なぜオープンな“ゲーム機”の発表が相次ぐのか?

 今年に入って新型の“ゲーム機”の発表が海外で相次いでいる。
 まず、1月2日にスマートTV向けにゲームを提供しているメーカーPlayJamが、“最もポータブルなゲーム機”としてGAMESTICKを発表し、クラウドファンディングサイトのKickStarterで出資募集を開始。そして1月6日にはNVIDIAがCES開幕を前に行ったカンファレンスでProject SHIELDという“携帯ゲーム機”を発表。続いて今度は海外メディアPolygonが、PCメーカーのXi3とValveが共同開発するマシン、コードネーム“Piston”について報じ、話題を呼んだ(その後、Vergeなどがインタビューなどを掲載して続いた)。

 “ゲーム業界の苦境”が当たり前のように語られる中、なぜこんなに“ゲーム機”の発表が相次ぐのだろうか? ここで注意したいのが、これらのハードがいずれも似たような性格を持っている点だ。それは、すでにあるオープン性の高いデジタル配信プラットフォームとハード仕様を採用していること。
 一般的にゲーム業界でゲーム機が発表された場合、そのハードは、そのハード用のソフトウェア市場とセットになっている。そして、前世代機との互換性はあったりするものの、基本的にこの市場は毎度新しく作られなければならない。だからローンチタイトルの数が話題になったり、「タイトルが揃ってから買う」なんて話をしたりもするわけだし、同じソフトが新ハードが出るごとに何度も移植されたりもするわけだ。
 一方で、冒頭で掲げた“ゲーム機”は、いずれもAndroidとPCの枠組みの中で新たな方向性を模索している製品だ。(それぞれのハードのインターフェースに最適化されているかはともかく)ゲームソフトはすでに遊びきれないほど大量にあるし、大量生産するためのチップなども特別なものはそこまでない。ハード、ソフトウェア、配信システムのいずれも比較的オープンでよく知られているものだ。

 では、なぜ普通のAndroid携帯やゲーミングPCがあるのに、わざわざ一味加えたものを作ろうというのか? この疑問を探るために、まずは各ハードの内容についてじっくり見ていこう。

スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_08
スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_09
▲ゲームもサポートするAndroidベースのホームエンターテイメントシステムなんてものまで含めると本当にいろいろある。画像はCESに合わせて発表されたSnakebyteのUNU。

その1:GAMESTICK

スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_07

 まずはPlayJamのGAMESTICKから。PlayJamはスマートTVにゲームを提供するビジネスを展開させてきたが、GAMESTICKはその方向性を一歩進めて、テレビに簡単に接続し、コントローラーでゲームを楽しむことを目的とした“持ち歩き可能な据え置きハード”となる。
 FAQにも書いてある通り、PlayJamもコアゲーム市場は狙っておらず(いわく「Xboxと置き換えられるようなものは今は目指していない」)、あくまでもリビングでのゲーム体験を簡単かつ安価に提供するものだ。

 製品はゲームコントローラーとUSBメモリーのような形状の本体から成り立っており、コントローラーからスティックを抜き出し、HDMIスロットに差し込むだけで動作する。実はコレ、Android OS Jelly Beanで動くスティックサイズのAndroidマシンと、Bluetooth接続のコントローラーがセットになったものなのだ。
 本体はメインプロセッサーがデュアルコアのAmlogic 8726-MXで、メモリーが1ギガバイト、記憶容量が8GBフラッシュなので、スペック的にはよくあるAndroidマシンと言えるだろう。タッチディスプレイや3G/4Gの通信機能などを思い切って取り去り、スティックサイズに詰め込んでHDMI端子からの電力で駆動するようにしたことで、すでにあるAndroidの枠組みを応用した、リビングのテレビで遊べる安価かつオープンなゲーム機を実現している。

 配信プラットフォームはWifi経由で(独自マーケットにせよ、Google Playにせよ)Androidのマーケットの仕組みを取り込めるので、「マイナーな新ハードを買ったけどソフトが売ってなくて新しいソフトを買えない」といった悩みは無用(ただしタッチディスプレイだけでプレイするゲームにどう対応するのかは疑問)。

 KickStarterでは10万ドルの希望額を30時間以内に達成しており、プロジェクトの成立が確定。ちなみに締め切りは2月1日で、本体は79ドル以上の投資で手に入れることができる(初期投資者向けに先着250人の69ドルのプランもあったが売り切れた)。出荷は2013年4月を予定している。

その2:Piston(そしてSteam Box)

