サイエンス作家が綴る科学アドベンチャーの魅力

 『シュタインズ・ゲート』、『ロボティクス・ノーツ』などの作品が人気の科学アドベンチャーシリーズ。その第1弾ソフトであり、脳科学をテーマにした作品が、妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』だ。テレビ番組「たけしのコマ大数学科」や「サイエンスZERO」などで活躍中のサイエンス作家、竹内薫氏も、“科学”と名のつく、同シリーズには注目しているとのことで、すでに『カオスヘッド ノア』もプレイ済み。そんな竹内氏に同作の魅力を語ってもらった。

サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_08

■竹内薫
東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学)・東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学理論)。理学博士(Ph.D.)。大学院を修了後、サイエンスライターとして活動。物理学の解説書や科学評論を中心に、100冊あまりの著作物を発刊。物理、数学、脳、宇宙など幅広い科学ジャンルで発信を続け、執筆だけでなく、テレビ、ラジオ、講演など、精力的に活動している。また、大の猫好きでもある。現在ゲームにハマっている。

※ファミ通.comで連載中“竹内薫のサイエンスゲーマー日記”

エロ・グロ・サイエンス! 毎夜訪れる妄想悦楽

 私はこのゲームをiPad版でやった。夜中、家族が寝静まってから、寝っ転がって遊んでいた。もともと小説も漫画も大好きなので、その二つの要素がミックスされたノベル・ゲームは、私に至福の時を与えてくれる。格闘ゲームなどは、運動神経の鈍い中年には敷居が高いが、ノベル・ゲームは、小説をアクティブに読む技術があればいいので、実に楽しい。
「カオスヘッド ノア」は、現代科学、特に脳科学の知見をベースにつくられた妄想科学アドベンチャーだ。SFとどこが違うのかといえば、フィクションが土台ではなく、基礎部分にれっきとした科学があって、その上部構造としてフィクションが乗っかっているような感じ。
 ネタバレになってはいけないので、ストーリーの詳細にあまり言及できないのが辛いが、私は、主人公(たち)が手にする武器が好きだ。正直、自分でも一つ欲しいと思う。渋谷のアンティークショップあたりに置いてないだろうか、などと、渋谷の街をぶらつくたびに妄想してしまう(笑)。
 そう、渋谷、妄想というのも、このゲームのキーワードである。現実の街を舞台にし、現実の脳科学の成果を基礎として、その上に、オタク、萌え、グロ……といった味付けがされている。今、グロと書いたが、それは「血」が描写される、という意味だ。映画の基準でいえば「13禁」くらいのグロさである。13禁がダメな人には向かない、とだけ注意しておく(念のため)。

サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_01
サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_02
サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_03

 昨今の脳科学の進展はすさまじい。たとえば、脳が見ている映像を外部モニターに映し出す(←解像度は悪いが)ことが可能になりつつある。あるいは、逆にカメラの映像を脳に送りこんで、目が見えなくなった人が、ふたたび世界を「見る」ことも可能だ(←装置の小型化と解像度が今後の課題)。つまり、脳に直接、映像情報を「出し入れ」することができるようになってきているのだ。
 こういった脳科学の最前線の技術を使って、Aさんの妄想をBさんの脳に送りこんだらどうなるだろう? Bさんは、それが妄想であることに気づかないから、他の現実と一緒にしてしまうだろう。Bさんの脳にとって、目から入ってくる映像情報も、誰かから送りこまれた映像情報も、区別はつかない。「カオスヘッド ノア」をプレイしていると、主人公・西條拓巳が現実と妄想の区別のつかない精神世界にずぶずぶとはまっていく過程が怖いのだが、科学的な裏付けがあることを知ったら、もっと怖いにちがいない。
 さらに怖いのは、プレーヤー自身の現実と妄想の境界線があいまいになってくること。ゲームのパソコン画面に登場するキーワードを実際に検索してみると……おっと、これは実際にやってみてください。なんだか、プレーヤーである自分の脳にも誰かから妄想が送りこまれてきているのではないか、などと妄想してしまう!

サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_04
サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_05

 正直に告白すると、私はなかなかこのゲームのトゥルー・エンディングにたどり着けず、とうとう攻略本のお世話になってしまった。もっと時間に余裕があったら、何度も挑戦したであろうが、50代の働き盛りのサイエンス作家なので、いたしかたない。
 お恥ずかしいかぎりだが、私は最初、緑と赤の「妄想トリガー」の意味がわからず、少々、手間取ってしまった。妄想トリガーには3種類の選択がある。ポジティブな妄想で女の子といちゃいちゃするか、反対にネガティブな展開を妄想するか、単に妄想しないか。たぶん、ポジティブな妄想が多くなると思うが、2回目以降のプレイでは、じっくり選択してみてください。
 「カオスヘッド ノア」は、是非、「シュタインズ・ゲート」、「ロボティクス・ノーツ」と共にプレイしてもらいたいゲームだ。順番はどうでもいいが、この3作品には、科学アドベンチャーという一貫したテーマがあるので、全部やって初めて、クリエイターの狙いがわかるからである。
 なんだか、抽象的なプレイ・インプレッションになってしまったが、もともと哲学と物理学が専攻の人間なので、お許し願いたい。いつも理屈から入ってゲームをしている。このゲームのプレイ・インプレッションは、標語的にまとめると、「エロ・グロ・サイエンスの悦楽」である。で、お気に入りのキャラは「セナ」かなぁ(笑)。
 今回、PS3版が出るそうだが、「カオスヘッド ノア」は、もう一度、大きな画面でやり直してみたいゲームだ。これからプレイする人へ———ようこそ、めくるめく妄想世界へ!

サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_06
サイエンス作家・竹内薫氏が見た妄想科学アドベンチャーゲーム『カオスヘッド ノア』_07

■カオスヘッド ノア
機種:プレイステーション3
発売日:2012年11月22日発売
価格:7140円[税込]
テイスト/ジャンル:科学・サスペンス/アドベンチャー

■カオスヘッド らぶChu☆Chu!
機種:プレイステーション3
発売日:2012年11月22日発売
価格:6090円[税込]
テイスト/ジャンル:科学・恋愛/アドベンチャー