2013年2月1日に発売された“ウィザードリィ ルネサンス公式設定集”。それを記念して、ウィザードリィ ルネサンス総合プロデューサーである、ゲームポットの岩原ケイシ氏にお話を伺ってきた。過去の『ウィザードリィ』シリーズと、“ウィザードリィ ルネサンス”の関係、本書籍の内容など、盛りだくさんの内容でお届けする。

ウィザードリィ ルネサンス総合プロデューサー 岩原ケイシが語る『ウィザードリィ』を“ウィザードリィ ルネサンス”として再構築したわけとその世界観(前編)_01

ウィザードリィ ルネサンス構築の経緯

--『ウィザードリィ』と“ウィザードリィ ルネサンス”(以下、“ルネサンス”)の違いとはなんでしょうか? また、“ルネサンス”として再構築するに至った経緯を教えてください。

岩原ケイシ氏(以下、岩原) 昔の『ウィザードリィ』ですが、1作目から8作目まで全てストーリーがバラバラなのです。特に、6作目以降は宇宙に行ったりなど、いろんなストーリーになっていて、物語に統一性がなかったんですね。で、「『ウィザードリィ』を再興しましょう」、「また出しましょう」といった時に、ちゃんとした設定をしておかないとダメかなと。何も決めていないと、開発各社でいろいろ変な方向に流れてしまう可能性があり、同じ事になりそうだったので。そこで、しっかりとした世界観を作っておきましょうということで生まれたのが“ルネサンス”の世界です。

 最初はここまで濃くするつもりはなく、バックボーンの神話があって、開発各社が、そこから話を切り出して各々の『ウィザードリィ』を作ればいい、くらいにしか考えていなかったのですが、「この世界って通信はどうなっているんだ?」とか、「庶民はどうやって暮らしているんだ?」というストーリーやシナリオを作るうえで必要な要素が、いろいろ足りないことに気づきました。そこで、いろいろ書き足していたら、いつのまにか膨大な量になってまして(笑)。

 始めは、ザックリとした世界観だけで十分でしょうという空気もあったのですが、私が納得しなかったんですね。昔から『ウィザードリィ』をプレイしているかたは、「『ウィザードリィ』はこういうものだ!」と言う考えがあるじゃないですか。それのベースになるものを、公式としてひとつ作っておきたいなと。『ウィザードリィ』はプレイヤー自身もいろいろな設定を上乗せして「自分だけの脳内ウィザードリィ」を作っていく楽しみがあるかと思いますが、そのためのベースになれたらいいな、という思いもありました。

--世界観をまとめようと思った時期は、いつ頃だったのでしょうか?

岩原 ニンテンドーDSで発売された、『Wizardry ~生命の楔~』。こちらの制作中辺りですね。先に、外部の方に世界観を作ってもらったのですが、何かが違う感がして私が作り直しました。書き出したのが、4年前の2009年で、ほかの作業の合間にやっていたので約半年くらいかかりました。同作品の世界にも、“ルネサンス”の設定が多く含まれていますが、一部の設定内容は反映できませんでしたね。むしろゲーム側独自の要素が濃いといいますか。

--初期の『ウィザードリィ』には、基本設定的な資料はあったのでしょうか?

岩原 ゲーム外の設定について記されている本は少ないかと思います。私はベニー松山さんがお書きになった、ファミコン版ウィザードリィの攻略本である“ウィザードリィのすべて”の影響を濃く受けています。その本はゲームのモンスターデータやアイテム、マップが載っている攻略本なのですが、ゲームの中には表現されていないモンスターの設定や世界観についての設定も充実していました。それを読んでいたので、自分も新しい『ウィザードリィ』の設定だけをまとめた本を作りたいとも思っていました。それと、“ウィザードリィ ルネサンス”の設定に、過去の『ウィザードリィ』の世界も噛ませたいと思っていたので、ボカして書いてはいますが、別の大陸に『ウィザードリィ』の話が残っている形にしてあります。

ウィザードリィ ルネサンス総合プロデューサー 岩原ケイシが語る『ウィザードリィ』を“ウィザードリィ ルネサンス”として再構築したわけとその世界観(前編)_02

ウィザードリィ ルネサンスのコンセプトと、構築するにあたって注意したこと

--“ルネサンス”の世界を作るうえでのコンセプトや、注意したことはなんでしょうか?

