御剣や矢張が歌い踊る!

 2013年1月22日、東京の日本青年館にて、カプコンの人気法廷アドベンチャーゲームである『逆転裁判』シリーズをモチーフにした宝塚歌劇“逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”のゲネプロ(通し舞台稽古)が開催された。マイルズ・エッジワースという名前に聞き覚えのない方もいるかもしれないが、じつは、これは海外版『逆転裁判』での、御剣怜侍のこと。『逆転裁判』シリーズを題材にした宝塚歌劇は今回が3回目となるが、キャラクター名はすべて、海外版のものが使用されているのだ。この“逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”には、前作”逆転裁判2 -蘇る真実、再び…”に引き続き、宝塚歌劇団の宙組が出演。キャスト陣は以下の通りとなっている。

逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース出演者一覧(【】内は日本語版でのキャラクター名)
悠未 ひろ(マイルズ・エッジワース【御剣怜侍】)
寿 つかさ(裁判長)
鈴奈 沙也(ウェンディー・オールドバッグ【大場カオル=オバチャン】)
蓮水 ゆうや(グレゴリー・エッジワース【御剣信】)
凪七 瑠海(ラリー・バッツ【矢張政志】)
花音 舞(ルビー・トルコ)
風羽 玲亜(アンディ・ルイス)
天風 いぶき(ジェイソン・ムーア)
天玲 美音(ウィンストン・ペイン)
すみれ乃 麗(アリソン・トレーザ)
夢莉 みこ(キャラウェー・テンネ)
愛月 ひかる(タイレル・バッド)
伶美 うらら(サラ・ミルブレット)

宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_01

 脚本は、宝塚歌劇団 演出家の鈴木圭氏によるオリジナル。マイルズ(御剣怜侍)とラリー(矢張)が、ラリーの故郷であるカリフォルニアに帰ろうと飛行機に乗ったところ、なぜか過去の世界へとタイムスリップしてしまう。そこで殺人事件に出くわしたマイルズは、現在の世界では亡くなってしまっている彼の父、グレゴリー(御剣信)が働く弁護士事務所に足を運ぶことになり……というストーリーだ。真実を追い求めるマイルズが、あらゆる手段を尽くして無罪判決を勝ち取ろうとするグレゴリーに抱く葛藤や、マイルズとアリソンとのほのかな恋物語が、ミュージカル形式で綴られている。ときにはマイルズによるツッコミが独白で入るなどのコメディー的な演出も交えた、すばらしいエンターテイメント作品に仕上がっているのだ。とくに、終盤の法廷シーンでマイルズらがくり広げる丁々発止のやり取りはかなりアツく、まさにゲーム版『逆転裁判』そのもの。ラリー(矢張)やウェンディー(オバチャン)など、ゲームでもおなじみの人物たちが登場したり、楽曲や効果音もゲームに準じたものが使われていることもあり、シリーズのファンならば、間違いなく楽しめるだろう。

宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_02
宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_03
▲歌うエッジワース親子。左がグレゴリーで右がマイルズだ。ふたりとも凛々しい。
▲“事件のカゲにヤッパリ矢張”と言われるラリーこと矢張は本作でもお調子者。後ろのキャリーケースは、シリーズの経験者ならピンと来るかも。
宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_04
宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_05
▲シリーズの人気者であるオバチャンも登場。光線銃を取り出して「カタカタカタ……」とやってくれます。
▲法廷シーン。『逆転』シリーズと言えばコレ!

 もうひとつの見どころは、宝塚歌劇ならではの歌とダンス。宝塚歌劇は、いわゆるミュージカル形式となっているため、劇の合間に歌やダンスが挿入される。一糸乱れぬダンスや演者たちの美声は、思わず見惚れてしまうほど。ゲームが題材ということでとっつきやすいことから、ミュージカル初心者が観るのにぴったりの作品と言える。ちなみに、記者自身も宝塚歌劇を観るのはこれが初めてだったが、原作を知っていることもあり、かなり楽しめた。出演者はイケメン(女性ですが)と美人揃いだし、世の女性(男性もですが)がハマる理由が、わかった気がする。

宝塚で「異議あり!」 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”ゲネプロリポート_06
▲手先や足先までピンと伸びきったポーズが美しい。裁判長も踊る!

