2012年のデジタルエンターテインメントを一気に振り返る!
2012年12月12日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”の第4回、“黒川塾(四)が都内で行われた。
今回のテーマは、“2012年 エンタテインメントの未来を考える大賞”。エンタメ系メディア編集に携わる3人のゲストを迎え、2012年のエンターテインメントのトピックを振り返りつつ、“エンタテインメントの未来を考える大賞”を選定しようというものだ。
黒川氏は、まず今年の流れとして、前半は家庭用ゲームメーカーに元気がなかったが、ソーシャルゲーム業界においても、5月にコンプガチャ問題が取りざたされて、「いったん冷静になろう」という空気が流れたと指摘。しかし秋口からは、優れた家庭用ゲームが多数登場し、盛り上がりを見せたとし、「いいソフトを作って世の中に出すことで評価されるという、本来の流れが見られたと思います」と語った。
続けて、この1年でとくに目についたコンテンツについて、ゲスト3人が順番に語っていった。
まず土本氏が挙げたのが、無料メール&通話アプリ『LINE』のキャラクターを使った公式パズルゲーム『LINE POP』。2週間で1000万ダウンロードを突破するなどその勢いは凄まじく、土本氏も電車内で女子高生が遊んでいる姿をよく見かけたという。土本氏は、「キャラクターがかわいいということが、こんなに人を惹き付けるのだなと。近年、海外産の『Angry bird』などが業界を席巻していますが、日本産もまだまだいけるじゃないか、と思いました」と語った。
続く目黒は、「今年は完全に『パズドラ』と『なめこ』一色だったという感想です」と語る。『パズル&ドラゴンズ』は今年2月にリリースされたタイトルだが、いまでもトップセールス1位に君臨している。「ここまでモンスター級のタイトルは、そうそう生まれないだろうと思います」(目黒)。また、『なめこ』もシリーズ累計2500万ダウンロードを達成したほか、アプリの域を越え、グッズ展開でも人気を集めていると指摘。これには黒川氏も、「アミューズメントのプライズ商品になるということは、ひとつのブレイクスルーになりますね」と同意。目黒は、まとめて「今年はスマートフォンのIPが花開いた年かな、と思います」と語った。
佐藤氏も、「よくも悪くもモバイルがクローズアップされた1年だったと思います」と語る。とくに佐藤氏は、今年に入ってから本格的にソーシャルゲームを遊び始めた経験を通じて、「家庭用ゲームは情報を継続して出していくのが難しいが、ソーシャルゲームではつねに盛り上がりを提供できるのが大きい」と、家庭用ゲームとソーシャルゲームの構造の違いを実感したのだそうだ。
モバイル業界を席巻したモンスターアプリ“LINE”
つぎに、“エンタテインメントの未来を考える大賞”を選定するにあたり、重要な議題として黒川氏から提議されたのが、「『LINE』というサービスはエンターテインメントと呼べるのか?」ということ。黒川氏は、まず個人的な見解として、『LINE』はすばらしいコミュニケーションツールであり、とくにスタンプによる意思の疎通を可能にしたことで、コミュニケーションをより円滑にしている点を指摘したうえで、「人とのコミュニケーションはエンターテインメントだと思う」と語った。
土本氏は、すでに『LINE』は、誰もが使うインフラ的なものになっているとし、「それが共通言語のようになって、誰でもこれについて話ができる。これでコミュニケーションできるという状況がおもしろいですよね」と語った。
また目黒は、「個人的に、スタンプは発明品だと思います」と語る。新しいスタンプを買って自慢するところから会話がスタートしたり、文字を入力しなくてもスタンプのやり取りだけでコミュニケーションが成立する仕組みを作り上げたことは、大きな発明だったと指摘した。
スタンプの有用性については、土本氏、黒川氏も同意し、「僕は仕事でも、営業マンに怒りのスタンプを送ったりします(笑)。スタンプだと、文字では伝えにくい、ちょっとしたニュアンスが伝えられます」(土本氏)、「Facebookなどで、ビックリするほどきびしいことを書いている人がいますよね。文字で見ると怖いけど、スタンプだと和らいで、気にならなくなるというケースがあると思います」(黒川氏)と、実体験を含めて語っていた。
2012年、ゲストたちが注目したコンテンツは……?