 Valveが謹製のゲームマシン“Steam Box”を作っているという噂はずっと流れていたが、PCメーカーのXi3と“Piston”というモデルを共同開発していることが判明した。
 Xi3は小型PCを得意とするハードウェアメーカーで、Pistonも、手のひらサイズの小さな筐体にPCに必要な端子やチップを分散させたボードを複数枚詰め込んで作られている点は、同社の過去のシリーズと同じ(ちなみにKickStarterで出資募集しようとして失敗した過去もある)。
 ネックとなりそうなのは、各パーツをモジュールごと交換できるにしても、グラフィック性能をどこまで上げられるかという点だ。ちなみにベースとなっているモデル“X7A”については、GPUとしてRADEON HD7000シリーズを搭載している模様。
 Pistonならではの機能や詳細なスペック、価格等は明かされていないが、ValveのPC用配信プラットフォームであるSteam、中でも“Big Picture”モードの使用に最適化されている。

 Big Pictureはリビングの大型テレビなどに接続することを意図した専用インターフェースで、昨年実装され、すでに利用可能。PC用ゲームコントローラーとセットのイメージでプッシュされている(年末年始のホリデーセールで専用枠が取られていたのを思い出す人も多いだろう)。SteamはPCで最大手のデジタル配信プラットフォームに成長したが、その膨大なカタログ資産の多くをリビングのテレビ+コントローラーで気軽に楽しめるようにしているわけだ。
 当然コントローラー非対応ゲームなどもあるわけだが、逆にコンソール(家庭用ゲーム機)でも出るような大作ゲームは大体対応しているわけで、さらにコンソールでは出ないようなインディーゲームなども安価に購入し、プレイできるというPCゲームならではの幅広さを享受できるというのは強みだ。

 そして各社の報道によると、Pistonは数あるプロトタイプのひとつでしかないという。ValveのオフィシャルなSteam Box(CESのValveブースに置かれているマシンはPistonより大きく、長方体の形状をしている)やその他の製品も含めて、今後さまざまな製品が登場する模様だ。なお、VERGEがValveの総帥ゲイブ・ニューウェル氏に行ったインタビューによると、オフィシャルなSteam BoxはLinuxベースのものになるとのこと(Linux版Steamはすでにあり、対応タイトルも存在する)。

その3:Project SHIELD

 NVIDIAのProject SHIELDはさらにユニークなスタイルを持っている。形状は携帯ゲーム機型、というかXbox 360スタイルのコントローラーに5インチのタッチスクリーンディスプレイが合体したような形をしている。同社のモバイル向け最新プロセッサーのTegra 4を搭載しており、Tegraシリーズに最適化されたハイエンドモバイルゲームの恩恵を存分に受けられるほか、4K解像度のHDテレビに接続することも可能だ。
 それだけでなく、GeForceのグラフィックカードを搭載した家庭内のゲーミングPC(一定以上の環境が必要)と接続し、PC内のSteamのゲームをローカルでストリーミングして楽しめる(SHIELD自身のディスプレイでも遊べるし、前述したようにHDMI接続したテレビに映し出してもいい)。つまり、自宅で自分用のクラウドゲーム環境を楽しめるマシンでもある。

スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_06
スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_02

 NVIDIAによると、発想の根底には「ゲームはオープンかつ柔軟であるべき」(プレスリリースより)という考え方があるという。だから携帯機やスマートフォンの持ち運び性、据え置き機の快適さ、PCゲームのバリエーションとスペック次第でコンソールより高品質なゲームが楽しめるという、要素のいいとこ取りしてごった煮にしたような実験的なコンセプトになっているのだ(PCゲームを持ちだして遊べれば最高だったが、多分不可能。それでも、寝ながら『Xcom: Enemy Unknown』をプレイできるとしたら最高だ)。

オープン性とリビングのゲーム体験

スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_01

 発表自体は昨年だが、この年末年始に話題になった新ハードとしてOUYAについても触れておきたい。ベースはTegra 3のAndroidマシンで、ハードウェア改造も許容する、最もオープンな小型ゲーム機として開発された。昨年KickStarterでの出資募集が大成功し、昨年末に開発者版が出荷開始されている。ゲームは基本的にF2P(基本プレイ無料)で配信され、まずは試して、面白ければお金を払おうというビジネスモデルを採用している。

 というわけで、OUYAもまた、テレビなどに繋いでコントローラーでプレイする据え置き機として設計されている。繰り返しになるが、ここまで触れてきたこれらのハードは、いずれもオープン性があり、リビングでのコントローラーによるゲーム体験を提供するという点が共通している。
 ここで先ほどの疑問に戻る。なぜ揃いも揃ってそんなものをわざわざ作るのか? それは、コンソールにも、PCにも、モバイルにも、それぞれに異なった長所と制約があるからだ。

