FtPの明日はどっちだ!? 最前線を行くクリエイターが白熱トーク!!
基本プレイ料金無料+アイテム課金、いわゆる“フリートゥプレイ”(以下、F2P)の現状と未来を探るべく、大型F2Pタイトルの代表格である『ファンタシースターオンライン2』(以下『PSO2』)と『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』(以下、『バトルオペレーション』)の開発陣にお話を伺う特別企画。前編(【コチラ】)に続き、この後編では、F2Pの課題や、今後の展望などを中心にお話が展開する。そして、お互いに質問をぶつけ合う“クロストーク編”(【コチラ)では、さらにキワドイ内容も……!? いずれも必見だ!
※この記事は、週刊ファミ通2012年12月20日号(2012年12月6日発売)に掲載された記事に加筆したものです。
※このインタビューは、2012年11月末に収録したものです。
■『ファンタシースターオンライン2』
2012年7月4日よりPCでサービススタートした、オンラインRPGの元祖とも言える人気シリーズ作品の最新作。公式サイトからゲーム本体を無料でダウンロードして遊ぶことができる。
★公式サイト→【コチラ】
セガ プロデューサー 酒井智史氏
セガ ディレクター 木村裕也氏
■『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』
2012年6月28日からサービスを開始した、PS3向けオンライン専用ガンダムバトルアクション。PlayStation Storeから無料でダウンロードして、プレイすることができる。
★公式サイト→【コチラ】
バンダイナムコゲームス プロデューサー 桑原顕氏
B.B.スタジオ 制作プロデューサー 大野聡氏
オンラインゲームの運営は地雷だらけ 覚悟がなければ続けられない
――実際に運営がスタートしてみて、予想外だった部分はありますか?
『バトルオペレーション』大野聡氏(以下、【G】大野) それを言い出したら、想定外だらけですよ(笑)。
『PSO2』酒井智史氏(以下、【P】酒井) 基本的には、ほとんど想定外にはなるんですよ。我々の場合、ユーザーのボリューム感、「これくらいの人数だろう」という予想のはるか上の人数がきてしまって。ボリュームによって生まれる不具合や、対応しなければいけない要素がすごく多くなってしまった。いちばん問題だったのは、ラグですよね。ユーザーが多すぎることによるラグが生まれてしまう。しかもその原因がひとつじゃないんです。ゲーム自体が重いというところだけではなくて、ユーザーの通信環境の部分でも問題が起きたりするので。
『バトルオペレーション』桑原 顕氏(以下、【G】桑原) それはすごくわかります。怖いですよね。
【P】酒井 通信環境で問題が起きてしまうと、ゲームとは関係がないところなので、ぼくらが分析してもぜんぜんわからないんですよ。だけど、ユーザーにとってみれば、どこが悪いかなんて関係ないわけです。そこを解決するのが、本当にたいへんでした。現在も、別の意味でラグに悩まされたりしていますが、これは、オンラインゲームならではのことで、ゲーム以外の部分で、問題は確実に起きるんです。ダウンロードだって、タダではないですからね。
『PSO2』木村裕也氏(以下、【P】木村) F2Pといっても、通信というお金はかかるんですよね。
【P】酒井 携帯をいじればお金がかかるのと同じで、こちらからダウンロードしてもらうにも、ゲームが通信していることにも、全部お金がかかっているわけです。そこはもちろん無料で提供しているわけですが、容量が大きくなればなるほど、お金はどんどん膨らんでいく。サーバーを増強すればいいと思うかもしれませんが、現時点でも、たぶん日本では考えられないくらいに増強はしているんですよ。でもそれ以上のボリュームがあるので、まだまだ対応しきれていないというところもあります。そういった、ボリューム感による、通信ゲームならではの問題。これは、いままで長らく通信ゲームをやってきた我々でも、本当に予想外のことだらけで、地雷のすべてを踏んだような感じだと思います(苦笑)。
【P】木村 通信面は、本当にこの半年、勉強になりましたね。私は技術屋ではないので、それほど詳しくはないのですが、勉強せざるを得なくなってしまいました。
――『バトルオペレーション』ではいかがですか?
