2年の準備期間を経てついに実現したソロアルバム
2012年12月12日、音楽制作ユニット・fripSideのボーカルとしてアーティスト活動も勢力的にこなす人気声優・南條愛乃がミニアルバム『カタルモア』でソロデビューを果たす。このミニアルバムの制作の裏側を、そしてアルバムの見どころ、聴きどころを南條愛乃に語ってもらった。彼女の描く、ソロアーティスト・南條愛乃とは……?
■南條愛乃
アミュレート所属の声優。『ロボティクス・ノーツ』の瀬乃宮あき穂役や、『じょしらく』空琉美遊亭丸京役、『ラブライブ!』絢瀬絵里役など多数の代表作を持つ。2009年からはfripSideの2代目ボーカルとしてアーティスト活動も精力的にこなす。2012年12月12日、ミニアルバム『カタルモア』でソロデビューを果たす。
企画は2年前から始動していた
――今回、南條愛乃としてソロデビューをされるということで、fripSideとはまた別の活動になるわけですが、どういった経緯でソロデビューが決定したのでしょうか?
南條愛乃(以下、南條) 私のほうから「やりたい」という話を2年ぐらい前からさせていただいていたんです。歌を歌いたいということはデビューしたころから漠然とあったんです。キャラソンをいくつか歌わせていただいているなかで、fripSideの活動が始まり、いろいろな楽曲を作ったりイベントに出たりするうちに「ライブだったらこういう演出をしたいな」とか「こんな曲が歌いたいな」ということを思い始めたんですね。でも、それはデビューする前に聴いていたバラードやおとなしめの曲のイメージが中心になっているものだったので、fripSideの世界観には絶対に合わないものだったんです。それで、fripSideとは別に、こういう世界観のものをやってみたいという話を事務所に相談したことがきっかけでした。そこからはfripSideとの兼ね合いとか、ホントにできるんだろうかとか。スタッフはどうするんだとか、いろいろなことの話し合いの期間がすごく長くかかりまして、2年経ってようやく実現したという形ですね。
――ようやくソロでの活動が行えることになったは、どんなお気持ちでしたか?
南條 そもそも“やりましょう、よーいどん”という感じではなかったんですよ。ずっと事務所と話をしながら、fripSideでもお世話になっているジェネオンのプロデューサーの方も交えて話をするようになって、なんとなくぬるっと始まった感じなんですよね(笑)。「さぁ、いまからがんばろう!」という感じではなくて、徐々に徐々に話が詰まってきて、「実際に曲を録り始めてみましょうか」となっていったんです。話し合いの延長で、どんどん形になっていった感じだったので、いつからというのが明確にはない感じでしたね。
――2年前にソロ活動のことを口にし始めてから、ちょっとずつちょっとずつ進めてきたプロジェクトなんですね。
南條 ホントに、そんな感じですね。牛歩みたいな感じで(笑)。
――ミニアルバムになるというのは、どれぐらいのタイミングで決まったんですか?