 公演終了後、短い時間ながら、鈴木圭氏に話をうかがうことができた。以下では、その模様をお届けする。

──3作目のコンセプトを教えてください。
鈴木圭(以下、鈴木) 時空を超えて、“出会うはずがない親子が出会う”という物語で、親子の深い絆や情を感じていただけるような作品になっています。タイムスリップものは前から作りたいと思っていて、御剣を主役にした物語なら、絶対にお父さんと共演させたいと思っていました。ナルホドくんとは違う弁護士を相手にして、しかもその弁護士はとても有能で……という物語をやりたかったので。

──御剣を主役にした理由は?
鈴木 彼女(悠未ひろ)が前作で御剣怜侍を演じて、反響がすごく高かったんです。『逆転検事』というゲームも発売されていたので、だったらそれも、宝塚歌劇のシリーズの中に入れて、彼女のためにやろうかなと。

──『逆転裁判』シリーズの主人公であるフェニックス・ライト(成歩堂龍一)を出さなかったのも、マイルズが主役というのを強調するためですか?
鈴木 そうです。マイルズに焦点を絞っていこうと。その一方で、舞台のシリーズの中で我々も大切にしているところがあって。『1』、『2』と続いてきた中で、ライトが初演からずっといましたので、そこも引っ掛けたいなということで、マイルズがライトのほうに歩み寄っていくさまも見せたいと思っています。

──ウェンディー・オールドバッグ(大場カオル=オバチャン)ですとか、シリーズのファンがニヤリとするような演出もあったと思いますが、そこはファンに楽しんでもらうためですか?
鈴木 せっかくコラボレーションとしてやるので、物語の中核ではなくても、そういうキャラクターがいるのはいいですよね。僕自身が再現モノの舞台などを見るときも、「あれが見たかった」と思ったりしますので、そういうところは要素として入れたいなと思っています。じつは、大場カオルさんが舞台に出るのは今回が初なんですね。そういう意味では満を持して、という。

──音楽もかなり再現されていると感じました。
鈴木 うちはフルオーケストラで演奏するので、ゲームの音をそのままオーケストラで舞台にしたほうが楽しいかなと。ですので、オーケストラ用にアレンジしています。ゲームのシーンを思い出させる瞬間があるのが大事かなと僕は思っていまして、ゲームをやっている中で僕が感じたことを、素直に舞台でも出したいなと。ゲームと舞台が同じ印象になるように作りたいというのが、僕が『逆転裁判』を扱ううえでのテーマです。

──今回、初めて観たのですが、ハマりそうです。シリーズも観てみたくなりました。
鈴木 DVDが出ているので、ぜひ観てみてください(笑)。3作すべて観ていただけたら、話もつながっていますし。宝塚のファンの方は、宝塚目線で観られますが、宝塚のファンの方にも受け入れられなきゃいけない。それでいて、ゲームファンの方にも受け入れられなくてはならないので、そのふたつを同時にできればいいと思っています。

──舞台を見に来るファンの方にメッセージをお願いします。
鈴木 今回の舞台で、初めて『逆転裁判』に出る子も多いんですが、その子たちが舞台上でゲームに歩み寄っているさまというのは観ていただかなきゃわからないと思います。とにかくみんな楽しそうに、うれしそうにやっていて、いつもの宝塚の熱意というのはちょっと違った部分、新しい彼女たちが見られると思うので、新しい世界を見ていただけたらと思います。

 “逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース”は、2013年1月23日~28日まで公演を行っている。興味のある方は、ぜひ観に行ってみてはいかがだろう。

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