【G】桑原・【G】大野 うちもまったく同じですね。
【G】大野 最初に、携帯ゲームのF2Pが注目され始めたときに、どこのメーカーさんでも、「じゃあハイエンドの遊びでこれをやったらどうなるだろう?」というのは、まず考えたと思うんですよ。でも、やるかやらないかという判断になったときに、その通信の壁を考えて、企画段階で終わってしまった、というケースも多かったと思います。それで実際に我々が、その壁に飛び込んでみたら……やっぱり地雷だらけだったというのが、正直な印象です(笑)。いまでも、改善をくり返している状態で、完璧にはなっていないので、そこは課題ですね。
【G】桑原 でも当初に比べると、ずいぶんラグも減って、精度は上がってきました。今後もクオリティーアップは全力で進めていきます。
【G】大野 これ以上やるには、もう大工事が必要、というところまできてしまっていますね。……まぁ、そこをやっていくんですけれども(笑)。
【P】酒井 基本的にオンラインゲームの運営って、叩かれることが多いですよね。
【G】大野 それはそうですね……。
――もちろん満足されている方もたくさんいらっしゃって、100%悪い意見ばかりではないのでしょうが、悪い意見のほうが大きくなりがちなところはありますよね。
【P】酒井 でも、言われなくなったら終わりなんですよ、ある意味。言われているうちが華。そういう意味では、叱咤激励だと思ってやっています。僕がイベントによく顔を出すのは、その裏にいる、たくさんの声を上げないユーザーの笑顔を見るためなんです。そこで元気をもらう事でまた頑張れるんです。
――オンラインゲームだと、当然ですが、大前提としてみんながネットにつながっていますからね。批判や意見がダイレクトに届きますよね。
【P】木村 ですね。そういえば『バトルオペレーション』の場合、コミュニティーはどのあたりが中心なんですか?
【G】桑原 Twitterや大手掲示板、Facebookなど、広く全般的に、という感じですね。そういえば、バンダイナムコライブTVというWeb生放送番組がありまして(毎週水曜日配信。詳しくは【コチラ】)、そこで対戦企画をやったんです。そうしたら、本当に我々を敵視しているユーザーさんが大量に集ってきまして(笑)。そこで一気に、チャットとかで盛り上がるんですよ。それで、選ばれし戦士たちが、運営に戦いを挑むという構図で。完全に僕らがヒール役になって、それですごく盛り上がったんです。「ざまあみろ運営!」と(苦笑)。
【G】大野 僕も毎日ログインして遊ぶんですが、よくキックされますよ(笑)。
【P】木村 えっ、ユーザーさんにIDを公開されているんですか?
【G】大野 いや、なんかバレちゃっているんです(笑)。フレンド申請してくれる人もたくさんいるのですが、でも1日に3回くらいはキックされますね。
【P】酒井 でも、オンラインゲームの運営って、本当に覚悟がないとやっていけないと思いますよ。24時間やっていて当たり前と思われますし。でも、対応する人間は24時間できるわけじゃない。あるタイトルの担当はなかなか旅行に行くこともできなかったぐらいでしたから、軽い気持ちで始めると、きびしいことになりかねません。それを受け止めても、ユーザーに楽しんでもらうために、ゲームをよりよくしてこうという覚悟が必要。作って終わりのゲームではないですから、いろいろ問題は起きるんです。それでも、運営を続けていくという覚悟がないと、やっていけないです。
サービスイン後こそリソースが必要――ソーシャルとの大きな違い
――いままでコンシューマを中心に手掛けられてきた方々からすると、延々と作り続けるオンラインゲームの運営は、たいへんではないですか?