【コンソールの場合】
・優れたコントローラーを持ち、据え置き機の場合はリビングに最適化されている。
・プラットフォーマーによるもの、パブリッシャーによるものなど、さまざまな制約がある。
・プレイヤーに求める初期投資もそれなりに大きい。そもそもある程度のゲーマーが買うものになってきている。

【PCの場合】
・依然としてハイエンドで、スペック次第でコンソールよりも高品質なグラフィックでゲームを楽しめる。ノートPCなど例外もあるが、途中からスペックを強化することもできる。逆に言うとスペックが千差万別すぎる。
・自作したフリーソフトすら簡単に動く最もオープンなプラットフォーム。Steamなどのデジタル配信プラットフォームが複数あり、メーカーもプレイヤーも好みに合わせて好きに選べる(Windows/Mac/Linuxの別こそあるが)。
・マウス操作のゲームだけでなく、コントローラー操作のゲームもある。
・ゲーミングPCは普通リビングに浸透できていないし、そもそもゲーミングPCはゲーマーしか買わない。
・ハードを買って最適な状態で遊ぶまで、プレイヤーにある程度の知識と能動性が要求される。

【(ゲーム機としての)スマートフォンの場合】
・処理能力が飛躍的に上がり、ある程度処理能力が必要なゲームもプレイできるようになった。
・ゲームをしたくない人でさえも手に入れる端末。
・ゲームをする場所を選ばない。
・Androidはハード仕様のバリエーションが多彩すぎる難点があるが、一方で開発経験も増えてきている。
・タッチインターフェースには向いているゲームと向いていないゲームがある。スクリーン上の擬似ゲームパッドは物理的なゲームコントローラーの代替になっていない。

 一番入手するハードルが低いのはスマートフォンだ。大概、それでゲームを遊ぼうと思う前にすでに入手しているのだから。このハードルの低さは魅力的だが、一方で向いていないゲームがあるのが難点となる。複雑な操作で長時間じっくりプレイして欲しいタイプのゲームなら、コントローラー+テレビでのプレイには勝ち目がない。
 買ってきて繋いだら同じように動くというのもコンソールの強い点だ。スマートフォンやPCのようにスペックが足りなくて動かないといったことが少ない。またスマートフォンやPCでも、統一された環境を用意するということは、開発者にとってもバージョン違いをあまり考えずに済む(PCは必要環境を明記することで切り捨てているが、スマートフォン(特にAndroid)はそれが通用せずに、よくマーケットの評価欄でマイナスがつく)。

 要するに、今年発表されたような“ゲーム機”はいずれも、PCやAndroidといった制約の少ないプラットフォームを採用しつつ、そこに上記のような据え置きゲーム機が持っている長所を取り入れて、参入や購入へのハードルを下げたものを作ろうという流れの中で捉えることができるのだ。
 スマートフォンの入手ハードルの低さはゲーム目的のハードを目指すことによって失われてしまうが、その代わりにGAMESTICKやOUYAは100ドル以下にすることで価格努力を行なっている。また、それ抜きでも、広く使われている枠組み(チップ、OS、配信市場など)を応用できるという強みは残る。

 どれが成功するかはわからないし、どれも成功しないのかもしれない。大事なのは、リビングのテレビにはまだまだゲームが繋がる余地があり(PlayJamいわく「世界には14億台以上のテレビがあるのに、ゲームに使われているのは1%以下」)、コンソール機が取りこぼしてきた潜在市場がまだまだあると多くの人が思っているということだ。
 この流れ自体は既存のゲーム業界にとって悪いものではないと考える。従来通り主流のコンソール機に集中してもいいし(特定のハードに集中し最適化するメリットも当然ある。筆者の昨年のベストゲームは『ZombiU』だ)、これらの流れも踏まえた超マルチプラットフォーム展開をしてもいい(高評価を受けたTelltale Gamesの『The Walking Dead』は360/PS3/PC/iOSで楽しめる)。要は選択肢の数が増えたというだけのことなのだ。(編集部 ミル☆吉村)

スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_03
スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_05
スティック型から手のひらサイズのSteam用PCまで――相次ぐ“ゲーム機”発表を読み解く【CES 2013】_04
▲ちなみに純然たるPCマシンなので今回は触れなかったが、RazerからWindows8のPCゲーム用タブレット“Razer Edge”も正式発表されている。両サイドにスティックやボタンを備えた変形コントローラーを設置したり、一般的なコントローラーを接続したり、キーボードを繋ぐことも可能。