つぎに、“エンタテインメントの未来を考える大賞”の候補を決めるべく、ゲスト3人が今年気になったコンテンツを挙げていった。
土本氏が挙げたのは、“Wii U”。土本氏は、リビングにはまだまだおもしろいことができる余地があるとし、Wii U GamePad単体でもプレイ可能で、邪魔者扱いされることなく、リビングに無理なく収まることができるWii Uの設計思想は、非常におもしろいもので、“家族の中心”になりうる可能性があると語った。
これに対しては黒川氏も、最近外食産業が下降気味で、“内食”がトレンドとなっている傾向に触れつつ、「こじつけかもしれませんが、外でお金使う流れではなく、家で何かを遊ぼうという流れに、Wii Uがフィットしているのかもしれませんね」との見解を語った。
佐藤氏は、多くのソーシャルゲームでは、ネットサービスに専念するばかりで横の展開が少ないと指摘。そんな中で、アニメ化など積極的なメディアミックス展開にチャレンジしているグリーや、KONAMIなどの姿勢に注目していると語った。
そして、そうしたチャレンジの顕著な例としてあげたのが、バンダイナムコゲームスのソーシャルゲーム『アイドルマスターシンデレラガールズ』。佐藤氏は、アーケード時代からの熱心な“プロデューサー”だそうで、その視点から鋭い分析を語っていった。佐藤氏いわく、『アイドルマスター』は“歌の力”に支えられてきたIPなのだという。そして、まだソーシャルゲームでボイス付きのものがほとんどなかった時期に、CDを出したということが、コンテンツの魅力を膨らませるうえで非常に大きかったと語る。第一弾のCDは5種類同時発売され、オリコンウィークリーチャートですべてトップ10入りするなど、商業的にも成功を収めているが、「単純に売れた売れないとは別に、キャラクターにキャストがついて、キャラクターの魅力を増幅し、ファンとの距離感が近づいたという部分で、大きな意味があったと思います」(佐藤氏)と語った。
そして佐藤氏は、ソーシャルゲームがエンターテインメントとして広がっていくうえでは、『アイマス』のように、長く育てていくという気概を持ち、外への広がりを持たせていくことも大切ではないかとまとめた。
目黒が今年注目のコンテンツとして挙げたのは、やはり『パズル&ドラゴンズ』だ。『パズドラ』がリリースされた今年2月ごろは、ソーシャルゲームではカードゲーム系が全盛で、そちらに舵を切ったメーカーが多い時期。そんな中で『パズドラ』がヒットしたことは、「こういうおもしろさを追求したゲームがちゃんとヒットするんだ、と。メーカーや開発者に光をもたらしてくれたし、もちろん僕らメディアにとってもすごくうれしいことでした」(目黒)。
黒川氏も、『パズドラ』が業界にもたらした影響は大きく、『パズドラ』フォロワーのゲームが増えているとして、「家庭用のメーカーさんが持っている作り込みの鋭さ、いまままで培ってきた開発のノウハウが活かされてきているように思います」と語った。
さらに目黒は、『パズドラ』について、ファミ通Appの攻略ページに、『パズドラ』アプリから直接リンクが張られている事例を挙げ、「アプリは容量の制限がきびしいため、補足などがしづらい部分がありますが、そこを僕らメディアが補足しているわけです。ゲームとメディアの新しい関係を、ひとつ作れたかな、と思っています」(目黒)と話した。
大賞は『パズドラ』! ……ではなく……?
そして、いよいよ“エンタテインメントの未来を考える会”を決定することに。黒川氏が事前にFacebookなどを通じて行った投票では、LINEや『パズドラ』のほか、“アナグラのうた”(日本科学未来館のインタラクティブ展示)、『とびだせ どうぶつの森』、『ぐんまのやぼう』などに票が集まっていたとのこと。
ここまでの話の流れと合わせると、『LINE』か『パズドラ』か……というところだが、目黒から「個人的には『パズドラ』というより、ガンホーさんの理念に大賞を贈りたいと思うんです」との提案が。『パズドラ』に限らず、『CRAZY TOWER(クレイジータワー)』、『ケリ姫クエスト』などにも共通する、オリジナリティーとおもしろさを追求している姿勢に、「ガンホーさんなら、新しいゲームを作ってくれるのではないか、というワクワク感があります」(目黒)というわけだ。
これには黒川氏も同意し、前回の黒川塾にガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下社長に登場してもらった際に、KPIを設定せず、とにかくおもしろいものを追求する姿勢に、強く感銘を受けたと語った。
……というわけで、最終的には会場に集まった聴衆からの大きな拍手による同意もあり、ガンホー・オンライン・エンターテイメントが、“2012年 エンタテインメントの未来を考える大賞”に選定された。黒川氏は「我々が勝手に選ぶ“勝手賞”なので、どの程度の価値があるかはわかりませんが……(笑)」と謙遜するが、デジタルエンタテインメントに精通する玄人たちが、心の底からの賞賛を持って贈られる賞であるのは事実。今年は『パズドラ』で数々のゲーム賞を受賞したガンホー・オンライン・エンターテイメントだが、これも大きな勲章のひとつとして、よりよいコンテンツ作りのためのモチベーションとなれば、ゲームファンとしてはうれしい限りだ。
なお年明けの2013年1月11日には、コンシューマゲーム関連の話題をテーマに、黒川塾(五)が開催される予定だとのこと。詳細は、後日発表されるとのことなので、“エンタテインメントの未来を考える会”公式Facebookページをチェックしよう。