岩原 古きよきRPGやTRPGの世界。それの再興ですね。最近のRPGなどは、大きな剣を少年が振り回す、美少女がミニスカートをヒラヒラさせながら戦闘するものも多いですよね。それはそれで全然アリなんですが、この“ルネサンス”では、ベースとしての世界観は重厚な中世ヨーロッパRPGに近いものにしておこうと。そうすると、他の方が、『ウィザードリィ』シリーズを作る際に、新たな物語や設定も考えやすいかなと思いますので。樹の幹を用意して、枝葉は好きに作ってもらう感じですね。

 設定を起こすにあたって注意したことは、大人の事情ですね(笑)。『ウィザードリィ』の1作目から5作目までに出てくる呪文名であったり固有名詞が、権利的な関係もあって使えたり使えなかったりするんですよ。その辺りはできるだけ濁して新しい世界を構築しなければなりませんでした。ただ、それらの名称が入っていないと、『ウィザードリィ』でなくなってしまう危険もあるので、そこにかなり気をつかいました。遠まわしに、昔の話として登場させたり、エンシェントマジック(古代魔法)として扱い、過去の魔法にしたりしました。あと、『ウィザードリィ』は当時の「現実の流行りもの」がゲームの中に入れられていたりしていたのですが、昔と違って今はいろいろシビアなので、そのテイストをどこまで入れるべきかは注意をしました。

--あえて昔の『ウィザードリィ』から外した設定。そして、追加した設定などはあるのでしょうか?

岩原 入れなかった部分に関しては、いま話した内容になりますね。ただ、名称を変えて入れ込んでいるものも数多くあります。トレボーを狂王としたり、リルガミンといわずに、あるどこかの街が、そういった伝説が残っていますよ、としています。設定としてなかったことにはぜず、連携感は残しています。

--なかったことにした設定や要素はないんですね?

岩原 6作目以降はなかったことにしています(笑)。といっても、完全にではなく宇宙から何か攻めてきたとか、外宇宙から神様がきた的な話は6作目以降の内容として若干残しています。“ルネサンス”のベースは、1作目から5作目とし、6作目以降も忘れていないよと。その辺の作品設定は、すべて過去にあったこと、もしくは他の大陸であったことにしています。

 大きく追加したものとしては、神話がありますね。多くのRPGには神話の設定があるのですが、過去の『ウィザードリィ』には用意されていなかったのです。カント寺院という施設があっても、何を信仰しているのかという説明もなかったですしね。敵にも、アークエンジェルやアークデーモンがいたので、何かの神話はあったのかもしれませんが、明確にはされていませんでした。この設定本でもプレイヤーに「自由に考えてください」みたいにしようかと思ったんですが、時代が違うのでしょうか……。少しはベースの話しがないと想像ができないという方が多くて(笑)。それでベースとなる神話を用意しました。

--以前、クトゥルフ神話の要素が含まれているとのお話を聞きましたが。

岩原 クトゥルフの物語は、あまりハッピーな話にはならないんですね。物悲しく終わったり、どうしようもない絶望感で終わったりするのが多いです。その辺の毛色が、『ウィザードリィ』も似ているのかなと思って入れ込んでみました。あと、話を組み込みやすかったこともあります。外宇宙からの神様の話など(笑)。それと、クトゥルフ神話も『ウィザードリィ』も西洋発祥で、カルトなタイトルなんですよね。共通部分も多いので、相性がいいのかなとも思いました。ただ、厳密にクトゥルフとして入れ込んでいるわけではないですね。かなりボカしています。

 それと、神話ですが、“ルネサンス”の世界ではまだ神話は終わっていないんです。神話としてひとつの区切りはあってほんとかどうかわからないけど、語り継がれる過去の話、という感じですが、実はまだ神話の時代から続く神々の戦いは終わっていないんです。

--“ルネサンス”構築にあたって、昔の『ウィザードリィ』ファンを意識した部分はありますか?

