグで使った「M4」。このエピソードは三人の傭兵が日本に集結するという<敵>の紹介編ですが、最初の脚本では冒頭の回想シーンは存在しませんでした。しかし、唐突に#02が始まるのではなく、どこか#01との連続性をつくりたいと考え、このシーンの台詞を急遽、作家の野島一成さんに執筆していただき、現在の形になったのです。音楽的には「DM1」のロングバージョンを想定していたところ、クリス役の井上喜久子さんのナレーションバックになるので、自然と「クリスのテーマ」という趣が強くなりました。

作曲は川井憲次氏! 『武装中学生 バスケットアーミー』ebten購入特典サウンドトラックCDの詳細を公開_02

【04】 戦争はどこ?(0:57)
同じくショートアニメ#02より、物語を締める三悪トリオのテーマ「M5」。原案チームの構想では、携帯の着信音やBGMにワーグナーの「ワルキューレの騎行」を使いたいと考え、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』に代表される<戦争の狂気>といったイメージを劇中に盛り込む予定でした。ところが比嘉監督の音楽プランはそれとは違い、映像的な山場がない構成なので、「ワルキューレ」というよりは「ボレロ」。静かに始まって最後のタイトルロゴでバーンとくる感じで、との提案があり、検討を重ねた結果、比嘉監督の方針に従って作曲に臨んでいます。

【05】 ガールズトーク(1:52)
2012年8月16日配信のショートアニメ#04より、恋の話に花を咲かせる少女たちの曲「M6」。音楽メニューでは「ほのかにコミカル(弦のピッチカート程度の)な曲を」という指示。劇伴の後半にあたる白玉系のシンセは未使用パートなので、CDで初のお披露目になります。緊張が続く原作の物語に対して、もしかしたらこんなホッとする瞬間もあるんじゃないかと、外伝的にアプローチしたのがこのエピソードです。#04では短くても「ドラマを見せたい」と考え、若手映画監督の湯浅弘章さんに脚本をお願いしました。

作曲は川井憲次氏! 『武装中学生 バスケットアーミー』ebten購入特典サウンドトラックCDの詳細を公開_03

【06】 夢(0:36)
同じくショートアニメ#04より、トウコがみる悪夢の曲「M7」。もともと脚本になかった夢のシーンは、比嘉監督が絵コンテで追加したアイデアです。音楽メニューでは「脳みそが疲れてブゥーンとうなりを上げるようなイメージ曲」という指示。言葉として捉えにくい不条理な音楽さえも、ホラー映画の名手である川井さんの手にかかるとこの仕上がりで、お見事としか言いようがありません。

【07】 夜明け(1:04)
同じくショートアニメ#04より、物語の終盤を彩る「M8」。音楽メニューは「朝に向けて白んでゆく空をイメージするような、淡々としつつもほのかに爽やかな気配に向かう曲」という提案。川井憲次流のアプローチとして、ドラマから生まれるエモーションよりも画面に映し出される風景から音のインスピレーションを得ることもあるそうで、このギターの音色などはそうした情緒感をうまく引き出している劇伴のひとつと言えるのではないでしょうか。

【08】 2026年、夏(3:28)
2012年12月20日配信のショートアニメ#05より、スケール感のある「M9」。書籍の発売告知のためのトレーラーとして、#01の青春群像劇とは異なる、シリアスで重たいテイストを正面から訴求しようと、「劇場予告風」をキーワードに発注しました。この劇伴では予算を割いてストリングスを生演奏にしたのが功を奏し、狙い通りの重厚さが得られたように思います。川井さんによると#05はかなり特殊で、画面と台詞がシンクロしないイメージ映像のような構造のため、どこをピークとして盛り上げるのかを判断する根拠が少なく、作曲するのが難しかったと伺いました。

【09】 終幕(1:16)
同じくショートアニメ#05より、事件終結後の余韻に浸るエンディング「M10」。映像はよくあるロールテロップなのですが、これまではPVらしくスパッと終わりたかったので、最終作で初めてやってみました。ただ、納期の関係からエンディングの長さが未定のまま作曲を進めてしまい、いざ録音してみると曲が短いという事態に直面。しかも楽曲の特性上、後から切り貼りできないとわかり、結局、川井さんの機転によりイントロのピアノをワンフレーズ延ばすことで、これを解決しています。

【10】 プロローグ(0:30)
2011年12月22日配信のトウコ編以降、(特別編を除いた)全てのオーディオドラマの冒頭を飾る曲がこの「DM1」。脚本の初稿では冒頭のナレーションはなかったのですが、音響監督の亀山さんから「何か作品全体を一貫させるイントロがあったほうがいい」とのリクエストが寄せられ、このプロローグが加わりました。音楽メニューでは「勇壮な気配ありつつも、どこか軽みのある(大人ではない)、しかしシリアスな展開を匂わせるタイトルバック曲を」との指示。これはショートアニメ#01と#02のエンディングにも使われています。

【11】 大地よ(3:16) 作詞:児島由美/作曲・編曲:川井憲次/歌:杉並児童合唱団
2012年5月7日配信のショートアニメ#03より。川井さんに音楽をお願いすることが決まると、かなり早い時期から「校歌をつくろう」という企みが僕自身の中にもあったのですが、実際に校歌を使うPVのアイデアは比嘉監督からの提案です。作詞は押井守監督作品のスタッフとしても知られる、シンガーソングライターの児島由美さんに依頼しました。最初から完成度の高い歌詞が上がっていたのですが、より原案チームの求める微妙なニュアンスを反映させたいと、四字熟語ひとつに何度も話し合いを重ね、第三稿でようやく決定稿ができました。