【G】大野 もうそういう意識もないですね。始まってしまったらしょうがないというか。
【P】酒井 こちらは正直大変ですね。これまでシリーズを長くやってきたスタッフでも、今回のように大人数で作り続けるというのはなかったことだと思いますし。これまでコンシューマをやってきたスタッフにとっては、もっとたいへんだと思いますよ。
【G】大野 F2Pのタイトルを始めるにあたって、携帯系の、F2Pでやられている方の講演や、いろいろな方のお話しやノウハウを聞きに行ったりしたんですよ。それによると、やはり「最初、運営が始まるまではたくさん人数をかける。そして運営が始まったら人数を絞っていくんですよ」という話が多かったんです。でも、今回はまったく逆で、そこがいちばんの想定外と言えるかもしれません。運営が始まってからのほうが、むしろカロリーが高いというか。とくに運営がスタートしたてのころは、問題がばんばん出てきて、対応に追われましたから。
【P】木村 もしかしたら、そこが、ソーシャル系と、コアなF2Pの違いかもしれないですね。確かにソーシャルでは、運営に入ったあとのほうが、スタッフが少なくてすむことが多いと思います。でも我々みたいに、かなり大きなものを配信していかなければいけないというスタイルだと、運営のほうがたいへんですよね。作るという過程において。
【G】桑原 私は、『ガンダムロワイヤル』や『ガンダムカードコレクション』も手掛けてきて、Webのソーシャルゲームの経験があるので、運営についてはある程度理解しているつもりだったのですが、コンシューマでやるとなると、工数が本当に大きくて。そこを今後どう解消していくかというのは、課題ですね。
【P】酒井 つねにお金がかかり続けるというのは、会社的には許されないことですからね(笑)。
一堂 (苦笑)
【P】酒井 許されないのだけど、やらないと運営は続けられないので。どうバランスをとっていくかというのは課題でしょうね。
F2Pの短所と長所 気軽に遊べる、しかしそれゆえの難しさも
――F2Pというスタイルの短所と長所について、どのようにお考えですか?
【G】桑原 短所はやはり、やってみないと結果が見えないところでしょうね。予測がつかないので、収支計算をやっても、すべてが机上の空論にしかならない。長所はその裏返しで、やってみて、当たったらものすごく伸びますし。そういう見えないところが、よいところでもあり、悪いところでもあります。
【P】酒井 手軽に楽しんでもらえるというのは、間違いなく長所ですね。最初に5000円とか、大きな金額をかけずに、ダウンロードするだけで楽しんでもらえるというのは、間口を広げるにはよいことで、今回『PSO2』が100万IDを早々に突破できたというのは、そのあたりが大きいと思います。
ただその分、ユーザーが多様化するんですよね。ちょっと興味をもっただけで始めてくれる方も多くて、その方たちに対するケアが必要になります。コンシューマだったら、最初に5000円とかを払っている分、「よしがんばろう」と積極的な姿勢で遊んでもらえますが、F2Pの場合、ちょっとつまらないと思ったら、ポイっとやめてしまう人が多い。そういう方たちにも、ちゃんとやっていただけるものを作らなければいけないという部分では、ひとつハードルが上がりますよね。
そこはアーケードに近いという部分で、遊ぶうえで引っかかる、障害になる要素を排除していかないといけない。我々にもノウハウがないので、データを集めて、「ここで脱落している人が多いな」という部分を分析しながら変えていかないといけません。ソーシャルゲームは、そういう作りかたの部分ではしっかりしていて、その対処のスピード感は、やはりコンシューマゲームというか、ハイエンドなゲームとソーシャルゲームでは、まだぜんぜん違いますから、ソーシャルゲームのスピード感に慣れている方には、まだまだ遅いと言われてしまう部分だと思います。
アップデートしないといけないけど、要望にも対応しないといけない。その辺のバランスって、『バトルオペレーション』ではどう考えていらっしゃいますか?
【G】桑原 要望にも大小がありますよね。アップデートはモチベーションに直結する部分なので、それはもちろん捨て置けなくて、しっかり進めます。同時に、そのときの状況、人員にどれくらい余裕があるかを見計らって、要望の中から「今回はこのサイズの要望だったら入れ込めるかもね」というあたりを判断しながら対応していくことになりますね。
【P】酒井 要望対応をやることで、アップデートがずれてしまったりすることもありますか?
【G】桑原 アップデートの中身がかわったり、時期がずれたり、ということはありますね。昨日もまさに変わったところです(苦笑)。
確実に高騰していく開発費 F2Pシステム自体にも進化が必要!
――今後、F2Pスタイルを採る家庭用ゲームや、大型タイトルは増えていくでしょうか?