南條 ミニアルバムというのは、ジェネオンのプロデューサーさんを交えてから決まったことですね。私自身もシングルというよりは、いろんな曲調のものを入れて、2枚目以降どの方向性でもいけるような感じにしたかったんです。1枚目で2曲入りのシングルにして「この方向性なんだ」というのをガッチリ固めたくないな、と。なので、プロデューサーの方から「ミニアルバムでどう?」と言われたときに「願ってもない!」って(笑)。その場で「ぜひ!」と即答しました。
――たしかに曲調はいろいろなものが用意されていますよね。全体的にはおとなしめの曲調ですけれど、『飛ぶサカナ』のようなポップなナンバーがあったり、『iD*』のようあなアツい曲もあったりするのは、そういう南條さんの思いもあったからなんですね。
南條 そうなんです。たとえば、この1枚目をバラードばかりにしてしまうと、2枚目以降でいきなり明るい曲を出したときに皆さんが困惑してしまうんじゃないかなって(笑)。だから、いろいろな曲調の曲を用意して、どんな方向にも向けるということを示したかったんです。
――そうは言っても、ミニアルバム全体を通してイメージが統一されているように感じました。大枠としてのイメージはあって、その中でいろいろなものが見せられるよ、というアルバムのなのかな、と。
南條 当初から、いろいろなテイストの曲を入れたいとは思っていたのですが、たくさん曲を入れることで「とっちらかるのがイチバン怖いね」という話はしていたんです。ホントにテイストがバラバラな曲を6曲集めましたという感じで、統一性がなくなっちゃうのだけは避けたいね、と。なので、サウンドプロデューサーに私がデビューしたときからお世話になっている佐藤(純之介)さんという方に立っていただいて、アルバム全体を通して音色などをチェックしていただいています。そうすることで統一性が出せるのではないかと。じつは今回、ホントに昔から付き合いのある方たちにすごく協力していただいたので、自分らしさというのもありつつ、まわりで私のことを見てきてくれた人たちの南條愛乃像みたいなものが混じっていたりして、なじんでいる部分とすごく新鮮な部分がいいバランスで6曲集まったな、という感じがしています。
――今回のミニアルバムをfripSideの南條愛乃という人物だけを知っている人が聴いたら、ぜんぜん違う雰囲気に感じますよね。
南條 違和感だと思います(笑)。
――fripSideも知っていて、南條さんのこともふだんからチェックしている人たちが聴くと、「なるほど、こういうことがやりたかったんだな」と納得する部分もありそうです。
南條 そう感じてもらえるとうれしいですね。
イメージを伝える難しさ
――今回、3曲の楽曲で作詞をされていますが、何か苦労したことなどはありましたか?
南條 歌詞に関してはあまり苦労したなということはなかったですね。強いて言えば4曲目の『リトル・メモリー』という曲をサンプルでいただいた段階で仮歌詞がついていて。それが恋愛の歌詞だったんです。でも、そのときにある程度完成していた『飛ぶサカナ』や『光』、『blue』といった曲のことを考えると、恋愛の歌詞がくるのは、なんか唐突だなと思って(笑)。それで恋愛の歌詞にするのはやめたんですが、じゃあ、何を書こうかなというところでちょっと悩みました。結果、自分の過去と現在を照らし合わせて、自分自身を見つめ直すといった感じの歌詞になったんですけれど、かわいいめでポップな曲調なのに、歌詞は明るくもない歌詞になっていて(笑)。そういうギャップも楽しんでもらえればいいかなと思って書きました。
――明るくもないですけれど、未来のある歌詞ではありますよね(笑)。
南條 最終的には前向きな歌詞ですね(笑)。
――ちなみに最初のCDでいきなり6曲作るというのは、たいへんなんじゃないかと思うんですけれど。
南條 じつは、時間さえあったらもう1曲入れたかったぐらいで。
――ホントですか!?(笑)
南條 (笑)。あれもこれもやりたいねってなってしまって。でも、実際はけっこう時間に追われての制作になってしまったので、6曲がMAXでしたね。最初は余裕を持って始めたはずだったんですよ。今年(2012年)の春ぐらいにスタッフが決まって制作をスタートさせたんですけれど、イメージとしては固まっているのに、実際に音になったものを聴くと「何か違う……」ということが最初のころにずっとあって、そこの刷り合わせに時間がかかりました。