【12】 揺れる心(2:08)
オーディドラマ・トウコ編で発注した「DM2」。オーディオドラマの音楽も川井さんが担当する予定でしたが、物量やスケジュールの関係から、甥っ子にして若き作曲家のカワイヒデヒロさんの起用を決め、手始めに5曲ほどお願いしました。おかげで川井憲次/カワイヒデヒロという叔父と甥の連名クレジットが初めて実現したわけです。音楽メニューは「静かなショック。一同、問題点を整理できないまま動揺が走る。冷静であろうとするが空回りする言葉が行き交う」というオーダー。

【13】 不安(1:51)
ヨウジ編で発注した「DM9」。「サスペンス基調ですが、孤独感や心許なさ、か細さを持つ曲」という音楽メニュー。オーディオドラマの楽曲は、ショートアニメとは作り方が異なり、ストーリーの展開に基づいた雰囲気をそのまま曲にするのではなく、ほかのエピソードでも流用できる汎用性を持たせる必要があり、その遊びも含めて2分前後の長さで仕上げるよう変則的なお願いをしています。しかも、劇中で使用する旋律はサビや締めだったり、あるいは一部の楽器のパートだけの場合もあるので、全部を通して聴くと曲の印象が違うかもしれません。

【14】 未送信メール(1:36)
同じくヨウジ編で発注した「DM8」。音楽メニューでは「常に猜疑、不満、不快を口にしつつ携帯をいじるヨウジ。第2話のラスト3行から始まる出す宛のないメールを打つヨウジにつける曲。ブルースハープ的な飄々とした孤独感のある曲を」との指示。暗いムードの渋い曲調ですが、ヒデヒロさん自身が選んだお気に入りの一曲でもあります。

【15】 息を弾ませて(2:02)
トウコ編で発注した「DM4」。初期の音楽メニューではカズキ編込みで15曲の制作を予定していましたが、川井さんを交えた最初のミーティングで兼用できる曲をまとめる方針が決まり、トウコ編ではDM1~DM6の6曲がオーダーされました。この曲は第三話「初恋のはなし」に登場する滝沢智則とトウコの会話で使われた劇伴で、旧DM9「滝沢の佇まいにつける曲。ほのかにコミカルに。裏のない朴訥な表情につける」と、旧DM11「ロボットの名前を考えてみる。楽しさと期待感」というふたつの場面をまとめています。

【16】 青春のきらめき(2:00)
ヨウジ編で発注した「DM7a」。音楽メニューには「青春のときめき、緊張感、しかし少々淡々と。主人公ヨウジは暗いし鬱屈しているが、ここはうっすら青春を感じさせる曲を」と記載。この他、ヨウジとアンが二人で走り出す展開を踏まえて、疾走感のあるリズムをのせるリクエストもあったのですが、その部分は「DM7b」として別な楽曲(CD未収録)がつくられました。

【17】 少女の瞳に映る世界(2:00)
アン編で発注した「DM13」。音楽メニューではアンのモノローグ用ということで、「淡々としながら大人びた目線をもつ少女につける曲。透明感と少々アンニュイな気配がある」とのオーダー。オーディオドラマはトウコ編からタロウ編までが32話、特装版CDドラマとして制作した後日談の特別編が4話、合わせて全36話が制作され、ヒデヒロさんには18曲の劇伴をつくっていただきました。今回のサントラにはそのうち7曲を収録しています。

【18】 再会(2:47)
武装中学生事件の後日談を描くサトシ編・第四話のために発注した「DM11」。音楽メニューでは、「昔の友人と電話で再会の約束をするシーンからラストまで一気に、それこそ『スタンド・バイ・ミー』風なイメージの曲で、前へ進もうとする主人公につける」と具体的な指示。事件前の過去を語る他のエピソードとは雰囲気が違って、彼らの歩む未来を指し示すような明るさが特徴の一曲です。

【19】 バスケットアーミー(1:38)
ショートアニメ#01より、後半のキャラクター紹介で使われた「M3」。オーディオドラマではエンドクレジットの音楽として使われたので、そちらの印象のほうが強いかもしれません。本作のテーマ曲となるM3はどんなテイストがふさわしいのか、スタッフの間でもずいぶん議論したわけですが、最終的には青春真っ只中の疾走感みたいものが欲しいと、「中学生らしさ」というキーワードで川井さんに全てを託し、このような軽快なギターサウンドが生まれました。ちなみにギター演奏も川井さん自らが弾いています。

※作曲:川井憲次(01~11、19)/カワイヒデヒロ(12~18)

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▲ギターを演奏する川井憲次氏@オーブスタジオ/2011年12月9日撮影

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■小説商品情報

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『武装中学生 バスケットアーミー』特装版、とらのあな&アニメイトの購入特典詳細が明らかに_07
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武装中学生 バスケットアーミー ストーリーイントロダクション

『武装中学生 バスケットアーミー』特装版、とらのあな&アニメイトの購入特典詳細が明らかに_01

2026年8月、富士演習場――
名取トウコが所属する
私立東都防衛学院中等部三年二組は、
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夏季総合演習の最中にあった。

その過酷な訓練も、いよいよ最終日。
トウコたちを労う神谷は、
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そして……事件は起こる。

何者かによる突然の襲撃。
響き渡る銃声、怒号、断末魔、
血の海に崩れ落ちる――。

前代未聞の事件をきっかけに
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そんな少年少女たちの未来を奪い去ろうと、
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