前口上:『Fable』らしさとは何か?

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 『Fable』シリーズは、マイクロソフトの開発スタジオ・ライオンヘッド社が手掛けてきたXboxおよびXbox 360向けのアクションRPGシリーズ。2005年の初代『Fable』から連なるナンバリング作が3タイトル、Xboxライブアーケード向けに『FableII』と連動した『FableII パブゲーム』、人形劇をモチーフにしたカジュアルゲーム『Fable Heroes』がこれまでにリリースされている。3本のナンバリング作はいずれも、広大で美しいアルビオンという世界が舞台。プレイヤーは世界を救ってきた“英雄”の末裔として生を受け、運命に導かれるように闇の勢力との戦いに身を投じていく。英雄は剣やハンマーによる近接攻撃、弓や銃などの遠隔攻撃、多彩な効果を持つスペルの3つの攻撃を自由に使い分けられる。これらを駆使して自分好みの戦術を組み立てることも、本シリーズの醍醐味である。しかしながら、こうしたアクションRPGの要素は、『Fable』シリーズが持つごく一部の側面でしかない。

 過去に1作でもナンバリング作を遊んだ人はおわかりかと思うが、『Fable』にはほかのアクションRPGには見られない、独創的な仕組みがいくつか実装されている。その中でもとくに目を見張るのは、行動選択肢が非常に多いことだ。アルビオンの住民たちは、リアルな人間と同じく一定の生活サイクルに従って生きている。そのため、街を歩いているとそこかしこから人々の世間話やあいさつ、子供たちの歓声、浮浪者の物乞いなどが聞こえてくる。けっして耳触りのいい言葉ばかりではなく、ときには罵倒や警戒の声色も含まれる。街の雑踏はきわめて臨場感が高く、アルビオンにはいろんな人が生きていることを実感させられるのだ。プレイヤーはひとつの街に数十人はいるであろう、NPCの好きなひとり、あるいは複数と個別にコミュニケーションを取ることが可能。交流を深めると恋人になったり、結婚して子供を作ることもできる。冒険に出るだけでなく、建物を買い占めて不動産王になることもできるし、交易品の差額で儲けたり、アルバイトをして日銭を稼いでもいい。犯罪に手を染めて街から追われるアウトローな生きかただってできてしまう。メインストーリーはほぼ一本道なため、本当の意味での自由度とは少し違うかもしれないが、好き勝手に振舞っているという強烈な感覚を得られることは間違いない。また、摂取した食べ物やスキルの選択によって英雄の外見も変わる。髭、髪型、衣装、染料といったカスタマイズアイテムも豊富にあり、英雄の個性はまさに十人十色だ。

 そしてもうひとつ 『Fable』ならでの要素といえるのがモラルの概念だ。『Fable』シリーズでは、何かと選択を迫られる機会が多い。それは必ずしもわかりやすいことばかりではなく、悪党に対してどう対応するか、善良な市民や子供に対してどう振舞うか、あるいは見知らぬ人に親切にできるかどうか。どのような選択を取ってきたかによって、英雄のモラルが善悪のどちらかに傾くのだ。そして、善か悪かによって、英雄に対する人々の対応がまるで違う。そして、ときにはモラルによって世界の姿も大きく変化していく。たとえば、善行を積むと街はふるうに発展するが、悪党を助けてばかりいると治安の悪いスラムがあちこちにできる。「悪が栄えた試しなし」というわけではないのだ。ある意味では、現実世界よりも過酷で非情かもしれない。

 このように、『Fable』シリーズはアクションRPGを標榜しながらも、既存のジャンルにはないオリジナリティを持っていた。ただし、初代『Fable』が出た2005年当時ならいざ知らず、2012年のいまでは自由度の高いオープンワールドゲームがたくさん登場している。だから、というわけではないだろうが、最新作『Fable:The Journey』からは先ほど挙げた“『Fable』らしさ”がことごとく消えている。Kinect専用として操作系やシステムは一新されているし、主人公だって英雄ではなく一介の旅商人だ。過去作から地続きの世界ではあるものの、いままでの『Fable』が規定した枠をわざと壊しているようにすら感じられる。しかし、人の息吹、ユーモアセンス、緊張と弛緩、ドラマ、バトル……しばらく旅をしてみたら、やっぱりこれは『Fable』そのものであることに気づいた。何が壊れ、何が残り、何が変わったのか。『Fable:The Journey』、その新たなる世界への扉を開いてみよう。そこにはどんな世界が待っているのか。

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▲居眠りをしたせいで、キャラバンでひとりだけ遅れてしまったガブリエル。リーバー渓谷という懐かしい名前の谷を渡ろうとすると、強い嵐で橋が壊れてしまい、迂回して進むことを余儀なくされる。これがガブリエルが英雄になるきっかけであった。

