世界中の人々がゲームを通じて感情を共有する環境を作る

 エレクトロニック・アーツが世界中で展開している、スポーツゲームを専門とするゲームブランド“EA SPORTS”。その総責任者であり、エレクトロニック・アーツのEVP(執行副社長)であるアンドリュー・ウィルソン氏が、極秘来日するという情報をキャッチ。“EA SPORTS”のVIPにインタビューを敢行した。

エレクトロニック・アーツのスポーツゲームブランド“EA SPORTS”のVIPに直撃インタビュー【完全版】_01
エレクトロニック・アーツ
執行副社長
"EA SPORTS"総責任者
アンドリュー・ウィルソン氏

――まずは、アンドリューさんが“EA SPORTS”でどのような役割を担われているのかと、今回の来日の理由をご説明いただけますか?

アンドリュー・ウィルソン(以下、アンドリュー)氏  “EA SPORTS”の総責任者であり、エレクトロニック・アーツのEVP(執行副社長)です。エレクトロニック・アーツには13年間在籍しており、これまでいろいろな作品に携わってきましたが、現在は“EA SPORTS”の開発およびマーケティングを統括しています。今回の来日の目的は、アジア全域に渡る開発スタジオやオフィスの訪問です。日本の開発スタジオ、プレイフィッシュが手掛けている『FIFA13 ワールドクラスサッカー』のアップデートのチェックや、韓国で開発中のオンラインサッカーゲーム『FIFAオンライン3』の確認を行っています。

――2013年で“EA SPORTS”は設立20周年を迎えます。これほど長くゲームファンに愛され続けてきた“EA SPORTS”の魅力は、どこにあるとお考えですか?

アンドリュー いい質問ですが、難しい質問でもありますね(笑)。“EA SPORTS”は、さまざまな人がゲームを通じて喜びや悲しみ、悔しさといった感情を共有できるところを主眼において作っています。私はオーストラリア出身なのですが、幼少時代にアメリカンフットボールや野球というものに接する機会が、あまりありませんでした。そのような人たちに、実際のスポーツとは何か、そのスポーツによって何ができるのかといった、スポーツに対する感謝の気持ちを表せる環境を提供できるところが、"EA SPORTS"の魅力のひとつだと思っています。

――“EA SPORTS”の長い歴史の中で、もっとも大きなトピック、記憶に残っているニュースがあれば教えてください。

アンドリュー 子どものころによく遊んでいた『FIFA』シリーズのエグゼクティブプロデューサーとして、ゲームを遊ぶ側から作る側になれたということは感慨深いものがありますね。印象的なニュースはたくさんありますが、スポーツ選手やスポーツファンに、スポーツゲームブランドとしてのステータスを確立したこと。そしてプレイステーション3、Xbox 360版『FIFA10 ワールドクラスサッカー』の海外レビューで初めて90点以上の平均点を獲り、フットボールゲームとして最高の品質を評価されたことは、いまでも強く印象に残っています。

――スポーツゲームのトップブランドに成長した“EA SPORTS”ですが、ゲーム制作やチームとしてのポリシー、理念はありますか?

アンドリュー これまたいい質問です(笑)。“EA SPORTS”では、毎年新しい作品をリリースしています。毎年発売するからには、ユーザーから価値を感じ続けてもらわなくてはならない。そのためのポイントとして、“品質”、“サービス”、“コネクション”という3つのキーワードがあります。まず品質では、スポーツ自体のルールが毎年細かく変わるかというとそうでもない。サッカーというものが翌年になったらサッカーではないものに急に変るわけではないので、ゲームではいろいろな要素をつけたり、いろいろなバランスを考えたりしながら、新しく見えるような調整、開発を行うように心がけています。とはいえ、スポーツ自体が実際に進化しているところもあります。スポーツが進化するとともに、我々も進化していかなくてはならない。そういった面でサービスというキーワードを挙げたのですが、たとえば『FIFA』シリーズなら、チームや選手のデータ、マッチデーといった現実にある情報を入れることが、ゲームの進化につながる重要な要素のひとつであると考えています。そして、3つのめのコネクションでは、“EA SPORTS”を通じてNBAやNFL、FIFAなどの各スポーツとそのファンが繋がってほしい、ゲームの中でも友だちと繋がってほしい、ということを念頭に置いており、より多くの人が繋がる場を設けられるよう、家庭用ゲームだけにとどまらず、iPhoneやPCといった幅広いプラットフォームで提供することを大切にしています。

――日本のゲームファンから見ると、爆発的な成長を遂げた“EA SPORTS”のタイトルはやはり『FIFA』シリーズだと思います。その『FIFA』シリーズの成功の要因を、どう分析されていますか?