【G】大野 確実に増えるでしょうね。
【P】木村 実際バンダイナムコゲームスさんの中でも、今回の成功を受けて、「家庭用でもF2Pをがんばろうぜ!」となっていたりするんじゃないですか?(笑)
【G】大野 問い合わせは増えましたね。いままであまり話したことがない人から、急に内線電話がかかってきたり(笑)。
【P】酒井 私も増えるとは思いますが、「家庭用ゲーム機で」という意味では、疑問もあります。家庭用ゲーム機以外でも当然増えていくはずで、そちらがよりコアゲーム化していく、というほうがあるのではないでしょうか。
【P】木村 スマートフォンのスペックがどんどん上がっていって、ますます家庭用ゲーム機との差がなくなるのは確実ですよね。そちらでF2Pがより増えていく流れに対して、家庭用ゲームが同じ道を行くのか、独自路線を行くのかは、まだなんとも言えませんね。
【P】酒井 先日韓国に行ったのですが、韓国では、スマートフォンのゲームがどんどんヘビー化して、MMORPGのようなゲームまで遊べるようになっているんですよ。私が社内で「スマートフォンで3Dのゲームをやります」とプレゼンしたときには、「そんな需要はないだろう」という反応でしたが、現実にそういう需要は生まれつつあるんです。でも、いまのソーシャルゲームのような課金サイクルを、高騰する開発費に応じてやってしまうと、ユーザーがどんどん疲弊して、業界的に縮小方向に向かってしまうと思います。おもしろさを保ちつつ、いかにF2Pの課金システムを構築していくかというのは、我々も悩んでいるところです。これは業界全体で考えないといけない問題でしょうね。
――なるほど。それでは最後に、ファミ通の読者にメッセージをお願いします。
【G】大野 『バトルオペレーション』では引き続きMSやルールの追加を行っていきますので、楽しんでください。これからプレイされる方も、遊んでいただく中で「本当に無料でとことん遊べる」を感じていただき、その感想をいただければと思います。
【G】桑原 多くの方に支持をいただけていることを、本当にありがたく思っています。先日よりテレビCMも始まり、このタイトルを認知いただいている方も増えていると思いますので、12月はアップデートによる要素追加や、ファンの方が注目するであろう新規MS獲得イベントに加え、”補給物資プレゼントパックキャンペーン”というお得なアイテムのパックをプレゼントするキャンペーンなど、さまざまな施策を実施する予定です。ぜひこの機会に遊んでみてください。
【P】木村 『PSO2』では、今後も新要素をどんどん追加しますが、新規の方に向けたバランス調整やユーザービリティーの改善も実施していきます。ですので、新規の方も、ぜひ安心して始めていただければと思います。
【P】酒井 12月には、第一のラスボス的存在が登場します。新規の方でもいきなり戦えますので、いまから始める方は、ある意味、これまでやってきた人以上に楽しめるかもしれません (笑)。また、PS Vita版が登場することで、新しく始める方もかなりいらっしゃると思います。恐らく、パッケージ版はPS Vitaのカードを使い切る初めてのゲームになりそうです。それだけのゲームを無料でプレイさせてしまうというのは、セガにとっても大きな挑戦です。2013年にはスマートフォンでも展開していきますし、どんどんゲームが変わったり、ユーザーが広がっていく、オンラインゲームならではの楽しさを、ぜひ楽しんでください。
リッチなタイトルが、F2Pスタイルでもビジネスとして成立することを証明した、『PSO2』と『バトルオペレーション』。インタビューでは、両者ともに「ゲーム性の核に課金をしない」姿勢を強調していた。だからこそ両タイトルとも、比較的高年齢の、パッケージゲームで育った世代にも強く支持されているのだろう。
ただ一方で、酒井氏が指摘した“開発費高騰に対応するための進化”は、今後の課題だ。両タイトルともに、リッチタイトルに相応のアップデートを提供するために、F2Pタイトルとしては破格なほどの人員が、日夜制作を続けているという。こうしたいままでにないスタイルが、今後も伸長していくのか? ゲーム業界の今後を左右する重要なポイントとして注目していきたい。
なお今回のインタビューでは、“F2Pの現状と未来”というテーマからは外れたところでも、制作チームの信念や苦悩が垣間見える興味深い話題が多々語られていた。それらは、“クロストーク編”として別の記事にまとめたので、合わせてご覧いただきたい(→【コチラ】)。