――制作初期のころから、相当こだわって音作りをされているわけですか。
南條 私自身、音楽的なことはぜんぜん詳しくないので、自分の中にはイメージがあるんですけれど、それを実際に音にしてくれる人たちにピンポイントで伝えられなくて、「このままやっていたら発売できない……っ!」という状態でした(笑)。でも、そうこうしているときに、今回作家として何曲も提供してくれている、しほりさんという方が曲を1曲提供してくれたんですよ。この方も昔からお付き合いのある方で、それこそ2年ぐらい前から私がどんなことをやりたいのか、ずーっと相談に乗ってくれていた作家さんなんです。そんな彼女が、別のコンペ用に作った曲を「南條に歌ってもらったほうが合うと思う」と言って渡してくれたんです。それがアルバムの3曲目に入っている『光』という曲です。この曲は、私にとっても新鮮だったし、私が試しに歌ってみた歌いかたがしほりさんにとっても「そう歌うんだ!」という新鮮さがあったみたいで、そこから私がああだこうだ言うよりも、私がどんなことをやりたいかがわかってくれる人たちに委ねたほうがいいのではないかということになり、しほりさんを中心に楽曲を用意してもらう方向にスライドしていきました。なので、当初あった自分の中のイメージとは、じつはちょっと違うものになっています。ただ、言いたいことや音色という部分は近づいたな、と感じています。1枚目だし、自分だけのイメージでガッチリ固めるより、まわりの方の、それこそずっといっしょにやってきている方たちの意見が入ったほうが、いいだろうなと。
――今回は南條さんのイメージだけではなく、南條さんのことを知る人たちのイメージも混ぜたアルバムになっているということですか。すると、もっと南條さんのイメージに寄せたCDも今後聴けるかもしれない?
南條 スタッフのあいだでは、ここからもっと詰めていきたいね、と言っています。ただ、今回の1枚目のアルバムで、私が右にいきたいのか、左にいきたいのかという方向性だけは間違いなく出せているので、まずは『カタルモア』を聴いて、私がどんなものを表現したいのかに触れてもらえればと思います。
――ちなみに今回収録されている曲の中で、いちばん思い入れの深い曲は?
南條 私は6曲目の『カタルモア』ですね。もともとがピアノだけの曲などがすごく好きなので、できることなら全曲ピアノだけにしたいぐらいだったんです(笑)。でも、それは「ダメ!」って言われて、そりゃそうですよねって(笑)。でも、1曲だけどうしても入れて欲しいということで、すごくシンプルな『カタルモア』という曲をしほりさんに作っていただきました。2年前からやりたいことをずっと相談していただけあって、「南條がやりたいことはこういうことでしょ?」というのをしっかりと表現してくださっている曲だと思います。もちろん、私のイメージだけではなく、しほりさんならではのテイストも入っている曲ですね。
――公式サイトなどでは、PVも公開されていますよね。
南條 あれはもともとPVとして作ろうというところから始まったわけではなくて、じつは公式サイトの扉として使う短い映像が欲しいという話から作ったものなんです。撮影をした段階で歌詞はできていたんですけれど、歌詞は使わない方向でいこうということになって公開されているPVでは「ラララ」で歌っているんですよ。でも、じつはフル尺で歌詞バージョンも一応撮っているんです。ただ、それは公開する予定はなくて。PVの雰囲気も声優ともfripSideとも違うと思うので、こういう方向か、と思って観てもらえればと思います(笑)。個人的には、言葉がふわーって空のほうに文字が浮かび上がっていくシーンがあるんですけれど、私自身、言葉を大事にしたいなぁと思っていたので、ああいう演出をつけてもらえたのは、偶然なんですけれど、よかったなと思います。
――なるほど。皆さんそういう出来事を偶然と仰られますけど、たぶん曲とか、歌詞といったところから感じるものを形にされた結果だと思いますよ。そこに込めた想いが伝わったからこその演出なんじゃないでしょうか。
南條 そうなんですかね。だとしたらうれしいですね。………………よかった(笑)。