岩原 過去に、ファミコンで『ウィザードリィ』が発売されたとき、アップル版のプレイヤーが「グラフィックが違う、こんなの『ウィザードリィ』じゃない!」という議論があったんですね。同じような感じで、いつの時代のウィザードリィも、新作が出るたびに原初主義の人たちと革新主義の人たちが争うこともありました。ゲームや映画など、新作を出すたびに「前作のほうがよかった」って声が上がるじゃないですか?(笑)そんな感じなので、万人に完全に受け入れられるように、とかはあまり気にせずにいました。“ルネサンス”で変わってしまった、追加されてしまった部分が気に入らない人は、昔の『ウィザードリィ』で遊ぶのもアリですし。いろんな変化を受け入れられる場合は、新作に手を出していただいてもいいですからね。ただ、どんなにゲーム開発環境が変わり、プラットフォームが変わり、プレイヤーの嗜好が変わっても、古き良き『ウィザードリィ』の壊してはいけない部分はあると思うんですよ。そこの温度感は非常に大事ですね。例えばですが、根本部分にある“生と死”、キャラクターの成長などのよろこびと、付随する死への恐怖、これは忘れてはいけないと思います。

“ウィザードリィ ルネサンス”の設定集を出そうと思ったわけ

ウィザードリィ ルネサンス総合プロデューサー 岩原ケイシが語る『ウィザードリィ』を“ウィザードリィ ルネサンス”として再構築したわけとその世界観(前編)_03

--設定資料を書籍として出そうと思った理由は?

岩原 もともとは本として世の中に出す気はなかったのです。元の資料は、ゲームを作る各開発会社さん向けに用意したものなので、門外不出です。歴史もすべて書いてあるので、物語の結末がわかっちゃうんですよね(笑)。ただ、“ルネサンス”世界の作品も数多く出て、それなりに世界の話も表に出たので、プレイヤーの皆さんにもお見せしていい時期になったかなと。プレイヤーさんからも、この設定部分はどうなの? この話は? との声も聞くようになりましたので、出しちゃおうかと。ただ、実際は本にするとしてどこでどうやって出すのかと問題になりまして、エンターブレインさんに相談しました(笑)。

--始めは、『ウィザードリィ オンライン』の攻略本を出したいと、こちらからお声をかけさせて頂いたんですよね。

岩原 その企画が届いたのが、ちょうど設定本の話をしていたときなので、こっちを作って欲しいなと話を変えました(笑)。

ウィザードリィ ルネサンス総合プロデューサー 岩原ケイシが語る『ウィザードリィ』を“ウィザードリィ ルネサンス”として再構築したわけとその世界観(前編)_04

--設定資料についてですが、膨大なテキストが送られてきて、少し戸惑ったのですが。

岩原 それが、各開発会社さんに用意した世界観の資料です。開発者向けの資料そのまんまですよ。それを外に出すというのは、ちょっと恥ずかしいものでもありますけど。本掲載時には多少書き直しもしましたが、基本もとの資料のまま本になりましたよね。

--章立ても資料の順通りですからね。書き直す前に、ひと通り読ませて頂いたのですが、そのまま表に出しても平気なくらい、まとまっていた感じです。書籍を出すにあたって、コンセプトは決められていたんでしょうか?

岩原 コンセプトは編集さんが言う話では?(笑)。あえて言うと、最近の設定資料集はイラストばっかりなんですよね。未公開のラフ画なんかをたくさん載せて、綺麗に作ってるなぁと。ただ、読み応え部分でちょっと物足りなく感じることもあるんです。自分としては、何度も読み直す、資料として持っていたくなる本が欲しかったので……。そんな気持ちがコンセプトだと思いますね。購入を考えている方に言いたいのは、「とにかく、文字が多いです!」。文字を読むのが苦手な人には、ちょっと辛い本かもしれませんが、非常に読み応えのある本になったので、ぜひ手に取ってみてください。読み始めれば、没頭できるとおもいますよ(笑)。この本で“ルネサンス”の設定を読み取り、さらに自分の妄想で世界を広げてみてほしいです。

 また、“ルネサンス”を題材とした『ウィザードリィ』シリーズをプレイしている方は、その舞台や時代がどこに当たるのかを調べてみるとおもしろいかもしれません。まだ手がけていない時代もまだまだたくさんありますので、気になる設定や使いたい場所がありましたら、そこを舞台にゲームなどの展開もお願いしたいです。各メーカーさん、よろしくおねがいします!

【後編<来週2月18日(月)公開予定>に続く】