世界的に人気のジャンルであり、数多くのタイトルが生み出されているミリタリーFPS。そのなかで本作の個性となっているのは、リアルな設定と遊びやすいゲーム性の絶妙なバランスである。現実味あふれる表現にもかかわらず、それがゲームとしての遊びやすさ、面白さと共存しているところは注目に値する。
新たな“リアル”を追求したFPS『メダル オブ オナー ウォーファイター』の魅力を、ファミ通Xbox 360を中心にレビューや攻略記事を担当してきた古株ライター、石井ぜんじがインプレッションする。
キャンペーンのシナリオにおける“リアル”の追求
近年のFPSのキャンペーンは、凝ったシナリオを用い、場面がめまぐるしく変わるジェットコースター的な展開が定番となっていた。極寒の地や砂漠などの特徴あるステージ、そして大爆発などによる場面の急展開。このようなシナリオ進行は、プレイヤーにとっては刺激的だし、ドラマとしても盛り上がる。しかしそのいっぽうで、主人公は特殊な運命のもとに、超人的な能力を発揮するタイプが多かったように思う。こうなるとどうしても、多かれ少なかれ映画のヒーローものを見ているような“非現実感”が生じてきてしまう。
しかし本作はそのような強引な展開は存在しない。主人公たちが所属するのは過酷な任務が課せられる特殊部隊。だがその作戦や目的は現実の社会情勢に即しており、じつにリアル。任務の最中に多少のハプニングは起こるものの、それは実際に起こりうる範囲内といえる。作戦の舞台も中東やフィリピンなどの実在する地域で、市街地での銃撃戦を中心にストーリーは進んでいく。現実味のある戦闘を再現する環境ができているのがよい。
もちろんそれだけでは単調になりかねないので、カーチェイスや高速ボートでの脱出、ヘリからの銃撃などの目を引くシーンも適度に挿入されている。これはプレイヤーを飽きさせないための工夫であろう。だが本作の根底に流れているのは、特殊なシーンに頼るのではなく、リアルな設定や映像表現によってプレイヤーを惹きつけようという考え方である。銃弾を浴びることで飛び散る木材の破片や、水に浸かった集落の光の表現。それほど派手ではないが、これらの凝った映像表現は、プレイを重ねるごとに感じられていく魅力ではないかと思う。
ゲーム性においての“リアル”の追求
このような本作ならではのリアルの追求は、シナリオだけでなくゲーム性にも表れている。たとえば近年のFPSでは、ゲーム的な差別化をはかるため特殊な兵器が採用されていることがある。相手の位置がわかる高性能なセンサーや、気づかれずに近づける光学迷彩などがその例だ。このような兵器が存在すると、撃ち合うのではなく、その兵器をいかに使いこなすか、というゲーム性となる。
だが本作に登場する兵器はどこまでもリアル。特殊な武器を使う場面も一部では存在するが、基本的に使うのは銃とグレネード。そこでポイントになるのが、敵の位置の目視だ。敵が肉眼で見えれば問題ないが、見えない場合はマズル・フラッシュ(銃を発射するときに出る閃光)や隊員の声などで判断するしかない。この判断はゲーム的にかなり重要で、敵の位置を見失うことは死の危険に直結する。だがその不自由さが、ゲームの緊張感と銃撃戦本来のおもしろさを生み出していると言える。
本作では半壊した建物が続く市街戦のフィールドが多めになっている。ほかのタイトルでは、ゲーム性を追及するあまり極端な形状になっているフィールドも存在するが、本作の街のマップは自然でリアル。敵の位置を見定め、的確な位置取りをして無理をせず確実にしとめていく。本作のキャンペーンでは、そんなFPS本来のおもしろさを楽しむことができるだろう。
“リアル”と“ゲーム”のバランスが秀逸
本作は現実における特殊部隊の活躍をリアルに描いたものだが、決して遊びにくいゲームではない。“リアルを追求”というとシミュレーションを思い起こさせるが、本作の操作性は良好だ。キャンペーンの難度は、ノーマル以下なら初心者でも楽しめるレベル。敵の動きがそれほど激しくないので、きっちり倒しながら進んでいけば確実に進むことができる。敵を狙って銃を撃つ感覚(操作性)は、数多くのFPSタイトルと比べても快適に感じられるほうだと思う。
味方と部隊を組んで進むことが多いので、たいていの場合味方から弾薬を補給できるのは気が楽だ。また敵のグレネードを投げられたときは、画面上にその位置を示すアイコンが表示される。慣れてくればどの程度移動すれば爆風に巻き込まれないかわかってくるので、うっかりやられることは少なくなる。だからといって味方任せで進むことができたり、敵に突っ込んで倒せたりする、ということはない。難しすぎず、易しすぎず。そのあたりのバランスはしっかりと考えられている。
銃火器の取り扱いや基本操作の部分は、リアルよりもゲーム的な快適さを優先して作られているといってよいだろう。そのぶん初心者でも遊びやすく、それほどとまどうことはないと思われる。その点ではかなり親切設計になっている。
設定やフィールドはリアルだが、操作性はゲームとしての遊びやすさを優先。そのバランス感覚は優れており、ゲーム全体の完成度を高くしていると思う。
本作は表面的な派手さを追求せず、現実に即した舞台設定で戦闘が行われる。それだけに、初見ではやや地味に見えてしまうところがあるかもしれない。だがプレイしてみれば快適に遊べるし、FPSでのいちばんのキモである“銃撃戦のおもしろさ”が表現されていることがわかるはずだ。ぜひ本作に備わっている独特の“リアル”を体験してみてほしい。
■筆者紹介 石井ぜんじ
おもにファミ通Xbox360誌で攻略、クロスレビューを担当してきた古株ライター。ゲームの文章を書き始めてから20数年、飽きずに続けております。過去に『NINJA GAIDEN』シリーズ攻略本、『シュタインズ・ゲート公式資料集』『科学アドベンチャーシリーズマニアックス』などに参加。これらからも、ファンが喜ぶ本作りを目指していきたいですね。