南條愛乃によるミニアルバム『カタルモア』全曲紹介
■blue
――今回、ぜひ全曲紹介をしていただければと思いまして。まずは『blue』からお願いします。
南條 物語の導入部分というか。ソロとしての第一歩であるアルバムの第1曲目だったので、ガツンとメロディーのあるものではなくて、インストっぽいもので幕開けしたいなと思っていたんです。できるなら、今後ライブなどを行う機会があれば、この曲をインストとして流して、2曲目から実際にライブが始まる、というイメージで使っていける曲にしたいなと思って制作をしました。そういう意味もあって、メロディーから始まるのではなく、水のSEから始まっているんですよ。
――そうですよね。最初、「あれ? 始まった?」って音に気づかなくて(笑)。
南條 なりますよね(笑)。私もサンプルもらって「あれ? 始まってなくな……あ、水の音してた(笑)」ってなりました。その水の音が、じつはホントに探すのがたいへんだったんです。ぴちゃんぴちゃんという音ならいっぱいあったんですけれど、“水中の音”というのがなかなかなくて。結局、いくつかの音を佐藤さんといっしょにMIXして作りました。その水の音探しと、水の音合わせにいちばん時間がかかった曲です。せっかくインストっぽい感じにしてもらったので、何か仕掛けを入れたいな、ということで、途中で何を言っているのかわからない箇所があるんですけれど、歌詞カードを見ていただくと謎の文章が書いてあってですね(笑)。この部分は、ちょっと読みかたを変えるとすぐになんて書いてあるか解けると思います。すごく簡単な仕掛けになっているので、ぜひ何を言っているのか気になった人は歌詞カードを見てもらって、なんて書いてあるのか謎解きをしてもらえれば。そこにとても恥ずかしくて言えなかった言葉が隠されていますので(笑)。ホント、これが出来あがる直前に「この部分、音声も歌詞もカットしません?」って言ったぐらい恥ずかしくて。でも、「ダメだよ、これをやるって言って作った曲なんだから!」と言われてしまって阻止されました(笑)。楽曲のイメージとしては、深海のところからだんだん海面に向かって上がっていく雰囲気で、上がりきって水中から外に出たところから2曲目というイメージです。
■飛ぶサカナ
――そして、水中から『飛ぶサカナ』と。
南條 はい。“水中から飛び出したい”ということをしほりさんに伝えていたので、たぶんそこからもイメージが広がっている曲だと思います。水中から飛び出すという物理的なこと以外に、自分の殻から飛び出るといったことも書いてある曲で、アップテンポなんですけれど、“飛ぶサカナ”らしく浮遊感もあり、疾走感もある。けれどfripSideとも違うというようなところを目指した、爽やかで凛とした曲になるといいなというお願いをして作っていただいた曲ですね。キーがキャラソンより高いんですけれど、fripSideよりも低くて、地声でも裏声でもどっちでも歌えるところで作ってもらったんです。これは、しほりさんが絶対そのほうが合うということでこのキーにしてくれたんですけれど、いままでにないキーだったので、歌いまわしというか、歌いかたにすごく苦労した曲でした。
――どちらも使っていますよね。裏声も地声も。
南條 そうなんです。気を抜くとすぐに裏声にいっちゃうし、でもここは地声で言ったほうがいいのかなとか考えながら収録しました。自分の中でも試行錯誤しながら歌った曲ですね。
■光
南條 これは光と言いつつも、私の中では夜の歌です。1曲目の『blue』のときもそうなんですけれど、ずっとデビュー前に趣味で絵を描いていたことがあるせいなのか、イメージが頭の中に絵や映像で出てきて、それを言葉で伝えるのが本当に難しくて、「ああ、もう無理!」ってなってしまうんですよ(笑)。だから最終的にラクガキみたいな絵なんですけれど、絵を描いてお渡ししたんです。そうしたら、「こっちのほうがよっぽどわかる」って言われました(笑)。今回の『光』も、曲はもともとしほりさんが作ってくれていたものなんですけれど、歌詞はしほりさんにお願いしたので、このキーワードだけ入れて欲しいというものをまずお渡しして、その後私が描いた絵を提出しました。キーワード以外はすべて絵からイメージを拾ってもらった曲ですね。
――実際に出来上がってみて、自分のイメージどおりにはなりましたか?