英雄なき世界に遺された、神秘の力

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 『Fable:The Journey』の舞台となるのは、『FableIII』から50年後のアルビオン。ファンにとってちょっとショッキングな事実としては、各作品で主人公だった英雄たちの家系はすでに途絶えており、英雄が不在の状態が長く続いているという事実。テレサ(『Fable』の主人公の姉)は登場するので、正確には英雄の家系はひとりだけ生き残っているが、彼女は数百年も生き続けている英雄の導き手であり、人間を超越した預言者。あまり深くは考えないでおくことにする……。そんな英雄長期不在の時代を狙って、世界を闇に包もうと復活をもくろむ連中が現れる。テレサはそんな時代が来ることを預言していた。今回の敵は“腐の帝王”という闇の王。あちこちに“腐のマグマ”を撒き散らしては、人心を惑わし掌握しようとする敵だ。幸いにも腐の帝王はまだ完全には復活しておらず、復活を阻止するために新たな英雄が誕生することになる。

 英雄の力はスペルを封印した“ウィルの貴石”として、各地にある3ヵ所の遺跡の英雄像に隠されている。英雄が必要になることを預言したテレサは、旅商人のガブリエルに白羽の矢を立てる。ガブリエルはちょっと気弱でおっちょこちょい、さらに夢見がちな性格で、最初はとても英雄の器じゃないと感じるはず。根はやさしく、愛馬のセレンをとても大切にしているが、口ばかりが達者で居眠りをするクセがあり、いつもキャラバンから遅れるために問題児扱いされている。テレサは3体の英雄が祭られた泉にガブリエルを連れていき、英雄の試練を受けることになる。

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▲腐の帝王は手始めに、手下の“欲の亡者”を送り込んでくる。嵐とともにガブリエルを襲う赤い濁流が“腐のマグマ”だ。
▲ウィルの貴石探しは、物語中盤での大きなテーマとなる。全部で3つあり、ひとつ見つけるたびに使えるスペルが増えていく。

楽な姿勢でゆったり楽しむ体感アクション

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 本作はKinect専用タイトルであるため、当然ながらあらゆるアクションを身振り手振りで行うことになる。そうなると、アクションが大味すぎたり、手が疲れることを不安視する人もいるだろう。正直なところ筆者も「『Fable』の最新作がKinect専用」だと初めて聞いたときは、かなり面食らったものだ。しかし、開発者インタビュー等で「Kinectには少ないコアゲームでありながら、リラックスして楽しめるものにする」というお話も見聞してからは、Kinectだからこそ自然に再現できた馬の操作や、魔法の追加操作でアクションを加える“アフタータッチ”といったものに期待を寄せ、興味深々でプレイできる日を待っていたのだ。

 単刀直入に言うと、『Fable:The Journey』は椅子に座って遊ぶドライブ+レールシューティングといった趣のゲームスタイルだ。ドライブというのは、愛馬のセレンの手綱を握って走るトロットのモードで、体感としてこのモードの時間がもっとも長く感じた。両手は手綱を握った状態に見立てて、軽くムチを打つように両手をしならせればスピードアップ、両手を肩まで引いて止めるとスピードダウン。右手を前に出して左手を引けば左に曲がり、これとは逆の操作をすれば右に曲がる。これらを駆使街道や山道を走らせるのだ。このときの操作はそれなりに忙しいが、両足の上に手を置いて操作するのが自然な体勢。最初は少し力みすぎてしまったが、慣れてくると力を抜いて自然体で動かせるようになった。ときには嵐が来たり、敵との戦闘になることもあるが、同行人との会話や流れる風景を楽しみながらゆっくり進む牧歌的なシーンもおおく、まさに旅(Journey)のイメージににぴったりなモードだ。

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▲セレンの手綱を握り、アルビオン中を探索。個性的な登場人物との出会いや敵との遭遇など、さまざまな出来事が待ち構えている。
▲障害物に当たるとセレンがダメージを受けるのでしっかり操作しよう。足場が不安定なときはスピードを落として進むように。
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 もうひとつのメインモードと言えるのが、馬を降りての探索および戦闘パートだ。このモードは進行ルートがほぼ決まっており、両手で魔法を使って敵を倒しながら進んでいく。ガブリエルは英雄の試練に合格後、英雄のガントレットを装着。内臓されたスペルを使い、出現する敵を倒しながら探索する。また、敵の攻撃が当たりそうになると若干スローがかかり、画面の四隅に赤いツメのようなエフェクトが出現。このときは、左手を腕時計を見るように水平に掲げ、顔の高さまで上げるとガードを行う。タイミングが早すぎると反応しないため、赤いエフェクトが出るまで引きつけることがポイントになる。ダメージは一切受けず、敵の飛び道具を跳ね返したり、爪や牙の猛攻を弾き飛ばしたりできるのがなかなか痛快。少なくとも、従来の作品でブロックで身を守っているのに比べるとはるかに爽快で小気味よい。