アンドリュー 『FIFA』シリーズの開発チームは、現在19ヵ国のスタッフが一丸となって、『FIFA』というゲームに対して情熱を注いでいます。いまは牧田和也氏が私の後を引き継ぎ、エグゼクティブプロデューサーとして開発チームを率いていますが、彼自身がただ単に売れるゲームを作っているからすごいのではなく、スポーツとしてのサッカーを「ゲームでやりたいな」と思わせるような、すばらしい作品を作っているところを非常に誇りに思いますし、成功した理由だと考えています。

――『FIFA』シリーズ以外にもサッカーゲームはいろいろありますが、ほかのタイトルも意識されているのでしょうか?

アンドリュー もちろん。とくにKONAMIの『Pro Evolution Soccer』(『ウイニングイレブン』欧州版のタイトル名)は、世界の中でも類を見ないくらい、すばらしいサッカーゲームだと思いますし、彼らのような強いライバルがいることをうれしく思っています。ひとつ間違えを犯すことによって、サッカーゲーム市場を取られてしまう、ユーザーの心を奪われてしまうという、いい緊張感を持ちながら開発を行う。これは、ゲームに限らず、どの市場でも非常にいい環境だと思っています。そういう意味も含めてすごく尊敬していますね。

――“EA SPORTS”から見て、日本のゲーム市場をどう感じていますか?

アンドリュー 日本のゲーム市場は難しいと感じましたね。その中核にある理由には、やはり『Pro Evolution Soccer』の存在があります。『Pro Evolution Soccer』よりもいいゲームを作っていると自負していても、『Pro Evolution Soccer』を応援している日本のゲームファンのロイヤリティーは高いと感じています。自分の国のゲームメーカーを応援するのは当たり前ですよね。ですが、ソーシャルゲーム『FIFAワールドクラスサッカー』は、日本での登録者数が250万人を突破し、歴史上初めてというほど日本のユーザーから高い支援をいただきました。そこから得たユーザーの傾向や意見などを踏まえて、今後はもっと日本向けのコミュニティーに対して作品を出していきたいと考えています。

――北米や欧州のゲームファンと比べて、日本のゲームファンは特徴的だと思いますが、海外と日本のゲームファンの印象の違いをお聞かせください。

アンドリュー 北米や欧州に限らす、その国々ごとに好みは違いますね。欧州でもイングランドとフランスでは、ゲームの好みも違えばやりたいことも違うので、地域として全部を一緒くたにするのはすごく難しいことです。その中で、世界の人たちに好まれて、喜ばれるようなゲームは何か? と考えたときに、映画の手法をゲーム作りに用いました。たとえば、アメリカの映画は爆発やカーチェイスがあるのに対して、フランスの映画は繊細な人間の心情を描いたようなストーリーをベースに作られています。私の中では日本はどちらかというと、建物などがバーンと爆発するところよりも、全体に対して影響が大きい細かいディテールを気にする、フランスの映画寄りであると感じています。というように、各国のゲームユーザーの傾向がわかってきたので、それをベースに開発を進めています。日本やイギリス、日本やアメリカといった対照的な両方のユーザーに好まれる作品を作るのは簡単なことではありませんが、いまは我々のノウハウを活かした作品ができてきていると思います。

――それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。

アンドリュー 『FIFA13 ワールドクラスサッカー』を楽しんでくれているユーザーの皆さんには、非常に感謝しています。これからも、たくさんの日本のユーザーに愛されて、プレイしてもらえるように精進していきます。まだ決定ではありませんが、現在開発中のUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)ゲームの日本発売も検討していますので、ぜひ期待していてください。