南條 キーワードだけを伝えていたときよりも、絵に描いたとおりにというか、絵から言葉を拾って、ストーリーも組み立てていただいて。「さすが!」って思いましたね(笑)。
――お話を聴いていると、しほりさんとの信頼関係というか、絆を感じますね。
南條 しほりさん自身もすごく私のことを応援してくださっているんです。声に特徴を持っている歌い手さんはなかなかいないと私のことを言ってくださっているので、曲もすごく大事に作ってもらっているなと、感じていますね。
――声に特徴があるというのは、声優さんだからこそという感じがします。
南條 歌いかたも違うみたいなんです。当然なんですけれど、歌い手さんには絶対に適わなくて、声優だから歌える歌いかたとか。言葉を大事にするポイントというのが、歌い手さんよりも声優のほうがこだわりが強いみたいなんですよね。収録をしているときにも「いまの“し”の言いかたが気に入らないです!」と私が言っても、まわりの人たちは「ぜんぜん気にならないけど?」と言われてしまって、それに対してさらに私が「いや! 気になります!!」というやりとりがあったりとか(笑)。
■リトル・メモリー
南條 曲調はかわいらしくて、おもちゃ箱のようなアレンジをしてもらった曲です。内容としては、久々に帰省などをして、昔自分が集めていたものに触れたときに、自分が描いていた大人像と、現実の自分がちょっと違う場所にいることに気づいて、そこに悲しさというか、切なさを覚えてしまう。でも、子どものころに大事にしていた想いを現在の自分も変わらずに持っているので、改めてその想いを認識して、明日からまたがんばっていこうという内容の曲です。じつはテーマが決まったものの、「歌詞をどうしようかな?」と思っていた曲なんです。そんな折に、ちょうどぽこんと休みが2日できたので実家に帰ったんですよ。久々に。その帰り際にふいに自分の部屋に立ち寄ったんですよ。自分の部屋は私がいないので物置みたいな使われかたをしているんですけれど、机だけはそのままにしておいてもらっていて、その机の引き出しを開けたときに「こんなの集めてた、そういえば!」みたいなものがいっぱい出てきたんです。スタンプやらシールやら便箋やら。そうしたら、小っちゃいときは小っちゃいときなりに自分の好きなもの集めたりとか、「こういうものを作りたい」という思いがあって、自分の世界の中だけですけど、いろいろ考えていたなぁということを思い出したんですね。それを思い出したときに、あれだけ一生懸命に不器用でもがんばれるってすごいなって、自分のことながらちょっとうらやましくなってしまって。そこから、作ってもらったアレンジにも合いそうだし、こういう歌詞にしてみようかなと思い始めたんです。
――わりと実体験に基づいた。
南條 もちろんフィクションを入れたりはしていますけれど。ただ、作詞をするときにはいつも、自分の中で思ったことや感じたことというのはどこか一文には入れるようにしていて。その中でも『リトル・メモリー』は、もろに実体験からできた感じです(笑)。
■iD*
南條 ここで、アツい曲を!(笑) アップテンポな曲は『飛ぶサカナ』があるんですけれど、それとは違う、アツい曲も入れたい! でもfripSideとは違うアツさにしたい! ということを言っていて、「であればElements Gardenの菊田さんが合うんじゃないか」と佐藤さんに言っていただいたんです。じつは私もできれば菊田さんの曲でやりたいなと思っていたんですよ。しほりさんがElements Gardenの方たちと交流があるのもあり実現したという感じでした。この6曲の中で、いい意味で異色だと思うんですけれど、でもアツい曲を入れておかなかったら、2枚目以降で手を出しづらくなるだろうなって。というのも、fripSideといっしょにソロ活動をしていくうえで、fripSideの存在のことも大事にしていく中で、そっちに変な意味で気を遣いすぎてアップテンポな曲に手を出しづらくなるのはもったいないなって思ったんです。だから、fripSideのクールなアツさとは違う、ホントにホットなアツさでやれたらいいなと思ってできた曲です。
――この曲は、歌詞も担当されていますよね。