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▲戦う魔物たちは、『Fable』でおなじみのホブやバルバリンなど。攻撃一辺倒では苦戦しやすい。プッシュとガードをうまく使おう。
▲左右に体を傾けて位置を変えられるシーンもある。中央下にアイコンが表示された方向に動ける。飛び道具などをかわすのに役立つ。

 なお、ガブリエルが使えるスペルは全部で5つあるが、最初は電撃を打ち出すライトニングと、対象に引っ掛けられるプッシュの2種類のみ。アフタータッチ操作によって、ライトニングは方向転換させられ、プッシュは対象を押し引きできる。とくにプッシュはダメージこそ低いものの、敵の攻略や謎解きで活躍する場面が多い。このスペルに限らず、アフタータッチがあるおかげで単調になりがちな戦闘にいいアクセントを与えている。ストーリーが進むと、ガブリエルは“ウィルの貴石”を発見し、新たなスペルが使えるようになる。追加で覚えるスペルは、火の玉を飛ばすファイアボール、槍投げの要領で前方に細い串状の魔法を突き出すシャード、聖なる光で腐のマグマを消すプッシュの上位版フラッシュの3種類だ。スペルは特定のアクションで魔法を生成し、魔法が宿った手を前方に押し出すアクションで発射できるが、思った場所になかなか着弾させられないときがあった。感知のズレは事前に調整できるので、しっかりと行っておこう。

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▲ライトニングは最初に覚える攻撃スペル。使いやすいものの、威力はいまひとつで、魔力のゲージが枯渇しやすい。
▲敵やオブジェクトを操作できるプッシュは、テクニカルなスペルだ。これを使いこなせれば一人前!
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▲後半になると腐のマグマに覆われたエリアが増え、敵もすべて“腐の~”がつくようになる。フラッシュを1回当てないとダメージを与えられない。
▲XPオーブでキャラクターを強化する仕組みは今回も同じ。XPが溜まって外円を一周するとアップグレードが可能。樹形図のように広がるので、お好みのアビリティを習得できる。

 そのほかにも時折キャンプを張って休憩を取った際や、一部の謎解きにはさらに多彩なアクションを行える。一例を挙げると、りんごをもぐ、りんごをセレンに与える、セレンに刺さった矢やトゲを抜く、セレンの傷を癒す、ブラッシング、水をくみ上げる、宝箱を開ける、ロープを巻き上げる、石を回転させてパズルを解く、などなど。じつにさまざまな動作と連動させたKinectアクションは予想以上の臨場感と感動があり、まさに自分が映画の主人公になったような気分になれる。ゲームと映画が融合した、インタラクティブシネマの未来を垣間見た気さえする。ちなみに、エンディングまでは10時間強。過去作のようにエンディング後の世界を探索することはできないが、コレクションアイテムなど一部の要素を引き継いで2周目をプレイできる。馬で移動中には分岐があったり、馬を停止させることで探索できるポイントがあったりする。全ルートの回収や累積型の実績解除を目指して、2周目をプレイしてみるといい。また、決まったバトルシーンをクリアーすると、高スコアを競って何度も遊べるアーケードモードが解放されていく。本編だけでは物足りないという人は、ぜひこちらで腕試しをしてもらいたい。オンラインランキングにも対応している。

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▲アーケードモードは、14のステージに分かれたスコアアタックモード。受けたダメージやかかった時間などで評価される。オンラインランキングにも対応。
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 若干のタイムラグや誤認識だと感じた部分もあったため、不満は皆無とは言わない。しかし、椅子に座っているだけで進んでいくストーリーは没入感が高く、気づけば時間を忘れてのめり込んでいた。演出のうまさもあるだろうが、過去のどの『Fable』よりも入りやすく、広くオススメできる作品になっている。ちょっと大げさに言えば、“未知なる体験”が詰まっているゲームだ。タイトルどおりに旅の感覚がうまく表現されているので、旅行が好きな人にも遊んでいただきたい。

■筆者紹介 バロンマサール
ファミ通Xbox誌、およびファミ通Xbox 360誌にて『Fable』シリーズの攻略を担当してきたライター。『Fable』シリーズには必ずと言っていいほど“究極の選択”と呼べる決断があったのだが、今回はそれがない!? でもやっぱり『Fable』なんですよ! ピーター・モリニュー氏がかつて「今のゲーム業界には早すぎた」と漏らした『Milo and Kate』というソフトがあるが、そのノウハウは間違いなく本作に活かされていると思う。


『Fable: The Journey』
メーカー 日本マイクロソフト
対応機種 X360Xbox 360
発売日 2012年10月11日
価格 7140円[税込]
ジャンル アクションRPG & アドベンチャー