南條 じつは、曲を一度いただいてから「もっとアツくしてください」というお願いをしたところ、「少しメロディーも変わりますよ」ということで、結果として最終的に曲が出来上がったのが、歌詞を納品しなければならないギリギリのタイミングだったんですよ(笑)。だから曲が到着する前日は、「曲も明日来る。歌詞も明日入稿しなければならない…………やばい。書けるだろうか……」と内心ヒヤヒヤしていました(笑)。それでも一応、イメージだけは出しておいたんです。キーワードと、頭の中に浮かんでいる絵を描いておいて「これで明日曲が来て、歌詞を…………書く!」みたいな(笑)。どのみち録音が歌詞入稿の翌日だったので、絶対に書かなければいけない状況だったんですけれどね。実際に曲をいただいたタイミングが『カタルモア』のTD(※トラックダウン。複数のトラックで録音された音データをひとつにまとめる、レコーディングの最終作業)をしていたときで。「(『カタルモア』の)この部分をガッツリ直すからちょっと待ってて」と言われたときに、ちょうど曲が上がってきていて。「じゃあ私違う場所で歌詞を書いてます!」と言って歌詞を書き始めたんですけれど、私史上最速の1時間で書けてしまって。
――ええええええ、すげぇ(笑)。
南條 考えていたキーワードと、絵と、イメージとがいい具合にするするーっとハマって、TDしていた佐藤さんのところに「歌詞書けたんだけど」と持っていたら、「え!? 嘘? こんな早く書けることなんてあるの?(笑)」って驚かれまして。「直しがあったら言ってください」と言って提出したんですけれど、「このままで大丈夫」ということだったので、すごい早さで歌詞が書けてしまってビックリした曲です。
――制作自体にもアツい展開があったと(笑)。
南條 そうですね(笑)。綱渡りだったんですけれど、ホントによかったなと。
――お話の中で、何度か出てきましたが、作詞をするときも絵を描かれるんですね。
南條 基本的に、どんな状況でもイメージが絵で浮かんできているみたいなんですよね。そのことに気づいたのも、このアルバムを作っている最中でした。絵はずっと好きで描いていたんですけれど、上京するときに声優を目指して学校に行くから絵は描かなくなるんだろうなと、自分の中ではひと区切りつけたつもりでいたんです。でも、そのあともずーっと絵を描くことが好きだったこともあって。とはいえ、ガッツリまとめて描く時間もなく、ぜんぜん描けていなかったんですけれど、今回のアルバムの制作を通して、やっぱり絵を描くことも好きだなぁと再認識しました。
――作詞をしたときの絵は残っていないんですか?
南條 いや、ホントに超ラクガキですよ? 笑いながら描いてますから、スタジオで。「だからー、ここがこうで、ザパーンなんですよー」みたいな(笑)。
――ファンの人は、ここからこういう曲のイメージができあがるんだという制作の過程に、すごく興味があると思うんです。
南條 あのね、ガッカリされると思います(笑)。でも、一応残っていて。12月15日と16日にインストアイベントがあるんですけれど、そこのトークショーでお披露目するんじゃないかなと思っています。でも、たぶんみんなガッカリします(笑)。
――ホントですか?(笑) でも、いまのお話を聞いていると、ちゃんとじっくり絵を描いて、この絵の曲が描きたいんだ、というところから始まった曲というのも見てみたくなりました。
南條 それは一度やってみたいですよね。ちゃんと描いたものであればブックレットというか、ジャケットの中に入れてもおもしろそうだなと思ったし。話を聞いてみると、絵を描いてイメージを膨らませてから詞を書くという書きかたは珍しいねって言われるので、そういうところからも自分ならでは感みたいなものが出していければいいかなと思っています。
■カタルモア
南條 ピアノだけのすごくシンプルで、内容もすごくストレートな曲なんですけれども。初めて同録をしまして。ピアノもしほりさんが練習してくれていっしょに録音しました(笑)。収録したスタジオに入っているピアノが、スタジオとして稼動しているピアノとしては、日本で1台しかないようなピアノだったそうで。
――えええ。音が違いました?
南條 すごくあったかかったです。ピアノの音比べなんてしたことないですし、詳しいことはぜんぜんわらかないんですけれど、ピアノの音だけで泣けそうっていうぐらい、実際に生で聴いた音がすごくあったかくて。全部木で作ってあるそうで、ビジュアルもかわいかったんですよ。赤みがかったブラウンみたいな感じで。しほりさんが先にスタジオに入って練習をしていたんですけれど、テンションが上がりすぎちゃってやばかったっていうのを、後から佐藤さんにうかがいました(笑)。「とり憑かれたように弾いてた」と仰られていましたね。でも、ピアノが弾ける人だったらそうなっちゃうんだろうなっていうぐらい、大事にされてきたピアノなんだろうなという感じがすごくして、特別なピアノなんだろうなと感じました。同録自体は初めてだったので、緊張もしていたし、お互いの間合いやタイミングを読むのも難しかったですね。収録時はピアノはピアノブースで、私は隣のマイクが立ったブースでという感じで録っていたんですけれど、一度だけピアノのあるブースで歌いたいと言って、同じブースで録ったんです。それは本番テイクとしては絶対に使えないものなんですけれど、歌い終わったあとに「このテイクがいちばんよかったよね」とみんなで言うほど、やっぱり空気が違っていたようです。だから、その感覚を忘れずに録ろうとがんばりました。でも、「レコーディングってこんなにまったりしていいんだっけ?」というぐらい、みんなほわーっとなっちゃっていて(笑)。曲も曲だし、ピアノの存在もすごく大きかったんだと思いますが、ギャグ絵で言うとみんな目が3本になってるような(笑)。そんな温かい空気の中で収録した曲です。
――同録と聴くと、失敗できない緊張感がありそうですけれど、そんなまったりとした感じだったんですね。
南條 最終的には最初の緊張もなく、楽しくやれましたね。私が思っている自分らしさというものが、この曲でいちばん出ているかな、と思っています。
――ちなみに『カタルモア』は、タイトルがすごく意味のあるタイトルだな、と感じました。
南條 語りべの“カタル”に、“もっと”という意味の“モア”で『カタルモア』なんですよね。
――そのつながりに気づいたときに、ちょっとドキっとしてしまう曲でした。
南條 あー、ホントですか。よかったです。
――最後に読者の皆さんにひと言メッセージをいただければ。
南條 ずっとやりたいと言っていたソロ活動がついに始動しまして、その1枚目となるミニアルバムがいよいよ発売になります。自分の中では完成したという実感がなくて、私自身は話し合いの延長の中にまだいるんですけれど、これがファンの方はもちろん、私のことを初めて知るという方がたくさんいると思うんですけれど、そういった方に手に取って聴いていただいて、感想をもしいただけたとしたら、そのときにやっとソロ活動が始まったんだなという実感が持てるんだろうなと感じています。なので、ぜひ聴いていただいて、「こういうことをやりたかったんだな」ということをちょっとでも感じ取っていただけたらうれしいなと思います。声優としておちゃらけている南條でもなく(笑)、fripSideとして精一杯格好をつけている南條でもなく、おうちにいるような自然体な雰囲気で皆さんにも聴いてもらいたいなと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。
■カタルモア
発売日:2012年12月12日発売予定
価格:2625円[税込]
【収録曲】
01. blue
02. 飛ぶサカナ
03. 光
04. リトル・メモリー
05. iD*
06. カタルモア